冤罪 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101247045

感想・レビュー・書評

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  • タイトル作品を含む9編。
    中で「臍曲がり新左」は秀作だなと思いました。
    若い頃から戦場を駆け巡ってきた治部新左衛門は徳川の太平の世に退屈な日々を送っている。
    閑職の今もその気概は衰えず周囲の色に染まらず自分の正義を通す。
    彼はふとした事で難事から救った軟弱に見える隣家の跡取り息子と我が娘の甘ったるく見える付き合いを忌々しい思いで見守りながら、いつしか彼らの心根の優しさ清々しさに触れて軟化する。
    武士らしい謹厳さ、覚悟と娘を想う父親の目が混じり合い、子を思う親の気持ちが味わえる、チョットユーモラスな所もある気持ちの良い読み心地でした。

  • 登場人物皆愛おしくなる。人間臭くて良い。

  • 武家物の9つの短編。

    ようやく明るさが見えて来ました。
    暗く重苦しく始まり、作中でさらに不幸が重なり、エンディングの先はさらに堕ちて行く未来が見える。初期作品がそんなどうしようもなく暗い物語ばかりだったのが、エンディングに先に希望が見える「夜の城」「密夫の顔」や全体に軽く諧謔を感じさせる「証拠人」「臍曲がり新左」「冤罪」などが出てきました。他の人のレビューを見ても「さわやか」とか「ユーモア」なんて言葉が出てきます。
    よく藤沢さんが明るくなるのは『竹光始末』当たりからと言われているのですが、少し早いようです。
    もっとも『竹光始末』と本作は同年出版ですし、各短編の初出日は入り混じっているので、大きな差は無いのですが。

    これまで余りに暗く重すぎて感じ難かったのですが、藤沢さんは基本はエンタメ系の作家さんなのだ再認識しています。とは言え、それを突き詰めて行くことにより昇華し、エンタメの範疇に収まらない別の何かになった作家さんなのですが。

    ========
    余りに繰り返し読んだ挙句、ストーリーが完全に頭に定着してしまい、2009年を最後に再読を封印してきた藤沢さん。
    先日から封印を解き、全作品を出版順に読み返しています。これが7作品目です。

  • 藤沢文学の短編集である。
    相変わらずの情景描写や心情描写がわたしのお気に入りな感じで、ほっとするような、少し(主人公に同情するような)悔しさを感じるような短編だった。
    思いの規模の大きい、小さいはあっても、皆、真剣に思って、悩んでいる。仕事以外でこういった状態になることもまた、幸せなことではなかろうか。

  • 1982(昭和57)年発行、新潮社の新潮文庫。9編。「武家物」だがいわゆる「武士道残酷物語」はない(人によってはあるというかもしれないが)。ハッピーエンドの話もあるし、少し哀れ、ぐらいな話も。一番印象に残るのは『潮田伝五郎置文』かな。最初にラストにつながる場面が描かれて、ラストに残された人の述懐がくる。武士の意地、と言う点では悲惨な話かな。

    収録作:『証拠人』、『唆す』、『潮田伝五郎置文』、『密夫の顔』、『夜の城』、『臍曲がり新左』、『一顆の瓜』、『十四人目の男』、『冤罪』、あとがき:「あとがき」(昭和50年12月)、解説:「解説」武蔵野次郎(昭和57年8月)、この作品は昭和51年1月青樹社より刊行された、

  • 「藤沢周平」の短篇時代小説集『冤罪』を読みました。

    『消えた女―彫師伊之助捕物覚え―』、『漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え―』、『橋ものがたり』に続き、「藤沢周平」作品です。

    -----story-------------
    ひとり娘を残し、切腹した勘定方。
    藩金横領の厳罰の陰に隠された疑惑――。

    部屋住みの若侍「堀源次郎」には、ひそかに心を寄せる娘がいた。
    散歩のたびに目顔で挨拶をかわす、坂下の家の娘である。
    ところがある日、お目あての娘の姿が消え、彼女の父親「相良彦兵衛」が藩金横領の咎で詰め腹を切らされたことが判明した。
    不審に思った「源次郎」は疑惑追及に乗り出すが……。
    表題作をはじめ、『潮田伝五郎置文』 『臍曲がり新左』等、興趣あふれる《武家もの》時代小説全9編。
    -----------------------

