定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101183411

感想・レビュー・書評

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  • 最近鉄道ネタが続いているな。まあ自分のブログなんだから何書こうと勝手なんだけど。先週久々に鉄道の旅をしてきたせいで、昨日はそのビデオの編集と整理、今日は帰途の日没後に読みかけたこの本を読み終わった。
    日本の鉄道が正確だとはよくいわれることで今さら驚かないが、2003年のJR東の数字で遅れ1分以内なのは新幹線96.2%、在来線90.3%、1列車あたりの平均遅延は新幹線で0.3分、在来線0.6分ときくとこれはやはり驚きの数字だと思う。ぼくが毎朝乗る列車なんて1分以内の遅れで着くことあるかなあ。先日の函館往復の特急も好天で遅れる要因が何もないのにいずれも3分くらい遅れていたし。JR北は遅れがちだということはまさかないだろうけど。
    日本の鉄道が正確な原因として、日本人は江戸時代から決められた時間で生活する習慣ができあがっていたことと、人口が稠密で駅間が短いのでシステム的に遅延が許容されにくかったことが大きな要因である、と著者は説く。なるほどとは思う。まあ国民性というのも大きいのだろう。昔外国で暮らしていたとき、テレビの番組が定時に始まらないのに驚いたことがある。日本なら秒単位で正確に番組が流れていて、鉄道以上に遅れなんてありえないだろう。そしてわれわれはそれが当たり前だと思っている。
    それはともかく、鉄道の本に対しては点が辛くなるのを割り引いても、正直いってあまりおもしろくなかった。文化的背景を主として読めばそれなりなんだけど、技術的な部分は掘り下げが不足している。長さのわりに内容がなくて冗長。最後の方なんて不要では。

  • 遠山緑生先生 推薦

    こちらは新書というか文庫ですが。ノンフィクション「読書の楽しさ」の一つに、「当たり前だと思っている事が、実は当たり前ではない」事を知ったときの驚きがあります。
    私にとって、今この世の中は生きやすくない。とりあえず「正しいとされていること」が気にくわなくてしょうがない。ので、「当たり前だと思っている事の当たり前じゃなさ」が書いてある本に出会えると、ものすごく楽しい。
    この本は、「日本の鉄道は諸外国に比べて定時性が<異様なほど>高い」という「当たり前の事実」の確認から始まります。あ、当たり前じゃない?(少なくとも鉄道マニアにとっては)「当たり前の事実」なんですよこれは。
    「そもそも日本人にとって時間って何なの」というあたりまで深掘りして、少なくとも「鉄道が定着する前の日本人は、全く時間に正確ではなかった」、といったような「当たり前ではなかったことが当たり前になっていく歴史」が描かれています。
    というような流れが最高にワクワクするので、お勧めします。
    ところで、今ある社会を当たり前のものとして受け入れて、流されて、それに不満がないならば、読書をして知識を身につけると、生きづらくなるだけなので、あんまり読書とかしない方がいいと思います。

  • 図書館で借りました。
    この本が書かれた後に福知山線の事故があったのかなあ?
    鉄道の安全神話が壊れた瞬間でしたね。あの事故は。

    それにしても欧米と日本では背景と利用目的が違うのだから当然運用方法も違ってくるということは良くわかりました。鉄道は日本人にとって定刻に走って当たり前、と言う存在なんですね。
    今は検索エンジンで簡単に乗り換えも調べられますので便利になった反面、電車の遅れにはさらに厳しい目が向けられている気がします。

  • 非常に面白かったです。
    日本の鉄道が世界一正確だということはなんとなく知っていましたが、その背景として日本人の時間に正確な国民性、地理的制約、鉄道会社の努力があったことは知りませんでした。
    都市形成において、鉄道が果たす役割の大きさにも改めてびっくり。

    すべてにおいて、スケールが大きい話なんだけど、一方で非常に身近な話でもあり、読みやすい本でした。

    ちょっと前に発行された本なのでJR西日本の列車事故や、最新のシステム
    の話などはわかりません。そういった話も知りたくなりました。

  • 日本が世界に誇れる(数少ない?)ものの1つ「定刻発車」を江戸次第までさかのぼる歴史面・鉄道システム面から分析。こういう作者と当事者たちの熱が伝わってくるドキュメンタリーは好き。これを読むと、無愛想な駅員さんや電車の遅延もなんだか許せてしまう。

