- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101128023
感想・レビュー・書評
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この物語は『アパッチ族』と当時呼ばれた大阪の旧陸軍工廠に埋もれた鉄屑を掘り起こしては売っていた在日コリアンたちの興亡を描いたものです。猥雑な世界で、これを読んでいてなぜか懐かしい気持ちになりました。
『新ナニワ金融道』のなかで帝國金融の社長。金畑がまさに少年時代、この『アパッチ』をやっている場面があって、それで今回てにとって読んでいた次第です。これと同じような作品、もっと言うとこれを実際にやっていた当事者である梁石日の「夜を賭けて」という作品を読んだのが先なんですが、それは別の機会にアップします。
物語は飢えて町をさまよっていた作者を思わせるフクスケが韓国人の女に食堂で飯をおごってもらう代わりに『いい仕事がある』と彼女にそそのかされて連れて行かれたのが空襲で跡形もなく壊された大阪の旧陸軍工廠の地面の中に眠っている膨大な量の大砲、戦車、起重機、鉄骨などの残骸を掘り起こしては売りさばく『アパッチ』と呼ばれる人間たちがいる集落の中でした。
そこにいる親方のキムを始めとするラバ、めっかち、トウジョウなどの自主規制という言葉を軽々と無視した個性あふれる懲りない面々たちと夜を賭けて鉄くず拾いに明け暮れるサマと、昼にトンチャンと呼ばれる臓物を焼肉にして食べている姿はギラギラとした生命力を思わせるもので、こういう様子はいまの日本にはなくなって久しいと思っていたら、今でも大阪には彼らの末裔というのかなんというのか、いまだに土地を不法占拠しては金属類を売買することで生業を行っている人たちがいるときいて、大変驚きました。
そして、以前ここで挙げた『昭和幻景』という写真集の中にも『アパッチ部落』というところに当時を忍ばせるような、あるときから時の流れを止めてしまったような町並みがあることに今回改めて読み返してみてなんとも言いようのないものを感じました。やがて、そんなアパッチたちの活躍も、警察の執拗な取締りによって、壊滅、衰退の一途を辿っていきます。その過程の中で、作中で大活躍したアパッチがあっけなく死んだり、裏切ったり裏切られたり、また、見切りをつけてアパッチ部落から離れていく姿にはさびしさ、哀愁すら感じました。しかし、彼らの姿はプリミティヴで犯罪といえば犯罪なんですけれど、その体ひとつで生きている姿には、僕の中に忘れかけたものを思い出してくれました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
過去(の読書歴)を記憶の中で振り返ってみると、今、私の食卓に影響しているのは、これではないかと思うのです。「すえた匂い」・・・新宿のガード下を「こういうのかな」と思いながら歩いていた。「新世界」(確か・・・)と呼ぶ辺りを都心に当てはめるのは違うかな、と思いながら。開高さん、こんな時代には何か描いて欲しかったな。薄汚れた感じに憧れたあの頃を振り返ると、一概に美しいとは見えないヒトの欲求に対してストレートで勝負しようとする感覚が、まだ持てる気がして来るもの。
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「アパッチ」と聞くと何を思い出しますか? http サーバの Apache ですか? さすがですね。でも、ここで書くのはそのアパッチではありません。もちろん、アメリカのネイティブ・インディアンのアパッチでもありません。
第二次大戦中、大阪に砲兵工廠がありました。当時は日本最大です。ということはアジア最大の兵器工場です。大阪城のすぐ隣、今はビジネスパークになっているあたりから森ノ宮の駅あたりまでの広大な土地です。ここが終戦の前日、つまり 1945年8月14日に大空襲を受けて破壊されました。
戦後はそのままほうっておかれたようです。B-29 が 150機で徹底的に破壊したという記録がありますから、不発弾も多くて危険だ、というのがその理由のようですが、ほかにも理由はあったのでしょう。戦後 10 年以上、誰も見向きもしなかったようです。
で、話はここから始まります。1958年のことだと思われます。
