- Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101256818
作品紹介・あらすじ
子供たちしか知らない秘密。岬の崖の下には石造りの家があって、それは魔法使いの「おもいで質屋」だった。想い出を担保にお金を貸してくれるという。でも二十歳までに取り戻さないと想い出は返ってこない。中学生になって魔法使いと出会った里華は、すっかり仲良しになり、共に青春の季節を駆け抜けてゆく。やがて二十歳を迎えた時……。きらきらと胸を打つ、あの頃が蘇る魔法のストーリー。
感想・レビュー・書評
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再読。
「おもいで」と「記憶」の違い。
<お母さんのオムライスがおいしい、っていうのは単なる事実で、めったにオムライスを作ってくれないお母さんが、二年ぶりに作ってくれて、すっごくおいしくてうれしかったっていうなら、想い出になる>
「おもいで」って普段何気なく口にする単語ですが、意識して考えてみると、その実態は複雑で、自分はそれをどう扱っていけばいいのか、だんだんわからなくなってきた。
何度も反芻したい楽しかった事、嬉しかったこと…二度と見たくない事、味わいたくない事。
良いもの悪いもの、誰にでもある「感情を伴う記憶」。
それを選別して都合の悪い事だけを質に入れて、お金を得られるなら…ラクに生きられるんだろうなぁ。
でも、20歳になったら質に入れた想い出は二度と取り返せない…だとしたら、昔の私だったらどうしたんだろう。今、私が10代に戻れるのならどうしたいんだろう。
質に入れてしまうのか…入れたとして20歳までに取り戻すのだろうか。
迷う。何度シミュレーションしても答えが出ない。
すごく泣いたあの時の事、辛くて食事が出来なくなって病気にまでなったあの時の事、次々に過去の嫌な想い出が蘇ってきても、今の私はとりあえず生きているし、雨風しのげる部屋に住んでいられて、豪華ではないけれど食べるものがある。
不満や不安はあるけれど、それなりに生活ができている。過去の嫌な想い出をこうして想い出してみても、あぁ…あの時は辛かったなぁ、と冷静に見ることが出来ている。もちろん腹が立ったとか、苦しかったとか、そういう感情も蘇るけれど、でも何とかやり過ごすことが出来ている。
そういう想い出があるから、今の平凡で質素な毎日がありがたいのだと思えるのだと理屈ではそう思うけれど、やっぱり辛い想い出は振り返らなくていいのなら、そうしていたい。嬉しい想い出は何度も反芻したい。
勝手なものだ。
そうやって逡巡しているうちに時間がたって、うまく想い出と付き合っていけているのも事実で。
やっぱり、その実態のないふわふわした感情の記憶は必要なものなのか…。
大人になってからの苦い想い出は、質に入れられるものならそうしたい。そして二度と取り戻さない…かも。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おもいで質屋。
それは、想い出を担保にお金を借りられるところ。
ただし、20歳までに取り戻さないと想い出は返ってこないというところ。
誰しも嫌な想い出って1つか2つ、もしかしたらもっとたくさんあったりしますよね。
もちろん私自身もたくさんあります。
忘れたくても忘れられないこと。
それはきっと、他の人から見たら小さいことで、既に忘れられていることなのかもしれないですけど。
自分にとっては忘れられないこと。
そんな嫌な想い出を預けて(忘れて)お金を借りられる。
そんな嬉しいことはないって思うのが普通かもしれません。
だけど、良いことも悪いことも想い出で、それらがあって今がある。
それらがあって、今の自分の形が成り立ってる。
そういった色々なことを考えさせられる素敵な物語でした。 -
子供たちだけが知っている魔法使い。
「おもいで」を質に入れると、その「おもいで」は頭の中から消えてしまう。
さくさくと読めるやわらかいお話。
でも、クライマックスはちょっと切ない。
魔法使いが出来ることと出来ないこと。
その矛盾の中で時折見せる表情が良かった。-
2014/05/01
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子供たちしか知らない秘密。岬の崖の下には石造りの家があって、それは魔法使いの「おもいで質屋」だった。想い出を担保にお金を貸してくれるという。でも二十歳までに取り戻さないと想い出は返ってこない。中学生になって魔法使いと出会った里華は、すっかり仲良しになり、共に青春の季節を駆け抜けてゆく。やがて二十歳を迎えた時……。きらきらと胸を打つ、あの頃が蘇る魔法のストーリー。
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吉野万理子 著「想い出あずかります」、2011.5発行。「想い出」とは何かを子供たちに教えてくれる不思議な魔法使いさんの話です。「想い出」をテーマに、魔法使いさんの言葉を介して、好き・嫌い、面白い・つまらないなどの人間の感情の機微と人を愛することの大切さを説いた物語だと思います。とてもいい作品でした!読みながら、自らを省みて、考え・思うことの多い作品でした。
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ここのところ、ティーン向け(と思われる)作品が続いております。
が、良いじゃないか好きなんだから。
良い作品というものは、性差も年齢も関係ないのだ!
まあ、精神年齢が低いだけ、というのもあるかと思います。
この作品も、好きな感じの作品でした。
「魔法使い」が良いんですよねー。主人公もいい。
きっとこうなるかな、と思いながら読んでいて、ああやっぱり、と。
けれど、そこでちゃんと選ぶべき方向を選んでくれたのが本当に嬉しかった。
何を言っているか分からない?
きっと、本作を読めば分かると思います。ああ、なるほど、と。
ちょっと話が逸れるけど、いわゆる「イヤミス」的なものが苦手です。
というか、読後感が悪い作品は、だいたい好きじゃありません。
そういう作品が好きな人を否定する気はありません。
けれど、せめて物語くらい、幸福な世界であって欲しいのですよ。
ハッピーエンドである必要はないけれど、すっきりと終わって欲しい。
すべての謎が解決されなくても良いけど、ちゃんと「終わって」欲しい。
「イヤミス」を読んだことがないので、認識が違っているかもですが。。。
ということで、本作品。
ちゃんと「終わって」くれます。すっきりとした読後感です。
そして、なんとも幸福な気持ちに満たされました。
「別れ」をきちんと書ける作家さん、好きだなあ、と思いました。
あともう一つ。
彼、初めはちょっと、お、と思いました。
けど、そのあとの軽薄さというか、ああ男子高校生、って流れがお見事。
ちょっと自分の「若さ」を思い出して、ふえーってなったりしました。
いま、ぱらぱらとめくって、気が付いたこと。
会話のセンスが抜群なんですね。だからリーダビリティが良いんだな。
物語の進むテンポも、場面転換も、そういうタイミングも上手い。
こう、すっ、すっ、と差し込まれてくるタイミングがいい。
それはきっと、「話し上手」な人との会話に近いのかなと思います。
本当に素敵な作品でした。 -
魔法使いの設定があんまり上手に物語をつくりだす装置としていまいちだった。