  • 日本の鉄道も最初はいまほど正確でなかった。幾人もの普通の鉄道マンの努力の積み重ねで今の状態まで来たのだという事がよくわかる
    面白いです。

  • 鉄道運行のとっかかりとしては最適な本だと思う。軽い日本の鉄道に関する歴史から始まり指令室でのダイヤ回復の動き。ダイヤの解説など盛りだくさんである。広汎な解説もありなかなかおもしろい。駅が多い方が回復運転がしやすいなど目から鱗である。

  • 文化文明論にまで踏み込んでいるが、それよりもっと現場の様子を知りたかった

  • 発売時に評判になつてゐたのは知つてゐましたが、今回初めて読んでみました。
    予想以上の面白さと申しませうか。サブタイトルの通り、日本の鉄道が正確に動く理由は何かを考察した一冊でございます。
    ヨーロッパあたりの鉄道でも、定時運転率は9割くらいで、一見日本と変らぬやうに見えますが、「遅れ」の定義が各国で違ふので、内実は大きく異なつてゐるさうです。フランスの超特急TGVの場合、14分以上遅れなければ定時運転としてゐるといふことです。日本では1分以上をすべて「遅れ」としてゐるので「世界で最も正確」の称号も頷けるところです。

    日本の鉄道が正確である背景として、日本の地形の特徴や都市の点在ぶり、さらには参勤交代といふプロジェクトですでに日本人は「ものごとをつつがなく進行する」風習があつたと指摘します。ここまでさかのぼるとは思ひませんでしたね。
    世界でも珍しい「電車王国」となつたことも一因でせう。ここでいふ「電車」とは、文字通りの電車ですよ。
    「運転の神様」「奇行の人」結城弘毅の影響も示唆してゐます。この人は昭和5年といふ早い時期に、超特急「つばめ」を走らせて世間をあつといはせたことで有名ですね。当時11時間かかつてゐた東京-神戸間を、3時間短縮して8時間運転とする、と発表した時は皆が信じられず山師扱ひされたとか。(実際には2時間40分短縮の8時間20分運転。)

    新宿駅みたいな巨大ターミナルがあると、定時運転せざるを得ない。また、遅れてもそれを取り戻せるシステムについて、噛んで含めるやうに説明してくれます。欧米と比べて駅設備などシステムに余裕のない日本だからこそ、遅れない鉄道を作らざるを得なかつたといひます。
    しかし余裕のない現状のままでいいのか、著者は疑問を呈してゐます。線路設備を欧米並みにすることは無理としても、悲観することはないと提言するのでした。
    「何が最適なストックであるかは、国や社会によって違うし、余裕というものは技術が発達すれば増えるものだからである。それにいつも列車が時刻表通りでなくとも「何とかなる」ように、社会の方が変わってゆく可能性もあるように思うのである」(第12章)

    礼賛一辺倒ではなく、「鉄道員や乗客の犠牲の下に成立してきた側面は否定できない」と問題点を指摘し変革を求めます。やはり何でも「問題」と感じることができないと改善につながりませんね。私などは鉄道を利用しても、うん、時刻表通りだね、結構結構と満足して終りなのですから。
    本書の執筆後に、あの福知山線脱線事故は起きてゐます。やはり余裕のなさが鉄道員たちを追ひつめてゐたのでせうか。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-177.html

  •  JR西日本の福知山線脱線事故は記憶に新しい。あの事故が日本中に与えて衝撃は大きかった。メディアではJRの体質に関する論評が溢れかえり人々はその対応を糾弾した。当時、東京に住んでいた僕も通勤にはJRを利用していたため、あの事故にはいろいろ考えさせられた。

     そんな事故の衝撃のさなかに出版されたのがこの本である。事情を調べてみると、もともと出る予定だったのがたまたま事故と同じ時期に重なってしまったらしい。奇妙な偶然ではある(おかげでよく売れたようだ)。
     本書では、「なぜ日本の列車は遅れないのか?」をメインテーマに据え、日本人論・日本社会論へと発展していく。それはわれわれ日本人の世界における位置づけまで浮き彫りにされていく、たいへんな労作である。
     現場からのレポート、膨大な資料・文献の分析から見えてくるものは、何のことはない、定刻発車させているのはわれわれ乗客(日本の社会)の方である、という当たり前の事実だ。
     しかしそれは驚愕する事実でもあり、ショックでもある。
     福知山線の事故原因は、定刻に到着するためにスピードを出しすぎた、というのがほぼ一致した見解のようだ。そこで大抵の乗客は運転士を批判したのだ。ところがそれを急がせたのはわれわれの方なのである。
     なぜ列車は定刻に発車し、定刻に到着しなくてはいけないのか。そんな素朴な疑問から私たち自身を見つめ直す事になる。

     渾身のルポルタージュ。

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