流しのしたの骨 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339153

作品紹介・あらすじ

いまはなにもしていず、夜の散歩が習慣の19歳の私こと子、おっとりとして頑固な長姉そよちゃん、妙ちきりんで優しい次姉しま子ちゃん、笑顔が健やかで一番平らかな`小さな弟'律の四人姉弟と、詩人で生活に様々なこだわりを持つ母、規律を重んじる家族想いの父、の六人家族。ちょっと変だけれど幸福な宮坂家の、晩秋から春までの出来事を静かに描いた、不思議で心地よくいとおしい物語。

感想・レビュー・書評

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  • 子供に薦める小説を探していて、久々の再読。
    江國香織さんの言葉選びのセンスが素晴らしい一冊。

    雨の日の雰囲気を「すーん」とすると表現したり、じょんじょんじょんと歩くなど、その言葉選びの巧みさで独特な感性の家族の話がとても素敵な家族に見えてしまう。

    本書と「きらきらひかる」は、高校生の時に出会ってからもう何度と読み返している。

  • 2024.4.11 読了。
    東京の片隅にある宮坂家の4人姉弟と両親の6人家族の物語を三女のこと子の視点で描いた小説。

    戦争も政治もお金の心配もないように感じさせる宮坂家の日常が静かに描かれている。日々は進み年齢の変化も書かれているのに、どこか全く知らない星で生きている一家の様子を覗き見ているような不思議な感覚だったが、「我が家ルール」のように他の家では日常ではないことがツラツラと綴られていた。

    3人のタイプも違う姉(と母)を見て育つ末っ子の弟・律はきっとこれから育っていく中でも要領良く生きていきそうだなぁ〜なんて想像してしまった。

  • とても好きだった!

    登場人物誰に共感できるというわけでもないし、展開のある物語でもないんだけど(実際はいろいろ事件は起きているが)、江國さんのあとがきにもあるように、本当に人の家庭をずっと見させてもらってる感じ。

    家族のあり方いろいろだし、家族の中の個人もいろいろで、こういう家族もきっといるよねどこかにと妙なリアリティを持たせる文章だった。

    外の人間だった他人と結婚することで見える自分の家族独特の雰囲気とかルールとか、それゆえ感じる新生活での違和感とかも、あるよねきっと、と思って。だけどまたそこからどちらかがどちらかに合わせたりぶつかりあったり折り合いつけながら、新たに家族ルールが出来上がっていくので、面白いし素敵な事だと思いました。

  • なぜか、サザエさん一家の10年後ってこんな感じだろうかと。本来大事件のはずのそれぞれの出来事が家族の中で薄まって結局ばらばら。解決策はほったらかしって事で
    チャンチャン!全てが未解決

  • 先月だったかな。何年振りかに再読。
    以前読んだときは、ホリーガーデンと同じくらい、ずっと持っておきたい本だ、と思っていたけど、今読んだらそれほどでもなかった。けど、江國さんのつくりだすこのお話の静けさがとても好き。特別おおきなことが起こるわけではないけれど、コトコトとお料理をつくるときの良い音がする、というか。ときどきこのお話の世界に触れたくなりそうだなと思った。
    こと子と深町直人との関係性がとてもうらやましく、わたしもこんなパートナー欲しいなあと思った。

    好きなシーン

    空気の澄んだ、ぱりっとした朝。そのドーナツ屋は駅の反対側なのだけれど、私はバスに乗らずに歩いた。線路をくぐるかがちの地下通路をぬけると、風景がきゅうにひらけて動きだす。ビデオの一時停止ボタンを解除したときいたい。たくさんの色、たくさんの音。木とか風とか、歩いている人とか。停めてある自転車に、日ざしが反射してまぶしい。
    私は浮き浮きしていた。朝はいつも機嫌がいいのだが、それだけじゃなく、こんなふうに近所で深町直人と待ち合わせをしていることが楽しかったし、お天気がいいことも、ドーナツを食べることも嬉しかった。
    「おはよう」
    店のなかはあかるくて居心地がよく、ドーナツとソーセージロールとコーヒーの匂いがする。ガラス窓にはピンク色のロゴマーク。
    「おはよう」
    深町直人はカウンター席でにっこり笑った。乳白色のトレイには、少しだけ油のしみたパラフィン紙と、(おそらくは二杯目の)コーヒーの、なみなみと注がれたカップがのっている。
    「いい天気だね」
    穏やかに言い、私が衿巻をはずし、オーバーをぬいでまるめて隣の椅子に置くあいだ、深町直人はたのしそうにそれをみていた。私の好きな、冷蔵庫色のトレーナーを着ている。
    私はオーバーのポケットからだした財布だけを持ち、自分のドーナツを選びにいったん入口のほうへいきかけたが、思いついてひきかえし、
    「もう一度食べたら?」
    と誘ってみた。深町直人はほんの一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにあっさり微笑んで、うん、と言って立ち上がった。私はとても嬉しかった。自分でも思いがけないほど嬉しくて、ドーナツのガラスケースに向かって欠けだしそうになっておどろいた。深町直人はやさしい。
    時間は、こういう場所ではきまってとろとろと眠たげに、お湯がわくようにしずかに流れる。私たちは、それぞれ買ってきたドーナツ(私は3つ、深町直人は2つ)をたくさんのコーヒーと一緒に食べながら、思いつくままに脈絡もなく話をし、微笑んだりみつめあったり、ときどき窓の外を眺めたり黙ったりしながらすごした。深町直人といるときの、遠いような近いような感じが好きだった。

