松本清張傑作選 暗闇に嗤うドクター―海堂尊オリジナルセレクション (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101109725

作品紹介・あらすじ

「医療小説」は人のこころの深淵に根ざしている。松本清張はその分野の嚆矢であった-海堂尊。ときに人を救い、またときに人を殺す「医療」と「医学」。人が持つ根源的な聖性と魔性を浮き彫りにした名編は、現代社会に今なお警鐘を鳴らす。最前線の医療現場を描く編者が選んだ6つの作品。

感想・レビュー・書評

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  • 膨大な清張作品の中の医療物。流石に、少しジャンルとしては狭すぎで、作品としてはイマイチの物が多かったような気がする。

    清張自身は衛生兵の経験があったので、全くの素人というわけではないみたいだが、やはり、専門家の書く物には叶わない。たとえば、海堂さん。

    好みは、「皿倉学説」かな。医療ものというより、人生の悲哀や学者のエゴがよく描かれている。オチもなかなか。

  • 「松本清張」作品から、「海堂尊」が独自の視点で傑作を選んだ『松本清張傑作選 暗闇に嗤うドクター―海堂尊オリジナルセレクション』を読みました。

    『西郷札 傑作短編集〔三〕』、『私説・日本合戦譚』、『梅雨と西洋風呂』、『棲息分布』、『松本清張傑作選 悪党たちの懺悔録―浅田次郎オリジナルセレクション』に続き「松本清張」作品です。

    -----story-------------
    医療――。
    それは時に人を救い、時に人を殺す、魔物。
    「「『医療小説』というパラダイム。それは松本清張によって確立された。」――「海堂尊」

    「医療小説」は人のこころの深淵に根ざしている。
    「松本清張」はその分野の嚆矢であった──「海堂尊」。
    ときに人を救い、またときに人を殺す「医療」と「医学」。
    人が持つ根源的な聖性と魔性を浮き彫りにした名編は、現代社会に今なお警鐘を鳴らす。
    最前線の医療現場を描く編者が選んだ6つの作品、『死者の網膜犯人像』 『皿倉学説』 『誤差』 『草』 『繁昌するメス』 『偽狂人の犯罪』を収録。
    -----------------------

    読み始めると、どんどん読みたくなってしまう「松本清張」作品… 今回は医療現場を描いた作品をセレクトした短篇集を読みました。

     ■死者の網膜犯人像
      殺人者は死した眼球に宿る
     ■皿倉学説
      老教授が見た「光」を覆う知の伏魔殿
     ■誤差
      不確かな死亡推定時刻を生んだ、心理の迷路
     ■草
      死を呼ぶ苗床と成り果てた病院の謎
     ■繁昌するメス
      善意の医師を咎める偽者の烙印
     ■偽狂人の犯罪
      秘めたる殺意は真実か、虚構か
     ■「医療小説」はこころの深淵に根ざしている 海堂尊
     ■解題 香山二三郎



    『死者の網膜犯人像』は、最新技術によって死者の網膜映像(死ぬ直前の場面)が検出できるようになったという設定が面白いミステリー作品、、、

    22歳年下の後妻「好江」と二人暮らしだった会社役員「山岸重治」が、自宅の寝室で絞殺された… 捜査一課の「庄原係長」は、部屋が荒らされた形跡がないことから、怨恨による犯行だと考え、被害者の網膜に残っているはずの生前最後に見た映像を固定するためにホルマリン液を両眼に注射する。

    「好江」は「庄原係長」にホルマリン液を注射した理由を尋ね、夫の網膜に残っている映像が再現されることを知り、逃れられぬと観念して、共謀した情夫(義理の息子)とともに自殺する… しかし、夫の網膜に映っていたのは、倒れた夫に駆け寄った愛犬のポメラニアンだった、、、

    意外性がたっぷりで、皮肉でブラックなエンディングが印象的な作品でした。



    『皿倉学説』は、零落した老教授の歪んだ心を描いて面白い医学ミステリー作品、、、

    四国の医者「皿倉和己」が医学雑誌に発表した、聴覚に関する脳作用についての論文、に興味を持ったR医科大学の老教授「採銅健也」… 動物実験で猿50匹を使ったという「皿倉」が、新説の着想を得たきっかけは何なのか?

    この謎を解くため、「皿倉」のことを調べる「採銅」だが… 戦中に行われた生体実験のことを示唆させながら、身勝手な愛人「河田喜美子」との窮屈な生活や「皿倉」学説を否定する弟子「長田盛治」への反発等に影響される「採銅」の感情の揺れや屈折した心情を描いた物語でした。



    『誤差』は、法医学を土台に死亡推定時刻のズレと、そのズレによる心理的な思い込みが人間心理に与える影響を描いたミステリー作品、、、

    温泉宿「川田屋」の宿泊客である銀座のバーのマダム「添島千鶴子」が扼殺された… 「千鶴子」の情夫で、彼女と一緒に宿泊していた一流会社の幹部社員「竹田宗一」が犯人であると確定されるが、「宗一」は自宅の物置で自殺してしまう。

