燃えよ剣(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 895
  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101152097

作品紹介・あらすじ

元治元年六月の池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼定があった。新選組のもっとも得意な日々であった。やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃でいどんだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく。

感想・レビュー・書評

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  • 「男の一生というものは」
    「美しさを作るためのものだ、自分の。そう信じている」
    歳三が病床の総司に語ります。後に、最後までたった一人の幕士として残り、戦った男の美学なのでしょう。
    このふたりの場面には、同志として、また兄弟のような深い絆を感じました。上巻で私にとっての総司は、信じる近藤や歳三からの命令ならば、自分の意思を持たずにただ容赦なく敵方を斬っていく、美しい鬼のような印象でした。けれど、病床でも歳三を慕い、自分を介抱してくれる姉や鉄之助に明るく接し、自分の人生をはかないもののように振り返る姿から、総司は歳三が命を注ぐ新選組を守るためには、自分は剣を抜く、そんな守護神のようなものだったのかなと、しみじみ思えてきたのです。彼は最期、菊一文字で斬ろうとし斬れなかった黒猫に何を見て、ひとりで逝ってしまったのでしょうか。
    正直に言えば、京都で恐れられた鬼の新選組副長としての土方歳三よりも、鳥羽伏見の戦いに破れた以降の歳三に魅力を感じました。会津若松、函館五稜郭での重なる敗戦。近藤との決別と斬首、総司の死など、転がるように加速していく悲劇的な現状を最後まで駆け抜けた歳三。たとえ、世間が間違っていると言おうとも、友が離れていこうとも、最後まで自分の考えを貫く姿。自らの死をも恐れず、負けると分かっている戦に突っ込んでいく姿。そして、長年ともに戦ってきた仲間や若い隊士への生きることを強要した別離。歳三のなかで何かが去っていき、そして芽生えた人生の終盤、この頃の歳三には、哀愁が漂い、懐の深さが滲みでているようで、男とはこういうことなのかと思えたのです。
    でも、そういう男を愛してしまったら、女にも同じくらいの覚悟が必要ですよね。歳三を見送るお雪は、歳三との永遠の別れを覚悟してたのでしょう。戻って来てほしい……そう願ったとしても、お雪ならそんな言葉を、歳三の背中に投げ掛けることは決してしなかったはず。
    ときに、女には理解できないもの。それが男のロマンなのでしょうか。

  • 時は幕末。
    土方歳三の生涯を描いた時代小説。

    260年続いた江戸時代末。日本の転換期である。幕末に繰り広げられた若者たちの熱き活動を描く。大きな流れは史実を基にされているため、リアルとフィクションの織り成す重厚なストーリーとなっている。

    歳三の内に燃える炎はどこまでも熱く、決して冷めなかった。自らの運命にひた走る美学はどこまでのものだったろうか。とても計り知れない。正に絵になる生きざまである。

    敵味方関わらず、この時代を象徴する人物が多く在る、誰も予想できない日本史の特異点だったと言えるだろう。あらゆる個性や思想が、国を巻き込んで激動した。

    単一的な考えから、相対的な考えへと変わってゆく国家の末期であり、黎明期に当たる。これからも語り継がれる時代。
    そこに土方歳三あり。

    読了。

  • 【あらすじ】
    元治元年六月の池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼定があった。
    新選組のもっとも得意な日々であった。
    やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃でいどんだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。
    しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく。

    【内容まとめ】
    1.諸行無常。どんな力も、時代の流れには逆らえない
    2.幕末、崩れゆく幕府という大屋台の「威信」を、新撰組隊士の手で支えた。
    3.全体的に、土方と沖田の交流を描いた物語。
    4.「新撰組」を知りたくば、この本を読めばよし!!(+血風録もね)


    【感想】
    諸行無常。
    新撰組の躍進を大きく描いた上巻と異なり、どんどんと落ちぶれていく新撰組が描かれた物語。
    大きな原因は時代の流れに乗れなかった(乗ることができなかった環境)だが、それに拍車を掛けたのは近藤と沖田だろう。
    己の器を見誤った近藤勇は、分不相応な事に躍起になり、新撰組どころではなくなっていた。
    分不相応なことをするなというメッセージが、この物語には暗示されていたのかなぁ。
    近藤勇の最期に関しては、一文のみで済まされていた・・・笑

    ただ、劣勢でも尚、凄味を増す土方歳三は素晴らしかった。
    幕府と共に崩れゆく新撰組を支え、己が活きる道を必死に模索し、剣に生きて剣に死ぬ人生は胸が熱くなったな。

    上下巻と非常に読みやすく、司馬作品では珍しいくらい脱線しない物語は単純に読みやすかった!
    別冊の「血風録」ももう一度読もう!

