燃えよ剣(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101152097

作品紹介・あらすじ

元治元年六月の池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼定があった。新選組のもっとも得意な日々であった。やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃でいどんだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく。

感想・レビュー・書評

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  • 【上下巻を通しての感想】
    司馬遼太郎氏は、こんな熱い漢(おとこ)達を書くんだとは、全く知らなかった。良い意味で裏切られた。僕はもっと史実に則って、淡々と物語を書く作家だと勘違いしていた。司馬氏は、今作を読んでよく分かったのだが、実は結構フィクション要素が多い。それこそ上巻に出てきた宿敵である、七里研之助は完全に司馬氏によって創られた人物であるし、歳三の恋人の雪も実は想像上の人物だ。

    なので、史実に則った物語しか読みたくない、あるいは、フィクション要素が少ないストーリーでないと没入出来ないという方には、恐らく向いていない作品だと思う。ただ、もしそういう拘りがそこまで強くない方には、是非読んで欲しい作品だ。

    なぜなら、それこそ上記で書いた七里研之助は、強烈なライバルであると共に、運命の糸で土方と結ばれているように司馬氏は描いている。また、本来ぞっとするほど冷徹で鬼と言われた土方に、恋人の雪がいることにより、感情移入してしまうし、それこそ土方の唯一の心の支えになってくれている。そう、この作品を名作たらしめている大きな理由が、司馬遼太郎氏が創作した人物達なんだと僕は感じた。なので司馬遼太郎氏は、歴史家ではなく、まごうことなき小説家なんだと今作を読んで強く思った。

    自分の思いを先に書いてしまったが、あらすじを書くと以下となる。

    この物語は、一言で言うと、新選組副長、土方歳三の生涯を描き切った小説だ。そういう意味でいうと、かなり単純明快な物語である。武州石田村(現在の東京都日野市)の百姓の息子に生まれた土方歳三が、剣一本の素養だけを頼りに、幕末の動乱期を文字通り走り抜いた一代記だ。喧嘩ばかりに明け暮れた青年期。京都で新選組を立ち上げ、その名を全国に轟かせ、ある意味栄華を誇った京都時代。そして戊辰戦争後、各地で戦うも、徐々に北へ北へと追い詰められ、函館五稜郭まで追い詰められていく…。

    今作は上巻の感想にも書いたが、それぞれの主要人物である3人が、被ることなくとても良い味を出している。

    局長の近藤勇は、出世欲が非常に強く、上昇志向が誰よりも強い。また、政治思想が強くなるにつれ、徐々に新選組の方向性が変わっていく。土方は、基本的に人間的な感情がかなり薄く、言葉数も非常に少ない。また規律を破った隊士への仕打ちは、それこそ鬼そのものだ。ただそんな土方を、どんな時も理解者として味方になってくれる沖田総司。また土方が下手な俳句を読んだ時に見せる沖田のお茶目な態度が、作品に温かみを与えてくれる。そう、3人のバランスが絶妙なんだ。

    ただ殺伐と敵を斬っていくだけの作品なら、ここまで国民的人気を得なかった筈だ。主要キャラクターにそれぞれ感情移入しやすい様、敢えて欠点を描いているところが、作品により没入させてくれる。そこに僕は司馬遼太郎氏の上手さを感じた。

    また作品が終盤に近づくにつれ作者である司馬遼太郎氏は、この作品を通じて読者に何を伝えたかったのだろう?と感じてしまう。

    それは、上巻の人物エピソードにも書いたが、司馬氏が自身の作品で、好きな作品は?と問われ、空海(恐らく「空海の風景」)と、今作「燃えよ剣」と答えている。司馬氏は、世にかなり沢山の作品を送り出している。それこそ、長編小説44作品、短編小説156作品、エッセイに至っては1,500編を超えるという。そこまでの作品数を書いた中で、今作を好きだという。なにかよっぽど、読者に訴えかけたいことがあった筈だ。

    そのことを意識しながら、今作を読むも明確にこれだと分からなかった。例えば「男のロマン」とか、「志を強く持て」とかかな?とも思ったが、なんか違う気がする。作中で土方の考え方や近藤の想いに触れるも、現代に生きる自分には理解しにくい意見や思想がたまにある。それを理解するためには、たぶん司馬氏の小説を多数読むより、幕末や明治維新の頃の思想書を読む方が早いのかなと思った。

    なので、今作を読みながら幕末や明治の頃の思想書で探していると、良い本を見つけた。新渡戸稲造氏の「武士道」だ。恥ずかしながらこの本、武士の心得を書いた本だとばかり思っていた。実はそうではなく当時生きた新渡戸稲造氏が、西洋人向けに日本人はこんな道徳感を持って生きているとか、日本人の倫理観を西洋人に伝えるために書いた思想書だ。その想いを知ってしまうと、積読本を後回しにしてでも、どうしても読みたくなってしまった。なので次は、「武士道」を読みます!

