ばかもの (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101304533

感想・レビュー・書評

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  •  主人公ヒデの言葉通り、人の人生は「容易じゃねえなあ」というのが一番の感想。儘ならないことばっかりで、人を傷つけ人に傷つき、それでも存在し続けなければならない過酷さ。だけど、そんな日々の中で何かを失った経験をした後のヒデと額子は、きっとお互いを思いやって大事にし合えるのだと思えるラストはとても温かかった。

  • 自分にとって無理のない文章でするする読めた。主人公は男性だけれど、出会う女性陣より感情移入できた。男性が読んだらどんな感想になるのだろう。良くも悪くも、人生は流れと意思の混ざり合い、意図しないところがいい場所にもなるのかなと思う。

  • 絲山秋子の作品は6冊目になるが、多彩な世界を描く多才な作家という印象だ。主人公のヒデは、これという原因や理由も見いだせないままに(しいていえば、額子に捨てられたのが原因か)、泥沼のようなアルコール依存症に陥っていく。小説が東京を舞台に描かれていたならば、彼は立ち直れないままだっただろう。ところが、まだ濃密に地縁や血縁の生きる高崎であったことが彼を救っている。しかも、そこにさえ居づらくなった先には片品という、さらなるアジールが用意されていた。ただ、分らないのは、この小説が「想像上の人物」を必要としたことだ。

  • ダメダメでボロボロでどうしようもない男の話なのに、やっぱり最後はかすかだけれど確かに明るい未来の予感が感じられる。こういう書き方は本当に絲山さん以外にはできないと思う。

    YESのアルバムや吹割の滝など、自分にとって思い入れのあるものが出てきたことでひどく感情移入してしまった。

  • 自分を駆り立てるものを自分の中にも外にも見つけられない。そのことを自覚することの痛み。

    主人公である「ヒデ」と、一見ヒデをコントロールしているかのようにみえる「額子」もともにそんな痛みにさらされボロボロになっていくが、最低限の生活は保障されている。
    生活が保障されているからボロボロになってもその状況に甘んじていられるともいえる。
    が、むしろそのために自分が何かに打ち込む理由を外に見出すことがより困難になっているように思える。

    「ヒデ」と「額子」の苦しみが心にのしかかり、読んでいてつらくなることもあった。
    しかし結末に近づくにつれ、そうやって苦しんでいるのは一人ではない。苦しみを抱えた者同士が寄り添い、許しあうことで新たな人生が開かれていくのではないかと感じられた。
    劇的なことを求めなくても、愛おしく感じられる人であったり仕事であったり、何かひとつでもそういうものを持ち、守ることができれば幸せな人生といえるのではないかと思った。

  •  結局、他人の心の内は分からないが、誰かに想われている、信じられていると感じることだけが人を救うのだと思う。そして、それを知るには長く迂回をする必要がある。ネユキが理解し得ない宗教という壁の向こうから、ヒデを祈るように。額子が、別れ際にヒデに残酷な仕打ちをしながら、後にはアル中になったヒデを髪が白くなるほど心配したように。

     みんな生きながら何かを失っていく。そして失ってしまったことに耐えられず、幻を作り出す。時には安定を求めた現実自体に裏切られて。だが、誰もが、行き場はないことに耐えなければいけない。街の子宮はえぐり取られている。ヒデは酒に手を出し、ネユキは宗教にすがった。ヒデは友人を、額子は腕を失った。だが、額子は片腕でなんでもできるようになった。ヒデは、おばやんや額子に支えられてなんとか生きている。

     ヒデを酒へと駆り立てた「行き場のない想い」とは、失うことへの不安だろうか。現在を生きることが、他の可能性の放棄であり、それ自体小さな死の経験である。それとも、もう失ってしまって取り返しがつかないという絶望だろうか。アルコール依存症は、誰でも陥り得る現代の凡庸な不幸の一類型だ。そして、無音の、無臭の街の姿は、酔いから醒めても現実は行き場としてないことを表している。制度や伝統はあてにならない。一番強いのは人が人を想う気持ちである。

    最後の場面が特にいい。川端康成の「雪国」のラストの翻案だと思う。

  • 今、時間があるので、内心ドキリとした。
    ちょっと踏み外すとそのまま突き進んでしまいそうで、怖い。

  • 群馬(高崎・前橋)の話で、また方言がとてもリアルで驚き。これもよかったなあ。
    アル中の焦燥感ってこんな感じなんだろうな、というのがよくわかる。

  • 全てを喪失した絶望の果てだからこそ繋がることができる再生の日々。
    ずっと一緒にいてもきっとこうはなれないというのも寂しいけれど、それでもまだ間に合うことだってある。
    ばかもの、という言葉が最後にはとても愛情深い言葉に聞こえてくる。

  • ばかもの 本人?の一人称で書かれた物語は、荒削りで生々しい…。読んでて こちらがギュッと苦しくなる描写を くどくどと書き連ねている波に いつのまにか巻き込まれている様だった。
    ばかもの 後は なんとか ええ感じで生きってって欲しい。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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