八月十五日の夜会 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101251431

感想・レビュー・書評

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  • 「蓮見圭一」の長篇小説『八月十五日の夜会』を読みました。

    「城山三郎」の著作『指揮官たちの特攻 ―幸福は花びらのごとく― 』に続き太平洋戦争をテーマとした作品… 「蓮見圭一」作品は初読です。

    -----story-------------
    その声は語り始めた。
    誰も知らなかった戦争の記録を。
    ベストセラー『水曜の朝、午前三時』の著者が描く、人間ドラマの新境地!

    祖父が死んだ。
    あの戦争を「生き延びたせいで見なくていいものをたくさん見た」と語っていた元二等兵の遺灰を故郷の海へ還すため、孫の「秀二」は沖縄を訪れる。
    そこで手にしたのは、古びた四本のカセットテープ。
    長い時を超え、その声は語り始める。
    かつて南の島に葬られた、壮絶な個人的体験を──。
    一発の砲弾も撃ち込まれなかった「平穏な」伊是名島で、何が起きたのか。
    真夏の闇、敗残兵の影、島民のスパイ疑惑、無惨な死。
    「秘められた戦争」に迫り、生への渇望と戦争の暗部を描く、力作長編。
    -----------------------

    偶然なのですが、、、

    本作品は、奇しくも終戦記念日でタイトルにもなっている八月十五日に読み始めました。


    主人公の「東江(あがりえ)秀二」は大学生、、、

    祖父の死をきっかけに、沖縄戦における、ひとつの真実… 沖縄本島の北にある直径4キロメートルの小島・伊是名島(いぜなじま)で起きた壮絶な出来事を知ることになります。

    本作の大半は、戦中の伊是名島で「秀二」の祖父と親交のあった「前島」老人(元少尉)の証言(カセットテープ4巻の再生)により構成されており、他のエリアから情報が断絶した島で起こった狂気が、淡々と綴られています。

    戦争さえなければ、何もなくて豊かな島であったその場所に、教師に扮した陸軍情報員、整備不調で不時着した海軍特攻隊員、沖縄本島から逃亡してきた重砲隊の敗残兵たちが偶然に集ったことにより、いわゆる集団対集団の戦闘ではなく、戦闘とは呼べないような陰湿な事件が連続して発生します、、、

    ・島民をスパイ呼ばわりしてリンチしたり、

    ・舟や食料を隠していた島民を殺害したり、

    ・不時着した未抵抗の米軍パイロットを殺害したり、

    ・終戦直後に伊平屋島から訪ねてきた米兵を殺害したり、

    ・日本軍の敗残兵が仲間割れにより、同士を殺害したり、

    と、激戦地ではない土地においても起き得る、戦争という極限状態が生んだ陰惨な事件がリアルに描かれている物語でしたね。


    実際に似たような事件は起きていたんだと思います。

    生きるか死ぬか、殺すか殺されるか… そんな状況下に置かれると、人間性が失われていくんでしょうね。


    戦争のこと… 心の中には、知りたくないという気持ちもあるのですが、、、

    やはり、目を背けちゃいけない、知っておかなきゃいけないことなんだと思います。

  • 一人の男が死んだ。戦争を生き延びたせいで見なくてもいいものをたくさん見たと語った男。孫の秀二は祖父の遺灰を故郷沖縄の海へと還すため、沖縄へと向かう。そこで手にした古いカセットテープ。そこには南の島に葬り去られた凄絶な体験があった・・・

    戦争最末期の沖縄。「野火」のレイテ島では兵士たちが戦わずして餓死し、「指の骨」では南洋の島の野戦病院で兵士たちが朽ち果てていたその頃。ここにもまた、違った形の戦争があった。
    秀二の祖父の戦友で、テープの語り手である前島元中尉が情報員として配属された伊是名島は、一見平和な漁師の島。そこに本土から敗残兵が逃げてきたことから、逃げ場のない殺戮の島となっていく。
    敵は米軍だけではない。敗残兵の暴挙、島民のスパイ疑惑、疑心暗鬼の中もたらされる無意味な死。彼らもまた、敵と戦わずして命を落としていく。

    現在の若者が、テープを手に入れ過去の出来事を知るという「水曜の朝、午前三時」と同じ手法でありながら、美しい文章で叙情的な物語を紡ぐ蓮見圭一さんの作品とは思えない、壮絶な物語に鳥肌が立ち、胸が塞がれる思い。

    沖縄から東京へ帰って来た秀二が遭遇した人身事故。
    「あくびが出るくらい、退屈で、平和な世の中じゃないですか。何があったって殺されるわけでも、とって食われるわけでもない。それなのに、毎年自殺する人が三万人もいる。テープを聞いたせいかな、やっぱり不思議です。」という秀二に前島元中尉が言う、あの時代は「みんな生き延びるのに必死で、死ぬことを考えている余裕がなかった。」と。

