塩狩峠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101162010

作品紹介・あらすじ

結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた…。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • ガラシャの時とはまた違った信仰心の在り方を知った。ガラシャの方が私は好きだったけど、塩狩峠も良かった。

  • キリスト教が忌み嫌われていた時代。
    士族の家に生まれた美しい青年ーー永野信夫は人間の罪深さについて悩み、考えながら生きていた。
    やがてその問いの答えをキリスト教の教えに見出し、感銘を受ける。
    仕事も私生活も順風満帆で、結婚を控えたある時、彼は列車事故に遭う。彼は自らの命を犠牲にして多くの乗客を救った。

    驚くことにこれは事実を元にした小説だそう。実際にそんな人がいたという事実に驚いた。
    自分の尊い命を投げ打ってまで人々を助けた利他の心は、自分が損をしたくないという当たり前の価値観を覆される。

  • 深い感動に心震える。

  • 「素晴らしい」「考えさせられた」で終わらせるのは勿体ない。各々が、何度も何度も何度も何度も繰り返して内省すべきだ。自身の考える誠実とは何か?己の中に立つ、不可侵の軸とは何か?私は、私なりの誠実で、利他の心を人に寄せ続ける。考え続ける。これからも。

    今の時代にとても合っていると思うんだよな。小説を通して、こんな気持ちになることがあるんだな。呆然としています。

  • キリスト教という宗教自体には疑問もあるけれど、永野の最期は感動的だった。
    学生のときに読んだ際も印象深かった記憶があり、よく覚えていた。
    テンポのいい短い文章が凝縮された緊迫した時間をうまく表現している。
    ふじ子たちの聞いた音、電車から降りる姿のことも覚えていて、学生の私も強く心を打たれたことを覚えている。

    真面目過ぎるほど真面目な青年だ。
    三堀の疑いは当然だと私は思う。

    この小説のもととなった人物についても、少し興味がわいた。


    2004.6.16
    信夫は真っ直ぐな人間だ。自分をごまかさない。あれほど嫌っていたキリスト教に入信しようと決意できる素直さに驚く。たいしたものだ、と思う。私ならへんに意地をはってしまうかもしれない。この本を読んで、キリスト教も悪いものではないのかもしれない、と思った。もちろん、私にはキリスト教の知識も何もないけれど、このような真っ直ぐな生き方、おおらかな人格はうらやましく思う。

  • 1976年に開始された『新潮文庫の100冊』で、47年間選ばれ続けている常連作品。

    この三浦綾子の『塩狩峠』と同様に、開始時から毎年選ばれている日本人の作品は、夏目漱石『こころ』、太宰治『人間失格』、井伏鱒二『黒い雨』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の4冊のみ。名作と言っていいでしょうね。

    東京の本郷で生まれた主人公は、母が生まれて間もなく亡くなったと祖母に聞かされて育ちます。士族の家系故に厳格な祖母は、事あるごとに亡き母を例に上げて母を侮蔑していました。しかし、逆に少年は、もう会うことが叶わない亡き母を思い慕う日々を過ごしていました。

    そんなある日、父に連れられて団子坂に菊人形を見に行くと、1人の少女が父に近付いて「おとうさま」と声をかけます。事情が分からない少年は、家に帰って祖母にその時のことを話してしまいます…

    ここまでで約30ページ。裏表紙にあらすじが書いてありますが、それはラスト30ページのこと。その間には主人公が成長するにしたがって、様々な経験と共にキリスト教への信仰に目覚めていく過程が描かれる心の成長記です。

    この話しは「あとがき」にもありましたが、実際にあった事故が下地にあり、事故の事実以外は、自己犠牲のキリスト教の精神に感銘を受けた著者の創作です。著者は小説を通して、はたして敬虔な教えをもとに行動し、私的な人生を省みずに人命を救うことができるのかという自己犠牲について問いています。自分が同じ立場になったら、残される人のことが脳裏に浮かんでしまい、おそらく無理でしょうね。

    主人公は、クリスチャンになった後は、人間味溢れる人物描写が少なくなっていき、まるで聖人のようになっていくので、無理と考える自分が宗教と関係のない日常を過ごしているせいかもと思いました。しかし、聖人になるより、自分は日々を誠実に生きていきたいとは思いました。

    • 雷竜さん
      高校1年性の頃読んだのですが、とても感動して友達に渡したら、なんてくだらない本だと言われた記憶があります。そしてそれから50年後に年寄りにな...
      高校1年性の頃読んだのですが、とても感動して友達に渡したら、なんてくだらない本だと言われた記憶があります。そしてそれから50年後に年寄りになって、オーディブルで聴いたのですが、あまり集中できませんでした。夏目漱石は何度読んでもジンときますよね。
      たぶん、自分の心が汚れてしまったのか?キリスト教の歴史を知ってしまったからなのか?
      そんな思い出を思い出させてくれて、ありがとうございます。
      2024/03/22
    • Marさん
      この事故は、あとがきの補遺の藤原氏の発言にもありますが、氷に足を滑らせて線路上に真っ逆様に転落し、客車の下敷きになったのが真相だと思います。...
      この事故は、あとがきの補遺の藤原氏の発言にもありますが、氷に足を滑らせて線路上に真っ逆様に転落し、客車の下敷きになったのが真相だと思います。客車の重量を考えると、人一人が飛び込んだところで止まる訳がないですからね。それまでのハンドブレーキが効いていたのでしょう。

      事故で殉職された方は、立派な聖職者だったみたいなので、自ら飛び込んだという美談に仕立て上げられたのが真相と思われます。

      と、自分もそんなことを思いながら読み終わったので、そう思いつめない方がいいですよ。本を読むタイミングも、その時々で変わるものなので気にしないことですね。
      2024/03/22
  • 愛とキリスト教への信仰を貫いた主人公の生涯。
    中学生の頃に読んで感動し、人のために生きること、犠牲を厭わないこと、そんなふうに生きたいと思った記憶があります。
    あれから数十年…父から送られてきた本たちの中に入っていて再会した「塩狩峠」。
    主人公のあまりに清く正しい生き方に驚き、残された者の喪失感や悲しみを思いとても心が苦しくなりました。

  • 初の三浦先生作品。主人公の成長を通して、他者への愛と自分の信念について考えさせられる。ラストは泣ける。

  • 感動のあまりお手がみを出しました。その頃闘病中ということで代筆でお返事をいただき、さらに感動しました。無くしてしまいましが…。

  • ずっと読みたかった作品。わたしはキリスト教徒ではないが、キリスト教という宗教に少しは興味があるほうだと思う。

    小説では、何年間も待ち続けた最愛の人との結納の当日に死ぬという、あまりにも悲劇的な結末だったが、実際はそのようなタイミングでなかったかもしれない。
    主人公のモデルとなった長野氏の人生も、そして死も、実際は小説ほど劇的で美談なものではないのかもしれない。

    けれど、人々から愛され慕われた一人の人間が、悲しい事故のせいで亡くなったこと、そしてそれが仮説の一つではあるものの、自らの命を犠牲にした可能性があること、それを何年も先の時代に生きる人々が知り涙する、そんな機会を与えてくださった本書に感謝をしたい。

    旭川に旅行したことがあるのだが、塩狩峠について知ったうえでもう一度訪れたい。

    特定の宗教を持たないわたしには、信仰とは何なのか分からない。ただ、この作品を読んで信仰とは、誰にでも必ず訪れる死というもの、その避け難いおそろしい死に対して、人の心に安寧をもたらすもの、拠り所となるもののように感じた。


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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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