父の縁側、私の書斎 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101161525

作品紹介・あらすじ

父、檀一雄の思い出は、昔の家の記憶と共に蘇る。原稿に行き詰まった父が夜中に料理をしていた台所。友人坂口安吾を居候させていた書斎。父お手製の竹馬で遊んだ庭-。父は亡くなり、家は建て直された。現在暮らす家の煩雑な悩みは尽きることがない。けれど私の中には「生活すること」を愛した父の魂が息づき始めている-。深い共感と切ない郷愁を誘う、"家"にまつわるエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 家の思い出から父への愛情が伝わってきた。もし一軒家を建てるなら土間か縁側を作りたくなる。

  • 「火宅の人」を読んで触発された中の一冊。
    「火宅の人」の中にも、「家」はさまざまな形で描かれていたので、そこに向いた好奇心も、家族から見た破天荒檀一雄の人柄に向いた気持ちも読み取れる一冊でした。

    「檀」の中で、お母様が「娘は父親を偶像化している」と書いていらっしゃいましたが、確かにふみさん目線の檀一雄は、破天荒で厳しいながら、子供とも楽しく遊んでくれる、よい父親に見えていたようで...

    それ自身は、本当に何よりだったと胸をなでおろすような気持ちでした。

    もちろん、檀一雄さんの娘さんが書いた作品なので、私はその目線で読んでいたけれど、「家」「住宅」に関する温かい、ときに辛辣なその目線と切れのいい文章にもとても魅せられた本でした。

    うん、縁側っていいよね、とか、土間ってどんなふうに使うんだろうとか想像したり。

    暖かい陽だまりの中で読みたい一冊。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ときに辛辣なその目線と切れのいい文章」
      檀ふみの書いたモノって、そんなに読んだコトがなくて、印象も、、、でも読んでみたくなりました。。。
      「ときに辛辣なその目線と切れのいい文章」
      檀ふみの書いたモノって、そんなに読んだコトがなくて、印象も、、、でも読んでみたくなりました。。。
      2014/03/24
    • 鈴蘭さん
      私も「火宅の人」に出会うまでは、おっとりした女優さんのイメージしかなかったので意外でした^^
      私も「火宅の人」に出会うまでは、おっとりした女優さんのイメージしかなかったので意外でした^^
      2014/03/28
  •  今私は、誠に馬鹿げた方法で本を探している。大型の書店にある文庫本の棚の前で、ココからココまでと決めて、棚一個分、大体一千冊ぐらいを一気に立ち読みする。そうやって、あるテーマについて書かれた場面が登場する小説を一冊でも多く探し出すのだ。一日千冊が限界のほとほと疲れる作業だ。

     その馬鹿げた作業はどうでもいい。どうでもいいんだけど、目的の本じゃなくて、アレっ、とかオヤっていう目的とは無関係の素敵な本との出会いがあったりする。こういう余録の方が嬉しいのは古写真整理や手紙の片づけとまったく同じである。
     嬉しい余録の一等賞がこの一冊。
     書棚で目に留まって目次を開くと、冒頭に「能古島の家」と題された10何ページかの文が載っている。
     福岡から船で10分の近くに浮かぶ、なんとも魅力あふれるこの島を訪ねたのは二年前だ。檀一雄が最晩年を過ごし、自身が『火宅の人』の中で描き、沢木耕太郎が『檀』で詳述したその家をどうしても見てみたかったからだった。
     対岸まで船で10分。盛り場まで30分。その盛り場の明かりも福岡ドームも見下ろせる丘の上の家なのに、こちらまで押し掛けてくる人も車も決してない。なんていい立地なんだ。その家の周りをぐるりと歩いてそう思った。敷地の北東角、ちょうど船着き場の真上で福岡も一番よく見える辺りに立って、もう立ち去ることができないと思うほどの感慨を味わった。

     ページをめくると、最初のページに手書きの間取り図が書いてある。居間には「レンブラント自画像(複製)」とやはり手書きの書きこみがある。このカワイイ女文字は当然檀さんの自筆だ。
     『火宅の人』を読めば、生涯最後の放浪のはてに辿りいたスペインの美術館で、レンブラントの自画像に出くわした檀一雄が、この絵に異様な感動を覚えるシーンを見つけることができる。私の解釈では、そのとき檀は自らの身勝手で孤独な魂と、自己コントロール不能な才能とを、その一枚の絵の中に投影していたのだと思う。
     手書きの間取り図には、その複製画のところに矢印で、「父が毎朝敬礼していた」とやはり手書きで書いてある。
     さらには、図の右上の端には、矢印で「船着き場と対岸が見える」と、さらにさらに、そこには小さな手書きの○が二つ。「父母が舟に手を振っていた場所」とある。
     鳥肌が立った本は買い、泣けた本はレビューを書く、が私のルール。今回は一挙に来た。
     
