「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 41
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101345802

作品紹介・あらすじ

開業から百四十年、鉄道はもはや、日本人と切っても切れない存在になった。その発達は都市の形成に影響を与え、文学の一ジャンルを生み、沿線に特有の思想を育てた。また天皇制支配を視覚的に浸透させる目的で活用されたお召列車での行幸啓など、国家や政治とも密接な関わりがあった-鉄道を媒介にして時代を俯瞰する、知的で刺激的な「鉄学」入門。

感想・レビュー・書評

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  • 気鋭の日本政治思想史学者・原武史氏による、哲学概論ならぬ「鉄学」概論であります。
    むろん原氏のことでありますから、鉄道を語るのではなく、鉄道を介して日本の近代史を俯瞰します。
    もともとNHKテキストなのださうです。私は知りませんでしたが、このたび新潮文庫の一冊として刊行されたことは、まことに恭賀すべきことであります。

    全八章で構成。第一章「鉄道紀行文学の巨人たち」では、おなじみ内田百閒・阿川弘之・宮脇俊三の三人を比較しながら論じてゐます。確かに「巨人」と呼べるのはこの三人しかゐないでせう。後継者が見当たらないのが現代の悲劇と申せませう。

    第三章は「鉄道に乗る天皇」。まさに原氏の得意分野。昭和天皇のお召列車走行路線図(戦後)を見ると、岡多線(現・愛知環状鉄道線)が記載されてゐませんね。私がまだ少年時代に、岡多線にお召列車が走つたはずなのですが。確か植樹祭のための行幸だと記憶してゐます。

    第四章「西の阪急、東の東急」では小林一三・五島慶太の私鉄界二大巨頭を論じながら、関東と関西の私鉄経営の相違などを炙り出してゐます。
    第六章「都電が消えた日」では、都電廃止を提唱した『朝日新聞』の記事が紹介されてゐます。1959(昭和34)年といふ年代を考へると仕方が無いのかもしれませんが、あまりに短絡的な思考に慄然とするものであります。渋滞道路は、何車線増やさうと根本的な渋滞対策にはならない。道の中央に路面電車を一本通せばよろしい。ただし車を軌道敷から遮断しなくてはいけませんが。

    第七章・第八章では新宿駅に於る学生などのデモ、上尾駅を舞台にした社会人たちによる暴動など、社会全体が不安定で、民衆が熱かつた時代の鉄道事情が明らかになります。当時の国鉄は超嫌はれ役だつたので、デモ学生たちには同情的な人が多かつたさうです。

    鉄学を名乗つてゐますが、鉄道趣味そのものを対象にした本ではありません。
    鉄道がいかに社会と関つてゐるのか、ここでは八つの見本として著者は提示したのでございます。その意味でやはり「鉄学概論」とは適切なネイミングと申せませう。
    メイニア君たちは本書を教科書とし、対象から一歩下がつて、少し客観的に見つめてみてはいかがでせうか。
    余計なお世話ですかな。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-216.html

  • 「鉄ちゃん」という言葉が市民権をえて久しい。広く鉄道ファンを意味するのだが、時刻表を熱愛し、路線を乗り潰す「乗り鉄」であるとか、車輌の撮影に特化した「撮り鉄」など、それぞれの好みのジャンルごとに「鉄」があるらしい。
    近現代の天皇・皇室・神道の研究などがメインの政治思想史研究者である原武史氏も鉄道ファンとして知れているらしい。『「鉄学」概論──車窓から眺める日本近現代史』という本を書いている。もとはNHK Eテレの番組「車窓から眺める日本近現代史」を文庫本化したものだとかで、新潮文庫に収められている(2011年)。
    はじめに書いた、各「鉄」とは違った現代史の観点からのアプローチが面白い。
    第1章に「鉄道紀行文学の巨人たち」をおき、内田百間(間はフォントが見づらいが、門がまえの中が「日」ではなく「月」。訓みは「ひゃっけん」)が戦後に著した『阿房列車』シリーズを原点においている。鉄道はどこかへゆくための手段であったのを「目的としての鉄道」としたところから、鉄道紀行文学がはじまった、と。百間は漱石の門弟として百鬼園の名で、その随筆が高く評価された。戦後、百間と名をあらためている。
    百間の『阿房列車』を追って、世界の鉄道に取材した『南蛮阿房列車』のシリーズ。さらに宮脇俊三への系譜を紹介する。
    それだけでなく、鉄道が生んだ「沿線」の思想も取り上げている。永井荷風の京成沿線、関西での阪急沿線というブランドとしての「沿線」がどのようにして生まれ、関東での「学園前」という駅名が次々につけられた歴史的な考察が紹介される。
    また第3章の「鉄道に乗る天皇」は原武史の面目躍如の一章。まさに鉄道が天皇を国民に「可視化」する手段として機能した、と述べている。
    さらには第6章「都電が消えた日」では、かつての都電が地上の空間として乗客が日々目にした「宮城」や半蔵門などが、地下鉄に代替されて、それらの停留所名が単に「記号」としての地名となってしまったことの意味などに言及している。
    歴史となってしまった「スト権スト」で起きた上尾駅の騒乱の背景、新宿駅を舞台に起きた1968年と1974年の騒擾事件など、もりだくさん。たしかに気楽に読めるなかに「鉄学」がギッシリと詰まった一冊であった。