    1974年(昭和49年)から1975年(昭和50年)に発表された武家モノの作品9篇から成る短篇集で、1976年(昭和51年)に刊行された作品です、、、

    『橋ものがたり』では市井の人々、町人が主人公でしたが、本作品は侍が主人公… ちょっと苦手かな、と思ったのですが、本作品も人情の機微の描き方が本当に巧くて、夢中になって読んじゃいましたね。

     ■証拠人
     ■唆(そそのか)す
     ■潮田伝五郎置文
     ■密夫の顔
     ■夜の城
     ■臍曲がり新左
     ■一顆の瓜
     ■十四人目の男
     ■冤罪
     ■あとがき
     ■解説 武蔵野次郎


    『証拠人』は、羽州14万石「酒井家」の新規召し抱えの報に参集した「佐分利七内」が、20年以上も前の関ヶ原の合戦での高名の覚書について、裏付けとなる証拠人「島田重太夫」の口書きを求められ、武州忍(おし)藩を訪ねる物語、、、

    「島田重太夫」から、覚書が間違いないという証明をもらえれば、百石は固いと言われたが、訪ねあてた「島田重太夫」は3年前に死去していたことが妻であった農婦「とも」によって知らされる… 高百石の仕官の道は閉ざされるが、浪々の生活の中で体力も衰えていることを痛感し、農婦との生活の中に希望を見出す。

    仕官するという夢は敗れましたが… 別な場所に、別なカタチで幸せはあったんですね、明るい未来を感じさせるエンディングは良いですね。


    『唆す』は、ひっそりと市井に隠棲する煽動者の、隠された喜びが描かれた物語、、、

    「神谷武太夫」は筆作りの内職に没頭している… 7年前の安政六年、「武太夫」は百姓一揆を煽った疑いをもたれ海坂藩を追放されていた。

    その「武太夫」が外出すると、かわら版を売っている「新八」と話をした… 「新八」は勤皇浪人と名乗る半分強盗まがいの連中の話をしてくれた、、、

    その勤皇浪人が世話になっている遠州屋に出没しているらしい… 頼まれて「武太夫」は勤皇浪人とやり合うことになるが、その中で遠州屋に積まれている俵の山を見て、胸の中で何かがムクリと起きあがるのを感じ、同じ裏店に住む住人で生真面目な「弥次郎」を唆し、それが暴動に繋がっていく。

    うーん、ちょっと後味が悪い感じ… 自ら手を下さず、暴動が起きるように唆すなんてなぁ、、、

    共感はできないけど、作品としては巧くできているのかな… 人間の心なんて、結局、本人にしかわかんなりものですからね。


    『潮田伝五郎置文』は、「潮田伝五郎」が「井沢勝弥」を斬り、自決したという場面に始まり、その理由が語られる物語、、、

    「潮田伝五郎」は、「井沢勝弥」とは昔からの因縁があった… 「伝五郎」が10歳、「井沢」が12歳のとき、「井沢」が「伝五郎」の粗末な服を嗤ったために、喧嘩になったことがあり、その時に救いの手をさしのべたのが「広尾七重」だった。

    その頃から、「伝五郎」は「七重」に密かな思いを抱いていた… その後、「七重」は、中老「菱川多門繁」の倅「庫之助」の妻となっていたが、辛卯の大変により藩政改革を進めていた「菱川家」は保守派により襲撃され、その時に「伝五郎」は「七重」を救い出す、、、

    その大変がおさまった後、「七重」が「井沢」と不義をなしていることを知った「伝五郎」は「井沢」へ果し合いを申し込んだのだった… でも、「伝五郎」の真率な感情は、「七重」には全く伝わっておらず、辛卯の大変の際に助けられたことも、偶然と受け取られており、愛する「井沢」に果し合いを申し込んだことは、「七重」側からは理不尽で迷惑な一方的な行為としか受け取られていなかったんですよね。

    哀しい、あまりにも哀しい結末でした… 「伝五郎」に思い切り感情移入して読んじゃいましたね。


    『密夫の顔』は、一年の江戸勤めが終わって帰国した夜、妻から離縁を申し渡された武士の困惑と嫉妬、葛藤を描く物語、、、

    一年の江戸勤めが終わって帰国した夜、妻「房乃」から、いきなり口から突いて出てきたのは離縁して欲しいとの一言だった… 「浅見七郎太」には何のことか解らないでいると、房乃は過ちがあって妊っているという。

    「七郎太」は「房乃」を責め相手を問いつめるが答えない。一体相手は誰なのか? 内情を知り、家に出入りして怪しまれない人物… 「七郎太」は、親しく付き合っていた友人たちに疑念を抱く。