    祖父が沖縄で生き延びていなければ秀二は存在すらしていなかった。秀二がテープを聞くという形をとったことで、今を生きる私たちは過去から命を繋がれ今ここにあるということに自然と思いが巡り、幼い頃に見た、今は亡き祖父の錆びた鉄兜を思い出した。

  • 蓮見圭一2冊目。また残されたテープを聞くってスタイルなんだけど、前に読んだのとはガラッと変わって沖縄戦記物。と言っても誰も知らなかった沖縄の島での出来事を掘り起こす内容で、それだけでも十分な読み応えがあった。ラストに現代に引き戻される必要あるのかな?と思ったけど、それがなんか独特の読後感を与えてくるのは確か。面白かった。

  • P335
    第二次大戦が巻きお越した悲惨な裏側。
    同民族の無意味な殺戮。

  • あの戦争の最中、沖縄で何が起こっていたのか、戦うべき相手を間違っているのではないか。悲劇という一言では済まされない。

  • 沖縄戦の話です。

    どこまで実話に基づいているのかはわかりませんが、正直読み進めるのが苦痛でした。

    キツかった…。
    あぁでもこれが、実際に起こっていた事なのですね。

    淡々口調で語られているので、何だか感覚がおかしくなってしまいそうでした。

  • 「百人の兵隊がいたら、百通りの戦争体験があって百通りの戦争観が生まれる。どれ一つとして同じものはない。」
    祖父が亡くなって、遺灰を祖父の故郷に還すため、沖縄へ旅立った大学生の秀二。そこで、祖父の友人であった男の娘からカセットテープを託される。そのカセットテープには、戦争体験を語る前島という男性と、インタビュアーの当間の声が録音されていた。そこから物語は、戦時中の沖縄へ。実際に体験した、前島の戦争体験がリアルに残酷に語られていく。

    両親の祖父母、少なくとも4人からそれぞれの戦争体験を聞く機会があったわけだ。すでに亡くなってしまった場合はしかたないけれども。私は父方の祖父から少しだけ戦争の話を聞いたことがある。小学生だったので、あまり覚えていない。両親は、戦争を体験していないし、結局は「私らが小さかった頃は食べるもんが全然なかったんやで」という話で終わる。これは何度も聞き飽きた話だ。
    私は沖縄に親戚も知人もいないので、この作品に綴られている「沖縄の戦争」には知らなかったことが数多くあった。何の罪もない奄美の少年が殺されなければいけなかったのか、年寄りや病人までが無駄に命を奪われ、多くの人たちが犠牲になった戦争。
    その中で、日常に戻った秀二が乗った山手線で、自殺者による人身事故に遭遇するシーンがある。戦争体験を多く聞いた後だからこそ、今の平和な時代に命を粗末にする人に不思議な感覚を抱く。
    両親や祖父母が亡くなってしまっても、戦争の話を聞くことはできる。こうして本としての作品をいくつも知ることが出来る。知ろうと思うかどうかは、本人次第なのだ。

  • この物語も残された古いカセットテープに録音されていたものを聞く物語。戦後に生まれた作者がこの物語を紡ぐ意味を考えたいと思った。ひとつの出来事・事件をとっても、個々人によって、その意味、体験は違う。大きな物語になったときに、こぼれ落ちてしまう個々人の体験。それをどうすくえばいいのだろうか。

  • 重かった・・・
    後半の、特に最後に残された若者たちが徴兵されたあたりから小さい島の人間関係の中での憎しみや利害関係、そして〝よそ者”へのい不信感や憎悪。
    暴行や銃での殺戮の描写よりも、”よそ者”からみた島民の不信感へ恐怖などが怖かった。殺戮の描写は読み飛ばすことができるけど、気持ちの部分はそうもいかなくて重かった。
    おそらく、ほとんどが事実なんだと思う。だからこそ重くてつらい。これが戦争、そして沖縄なんだと思う。

  • 最初は淡々と読み進んでいたのだけど、
    戦争末期の時代の話で、場所も沖縄の伊是名島に移ってからは
    残酷さと異常な固執、身勝手、世情への疎さでつらくなってしまった
    あの時代のことを、きれいごとで済ませたいと思っている訳ではない
    でも、つら過ぎる・・・殺すことが殺されることが通常な日々
    そんなんで、文章は読みやすいのだけど、
    読むのにとても時間がかかりました
    もう少し時がたったら、もう1度読み直そうと思うかな
    しんどいお話でした

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著者プロフィール

1959年、秋田市生まれ。立教大学卒業後、新聞社、出版社に勤務。2001年に刊行したデビュー作『水曜の朝、午前三時』が各紙誌で絶賛されベストセラーになる。他の著書に『八月十五日の夜会』などがある。

「2023年 『美しき人生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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