     2年前そこを訪れた時、一人の作家が確かにそこに居たのだという実感があった。だが、そこは、父と娘のかけがえのない思い出の場所でもあったのだ。「娘」も確かにそこに居たのだ。後に続く記述の中では、死の直前無一文だった父に代わって、この能古島の家の購入資金を賄ったのは娘だったことを知ることができる。そのころ著者はまだ二十歳そこそこだったはず。でも子供心によく覚えているが、そのころ既に檀ふみは青春ドラマの売れっ子スターだった。
     執筆中の『火宅の人』がもし売れたら、くみ取り式のトイレを水洗にしようね、と語り合った逸話もじんと来る。石神井の家の垣根を直す費用を捻出するために、家族総出でコカ・コーラのCMに出演したエピソードなんかも後段で出てくるのだが、この死の直前の「父」は、その自分の最後の作品がトイレの改修どころか家何軒か分の大ベストセラーとなることは知らないまま亡くなるのだ。


     檀一雄記念館とするために福岡市からその家を譲ってほしいと申し入れを受けたとき、
     「ここで、夜景を眺めながら、ゆっくり飲んでみたいと、私はしびれるように思った」
     そう思って売るのを止めたのだという。
     そのくだりを読んで。読んでいる私もしびれた。
     
     最後はこう締めくくられている。
     いつかそこで、「父の好きだった音楽を聴きながら、静かにお酒を飲もう。そのとき、きっと父は私のかたわらにいる。なんだかそんな気がしてならない」と。

     そこにはひとりの男と、そして娘が、確かに居たのだ。

    • hongming8888さん
      こんな面白い本の探し方、初めて知りました。
      こんな面白い本の探し方、初めて知りました。
      2013/07/19
  • 向田邦子のエッセイを彷彿とさせるような感じ。

  • 小気味いいメロディのような言葉で綴るエッセイ。家の忌憚のないリアルと親への想い、そして住むということに対する率直な作者の気持ちが伝わってくる。
    改めて子供時代の想い出が自分を形成していること、そして住んでいた家にどれだけの記憶と想い出と感覚と、、、読んでいて自分も子供時代を思い出し、感覚が蘇ってくる本。良いことも悪いことも含めて大切な財産だったと気づかせてくれる。

  • 「檀ふみ」のエッセイ『父の縁側、私の書斎』を読みました。

    「檀ふみ」の作品は、「阿川佐和子」との共著(往復エッセイ)『ああ言えばこう嫁行く』以来なので、約4年振りですね。

    -----story-------------
    幸せな記憶を呼び覚ます、いとおしい私の家――。
    エッセイの名手「檀ふみ」が綴る、住まいをめぐる想い、父の思い出。

    父「檀一雄」の思い出は、昔の家の記憶と共に蘇る。
    原稿に行き詰まった父が夜中に料理をしていた台所。
    友人「坂口安吾」を居候させていた書斎。
    父お手製の竹馬で遊んだ庭――。
    父は亡くなり、家は建て直された。
    現在暮らす家の煩雑な悩みは尽きることがない。
    けれど私の中には「生活すること」を愛した父の魂が息づき始めている――。
    深い共感と切ない郷愁を誘う、“家”にまつわるエッセイ集。
    -----------------------