    【引用】
    p82
    あきらかに近藤の思想はぐらついている。
    一介の武人であるべき、またそれだけの器量の近藤勇が、いまや分不相応の名誉と地位を得すぎ、さらには思想と政治に憧れを持つようになった。
    近藤の、いわば滑稽な動揺はそこにあった。


    沖田総司
    「持って生まれた自分の性分で精一杯に生きるほか、人間仕方がないのではないでしょうか。」


    土方歳三
    「これは刀だ。」
    「刀とは、工匠が人を斬る目的のためにのみ作ったものだ。刀の性分、目的というのは単純明快なものだ。兵書と同じく、敵を破るという思想だけのものである。」
    「しかし見ろ、この単純の美しさを。刀は、刀は美人よりも美しい。美人は見ていても心は引き締らぬが、刀の美しさは粛然として男子の鉄腸を引き締める。目的は単純であるべきである。思想は単純であるべきである。新撰組は節義にのみ生きるべきである。」


    「土方さん、新撰組はこの先どうなるのでしょう?」
    「どうなる?どうなるとは、漢の事案ではない。婦女子の言うことだ。漢とは、どうするということ以外に思案はない。」


    p459
    思えば幕末、旗本八万騎がなお偸安怠惰の生活を送っている時、崩れゆく幕府という大屋台の「威信」を、新撰組隊士の手で支えてきた。

  • 昔から歴史が大の苦手で、歴史小説はまったく手を付けていなかった。
    恥ずかしながら新選組のこともあまりよく知らないまま、いい年になってしまった。
    一番有名な司馬遼太郎を一度読んでみようと思った。
    意外に読みやすくてエンタメ度が高かった。どこまでが史実でどこからフィクションなのかよくわからないが、確かなことだけ書いても面白くないだろうしな。
    読み終えて皆さんのレビューが素晴らしいと思った。

  • 再読。下巻でようやくオリキャラ七里研之助とはケリがつき、歴史上の急展開。大政奉還、高台寺党残党による近藤さん狙撃、そして鳥羽伏見の開戦と続く。油小路の変もわりとあっさりめ、しかし司馬さんなぜか鳥羽伏見の戦いにかなりの頁数を費やしている。通常、新選組の小説だと、わりと簡略にされがちな部分を、ここぞとばかりに詳細に。いよいよここからが、喧嘩師・土方歳三の本領発揮ということか。

    鳥羽伏見の敗走、甲陽鎮撫隊の失敗、永倉・原田の離脱、そして運命の流山へ。近藤さんが引き留める土方さんに「自由にさせてくれ」と言うくだりが辛い。「ここで別れよう」「別れねえ、連れていく」とかほとんど男女の別れ話のようだ。しかし近藤勇のその後については司馬さんは詳しく書かない。土方歳三はひとりでも戦い続ける。新選組という枠が外れてからのほうが、たぶん土方歳三という男の真骨頂だと司馬さんは思っているんだろう。終盤の白眉は宮古湾の海戦。

    お雪さんとの別れは切なかった。開戦前夜に隊士たちがみんな各々の女のところへ出かけたのに留守番土方さんが病床の沖田さんの前で「歔欷」する場面もとても好きだ。沖田さんの前なら土方さんだって泣くし、そもそも実はポエマーだし。最後の突撃の前夜、近藤さんや沖田さんの亡霊(夢オチ)が現れる場面もとても美しい。司馬さんの幕末もの小説はほとんど読んだつもりだけれど、こういう一種幻想的なまでにセンチメンタルな場面があるのはこの作品だけかも。

    あと斉藤一おたくとして外せない名場面はここ↓

    ある日、
    「隊長、私は雅号をつけた。きょうからはその号で呼んでいただけないか」
    といった。なんだ、ときくと、
    「諾斉です」
    笑っている。若いくせに隠居のような名である。
    歳三も噴きだして理由をきくと、
    「なんでもあんたのいうことをきく。だから諾斉」
    といった。

