その姿の消し方 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294773

作品紹介・あらすじ

引き揚げられた木箱の夢 想は千尋の底海の底蒼と 闇の交わる蔀。……留学生時代、手に入れた古い絵はがき。消印は1938年、差出人の名はアンドレ・L。古ぼけた建物と四輪馬車を写す奇妙な写真の裏には、矩形に置かれた流麗な詩が書かれていた。いくつもの想像を掻き立てられ、私は再び彼地を訪れるが……。記憶と偶然が描き出す「詩人」の肖像。野間文芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 例えば、P.21の最後の2行のような表現に感服して最後まで楽しめました。
    久しぶりの堀江敏幸作品、衝動買いして良かった。

  • 出逢いは、不思議でいとおしい。幾千の波に洗われた硝子の欠片の滑らかな表面を、唇でなぞるような旅。

  • 文芸作品を読み、源流を辿っていくことの楽しさと、それに伴う切なさを、中編小説として表現したような物語。

  • 読了日 2022/06/11

    N会文学部フィールドワーク、「ジュンク堂を巡る会」にて、へい君より回ってきた本。
    古物市で手に入れた古い絵葉書とそこに記された矩形(くけい)の詩に魅せられて、その著者アンドレ・Lを追いかける連作短篇集。
    解説に「堀江敏幸は、急がない男である。」(P206)とあるように、主人公「私」が何年も何十年もその詩とアンドレを追いかける様子が、丁寧、丁寧、丁寧に描かれる。

    「私」についてはほとんど詳しく語られず、アンドレを追いかける語り手としてある。が、時と場所でアンドレの詩を幾重にも読んでいくその言葉遣いはとても独特で、なんだろう、輪郭のない水彩画のような男だと思った。
    とても興味深い本だったので、何度が読むと思う。出会えてよかった。

  • 留学生時代にフランスで手に入れた古い絵葉書。その裏にはアンドレ・ルーシェという人物から女性に宛てて、短い詩が書きつけられていた。十年以上の時を経て再びフランスを訪れた「私」は、ルーシェが書いた別の葉書を探しだし、この謎の詩人の消息を辿ることにする。


    最近探し物をする小説ばかり読んでいる気がする。それはもしかすると、小説とは何かという問いの答えになりうるのかもしれない。文字を追い、そのなかでしか見つけられないものを探しだそうとすること。本を閉じたとき、"探す"という体験こそが見つけるべき探し物だったとわかること。
    まぁこんな風に、堀江さんの文章を読むとそのリズムにすっかり引っ張られる。真似というには拙すぎるが、堀江さん独特の柔らかいアフォリズムがグルーヴとなって体内に残るのだ。ルーシェを追うという旅の目的がだんだんと周縁へ追いやられ、旅程で出会った人びととの交流がにぎやかに豊かさを増していくさまは、堀江敏幸の小説を読むという快楽をそのまま小説というかたちに閉じ込めたかのようだ。
    ルーシェの詩は創作なんだろうけど、日本語で読むぶんには北園克衛のようなコンクリート・ポエトリーを思わせる。詩に表れる独特の色彩感覚が父と息子のあいだで共有されていたのかもしれない、とほのめかされる終盤の展開が美しい。
    それから、食べる姿の美味しそうな様子! 粗雑そうに見えた古道具屋のおじさんがフォークにくるくると器用に巻きつけて食べるシュークルートに始まって、アフリカからの移民一家と親しくなるきっかけになったクスクス、蚤の市のおばあさんが無表情で口に運んでいるヨーグルト、老夫妻の家で食べすぎて笑われたヌガーまで、まるでフェルメールの絵にでてくる細かな光の粒子を纏った食べ物みたいに思える。酔っ払った気分を「ふんわりしていた」と言ったり、みみずを「もっちり」と書くセンスも好き。

  • 面白すぎる

  • 面白語った。
    この繊細な文章に対して
    面白いという言葉は違和感かもしれないけれど
    前半と後半の違いや
    (後半では何度も笑顔になりました)
    ストーリー中心から離れた人々の心の内が
    息遣いまで聞こえてきそうなほどの距離で描かれていて
    一気に読み終わりました。
    是非に、他の作品も読んでみたいと思います。

  • 古物市で手にした古い絵葉書の中に差出人によると思われる詩。どのような人物がどのような人物に宛てた詩なのか、書かれたフランス西南部で私は人々の記憶を辿り古い時間を紡ぎ始める…

    息の長い丁寧な文章に、読み手の僕も一緒に思索に耽る時間を過ごせた。

  • 良かった。文章を何度も、年月かけて味わうことの楽しみと豊かさを知ってる人に勧めたい。「じわじわ文章のいろんな意味がわかって自分の内面が変わっていく感じ」のゾクゾク感が言語化されてるって感じ…あと文章がめちゃ端正。

  • 静謐だけど饒舌な本
    一篇の詩から探求していくのはリチャード・パワーズの『舞踏会に向かう三人の農夫』を思い出す

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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