  • 続けて後半も!
    北へ北へと逃走も、土方は闘う。
    この作品は侍に憧れた若者の青春劇、そしてラブストーリーでした。

  • 「男の一生というものは」
    「美しさを作るためのものだ、自分の。そう信じている」
    歳三が病床の総司に語ります。後に、最後までたった一人の幕士として残り、戦った男の美学なのでしょう。
    このふたりの場面には、同志として、また兄弟のような深い絆を感じました。上巻で私にとっての総司は、信じる近藤や歳三からの命令ならば、自分の意思を持たずにただ容赦なく敵方を斬っていく、美しい鬼のような印象でした。けれど、病床でも歳三を慕い、自分を介抱してくれる姉や鉄之助に明るく接し、自分の人生をはかないもののように振り返る姿から、総司は歳三が命を注ぐ新選組を守るためには、自分は剣を抜く、そんな守護神のようなものだったのかなと、しみじみ思えてきたのです。彼は最期、菊一文字で斬ろうとし斬れなかった黒猫に何を見て、ひとりで逝ってしまったのでしょうか。
    正直に言えば、京都で恐れられた鬼の新選組副長としての土方歳三よりも、鳥羽伏見の戦いに破れた以降の歳三に魅力を感じました。会津若松、函館五稜郭での重なる敗戦。近藤との決別と斬首、総司の死など、転がるように加速していく悲劇的な現状を最後まで駆け抜けた歳三。たとえ、世間が間違っていると言おうとも、友が離れていこうとも、最後まで自分の考えを貫く姿。自らの死をも恐れず、負けると分かっている戦に突っ込んでいく姿。そして、長年ともに戦ってきた仲間や若い隊士への生きることを強要した別離。歳三のなかで何かが去っていき、そして芽生えた人生の終盤、この頃の歳三には、哀愁が漂い、懐の深さが滲みでているようで、男とはこういうことなのかと思えたのです。
    でも、そういう男を愛してしまったら、女にも同じくらいの覚悟が必要ですよね。歳三を見送るお雪は、歳三との永遠の別れを覚悟してたのでしょう。戻って来てほしい……そう願ったとしても、お雪ならそんな言葉を、歳三の背中に投げ掛けることは決してしなかったはず。
    ときに、女には理解できないもの。それが男のロマンなのでしょうか。

  • 時は幕末。
    土方歳三の生涯を描いた時代小説。

    260年続いた江戸時代末。日本の転換期である。幕末に繰り広げられた若者たちの熱き活動を描く。大きな流れは史実を基にされているため、リアルとフィクションの織り成す重厚なストーリーとなっている。

    歳三の内に燃える炎はどこまでも熱く、決して冷めなかった。自らの運命にひた走る美学はどこまでのものだったろうか。とても計り知れない。正に絵になる生きざまである。

    敵味方関わらず、この時代を象徴する人物が多く在る、誰も予想できない日本史の特異点だったと言えるだろう。あらゆる個性や思想が、国を巻き込んで激動した。

    単一的な考えから、相対的な考えへと変わってゆく国家の末期であり、黎明期に当たる。これからも語り継がれる時代。
    そこに土方歳三あり。

    読了。

  • 【あらすじ】
    元治元年六月の池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼定があった。
    新選組のもっとも得意な日々であった。
    やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃でいどんだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。
    しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく。

    【内容まとめ】
    1.諸行無常。どんな力も、時代の流れには逆らえない
    2.幕末、崩れゆく幕府という大屋台の「威信」を、新撰組隊士の手で支えた。
    3.全体的に、土方と沖田の交流を描いた物語。
    4.「新撰組」を知りたくば、この本を読めばよし!!(+血風録もね)