残骸になったとはいえアジア最大の兵器廠ですから鉄くずは山とあるわけですね。その鉄くずをねらって、食い詰めた連中が夜な夜な集まるわけです。つまり泥棒です。鉄くずとはいえ国家の財産なので警察はそれを取り締まる。そのいたちごっこ---正しくは闘争、または知恵比べ---が始まります。
この連中は神出鬼没で逃げ足も速かったので、その剽悍なイメージからいつしかマスコミが「アパッチ族」と呼ぶようになりました。
これを実際に現地取材して書かれたのが開高健の『日本三文オペラ』です。学生時代にこの本の存在を友人から聞いていたのですが、生憎とずっと絶版になっていたようで、読むことはありませんでした。それが、それから何年かしてから、偶然、近くのスーパーの前で開かれていた古本市でみつけました。紙の色も変わってしまっていましたが、これが面白いのなんのって。僕が読んだのは、ここで紹介したのとは別の文庫ですが。
中身を詳しく説明する余裕はありませんが、話は新世界のジャンジャン横町から始まります。ホルモンを焼く煙と臭いが紙面から溢れてくるようで、それが堪りません。これを読むとホルモンが食べたくなります。出だしだけでなく、アパッチたちが仕事をする前に腹ごしらえをする場面がありますが、これがまたうまそうです。是非、ご一読を。でも、ホルモンの話がメインではありませんのでお間違えなく。
僕は、いつも何かを読んでいますが(最近はそうでもないな---汗)、いつも読んだことのないものを読みたいと思うので、同じ本を繰り返し読むことはあまりないのですが、この本はもう何回読んだでしょうね。これを読むと元気が出ます。
在日朝鮮人の作家、梁石日(ヤン・ソギル)の『夜を賭けて』は、そのアパッチ族の当事者がいわば内側からこの事件を描いたもので、映画にもなりました。両方読むことをお薦めします。 -
どうやら私は「第二次大戦後」「在日朝鮮人」「大阪」というキーワードで検索したらヒットしそうな話が好きらしい。この本読んだらホルモンすごく食べたくなる。
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泥や血や肉やもろもろの、ナマナマした力強さ。
解説の「生理的ともいうべき迫真力」という表現がしっくりくる。
古い本で「よろしくない言葉」やぼかした存在があるにもかかわらず嫌な感じがしない。
私が部外者だから気づかない部分もあるだろうけど、それを差し引いても、著者が群じゃなくて人を見ているんだろうと思える。
読んだ後の気分が『平成たぬき合戦ぽんぽこ』を観たときに似ている。 -
中学一年の時に初めて読み、衝撃を受け
ある日急に思い出して再度読み返すに至った。
思い返せば、私が大阪という町に異様なる興味を持ったのは、
この小説が原点だったのかもしれない。
私の中でのいわゆる「大阪」は まさにこの小説の中の景色だった。
だから 大阪のどんなところに行っても
桜ノ宮の川沿い~大阪城をどきどきしながら散歩したあの日みたいな衝撃と感動は受けることができなかったのだろう
もっとも、この本を読んでいなければ、「きれいな景色」にしか映らなかったかもしれないけれど。
もっとよく見たいのだ。
冷やかしではない。知りたいのだ。
なぜなら、生臭い「生」をこんなにも感じられる場所あまりないと思うから。 -
開高健の中でベスト。
序盤のジャンジャン横丁の脂っこい描写がいい。 -
鮮やかに奪い去ってきたものを抱えて,夏の粘る夜の中を汗みずくで走る。
腹の底を笑いがくすぐるが、
闇を抜けて安全地帯に転がり込むまではそれを押さえ込む。
悪いことの、胸を熱くする面白さ。
倫理を燃やし尽くす高揚感。
夜の暗さの中でくすぶるもの。
悪いことは、良いことより人を走らせる。 -
何と言えば良いのか、今まで読んだことのないテイストの小説だった。開高健の想像力、創造力に感心するが、でも、小説の発表当時の昭和34年にはこの小説にいくらかのリアリティがあった、ということなのだろうか。
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舞台が戦後の貧困や、一寸した差別や、格差の臍であるにもかかわらず、社会派ぶった描くき方ではなく、楽しいものにしてしまうところが、さすが、開高健。ちなみに、パニックのレビューで書いたが、高校・大学生に読ませるなら、これと夏の闇と輝ける闇あたりか。