    「コーヒーでも買ってこようか?」
    深町直人は言い、私が返事するよりも早く立ち上がっていた。私は石段に腰掛けたまま体をねじり、ななめ後方にある自動販売機に目をこらして物色する。
    「ピコーのミルクティがいい」
    わかった、と言って、深町直人は走っていった。
    私は空を見上げた。
    青くて、冬らしく澄んでひきしまり、雲の美しさを際立たせている1月の空。そのままそっくりかえると背中と頭がごつごつとつめたかったけれど、目の中が全部空になった。起き上がって罐入りのミルクティをのむ。おしりの下には週刊誌。ここにすわるとき、深町直人がごみ箱からさがしだして敷いてくれたものだ。
    私は、しま子ちゃんにも深町直人がいればいいのにと思った。こんなふうに晴れた日の公園で、隣にすわって一緒に罐のお茶をのめる男のひとがいればいいのに。しばらく会えずにいたあとで、ちょっと背がたかくなったようにみえる男のひと。ちゃんとあたたかい恰好をして、やあひさしぶりって言う言い方が自然で、ポケットから固くて甘い袋菓子をだしてくれる男のひと。
    「気持ちがいいね」
    両手をうしろについて軽く上体を反らし、足首で交差させた両脚をのばして深町直人が言った。
    「どうしようか、これから」
    私はこたえなかった。もう少しこのままでいたかった。でもそれを言えば、空気が微妙に変わってしまいそうでいやだった。このままこのまま、完全なこのままがよかったのだ。深町直人は目をふせて、まるで私の気持ちがわかったみたいにひっそりと口をつぐんだ。ふいてきた風を、私たちは二人ともまつ毛の先でうけとめる。

  • 子供時代の家族の時間や学生時代を思い出す、温かくて懐かしくて優しくて心癒される作品。

    よそのうちの「その独自性、その閉鎖性。」はとっても不思議でおもしろい。

    いつか息子たちにとってはこの家族が自分たちにとっての懐かしいところになってくれるのかな。

    「たとえお隣でも、よそのうちは外国よりも遠い。ちがう空気が流れている。階段のきしみ方もちがう、薬箱の中身も、よく口にされる冗談も、タブーも、思い出も。」

  • やっぱり江國香織さんの書く文章が好きだな〜と思います。自分の家族とのなつかしい記憶とともに、心に沁みていきます。読み終わったあとも。

  • 理解はできないけど心地よかった。江國さんはいつもそんな感じで好き。
    家族は閉じた世界だと改めて感じた。

  • 幸せな雰囲気
    優しい家族
    暖かな冬ってかんじ

  • 江國香織好きだなぁ。神様のボートと同じ雰囲気。

  • お風呂で読む楽しさに、味をしめてまた浸ってしまった。こちらも再読の作品。二人の姉がいること子ちゃんに共感した前回と違って、今回はこの家族の母親に 共感してしまった。考えてみれば19才のこと子ちゃんより、49才のお母さんの方が確実に私の年令に近いのだから、当たり前でしたね。それに、一番下の子 ども<律くん>が中学3年生なので、中学生の息子を持つ私としては、息子の日常を思い浮かべて、比べることができるようになったからだ。変わった子ども達 を持つ変わったお母さん。
     結局、変わった家庭を作っているのは、このお母さんの存在があるからなのだろう。家族の中の常識が、世間一般で認められなくても、(律がアダルトなフィ ギュアを作っていて学校から停学処分を受けても、家族はみんな律の味方)お母さんさえOKならば、子ども達は幸せでいられるんだ。
     お母さんも、本当に幸せそう。世間一般なんて全然関係ない。うらやましい・・・。
    (2001.10.28)

