戦艦武蔵 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 154
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117010

感想・レビュー・書評

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  • 戦艦武蔵の起工から沈没までを描いた小説。

    意外だったのは武蔵の戦場での様子より、工事から出航までの様子が長かったことです。というものの武蔵は実際の戦場では、ほとんど戦争に参加しなかったからみたいですね。そのこともこの本で初めて知りました。

    絶対秘密裏の中での世界最大級戦艦の工事は困難の連続で、そこを技術者たちがどう乗り越えていくのか、といったことも興味深く読めましたし、そこに賭ける男たちの熱い感情も想像することができました。それだけにクライマックスでの沈没シーンと前半の人々の熱気の対比が非常に悲しい。

    戦時下が舞台の小説や映画・ドラマは数を絞って登場人物たちにに焦点を当てているためか、死というものがとてもドラマティックに描かれていてそれはそれで悲劇だと感じますし、改めて戦争の愚かしさを教えてくれます。しかしそのドラマティックさがその手の作品を悲劇性のあるエンターテイメントにいい意味でも悪い意味でも変えてしまっているような気がします。

    それに対しこの小説は特定の人物に焦点を当てるわけではなく三人称の淡々とした語り口が続き、ラストの武蔵の沈没間際の凄惨な描写が続くシーンも作者の感情を挟まず淡々と語られます。

    そのシーンの人の死は決してドラマティックで美化されうるものではなく本当にただただ悲惨でした。死とは本来そういうものだと思い知らされ打ちのめさせられた思いでした。こういう描写が戦争の真実の姿に近いと感じます。

    普段は行間を読むようなことはあまりない自分なのですが、今回の小説は自分から積極的に読み取らなければ、という思いに駆られた作品でした。

  • 漁具である棕櫚が日本全国から消えるという一見戦艦とは関係なさそうな話から始まり、2/3を建造まで、1/3を進水してからシブヤン海で沈むまでを描く本作。

    世界最大の主砲を有する戦艦を建造しておきながら、最後までほぼ出番がなく、雷撃隊の前に海中に没した最期は、戦艦の能力云々の前に、巨艦大砲主義に邁進し、戦略・作戦・戦術レベルで語られる際の戦略レベルでの決断に誤りがあったことが痛いほど伝わってくる。

  • 【再読了】2023年8月16日

  • 戦艦武蔵が建造されてから沈むまで。
    見つからないように隠して建造するのは大変だし設計図の管理も厳重。
    大変な思いをしてできた船が沈むのは悲しいですね。
    その戦闘シーンも生々しくて実際にその場にいるような感覚にとらわれました。
    とにかく読みごたえがあり読みだしたら止まりません!

  •  初版は1971年9月、新潮社より刊行。
     綿密な聞き取り取材と資料調査にもとづき執筆された記録文学作品。戦争小説というよりは、当時の技術の限界に立ち向かった巨大プロジェクトの記録という体裁で、いかにも高度経済成長期の作品という感じである。解説の磯田光一が、この作は「一つの巨大な軍艦をめぐる日本人の“集団自殺”の物語である」と看破したのは慧眼という他にない。この小説には、「なぜこの巨大戦艦を作るのか?」「戦艦建造をめぐる過程で、どうしてそこまでやらなければならないのか?」という問いが根本的に欠けているからである。つまり、戦争や軍事をめぐる価値判断が停止されている。

  • 「吉村昭」のノンフィクション作品『戦艦武蔵』を読みました。

    「吉村昭」作品は昨年7月に読んだ『零式戦闘機』以来なので約1年振りですね。

    -----story-------------
    日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――。

    厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 
    非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 
    本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。
    -----------------------

    第二次世界大戦中に建造された大日本帝国海軍の「大和」型戦艦の二番艦「武蔵」の建造から沈没までの運命と、それに関わった人々のことを描いたノンフィクション作品、、、

    宇宙戦艦にまでなってしまった「大和」に比べ、やや知名度の低い「武蔵」ですが… 最近では、沈没から2015年(平成27年)にシブヤン海の水深1,000mの海底で発見されてニュースになったことが、記憶に新しいですね。

    大艦巨砲主義の時代… 大日本帝国海軍の象徴的な戦艦だし、高度な技術を詰め込んだ巨大メカとしてロマンは感じる建造物ですが、、、

    その戦闘力が時代遅れとなりつつあったこともあり、連合艦隊旗艦となっても戦いの最前線に立たなかったことから、当時の将兵達が「大和」を「大和ホテル」と揶揄していたように、「武蔵」も「武蔵御殿」と陰口を叩かれ、目立った戦果は挙げられないまま1944年(昭和19年)10月24日にレイテ沖海戦で撃沈… と、実戦では、期待された戦果を挙げることができず、太平洋戦争での兵器としては印象が薄いんですよね。

    既に航空機が主役の時代になっていたんですよね… 本作品においても、

    ドック内の建造ではなく、船台上で建造されたため進水作業に精力を削がれたことや、

    棕櫚で船台を覆ったことに象徴されるように機密保持の点で必要以上の労力を割かれ、作業の進行が妨げられたこと、

    度重なる工期短縮の要求、艤装工事での仕様改正要求による苦労等、

    建造過程でのエピソードに過半が割かれており、完成するまでの展開が強く印象に残りましたね。

    そして、もうひとつ印象に残ったのは沈没後の生存者の運命、、、

    乗員2,399人中1,376人の生存者がいたようですが、武蔵が沈んだことを秘匿するため、生存者の半分は内地送還が許されず、現地に残された生存者は現地軍に武器も無いまま投入されて玉砕したそうですし、輸送船で内地へ向かうことのできた生存者は米潜水艦の魚雷を受け120人しか生存できず、帰国後は瀬戸内海の小島で軟禁生活を強いられとか… うーん、悲惨な現実です。

    日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」ですが、、、

    軍艦にも関わらず、戦場での活躍はあまり印象に残らず、建造過程や沈没後の生存者の運命の方が強く印象に残る作品でしたね。

  • 3.94/1197
    『日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――。
    厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。』
    (「新潮社」サイトより)
    https://www.shinchosha.co.jp/book/111701/


    『戦艦武蔵』
    著者:吉村 昭
    出版社 ‏: ‎新潮社
    文庫 ‏: ‎320ページ

  • 表題どおり、第二次対戦の時代の戦艦武蔵建造にまつわる話です。
    軍の要求と圧力を受けながら、必死に設計と建造にあたった男たちの奮闘ぶりが淡々と描かれ、ぐいぐいページが進みます。
    なるほど、巨大なものを建造している事実とを隠すのって難しいんだな、と気づかされました。

  • ネタバレ

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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