杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)

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レビュー : 97
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101185019

感想・レビュー・書評

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  • 『辻』が面白かったので遡って読んでみたのですが、これはイマイチでした。てことは古井由吉に関しては初期作品より比較的最近の作品のほうが自分は相性が良いのかも。

    精神的に病んでいる女性・杳子と、彼女を見守る男の恋愛ものといえば恋愛ものなのだろうけど、この杳子の病的な行動の数々が、とにかくリアルすぎて読むのが苦痛になるほど疲れます。

    そしてその恋人の男のほうも、杳子のどこに惹かれているのかさっぱりわからず、病んでる女を自分が治してやりたい、助けてやりたい、という同情なのか優越感なのか、愛情というにはあまりにも上から目線の観察で、自身も気づいているようではあるけれど、杳子に対して自分が何かしてやれるという思い上がりや恩着せがましさが露骨すぎてちょっと不愉快。

    結局彼自身も杳子ほど明確でないにせよ病んでいる部分が多少なりともあり、だからこそ杳子をどうにか助けてやりたいと思う反面、杳子の奇矯な行動を見て「俺はまだ大丈夫」と安心感を得ているのではないかと思うほどの冷酷さすら感じました。

    登場人物を好きになれないことと、小説としての面白さは別物だとは思いますが、こういう作品が「文学的」なのは理解しつつも、好きかと問われればきっぱりキライと答えてしまいそう。性的なことに関する表現の仕方も、露骨な言葉は使っていないにも関わらず妙な嫌悪感を催してしまい、ちょっと苦手でした。

  • <杳子>
    何処までも暗(杳)く儚き幼さは、一人を蠱惑する。

    昏迷してゆく感情。無邪気さと蜷局を巻く病魔。
    蝕み、蝕まれ、重なり合う毎に成熟してゆく蟲を、伴に飼う事。
    純白と仄暗い暗澹の世界が、…忙しなく過ぎ往く喧騒の中の狂気の秘密裏に在るが故、"極普通な営み"は淫靡さを孕む。

    苛立ちと云う名の奈落の耀。
    岩をつたい、危うさに震い怯え、果てし無く堕ちてゆく事への悲しき快楽。
    男性が疼痛に喘ぎ乍らも尚…否、それ故に歪曲された愛に耽溺してゆく心が、少し理解出来る様な気がした。

    簡易な語句を用い乍らも独特の表現が、濁り切った仄めく極彩色を、茫漠と滴らせる。それでいてその重い滴は、確かな輪郭を有っている。
    擬態と比喩の絶妙な文が、如何にも世界を相応しい容に創り上げる。
    感受と視点、心描写の連なりが、痛々しくもどかしく、"苛立ち"を与えながらも読者でさえも嵌めてゆく。つらさを、じわりじわりと痛感させる。

    <妻隠>
    孤高の気高さを全身に染み入らせた様な礼子。
    互いに交わり合い、深く関わったが故に、自信が相手の半身に持ってゆかれて融和したが故に、恋愛よりも濃密な関係となる。…それは酷く淋しい事なのかも知れない。

    「未練ほどのやさしいものでなく」と云った形容が余りに残酷で、それで居て儚く美しい情の如く心に響いた。
    頼り無い夫としっかりした妻、という単純なものでなく、
    御互いに別の足場から相手を優しく見守る様な距離感を携え、
    独りでは無いが故に余りに悲しく意味を孕んだ「孤立」した二人は、共有する空間に雁字絡めにされても抵抗する事さえ諦めた様な、疲れきった様な哀愁を映し出す。

    ストーリー性の薄さが一層に、此の文の色を明瞭とさせている。

    馴染んでくる様な、…此方も痛みを伴う話であったが、「肌目細やかさ」があり、最初の“杳子”より好きだと感じた。

  • 1970年下半期芥川賞受賞作。選考委員の間で「杳子」と「妻隠」で意見が分かれたまま、決しかねて両作での受賞となった。委員の一人、川端康成はこのことに苦言を呈していた。私は、やはり「杳子」を推す。徹頭徹尾、暗い小説だが他には類を見ない独特のリアリティがあり、読者をも傍観者にはさせておかない迫力に満ちている。作中では「彼」と語られ3人称体ではあるものの、いつしか(あるいは小説の冒頭からすでに)我々は「彼」の視点と思惟にとり込まれることになる。そして、その視点から見る「杳子」に、はたして我々は何をなし得るのか。

  • 神経症の女の子との出会いに吸い込まれるようにしてつきあい始めてしまう「彼」の話。「彼」の内実はほとんど描かれず、作者・読者の代わりの目みたいなところがある。その上「彼」は杳子の状態をいろいろと試すような行動をするので、病気に対するのぞき趣味みたいな感じがしてあんまりいい気持ちはしなかった。頻繁に「女臭い」という言葉が使われるのもいやな感じ。男が勝手に検知した官能性を女のせいにしないでほしいなあ、とか。

    杳子の症状の揺れ動き、「彼」の視線のねちっこさ、最後に視点がぐるりと回転するところは面白かった。

    「妻隠」夫婦あるあるの一種。

  • 不思議ちゃんじゃないか。

  • 読みは〈ヨウコ〉で、「杳として行方が知れない」などの杳、神経を病んだヤンデレ女子大生と山男の関係を描いた作品。

    主題の部分的な誇張は刺画でおなじみの技法で、この精神病も同じ、もし杳子が精神病であるなら、世の女性の大半は神経病み、少なくともそう思いこんでる。一般に女は自分を異常―健常でないことに矜持があって、逆に男は自身を健常だと思ってる。翳のある女性に憧れたことってあるでしょう。
    そのルーツは終盤の対話にでる二人の人生観の違いにあって、少しも変わらない自分自身の反復、もしくは外の世界に応じる部分、どちらが自分にとっての人生か。
    ところで、絶版のため定価320円がama●zonで600円でした。ガッデム

  • 平坦な話の流れの中に、登場人物の心情の変化が事細かに表現されている。

    男女の仲とは脆く危うい面も持ち合わせているものなのだな、と感じた。

  • 万華鏡の世界で互いの輪郭を求めるような儚さ。

  • 表題の2編はそれぞれ独立した別作品。
    ネットですごく良く書かれていたレビューを見たので気になって読んでみたが、
    私には合わなかったようで、最後まで良さがわからず読み終えた。(苦笑)
    70年代の芥川賞作品であることも後から知った。
    詳しい病名は書かれていないが、今で言うメンヘラ?の女子と関係を持つ男子目線のお話と、
    同棲カップルのような若夫婦の夫目線なお話。
    時代背景は56歳の私にとっては入り易かったのだが、それを差し引いたら苦手な部類。
    ただし、比喩的文章は美しいし文章の流れはとてもキレイだと思った。

  • 『ピース又吉がむさぼり読む新潮文庫20冊』からピックアップした一冊。
    閉ざされた世界での男女の恋愛というものは、かくも重くて暗いものなのか。そもそも恋愛とは実は明るいものではないのかもしれない。そんなことを考えながら読み終えたとき、又吉が帯の惹句に書いている「脳が揺れ…めまいを感じ」たという症状にワタシも見舞われた。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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