  • 柔らかくて、あたたかい、全く知らないのにとても親しみの持てる家族の話だった。江國さんらしい小説だった。こと子の呑気さが特に好きだった。高校の卒業したら、大学や専門学校などの何かしらの学校に入るか、就職。これが世間一般の考えであって、フリーター(ニート)はあまりいいものではないという考えもある。私もその考えの持ち主で、フリーターの人は毎日何をやっているんだかと思っていた。こと子の暮らしぶりを見て、フリーターとは何にもやっていないのだと思った。(悪意はない)だけど、こと子の暮らしはとても充実していて、羨ましささえ感じた。
    律が停学処分になり、家族が学校から帰ってきたシーンが特に好きだった。父が「文化果つる頭の持ち主」と言い出したところは思わず笑ってしまった。こんな面白いことを言う父親が羨ましい。

  • 実は初めての江國さん
    ある事があって私はまだ人を愛すること
    本当の意味で自分を愛することが難しいのだけど、否定することなく(されることなく)
    自分を生きる楽しさを久しぶりに思い出した。
    好きなものや自分という魂の器を見つめながら
    誰かを気遣ったり傷つきながら日々を静かに送っていくこの家の人たちが好きです。


    森茉莉さんのように、浮世離れしてて、心がふわりと豊かになる、日々の幸せのカケラを見つけるのが上手な人が好きなんだけど、江國さんの文体はまさにそれ。好きだなあ。

  • 不思議な家族の物語…だれにも共感できないし、次が気になるような小説じゃないんだけど、空気を吸う感覚で読んでしまいました。
    恋人同士 片方が左利きだと手を繋いでご飯が食べられるっていうシーンは印象的で覚えていた。
    物語のその後が気になる……

  • とても不思議な感じになる本。
    不思議な世界観を持った家族。
    こと子と深町直人のカップルがとても素敵でとても好き。


    流しの下の骨=家族の中の誰かで、この中の誰が幽霊なんだろうと思いながら読み始めたけどちゃんとみんな生きていました。
    これから誰かが流しの下の骨になるのかなとドキドキしながら読んだけどみんな無事でした。
    サスペンス、ミステリー、ホラー系を読むことが多いのでとても新鮮な世界でした。

  • 高校生のときに図書館でみつけて初めて読んだ。初めて読んだときはハードカバーだった。タイトルがちょっと不気味で、そわそわしながら読んだ。キッチンの流しのした。柔らかくて、やさしくて、ちょっと変な家族たち。あれからもう10年以上たったけど、何度も何度も、いろんな場面で読みたくなる。実家に帰ったとき、お散歩しているとき、コーヒーを飲んでいるとき。好きな人ができたとき。あ、読みたい、と思ったときに買ってるから、たぶん3冊は持っている。ことちゃんや律、しまちゃん、そよちゃんに何度でも会いたくなる。本を開いて最初から読んだり、途中から読んだり。登場人物みんなちょっと抜けててヘンテコな人たちなんだけど、だんだんとそれがとてもいとおしくなっていく。どこをとっても美しくて、やさしい文章たち。何回読んでも好き。これからも何回も読み返すだろうし、ずっとずっと大好きだと思う本。わたしも左利きの恋人をみつけて、手をつないだまま食事してみようかな、なんて思った。

  • 父母と三人の姉と小さな弟。普通とは何だろう。家の中の普通は外で奇妙に映ったりする。結婚したそよちゃんは実家と婚家の普通が違うことに戸惑ったりしなかったのだろうか。宮坂家の中で深く印象に残った人はやはりしま子ちゃんで子供の頃から上手く生きられなくて恋人も何時も変だけれどとても優しい。平らかな心を持てなくても何時か大丈夫になりますように。

  • 両親と、4姉弟の日常。

    ふんわりと、のんびりとした日常…と思いきや
    何だかちょっと違うような?
    全員違う性格のようで、何か一緒な感じです。
    家族なので、考え方があっている部分があるのやも?

    弟の副業(?)ネタだけが謎でしたが。
    校長のさじ加減な話でしょうか?
    人形が、あれなものも入っていたから??
    これに関しては、寛容な家族が素敵ですw

  • かちかち山のお話に出てくるフレーズ「流しの下の骨を見ろ」

  • 何度も繰り返し読んでいる大好きなお話
    自由な不思議な家族
    1人1人が独特の世界観を持って生きてる
    でも家族として皆マッチしてるの
    いいなあ
    本当に大好きな作品です

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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