    「檀一雄」のことを妻「ヨソ子」の立場から描いた「沢木耕太郎」のノンフィクション作品『檀』を読んだので、、、

    娘「檀ふみ」の立場から見た「檀一雄」って、どんな人物だったのかなぁ… という興味から本書を選びました。

    タイトルや表紙の装丁(写真)から、父親「檀一雄」のことを語ったエッセイかと思っていたのですが… 読んでみると想像とは、ちょっと異なりましたね、、、

    「檀一雄」のことも描かれているのですが、大半は家(住宅)と家族に関するエッセイでした… それはそれで面白かったんですけどね。

     ■能古島の家 ― 月壷洞
     ■建てたそばから後悔は始まる
      ・「好み」って何?
      ・雨の音を聴きながら
      ・無駄の必要度
      ・バリアフル
      ・この家、大好き!
      ・床の間が欲しい
      ・風呂と日本人
      ・夢のトイレ
      ・屋根裏から
      ・別荘には目玉がいる
      ・おこたの間
     ■石神井の家 ― 瓦全亭
     ■他人の住まいはよく見える
      ・保護色
      ・理想の書斎
      ・贅沢の階段
      ・望ましい隣人
      ・キウイ・ハズバンド
      ・イヌ小屋? ウサギ小屋?
      ・靴のまま、どうぞ
      ・スープのぬれない距離
      ・隣の芝生
     ■離れ ― 奇放亭
     ■思い出は日ごとに美しい
      ・いつか夢に見る日まで
      ・心の縁側
      ・食卓の春秋
      ・表札はどこへ行った?
      ・春を忘れるな
      ・親父の居場所
      ・真夜中の料理人
      ・明るいほうへ
     ■死んだ親があとに遺すもの
     ■モノは限りなく増殖する
      ・絨毯、こわい
      ・モノものがたり
      ・適材適所
      ・新しい人生
      ・あたりはずれ
      ・とりあえず……
      ・思い出とともに
      ・ダメだ、捨てられない!
      ・名画の見つけかた
     ■みんないとしい あとがきにかえて
     ■文庫版あとがき
     ■生活者の視点で描かれた優れた「住宅論」 中村好文


    住宅って、デザインと住みやすさ(機能性)のバランスが大切なんだなぁ… と感じましたね、、、

    そして、昔の日本家屋の良さを再認識しました… 子どもの頃に過ごした家には、土間があり、縁側があり、縁側には沓脱の大石があって、外と内の境界線をキッチリ引かず、外と内の両面を持った心地良いスペースがありましたよね。

    懐かしいし、それらがコミュニティを育む大切な機能を持っていたんだなぁ… と改めて感じましたね。


    それにしても、「檀一雄」って人物は、知れば知るほど、マイペースな人だったんだなぁ… って思いが強くなります、、、

    でも、その一方で、不思議な魅力を感じるのも事実… やっぱり、『火宅の人』を読んでみるかなぁ。

  • 読んだのは新書だったので表紙は文庫版の方がいいなと思いました。私は縁側のある家に住んだことがないので、いつか住んでみたいと思いました。

  • 壇一雄の長女壇ふみが語る家・家族の記憶。

    昭和初期から小説家として活躍した壇一雄の娘で俳優・エッセイストである壇ふみが幼少時代からの家と家族の記憶を綴るエッセイです。

     放蕩で放浪癖があり自宅を何度も取り替えた父親への想いと転々とした懐かしい家の思い出をスケッチを交えて綴る知的で柔らかく・優しい言葉は緩やかで精神的な豊かさが感じられます。

     特にこの作品では家(住まい)の思い出が多く綴られているのですが現在では珍しい縁側は家族やご近所にとっての社交の場であり、父の友人である坂口安吾が居候した書斎の描写、一雄の書斎の多さに普段気にもかけない人様のお家の事情に少なからず嫉妬する思いです。

     感覚的な事ですが作中に家の”明るさ”が暑くるしいという場面で私も全く共感し実践している次第です。電燈等で夜中は勿論昼間から煌々と明るいのは何だか暑苦しく落ち着かないのです、柔らかい明かりで多少暗いぐらいの感じが心も身体も休まる気がし作者の繊細な感覚と文章表現に感銘を受けました。

  • どんな家に住みたいのか、この本を読んで自分の理想が具体的になった気がする。特に土間の役割、縁側の役割の話はなるほどー、素敵だと感動した。壇さんの文章は知的でおもしろく、独特の温かみもあって、心地よかった。

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著者プロフィール

女優。「日本の面影」「藏」「花燃ゆ」「山桜」など国内のドラマ、映画に数多く出演する一方で、NHKと英BBC、米KCETとの共同制作ドラマや、オーストラリアでの舞台にも参加。司会を務めた「N響アワー」「新日曜美術館」では、クラシック音楽や美術の楽しさを、「日めくり万葉集」では古典の素晴らしさを伝えてきた。また、エッセイも好評で、『ああ言えばこう食う』(集英社、阿川佐和子氏との共著)はベストセラーとなり、第15回講談社エッセイ賞を受賞している。他に『父の縁側、私の書斎』(新潮社)『檀流きもの巡礼』(世界文化社)など、著書多数。

「2018年 『天皇交代 平成皇室8つの秘話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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