    【感想】
    諸行無常。
    新撰組の躍進を大きく描いた上巻と異なり、どんどんと落ちぶれていく新撰組が描かれた物語。
    大きな原因は時代の流れに乗れなかった(乗ることができなかった環境)だが、それに拍車を掛けたのは近藤と沖田だろう。
    己の器を見誤った近藤勇は、分不相応な事に躍起になり、新撰組どころではなくなっていた。
    分不相応なことをするなというメッセージが、この物語には暗示されていたのかなぁ。
    近藤勇の最期に関しては、一文のみで済まされていた・・・笑

    ただ、劣勢でも尚、凄味を増す土方歳三は素晴らしかった。
    幕府と共に崩れゆく新撰組を支え、己が活きる道を必死に模索し、剣に生きて剣に死ぬ人生は胸が熱くなったな。

    上下巻と非常に読みやすく、司馬作品では珍しいくらい脱線しない物語は単純に読みやすかった!
    別冊の「血風録」ももう一度読もう!

    【引用】
    p82
    あきらかに近藤の思想はぐらついている。
    一介の武人であるべき、またそれだけの器量の近藤勇が、いまや分不相応の名誉と地位を得すぎ、さらには思想と政治に憧れを持つようになった。
    近藤の、いわば滑稽な動揺はそこにあった。


    沖田総司
    「持って生まれた自分の性分で精一杯に生きるほか、人間仕方がないのではないでしょうか。」


    土方歳三
    「これは刀だ。」
    「刀とは、工匠が人を斬る目的のためにのみ作ったものだ。刀の性分、目的というのは単純明快なものだ。兵書と同じく、敵を破るという思想だけのものである。」
    「しかし見ろ、この単純の美しさを。刀は、刀は美人よりも美しい。美人は見ていても心は引き締らぬが、刀の美しさは粛然として男子の鉄腸を引き締める。目的は単純であるべきである。思想は単純であるべきである。新撰組は節義にのみ生きるべきである。」


    「土方さん、新撰組はこの先どうなるのでしょう?」
    「どうなる?どうなるとは、漢の事案ではない。婦女子の言うことだ。漢とは、どうするということ以外に思案はない。」


    p459
    思えば幕末、旗本八万騎がなお偸安怠惰の生活を送っている時、崩れゆく幕府という大屋台の「威信」を、新撰組隊士の手で支えてきた。

  • 壮絶な鳥羽伏見の戦いの後、朝敵となり、江戸へ逃げる歳三ら。そこから、北上し、会津若松、函館へと。終焉が、近づく。

    武士道に真摯に生き、戦争そのものが目標であった歳三。喧嘩“あるていすと”として、最期を迎える。

    幕末期の知識が、至って曖昧なので、「日本史A」を読んでみた。新選組は、教科書の本文にはでてこない。池田屋事件の備考欄に、記載あるのみ。

    歴史の狭間に、多くの若者が、命を落とした。
    この辺の歴史を、授業でもっとやろうよって、思うんだけど。


  • 切なきに、儚きに、燃ゆる下巻。

  • 「そういえば新撰組のこと何も知らないな」とふと思い、一番有名な小説を手に取ってみたのですが、これが最高すぎました。いや、なんでもっと早く読んでなかったんだろう。本当に最高の物語でした。

    「男は美しいと思うもののために生きる。たとえ時代に取り残されても」そんな心情のもと、新撰組を強くするという信念のみに生きた、土方歳三の魅力的すぎる生き様に鳥肌が立ちまくり。あまりに物語に入り込みすぎて、沖田の最期、土方の最期は辛すぎてページを捲る手が止まってしまいました。

    物語としては最高でしたが、あくまで小説ということで結構フィクションも多いみたいなので、新選組についてより知るために、別の本にも手を出してみようと思います。

  • 昔から歴史が大の苦手で、歴史小説はまったく手を付けていなかった。
    恥ずかしながら新選組のこともあまりよく知らないまま、いい年になってしまった。
    一番有名な司馬遼太郎を一度読んでみようと思った。
    意外に読みやすくてエンタメ度が高かった。どこまでが史実でどこからフィクションなのかよくわからないが、確かなことだけ書いても面白くないだろうしな。
    読み終えて皆さんのレビューが素晴らしいと思った。

  • 新撰組について初めて読んだこともあり、土方歳三のイメージが全く違っていて興味深かった。
    戦のことしか考えていないようで、所々で見せる優しさ(市村鉄之助等)に一気にファンになる。
    しかし沖田総司の性格、いいなあ。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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