  • 読み物としての鉄道、戦後復興と鉄道の発達と街づくりなど、非常にわかりやすく興味深い内容ばかり。
    一番アガるのは、国鉄時代の乗客暴徒化事件ですかね…。
    今じゃ考えられない内容だわ。

  • 「鉄道」を通じて見える社会、または社会を背景にした「鉄学」
    文学、皇室、民営、学校、団地、思想、スト、暴動等々と鉄道の関係性


    鉄道紀行文に関しては、私はほぼ知識はない
    内田百閒が「移動手段としてではなく、趣味の対象として意識的に鉄道に乗り始めた最初の人」というのはどこまで信憑性があるかはともかく
    そんな時代から鉄に魅入られた方がいらっしゃったんですねぇ
    今やテレビでドラマをやるくらいに鉄道旅行記は認知がされているわけで、世間に広く認知されたものです

    本文とは関係ないですけど、小説でも昔は時刻表トリックなんかが流行ってたよなぁ
    ま、乗り換え検索機能が広まってからはほぼ死滅しましたが……



    皇室のお召列車
    昔は一泊以上する場合は神器と共に移動していたというのは知らなかった
    そう言えば今上天皇の即位式の際に、朝から降っていた雨が剣璽等承継の儀のときには晴れて虹が出たとかで「流石は天叢雲」とネットの一部では盛り上がってた記憶が
    神話の「話盛ってるだろ感」はこうやって事実と誇張が入り混じってできあがるんだろうなぁと思った出来事でしたね
    実際のとこ、過去も含めて天候との特異的な関係ってデータ上で確認できるんだろうか?
    行幸先では行く先々で晴れだったとかってデータがあったら面白いな

    そんなお召列車も上皇陛下はあまりご利用になられなかったようで
    山形にお召列車でいらっしゃったのは稀な機会だったのだと感慨深い



    阪急と東急に関しては、関西人と関東人の気質の違いなのだと知る
    梅田ダンジョンと言われる程に複雑化しか構内にもそんな理由があったとはね
    頑なに駅を別にするというのは乗客にとってはどうなのかね?
    国鉄もJRとなって既に民営化されたんだし、もういいんじゃね?と思わないでもない

    「阪急電車」は有川浩の小説くらいの知識しかないかな
    あと、宝塚好き界隈のネタとかね



    住環境が鉄道を呼ぶのか、鉄道により住環境が形成されるのか?
    ま、実際にはどっちのケースもありますよね
    計画の出発点がどっちかというだけな気がする
    どっちのケースにしろ、交通網というのは人の中規模な行動範囲を規定するものなんですよね

    シムシティと並ぶ都市開発ゲーム「A列車で行こう」ですが
    日本では鉄道と都市開発は密接に結びついてるよなぁ


    あと、学校や団地の環境が思想まで結びつくというのも目から鱗かな
    左翼とか新左翼とか学生運動とか共産主義が広まる一端に鉄道が関係していたというのは思いもしなかった



    ストに関してはリアルタイムで体験した事がないのでよくわからない
    植田まさしやサトウサンペイの4コマ漫画では取り扱ったネタがあったなぁと思うくらい
    一部の職業にはストライキが認められていないという理屈はわかる
    それに対して遵法運転というやり方も致し方がないのもね
    それによって利用者が迷惑を被った結果、暴動が起きたというのも、昔は日本もそんなだったんだなぁと感慨深い
    ストの方法として、通常通り営業はするがお客から料金を取らないという方式もあるわけで、ストの目的や交渉相手を鑑みた方法がよいのでは?と思った