    登城した日、「七郎太」は、親友のひとり「中林豊之助」から話しかけられる… 「豊之助」は、近いうちに上意討が行われ、その討手に「豊之助」と「七郎太」が選ばれていると告げる、、、

    そして上意の日、「豊之助」への疑いを拭い切れない「七郎太」は、「豊之助」を掩護するのが遅れてしまう… 「房乃」が真相を告げなかったことが、「七郎太」を苦しめてしまい、その結果、誤った判断をさせてしまうところでしたね。


    『夜の城』は、記憶喪失の夫と秘密を持つ妻… その真相が明らかになる物語、、、

    御餌指人「守谷蔵太」は五年ほど前に熱病を病んで、以前の記憶を一切失った… だが、山道の柵で遮られている道には、何となく見覚えがあった。

    だが、この柵はいったい何で設けられているのだろうか… 鷹場の日取りが決まると、酒宴が始まる、、、

    その席で「喜代」と名乗る女が「蔵太」に近づいてきた… 組に「石神又五郎」というのはいないかというが、そんな人物は知らない。

    変なことを聞く女だと思っていたが、その後、また不可解なことがあった… 鳥羽屋という古手屋の男が近寄って来て、変なことを聞いてきたのだ、、、

    どうやら記憶を失った以前のことと関係しているらしい… 以前の自分は何をしていたのか。

    真相が判明することにより周囲の日常生活が、突然に全く違った色合いに感じられる、鮮やかな幕切れの作品でしたね… エンディングでの舟の中の会話が、良いですね。


    『臍曲がり新左』は、稀代の臍曲がりで藩中でも憎まれている御旗奉行の「治部新左衛門」を描いたユーモアたっぷりの物語、、、

    「治部新左衛門」は藩中の評判が良くない… それは「新左衛門」が稀代の臍曲がりだからである。

    しかし、役持ちでもあり、抜群の武功を謳われてもいた… ある日、若い武士から斬り合いが始まったので来て欲しいと言われ、「新左衛門」が駆けつけると、そこには隣家の総領「犬飼平四郎」が立ち向かっていた。

    この「平四郎」を「新左衛門」は苦々しく思っていた… というのも、娘の「葭江」と親しく口をきくからなのである、、、

    「平四郎」が立合っているのは側用人「篠井右京」の息子「主馬」である… なんでまたこの様なことになったのかを聞き、「新左衛門」は38年前の釜山での出来事が思い起こされてきて、腹が立ってきた。

    「新左衛門」の真っすぐな性格、「篠井右京」への38年越しの復讐… そして、娘「葭江」と「平四郎」の恋の行方、、、

    スッキリする展開でしたね… 「新左衛門」が闇に包まれた庭で不意に相好を崩すエンディングが大好きです。


    『一顆の瓜』は、夫婦喧嘩と政変という一見無関係と思われる事象を巧く絡めて描いた物語、、、

    「島田半九郎」は夫婦喧嘩中、同じく夫婦喧嘩をしている「久坂甚内」と酒を飲み別れたあと、中老「本多相模」の屋敷近くで人が争っている場面に遭遇する… 襲われているのは女であったことから、「半九郎」はその女を助けた。

    女は傷を負っていたことから、家に連れて帰り介抱していると、女が油紙に包まれた書付けを所持しているのに気が付いた… 襲った相手はこの油紙を奪おうとしていたのだ、、、

    「半九郎」は、その内容を見てしまうが、その内容はよくはわからないものの殿からの手紙であった… 藩中で、一体何が起ころうとしているのか。

    これがきっかけで、「半九郎」は、いつの間にか政変の中に巻き込まれていく… 「本多相模」に力を貸すことになった「半九郎」は、「甚内」にも協力を仰ぎ、無事に役割を果たす。

    政変に巻き込まれている間、夫婦の間に喧嘩はなかったが、日常生活に戻ると再び夫婦喧嘩が… そして、力を貸した礼は表題のとおり、というオチでした。


    『十四人目の男』は、幕末の動乱期、藩の方針が勤王か佐幕かの間で揺れ動く中、「徳川家」への忠心を命を懸けて守った侍の物語、、、

    二度嫁に行って、いずれも夫と死に別れ二度戻ってきていた、ひとつ年上の叔母「佐知」に「藤堂帯刀」との縁談が舞い込んできた… 縁談には乗り気になれな「佐知」を、甥の「神保小一郎」は力づけた。

