- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101318141
作品紹介・あらすじ
知恵を伝達し、流布し、蓄積することに成功してホモ・サピエンスは自然から遊離してしまった。そこには奢りと淋しさが同居している-。その透徹した視座より、捕鯨反対運動、沙漠に造られたエコロジー実験施設、旅、冒険、風景などについて明晰な論理を紡ぐ。凡庸な自然讃歌でも感情的な環境保護思想でもない、極めて知的で創造的な自然と人間に関する12の論考。読売文学賞受賞。
感想・レビュー・書評
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池澤夏樹氏のウィットに富んだ自然観。面白かった。
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「いずれの山か天に近き」の、富士山がなぜ近代以前(測量される前)から日本一の山となったのかという話が好き。
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人間と自然との関係について著者が自由に語ったエッセイです。
本書のテーマの一つとして、人間と自然の「尺度」ということがあげられるのではないかと思います。著者は本書の冒頭で、人間にリンゴを分け与えようとするオランウータンの話を紹介しています。また、原ひろ子の『ヘヤー・インディアンとその世界』を読んで、狩猟とは動物と人間との知恵比べだとみなす考え方にもっとも動かされたと著者は告白しています。これらの例に見られるのは、人間が動物の知能を一方的に測定するのではなく、人間と動物が共通の「尺度」を持っているという発想であるように思います。
さらに本書の後半では、人間が文明を獲得することができたのは、人間の身体が火を扱うのに適切な大きさだったことによるというおもしろい説が紹介され、自然のスケールについての叙述が続きます。
自然のかけがえのなさを人間の尺度によって測ることで自然環境の保護を訴えるのではなく、人間と自然の共通の「尺度」を見いだしていくことで、私たち人間が自然の中に立っているというセンスを取り戻していくことにつながるというのが、もしかしたら著者の考えなのかもしれないという気がします。 -
スティルライフを読んで感銘を受けた後に手に取り、その後ずっと池澤夏樹が一番好きな作家であり続けることになった、決定的な本。
池澤さんの軸となる自然と人間との距離を冷静に見る姿勢にものすごく惹かれた。 単行本で読んだかれこれ20数年前。 -
池澤夏樹の自然論。書かれたのは随分前だけど今持って古さは感じない。
ありがちなセンチメントに基づく自然礼賛ではなく、池澤夏樹らしい理系っぽい切り口で、とてもバランスよく感じた。 -
読売文学賞受賞。
20年以上前に書かれたエッセイだが題材の「ホモサピエンスと自然」の先見性が素晴らしい。 -
・大事なのは,野生動物というものを巡って,われわれがある種の混乱に陥り,どう考えていいか分からなくなっているということだ。
・科学とは,別の時代の別の場所における他人の発見をそのまま自分の発見のように利用するシステムである。科学が今日に見るような隆盛を誇るに至った最大の理由は先人の業績を継承するという蓄積の原理である。
・ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「カラハリの失われた世界」
・竹取物語と富士山
・『古事記』下巻「枯野」
・言ってみれば,存在の責任は樹木たちが担ってくれるのだ。われわれ動物たちにはそれに全てを任せて,ついでに生まれた者として遊びくらせばいい。もともとがマージナルな存在ある以上,気負い込んで世の苦悩を一手に背負う必要はどこにもない。それは木々が実になにげない顔でやってくれていることだ。 -
ヒトと自然の正しい関わり方ってなんだろう。基本的にヒトはヒトの事しか考えられないし、僕(あなた)は僕(あなた)の事しか考えられないのかも。
ヒトの目線から見たら自然はヒトのエゴを受け止めてくれているみたいだけど、それもいつまでもつのやら。