    警察嘱託医の死亡推定時刻と、解剖した病院長の死亡推定時刻の“誤差”に着目した所轄署の「山岡刑事」は、「宗一」が犯人ではなかった可能性を推理する… 捜査側は都合の良く理解可能な結論を導き出しがちですが、そこに落とし穴があるかもしれないんですよね、、、

    死後推定時間に関する医者の癖(少な目に言う人と、多い目に言う人)や、死斑や死後硬直についての記述が興味深い作品でした。



    『草』は、以前読了した『失踪 ―松本清張初文庫化作品集〈1〉』にも収録されていた作品、、、

    朝島病院の院長「朝島憲一郎」と婦長「雨宮順子」が失踪(駆け落ち?)し、「雨宮」に恋慕していた薬剤師の「堀村」が失恋自殺… さらに、一連の騒動による心労で事務長「笠井光雄」も自殺してしまうという一連の事件の顛末が、入院患者「沼田一郎」の視点から描かれており、うまーくミスリードさせられる叙述トリック作品です。

    不可解な院長と婦長の“情死行”… さびれていた病院が急に景気がよくなったのはなぜか? 入院料値下げを要求する強引な入院患者「金子京太」は一体何者なのか? 詮索好きでおしゃべりな付添いのおばさん「河原タミ」の正体は? ほとんどが“私”の病室での会話だけで話が展開されていくという趣向も面白くて愉しめます、、、

    「アガサ・クリスティー」の『アクロイド殺人事件』がヒントになっている(もしくは批判している)作品かな。

    エンディングですっきりして愉しめる作品… でも、何度読んでも『草』というタイトル名の意味がわかりません。



    『繁昌するメス』は、無免許医にまつわる悲劇を描いた物語、、、

    東京の郊外にある大宮医院は、院長の「大宮博」の腕が優れており、評判が良いことから繁盛しているが、実は「大宮」は無免許医だった… 本名は「戸村重雄」といい、第二次世界大戦時に衛生兵として朝鮮で従軍している際に、軍医の助手として経験した治療や手術を見習って、医療行為を行っていた。

    そこに、「戸村」の過去を知る元軍曹の「望月志朗」が現れ、「戸村」を強請り、利益のほとんどを吸い取ってしまう… このままでは、生涯を「望月」の奴隷として過ごさないといけなくなると考えた「戸村」は医療事故に見せかけて「望月」を殺害するが、その施術方法が、軍隊独特の戦陣医学で学んだ方法であることが露見し、、、

    善意の行為を行っている主人公が後ろめたさゆえに犯罪を起こし、転落するという展開… 医療の本質的な存在意義に疑問を投げかける作品でしたね。



    『偽狂人の犯罪』は、悪辣な高利貸しから借金を背負った経師屋が、狂人になりすまして高利貸しを殺害して刑を逃れようとする物語、、、

    仕事の失敗が元で、高利貸の「荒磯満太郎」から多額の借金をした経師屋の「猿渡卯平」… 返済に窮した彼は、精神病者が刑事責任を問われないことを利用して、“偽狂人”となり、「荒磯」を殺害する。

    「猿渡」は、まんまと精神鑑定を突破するが… 詐病と疑いを捨てきれない検事の「副島」は、検察事務官の「河田」の協力を得て、猥談を使って「猿渡」の詐病を暴く、、、

    その後、ある理由から、「副島」が左遷され、「河田」が退職するという意外な結末が面白くて笑えましたね。

  • やっぱり読み応えのある清張作品。ちょっと難しいけど。「死者の網膜犯人像」に出てくる死者の網膜を調べれば最後に残った映像を見ることができるって本当だろうか?確か東野圭吾の作品にも同じテーマの小説があったような記憶がある。最近また、松本清張ブームかな?復刻版がどんどん出てる。松本清張ファンなので喜んでチェックしている。

  • 面白かったけど、わりと地味。清張にしては珍しいテイストな感じもする。

  • 医学と医療
    人間の情が絡んでくる医療。医療従事者として自分自身も向き合わねばならぬ問題は多々ある。

  • "チームバチスタの栄光を書いた海堂尊さんが選んだ松本清張さんの作品は、医療に絡む6編。
    私が好きなのは、「誤差」と「草」
    読み応えのある作品。多くの人に愛されていた作家の豊潤な作品を読みあさる喜び。"

  • 禁断の魔術か、現代社会の福音か…。海堂尊が選ぶ、“ベスト・オブ・清張”。生体実験の狂気を暴く「皿倉学説」ほか「死者の網膜犯人像」「偽狂人の犯罪」など全6編を収録。

    海堂尊が選んだ、というのがこの本の売りなのだけど、海堂に魅力を感じない私にとっては「なぜ清張作品は今でも2時間ドラマの原作に引っ張りだこなのか」の謎を解くことが、本書を読む動機だった。でもどの篇もイマイチ薄味で、ドラマは換骨奪胎が命、と当たり前のことを確認しただけだった。
    (C)

  • さすがです

  • (欲しい!/文庫)

  • 印象は強いのだが唐突に終わってあとあじ不良。

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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