    藩を揺るがした事件が起きたのは三年後のことだった… 十三名の家臣及びその家族が突如斬罪の処分を受けたのだ、、、

    その中に「藤堂帯刀」もおり、当然嫁いだ「佐知」も斬られることになった… この事件に関することは何もわからなかったが、ある日その糸口が見えるようなことを聞いた。

    一体真相は何だったのか… 固い絆で結ばれた十四人の侍、それは大坂夏の陣での活躍により、「徳川家康」から感状を受けた粟野の家臣十四家の末裔で、「「徳川家」への裏切りは藩主だとしても誅してよい」との命を守るため代々の付き合いを続けていたのだ、、、

    そして、最後に残った十四人目の男「八木沢兵馬」は命を賭して勤皇派の動きを妨害しようとする… うーん、薄幸の叔母「佐知」もそうですが、哀しい運命でしたね。


    『冤罪』は、武家の次男坊「堀源治郎」が、気になっていた娘の父親が切腹した事件に違和感を感じ、事件の真相を探る物語、、、

    「堀源治郎」がいつものように坂の上に出て下を見下ろすと、目当ての娘の姿がなく拍子抜けしてしまった… 坂を下りていくと、娘の家の戸が斜め十文字に木材で釘付けされており、異変があったことに気付いく。

    娘は「明乃」といった… その「明乃」の父「相良彦兵衛」というのが藩の金を横領したことが露見して城中で切腹させられたというのだ、、、

    その後、「源次郎」が色々聞きこみをして「明乃」の行方を探していると、だんだんと意外な真実がわかり始めてきた… 「源次郎」の冤罪は明らかとなったものの、兄夫婦の生活を破壊することになってはいけないと考えた「堀源治郎」は、暴露を思い留まる。

    そして、「堀源治郎」は、武士の身分を捨て、百姓の養女となっていた「明乃」の婿になることを決意する… 勧善懲悪のエンディングではなかったですね、、、

    家族を守るため、そして、自分の新しい生活を築くためとはいえ、スッキリ感に欠ける作品でしたね。


    それぞれ味わいのある9篇でしたが、、、

    その中でも印象に残ったのは、『証拠人』、『唆す』、『潮田伝五郎置文』、『臍曲がり新左』かな… 特に『臍曲がり新左』は大好きな作品ですね。

  • 短編とは思えない、読み応えのある短編集。
    じっくり一冊も良いが、短編もなかなかです。

  • 武家物の時代小説の短編集。武士が主人公であるが、体制側の人間ばかりではない。「唆す」は百姓一揆や打ちこわしをアジテートする武士の物語である。時代小説で反体制の人物を描くことは興味深い。

    以下は成程と思った描写である。「一度保証された平安を捨てる気になりさえすれば己を縛っていたものを捨てることに何のためらいも持たないどころか、かなり徹底した裸になることも厭わない」(60頁)。頑張ったり我慢したりして何とか穏便に済ませようという発想にはならない。その心理を表現している。

    藩庁では退勤時の飲みニケーション禁止を通達したが、守られていないという描写がある。「城を下がる途中で、酒亭や茶屋に立ち寄るのは品が悪いということで、一時は上の方から厳しい達しがあったが、こういうことはいつの間にかうやむやになる」(278頁)。

    コロナ禍の緊急事態宣言にもかかわらず、公務員が宴会することに重なる。埼玉県警パワハラ警察官は「まん延防止等重点措置」下で会合自粛が求められた2021年5月12日、さいたま市大宮区の居酒屋に部下の男性警察官を呼び出し、暴行した容疑で書類送検された。

  •  藤沢周平「冤罪」、1982.9発行、9話。重い話が多く、そして必ずしもハッピーエンドといえない話が多く、私には苦手な作品ですが、次の4話は印象に残りました。第4話「密夫の顔」、第6話「臍曲がり新左」、第7話「一顆(いっか)の瓜」、第9話「冤罪」。
     藤沢周平「冤罪」、1982.9発行、再読。9話が収録されています。武家の妻房乃の過ちを描いた「密夫の顔」と冤罪の父の娘秋乃を思いやる武士源次郎を描いた「冤罪」、読み応え十分でした。

  • 2021/1/5 読了
     武家ものの短編集、お定まりの権力闘争や下級武士の悲哀があり、悲劇、喜劇、様々なラストで描かれる。表題作のラストは好いた娘と裕福な百姓になるという、ホッとするラスト。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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