夕あり朝あり (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101162218

感想・レビュー・書評

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  • 白洋舎を起こした五十嵐健治の話だ。これまた、回想風に物語は進む。この手のはあまり好きではないが、著者の作品は好きなので読む。五十嵐は、飽きっぽい性格だったのだろうか、職に就くも、早いときは一時間で逃げ出した。これが、幾度も幾度もあるのだ。ただ、人を信じること厚く、逃げられたと思っても、それでもいく日も待ったりするのだった。20歳になるまでは、一攫千金を夢見て、東京に出たりしたが、これが職が続かず、逃げ出してしまうのだ。ただ、その一攫千金も、自分のためではなく、親を、母親を楽させてやろうとのことだったので、憎めないのだ。
    五十嵐は、つてを頼り三井呉服店(後の三越)に入る。ここでも人に恵まれ、10年近く勤め、白洋舎を立ち上げる。日本で初めてドライクリーニングの事業を始めた。順風満帆ではなかったが、何とか事業も軌道に乗った創立10年目に目をかけていた社員に裏切られ会社の信用も地に落ちた。五十嵐は全く平静を失ったが、妻の一言で目が覚めた。「私たちは人には捨てられたが、神には捨てられない」と。
    聖書をあけ、読んだ。愛する者よ、自ら復讐すな。ただ、神の怒りに任せまつれ。しるして、「主言い給う、復讐するは我にあり、我これを報いん」とあり、もし汝の敵飢えなばこれに食わせ、渇ばこれに飲ませよ。と。
    人間、順調にことが運ばれてきている時の方が、思うようにならぬ時よりも危険なのだろう。思うようにいかぬ時は謙遜であり得るが、意のままになる時は自分自身の才や努力を誇って傲慢になる。そんな時、神はその傲慢を打ち砕くよだろうか。ただそこには愛があり、また、自分を取り戻すだろうことを期待しているのだろう。神はバチを与えないから。

  • 五十嵐健治、この人は偉人でありながら、心根が弱い。キリスト教に改心してからすでに10年20年たったときでも、心根が弱い。関東大震災のとき、子どもや妻、従業員を思う余裕もなくひとり一目散に逃げ出したというエピソードなど象徴的である。それゆえに、励みになる。根からの聖人だと、信仰など凡人には不可能なものと感じてしまうところがあるが、そういうところが少ない。

  • 白洋舎という名前は昔から知っていたけど、その創業者がこんな人生を歩んできていたとは思わなかった。特にあちこち流浪していた頃の行動力には驚く。

  • 文が固くてよみにくかった。

  • 五十嵐健治氏という白洋舎を創立した方の自らの人生を語る小説。1877年(明治10年)生まれの若者が、無一文での各地を巡るその迫力に驚く。明治時代の雰囲気を感じることができたし、その中で群馬で、小樽で、出会った旅館のご夫妻がクリスチャンであったことから、小樽の宿に常宿される中島佐一郎氏との出会いにより救いに導かれる。その後は別人のような歩み。妻も信仰の人!五十嵐氏が救われてからの半生は正に恵みの日々、三越の使用人として宮内庁に出入り、そして独立後も三越の役員・上司たちに支えられ、白洋舎が発展していく。洗濯屋として嫌われていた職業が、近代的ドライクリーニングとして成長していくまでの歴史が克明に書かれている。爆発による大怪我、照憲皇太后のお召し物の溶融事件、支配人の離反、火災、使用人たち21名の列車事故での死、平岩棋一郎による撤去への運動など、激動の日々を守られたというその感動が熱く語られており、これは著者と五十嵐氏の信頼の強さが顕れていると思う。「氷点」で著者が注目される前から、五十嵐氏が著者を見舞い、励まし、懸賞小説当選を一緒に喜んだ!との解説には驚き。五十嵐氏の信仰に全く脱帽である。

  • 安全大会で皆が神社に祈願に行こうとするのを信仰の押し付けと強硬に反対を押し通してしまう、一方、宮内省掛として皇宮に出入りして不都合が起きなかったのか、といった疑問はあるが、多くの人に愛された、助けてもらったことは、やはり魅力的な資質を持っていたのだろう。波瀾万丈の人生が心に残った。2016.3.15

  • 名作

  • 白洋舎の社長の話。面白かった!

  • 前半ありえないくらい波乱万丈。でもこれが100年前の日本だったのだなぁ、と認識する。ストーリーテラー三浦綾子を堪能。

  • クリーニングの白洋舎、創業者の生涯。
    キリスト教の洗礼を受けてからの彼の生き方に感銘を受けた。
    信仰を持った者の優しさ、強さを感じた。様々な困難も強い信仰心で耐え、前へ進んできた。その姿に見習うことは多い。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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