息子と狩猟に (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253220

作品紹介・あらすじ

小学生の息子を連れて鹿を追う週末ハンターの倉内と、トラブルで死体を抱えた詐欺集団のリーダー加藤。獲物を狙う狩猟者と死体遺棄を図る犯罪者が山中で出くわしてしまった──。息もつかせぬ展開と圧倒的リアリティに痺れる表題作。世界最難関の雪山で飢えと寒さに蝕まれていく極限の状況下、人の倫理観の矛盾を鋭く問う短編「K2」。サバイバル登山家が実体験を基に描く唯一無二の犯罪小説。

感想・レビュー・書評

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  • 服部文祥『息子と狩猟に』新潮文庫。

    サバイバル登山家による犯罪小説。『息子と狩猟に』と『K2』の2編を収録。

    『息子と狩猟に』。従来の犯罪小説とは一線を画した不思議な味わいの短編。小学生の息子を連れて狩猟のために山に入った倉内は、死体遺棄のために山に入って来た特殊詐欺グループと遭遇する。殺す者と殺される者……不思議な味わいの原因は善人と悪人の立場が入れ替わっているためか。

    『K2』。K2に登頂し、下山中に遭難した二人の登山家。生きるために二人が選んだのは……現代の『ひかりごけ』或いは『野火』……しかし、所詮は二番煎じとしか思えなかった。

    本体価格520円
    ★★★

  • 狩猟と山岳、ふたつの異なる極限状態で人間が何を選択するかを問い、哲学的な思考実験の様相をも呈する、表題と「K2」の二篇。作品内で扱われる詐欺犯罪、狩猟、山岳のそれぞれに対する情報が詳細で、リアリティによって作品の世界に引き込まれる。厳しいテーマとともに現実的かつドライな作風で、感傷的な要素は希薄。二作を通じて、女性が登場しないことも特徴。サバイバル登山家が書いたという事実に関係なく、小説作品として楽しめた。

    「息子と狩猟に」136ページ

    テレアポ詐欺チームのリーダー加藤。普段は新聞社に勤務し、休日に初めて息子を連れて狩猟に出掛けた倉内。物語は二人の視点を交互に細かく切り替えながら進行する。長くない紙数のなかで犯罪小説と狩猟文学のふたつを混在させた作品。オレオレ詐欺と息子との休日の狩猟という、いかにもミスマッチな二つの物語が、奥秩父山中に向かって徐々に接近する。息を呑んで、二つの線が交錯する瞬間を見守る。

    「K2」63ページ

    世界で最も難易度の高い山のひとつで、死亡率三割前後とされるK2の頂上を目指す、日本人五人の登攀チームの様子を描いた山岳小説。登頂のさなかには二週間ほど前に帰ってこなかった情報のあるイタリア人男性らしき遺体も目撃される。主人公はチーム最年少のタカシ。天候不順による厳しい状況で登攀は困難を極め、五人はそれぞれ生死を賭けた決断を迫られる。

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    「秘密は自分の口からバレる。しゃべらなければ絶対にわからない」
    「ケモノは人間が思うほどバカじゃない。人間は自分で思っているほど利口じゃない」

  • オープニングのおれおれ詐欺のシーンが何となく好みに合わなくて、ちょっと寝かそうかと思ったけど山に入ってからの展開は凄かった!
    心臓バクバクし過ぎて、本文入ってこなくなって、何度も読み直しながら読んだ。こんなに心拍数あがるのはマイケル・コルレオーネがソロッツォとルイズで会うシーンを観る時くらいだよ!!
    狩猟やる友達に読ませて話聞きたい。

    K2
    こっちもすごい。運命を分けたザイル的な話かと思ったら予想外の角度から殴られた。統計通り3割3分の結果がそこにあって良かったのか悪かったのか。勿論良かったんだろう。。。

  • 命について考えさせられる

  • 人間と動物、同じ1つの命なのに価値や重さに違いがあるんだろうか。人間は殺してはいけないけど動物は許可があれば殺しても良い。その違いって、何だろう。倫理的に当たり前のことかもしれないけど、正面から向き合って考えたら明確にその理由や根拠を言語化するのって簡単ではない。人間社会で生活していたら疑問にも思わないことを自然の世界の中で生きる時間を持つ筆者が突き付けてくる感じ。ハラハラする展開にスリルを味わいつつ、読後にズッシリと考えさせられた。

  • これは良作。ざわついて仕方ない。生を突きつけてくる。面白かった。

  • 詐欺と狩猟のシンクロニシティをテーマにしたタイトル作と、エベレストに次ぐ標高を誇るK2登頂にまつわる恐ろしい秘密を題材にした小説を収納する著作。いずれも著者ならではのリアリティ溢れる文体で極限時における人間の心理状況を見事に炙り出した佳作。

  • 父親の葛藤と後半の場の空気の緊迫感が良かった。また、死生観について考えさせられる興味深い内容だった。

    また、同じく収録されていた「K 2」は、生き延びるためにあらゆる手段を尽くす2人のとった行動に驚いた。

    どちらの作品も後半の展開が面白かった。

  • 著者初のフィクションは意外にもポップで嬉しい誤算!

    服部文祥さんを有名にしたといえる、サバイバル登山関連のノンフィクションは以前に読んでいましたが、この『息子と狩猟に』は服部さん初の小説とのこと。死生観が伝わるようなノンフィクションさながらの作風なのかなと思ったのですが、意外や意外しっかりエンタメしていて(エンタメを軽視している訳ではないです)素直に面白いと思える読後感でした。もちろんそういった死生観や、命を奪う行為について考えさせられるものではありましたが、けして重厚な手触りではありません。

    特殊詐欺グループのリーダーと、週末狩猟をする男とその小学生の息子。全く別々の人生が、ある一点に向けてじわじわと近づいていき、二つの視点の入れ替わりがだんだん早くなり、ついに交差した瞬間に物語はクライマックスを迎えます。読み始めから、並走する二筋のストーリーがいつどこで交差するかワクワクさせてくれました。

    むしろ併載の短編「K2」のほうが、読む前に私がイメージした作風に近いけれど、それでも予想以上にしっかり盛り上がりのある展開や構造で、小説として楽しめるものでした。

    登山家というイメージもあり、俗っぽさを遠ざけ、やや難しく重たい作風なのかなと思ったけど、まさかここまでポップだったなんて嬉しい誤算でした。

  • 著者はサバイバル登山家とのこと。臨場感が半端ない。中編が2つ、どちらも生きることに直結した話だった。

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著者プロフィール

登山家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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