- Amazon.co.jp ・本 (589ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101306377
作品紹介・あらすじ
昭和十七年、林芙美子は偽装病院船で南方へ向かった。陸軍の嘱託として文章で戦意高揚に努めよ、という命を受けて、ようやく辿り着いたボルネオ島で、新聞記者・斎藤謙太郎と再会する。年下の愛人との逢瀬に心を熱くする芙美子。だが、ここは楽園などではなかった-。戦争に翻弄される女流作家の生を狂おしく描く、桐野夏生の新たな代表作。島清恋愛文学賞、読売文学賞受賞。
感想・レビュー・書評
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桐野夏生が描く、林芙美子の回想録。
創作でありながら、戦時中に日本占領下の国々に派遣されたこと等の史実は忠実に描かれている。
それだけに、創作なのに生々しさがある。
戦時中の作家たちの苦労やそんな中でも愛し合い求め会う男女の関係…
読み応えがあった。
2024.4.20詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
太平洋戦争末期における林芙美子のペンによる翼賛活動と不倫の恋愛やその顛末の話である。彼女は陸軍嘱託のペン部隊役員として偽装した病院船で南方に渡り、戦意高揚の執筆活動を積極的に行うなか、憲兵に見張られた新聞記者の愛人と戦地で逢瀬に身を窶す。夫に内緒で出産し孤児を引き取ったことにして育て、その子を夫に託して47歳で急逝する。彼女の波瀾万丈の生涯で、流行作家になってからの後半生の件である。
桐野が同じ女流作家として温もりをもって書き上げた“文壇から浮いた、成り上がりの嫌われ者”林芙美子へのエールであり名誉挽回の書でもある。モラルを無視した乱倫の末、戦時下にあっても男への執着で夫を騙し不義の子を産み育てる。夫がすべてを受け入れて彼女の死後も子に愛情を注ぐ。女が生きることや書くことに強く拘る生き様は文壇からは顰蹙を買いながらも市井の生活者からは共感される。生い立ちや自儘の奔放さが才能を磨き結実させて諸々の作品を生み出すことになる。
川端康成の弔辞「故人は文学的生命を保つため、他に対して時にはひどいこともしたのでありますが、しかし後二、三時間もすれば故人は灰になってしまいます。死は一切の罪悪を消滅させますから、どうか故人を許して貰いたいと思います」に通底する作品である。
村山由佳が描いた伊藤野枝の話『雨よあらしよ』にも似たものを感じたが、対象が本格的な流行作家と活動家の違いと、何よりも桐野と村山の経験や感性の差による創り出す世界の迫力には抗えないものがある。
桐野夏生の冷静な描写は同志愛を滲ませ十分説得力がある。林芙美子の作品も読んでみたくさせる。 -
昭和17年、南方への命懸けの渡航、束の間の逢瀬、張りつく嫌疑、修羅の夜…。戦争に翻弄された作家・林芙美子の秘められた愛を、渾身の筆で炙り出し、描き尽くした長篇小説。
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戦争に翻弄されながらも、熱い本能に従って生きていた強い女性のお話。
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一気に読みました。
創作ですが、これ本当の話なんじゃ‥と思ってしまいました。 -
多くの実在の人物(しかも、ビッグネーム)を登場させていたので、ノンフクションかと思った
でも、解説を読んで、桐野さんの創作だと知った
こんなことやっていいの?と訝ったけど、桐野さんならやりかねないし、やってもいいんだよな、と思ってしまう
内容については、プロットはおもしろい。けど、桐野さんの容赦のないミステリーを念頭に置いていると、あれ?的な感じかな