    今も涙なしには読めないシーンだし、あまりにも良い場面だからこれを初めて読んだ高校生の私はてっきり斉藤一は五稜郭まで土方さんと一緒に行ったものだと思っていた。がしかし、斉藤一についていろいろ調べていくうちに、そもそも彼は会津に残り後半生を会津藩士として生きたので五稜郭には行っていないし、斉藤一諾斉という斉藤一と似た名前の全く別隊士のエピソードを、うまく利用した創作だと今では知っている。知っていてもこの場面の魅力はやっぱり衰えない。

    最近たまたま、新選組関連の史料を再読していたところだったので、小島鹿之助『新選組余話』と佐藤彦五郎『聞きがき新選組』の土方さんの郷里の人たちの証言をベースにいかに司馬さんが土方像を練り上げていったかに想いを馳せた。出典がわかっているので司馬さんが「肉付け」した部分もわかりやすい。市村鉄之助が「総司に似ている」なんてのは完全に司馬さんの創作で、こういうキャラづけやちょっとしたエピソードがうまいんだよなあとしみじみ感心した。色褪せない名作。

  • もはやノンフィクションのような歴史小説。
    土方歳三だけでなく、近藤勇も沖田総司も、イメージ通り。
    むしろ司馬遼太郎の作ったイメージが一般的になってしまっているようですね。

    新撰組を結成するあたりや池田屋事件とかもドラマチックだけど、その後の新撰組じゃなくなってからの話もおもしろかった。

    戦いに生きる男の気持ちは共感できないけど、真っ直ぐな芯の通った生き方はかっこいい。
    お雪との出会いと別れが切なくてよい。

  • 動乱の幕末を生きた土方歳三の生き様。

    組織を強くすることにこだわり、その才をもって新選組という作品を作り上げた男。
    自らが信ずる美しさのために生き、死ぬという荒っぽくも瑞々しい信念。時勢が大きく変化していく中で、決して揺るがない姿が眩しく、どこか哀しくもある。

    ただひたすらに土方歳三という生き方を感じる作品。

  • 新選組副長土方歳三の痛快な生涯を追った司馬遼太郎の代表作の一つ。

    上下巻のうち下巻。既に落ち目の幕府。新選組副長の土方歳三には政局は興味無い。近藤勇と新選組の成功そして喧嘩に勝つことのみ。

    幕府側にも逸材はいるが、時代の流れに抗うことはできない。鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争と土方は今日から江戸、会津から箱館へと戦いの舞台をうつしていく。あっさり降伏する近藤勇との対象的な生き方。

    時代の流れに逆行し、幕府に殉ずる新選組。その人気の一端は間違いなく本書にあるだろう。土方歳三、しかも一枚だけ遺された写真の美男子ぶり。

    沖田総司のキャラクター設定もうまい。土方のことを真に理解しているのは沖田のみだっただろう。

    土方歳三という漢の人生、1遍の詩。何度読んでも心に響く傑作です。

  • まさに日本が変わっていく激動の時代の只中で、ものすごい人生を歩んでいたんだなあ。
    こんなことが、つい150年ちょっと前に実際に起こっていたことが信じられない。
    様々な思想、政治の中にありながら、土方歳三の生き方の根底にあるものは、とてもシンプルで一本気通ったものだった。このような情勢で同じ軸を保ち続けることはとても出来ないことだから、そういう人だった、のだろう。
    近藤との別れ、敗北の色が濃厚になってきた後半、読んでいるこちらは勝手に諸行無常を感じ切なくもなったけど、土方歳三は最期まで彼らしく、闘いの中その人生を終えることができた。

    心情描写等については、必要最低限、淡々としているものだが、どれだけの思いや感情を蓄積させてきたのだろう。土方歳三はじめ、自分の信条を貫いてその時代を生きたそれぞれの気持ちに想いを馳せずにはいられない。良し悪し(新政府側、旧幕府側)ということでなく。当時そのような人がたくさんいたんだ。ただただ尊敬します。

  • ぐっと惹き込まれた。上巻では無敵だった新撰組が無残に破れ、賊軍として追われる姿に言葉にできない感情を覚えた。燃えよ剣、題名のごとく土方歳三の和泉守兼定の存在、銃、砲が主流になろうとしていた時代における彼の剣に取り憑かれた様が印象的だった。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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