    総じて、私自身は鉄道に対してまったく思い入れがなく、タモリ倶楽部でたまに鉄道回があるとちょっと惹いてしまう程度だけれども
    鉄道そのものではなく、その背景や流れや関連など含めて解説されてあったので面白く読めた
    やはり知識はピンポイントよりは線や面で触れるとよいという典型かな

  • リビングで。

  • 鉄道
    歴史

  • <目次>
    はじめに
    第一章 鉄道紀行文学の巨人たち
    第二章 沿線が生んだ思想
    第三章 鉄道に乗る天皇
    第四章 西の阪急、東の東急
    第五章 私鉄沿線に現れた住宅
    第六章 都電が消えた日
    第七章 新宿駅1968・1974
    第八章 乗客たちの反乱
    参考文献
    解説 宮部みゆき

    <メモ>
    大連から奉天
     戦前の「あじあ号」は4時間47分
     1970年代 急行でも6時間10分
    口を開けば「四つの近代化」とくる。もちろん、「満州国」という傀儡国家をつくったのが日本であることは事実であり、それに対する批判的なまなざしはあるけれども、過去と現在とのあまりの落差に阿川弘之は愕然とする。(36)

    特定の沿線に住むということは、その鉄道が築いてきた歴史や文化、沿線風景、あるいは鉄道が通じる地域の風土といったものに、じつは深く規定されることなのではないか。(53)

    明治、大正および昭和前期という時代、植民地を含む全国の鉄道に最もよく乗った人物の一人として、天皇がいる。(85)

    東京駅の開業式=大正天皇の大礼(即位礼および大嘗祭)に合わせた。実際は喪に服するため大礼は1年延期された。(101)
    原宿宮廷駅:2001年5月を最後に、今日まで利用されない状態が続いている。(111)
    地下鉄の発達は、皇居の中心性を消し去ってしまった。(191)

    2014.05.08 鉄道史を検索していて見つける。
    2014.05.11 読書開始
    2014.05.12 読了

  • 内田百閒、阿川弘之、宮脇俊三の対比がおもしろかった。
    阪急と東急の違いとか。
    あとは昔は駅で暴動とか起きたことがあるんだ、ってことを知った。

  •  著者は鉄道を趣味とする政治思想史学者ということで、鉄道を主題にした社会史とでもいう本。鉄道そのものは脇役であって雑多な世相史のようなものになっている。あまり脈絡もないのであちこちの雑文を集めたものかと思ったら、NHKの連続番組のテキストなのだそうだ。とりたてて目新しい話もないが、著者はマニアではないといいながら、歴代天皇や皇太子が精力的な行幸・行啓でどれだけの路線を乗りつぶしたかなんていう超マニアックな話も載っている。

  • 2011(底本2009)年刊。近現代史・天皇制度の研究者である著者(自称鉄道ファン。マニアと言うほどではないというのが奥ゆかしい)が、鉄道の関わる文学、作家、都市論、天皇と鉄道の関わりなどを説明するエッセイ。所々、著者自身の書を踏まえて叙述される箇所もあるが、他の新書や単行本とは異なり、内容は興味深いも、全体としてはエビデンスが明確でなく、軽い読み物と思われる。本書紹介の内田百閒氏、阿川弘之氏、宮脇俊三氏の書は読んでみたい。

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著者プロフィール

原武史(はら・たけし)
1962年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。東京大学大学院博士課程中退。山梨学院大学、明治学院大学を経て、現在、放送大学教授、明治学院大学名誉教授。専門は日本政治思想史。『「民都」大阪対「帝都」東京』(講談社)でサントリー学芸賞、『大正天皇』(朝日新聞社)で毎日出版文化賞、『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』で司馬遼太郎賞をそれぞれ受賞。ほかに『〈出雲〉という思想』、『可視化された帝国』、『皇居前広場』、『団地の空間政治学』、『レッドアローとスターハウス』、『皇后考』、『「昭和天皇実録」を読む』、『平成の終焉』、『 〈女帝〉 の日本史』、『地形の思想史』、『「線」の思考』、『一日一考 日本の政治 』など著書多数。

「2021年 『最終列車』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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