ナニカアル (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 783
感想 : 76
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  • Amazon.co.jp ・本 (589ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101306377

作品紹介・あらすじ

昭和十七年、林芙美子は偽装病院船で南方へ向かった。陸軍の嘱託として文章で戦意高揚に努めよ、という命を受けて、ようやく辿り着いたボルネオ島で、新聞記者・斎藤謙太郎と再会する。年下の愛人との逢瀬に心を熱くする芙美子。だが、ここは楽園などではなかった-。戦争に翻弄される女流作家の生を狂おしく描く、桐野夏生の新たな代表作。島清恋愛文学賞、読売文学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 桐野夏生が描く、林芙美子の回想録。
    創作でありながら、戦時中に日本占領下の国々に派遣されたこと等の史実は忠実に描かれている。
    それだけに、創作なのに生々しさがある。
    戦時中の作家たちの苦労やそんな中でも愛し合い求め会う男女の関係…
    読み応えがあった。

    2024.4.20

  • 桐野夏生さんの長編
    ブクログの過去の何かのスレッドで戦争に関する本のお題?でお勧めされていて気になっていたのが、図書館にあり、借りられました。
    (他にも何冊か桐野さんあった)

    読み終わったのはだいぶ前で、序盤は普通に読んでいたんだけど、最後のほうは夜更かしをしつつ読みました。
    感想が本当に遅くなってしまって残念・・・

    who: 林芙美子を題材に描かれた物語。原田マハさんのようなスタイル?かな
    when: WWII
    where: 大東亜共栄圏

    "解放されたアジアの民の明るい表情、日本人の優秀なる指導の下で発展する現地の姿を (中略) つまびらかに報じてもらいたい。"

    林芙美子の作品は読んだことないのですが
    ここで描かれる林芙美子、好きになれないタイプだったな・・・
    物語自体は面白かったけど。

    でも、彼女を全然好きになれないのは
    その感情が分かって、むしろ嫉妬に近いのかもしれない
    "容易にあえなくなった今は、その奇跡的な時間が雲散霧消しないように、大事に大事に扱わなければならなかった"
    "夜が更けていく。(略) 今度会えるのはいつだろう。貴重な時間を口げんかに費やすわけにはいかなかった。(略) 何をしても、時間が足りなかった。口にはしなかったが、互いに焦燥を感じている。(略)今ここで二人きりでいられる喜びと、それをじきに失うむなしさが身に迫って来るのだった。"


    戦時下のプロパガンダ
    作家とジャーナリスト
    戦争という恐ろしいものとわかっているのに、
    何かを見たいという心
    戦場で死をすぐ傍に感じ、言葉があふれるように生まれる、生きろという。
    初めは国のためと思えたし、煽られてそれを信じることができた
    でも、それが国家に利用されている?
    "私たちの敵は国家で、あまりにも大きく、しかも危険だった"


    戦時中の話だけど
    おや、と思うことも多々
    結局かわってないんだよな

    たまに戦争に関する本を読むけど
    東南アジアでの日本人が書かれているのは初めてだったかもしれない

    アメリカにいると、セトラー vs 先住民の構図があるけど
    日本もヨーロッパの植民地政策からの開放と言いつつも結果的には同じ
    でも誰が悪いんだ
    日本とは誰だ

    "戦争の本質は同じだ。卑劣で残虐で愚かしい、人間の悪を全開させるものだ"

    シンガポール
    "「もうシンガポールって言っちゃいけないんだよ。昭南特別市だ。」(中略)「ええ、日本のどこよりも美しいわ。でも、その町が日本のものになったんですから、誇らしいわ」"

    ボルネオ
    "「先生はご存じないのね。私たち『復帰法人』なんですよ」(中略)「しかも僕らは、抑留されたんですよ」"
    "今はいろんな人間がこちらに入ってきています。誰が何者で、何処からきて、何をしているのか、なんてまったくわかりませんのよ。疑心暗鬼で疲れます。"

    ジャワ
    "このトラ和寿村に住んでいる人たちは、オランダも日本も、外からきて勝手に国をいじくっているだけだと思っているのではないか。平和な暮らしは誰の恩恵でもなく、自分たちが働いて、神に祈りを捧げ、恙ない日々を送っているからこそ成り立っているのであって、外国人のお陰などでは決してない。そう思っているのではないか。"



    "人間としての始まりを、母親に抱き留められて満足そうだ。では、この子の生の終わりは、誰に抱かれて、誰に看取られるのだろう"

    なにかある・・・
    私はいま生きている


    力作でした。またいつか読みたい。

  • 太平洋戦争末期における林芙美子のペンによる翼賛活動と不倫の恋愛やその顛末の話である。彼女は陸軍嘱託のペン部隊役員として偽装した病院船で南方に渡り、戦意高揚の執筆活動を積極的に行うなか、憲兵に見張られた新聞記者の愛人と戦地で逢瀬に身を窶す。夫に内緒で出産し孤児を引き取ったことにして育て、その子を夫に託して47歳で急逝する。彼女の波瀾万丈の生涯で、流行作家になってからの後半生の件である。
    桐野が同じ女流作家として温もりをもって書き上げた“文壇から浮いた、成り上がりの嫌われ者”林芙美子へのエールであり名誉挽回の書でもある。モラルを無視した乱倫の末、戦時下にあっても男への執着で夫を騙し不義の子を産み育てる。夫がすべてを受け入れて彼女の死後も子に愛情を注ぐ。女が生きることや書くことに強く拘る生き様は文壇からは顰蹙を買いながらも市井の生活者からは共感される。生い立ちや自儘の奔放さが才能を磨き結実させて諸々の作品を生み出すことになる。
    川端康成の弔辞「故人は文学的生命を保つため、他に対して時にはひどいこともしたのでありますが、しかし後二、三時間もすれば故人は灰になってしまいます。死は一切の罪悪を消滅させますから、どうか故人を許して貰いたいと思います」に通底する作品である。
    村山由佳が描いた伊藤野枝の話『雨よあらしよ』にも似たものを感じたが、対象が本格的な流行作家と活動家の違いと、何よりも桐野と村山の経験や感性の差による創り出す世界の迫力には抗えないものがある。
    桐野夏生の冷静な描写は同志愛を滲ませ十分説得力がある。林芙美子の作品も読んでみたくさせる。

  • 昭和17年、南方への命懸けの渡航、束の間の逢瀬、張りつく嫌疑、修羅の夜…。戦争に翻弄された作家・林芙美子の秘められた愛を、渾身の筆で炙り出し、描き尽くした長篇小説。

  • 戦争に翻弄されながらも、熱い本能に従って生きていた強い女性のお話。

  • 一気に読みました。
    創作ですが、これ本当の話なんじゃ‥と思ってしまいました。

  • 2023.6/23〜7/5
    林芙美子の半生を描いた作品。読み終えるのが惜しくなるほど夢中で読んだ。下敷きにしているものがあるとはいえ、まるでそこにいたかのような臨場感だった。
    謙太郎から投げかけられた言葉にショックを受ける様子が印象的。
    「謙太郎の言葉が鋭い刃となって、私の体に突き刺さった。刃は、体内を引っ掻き回した挙句、灰色の腸を引きずり出して、床にぶちまける」

  • 多くの実在の人物(しかも、ビッグネーム)を登場させていたので、ノンフクションかと思った
    でも、解説を読んで、桐野さんの創作だと知った
    こんなことやっていいの?と訝ったけど、桐野さんならやりかねないし、やってもいいんだよな、と思ってしまう
    内容については、プロットはおもしろい。けど、桐野さんの容赦のないミステリーを念頭に置いていると、あれ?的な感じかな

  • 林芙美子の回想録風。昭和18年に女流作家林芙美子が朝日新聞陸軍報道部嘱託としてジャワ、ボルネオに渡り不倫関係だった斉藤謙太郎とバンジェルマシンで再会した。軍はスパイ嫌疑がある謙太郎を芙美子に会わせ尻尾をつかもうとしていた。芙美子にも憲兵が着いていて危機に立たされ、喧嘩別れになった。帰国後、妊娠発覚、密かに出産し貰い子として息子を育てる。顛末を書いた原稿は死後夫に読まれ姪に読まれ、文献にならないよう葬られた。
    危険な道中やボルネオの美しさ、パワフルで奔放で感受性の高い芙美子が生き生きと描かれた小説だった。


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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

桐野夏生の作品

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