「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101345802

感想・レビュー・書評

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  • <目次>
    はじめに
    第一章 鉄道紀行文学の巨人たち
    第二章 沿線が生んだ思想
    第三章 鉄道に乗る天皇
    第四章 西の阪急、東の東急
    第五章 私鉄沿線に現れた住宅
    第六章 都電が消えた日
    第七章 新宿駅1968・1974
    第八章 乗客たちの反乱
    参考文献
    解説 宮部みゆき

    <メモ>
    大連から奉天
     戦前の「あじあ号」は4時間47分
     1970年代 急行でも6時間10分
    口を開けば「四つの近代化」とくる。もちろん、「満州国」という傀儡国家をつくったのが日本であることは事実であり、それに対する批判的なまなざしはあるけれども、過去と現在とのあまりの落差に阿川弘之は愕然とする。(36)

    特定の沿線に住むということは、その鉄道が築いてきた歴史や文化、沿線風景、あるいは鉄道が通じる地域の風土といったものに、じつは深く規定されることなのではないか。(53)

    明治、大正および昭和前期という時代、植民地を含む全国の鉄道に最もよく乗った人物の一人として、天皇がいる。(85)

    東京駅の開業式=大正天皇の大礼(即位礼および大嘗祭)に合わせた。実際は喪に服するため大礼は1年延期された。(101)
    原宿宮廷駅:2001年5月を最後に、今日まで利用されない状態が続いている。(111)
    地下鉄の発達は、皇居の中心性を消し去ってしまった。(191)

    2014.05.08 鉄道史を検索していて見つける。
    2014.05.11 読書開始
    2014.05.12 読了

  • 政治学者・原武史が自らの研究と鉄道ファンとしての見識を存分に生かして書ききった、鉄道研究書。タイトルほどに堅苦しい本ではないのですが、さりとて昨今流行っている読本ほど軟派ではなく、学術書の雰囲気をささやかながらも醸し出しているのはさすがです。

    都電と天皇、などという一見何のかかわりも無さそうな二者を鮮やかに結びつけ、都市論や国家論まで言及するくだりは特に圧巻。なるほど、確かに!と思わず膝を打ってしまう見事な視覚です。これ、確かに原先生にしか書けない1冊でしょうね。

    一方で、鉄道マニアが鉄道マニアを罵るって、見苦しいんだなあとも実感。自分も含め同属嫌悪な人が多いジャンルではありますが、ほどほどにしておこうとわが身をちょっぴり反省しました。

  • 【本の内容】
    開業から百四十年、鉄道はもはや、日本人と切っても切れない存在になった。

    その発達は都市の形成に影響を与え、文学の一ジャンルを生み、沿線に特有の思想を育てた。

    また天皇制支配を視覚的に浸透させる目的で活用されたお召列車での行幸啓など、国家や政治とも密接な関わりがあった―鉄道を媒介にして時代を俯瞰する、知的で刺激的な「鉄学」入門。

    [ 目次 ]
    第1章 鉄道紀行文学の巨人たち
    第2章 沿線が生んだ思想
    第3章 鉄道に乗る天皇
    第4章 西の阪急、東の東急
    第5章 私鉄沿線に現れた住宅
    第6章 都電が消えた日
    第7章 新宿駅一九六八・一九七四
    第8章 乗客たちの反乱

    [ POP ]
    著者は自身は鉄道マニアではなく、鉄道を通して見えてくる近現代の日本の歴史や社会の変容に興味があるのだという。

    その意味では、鉄道紀行文学の紹介に始まり、「沿線」の特色や私鉄の東西比較、天皇との関係や、国鉄時代のストや暴動など幅広いテーマを扱う本書は、原「鉄学」入門の書だ。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 鉄道に関しては何も知らない私であっても、入りやすい一冊だった。
    鉄道がこんなにも歴史と共に歩んでいたなんて知らなかった。よく考えると、昔は主要な交通手段の一つだったわけだから、あたりまえだけれど、車がどこでも走っている時代に生まれた私にとっては、それはなんだか不思議なことだった。
    鉄道を取り巻いていた事件や、影響を与えた小説家、関西と関東の違いなどが書かれている。

  • 面白かった。環境が知らず知らずに与える人への影響を感じました。
    新宿駅の暴動などいろいろ知らなかったこともありました。
    地上を走るのと、地下を走るのとの違いについての考察が面白かった。
    あとは天皇制を支える視覚的な宣伝効果についても面白かった。
    団地も見に行ったんですね。
    格好よいの感覚についても結局はその時代の「のり」なんだなと思いました。

  • NHK教育「知る楽」で放送された「鉄道から見える日本」のテキストを、かなり大幅な加筆修正の後、刊行されたもの。加筆修正により理解しやすくなったところもあり、反対にちょっとゴテゴテした印象の部分もあり。その是非は賛否両論あるかとは思うが、放送時は関東の鉄道に関しての記述が多かったのに対し、加筆修正で関西の鉄道に対する記述・考察が増えている。
    「政治と鉄道」という関連の深い分野を学術的な視点で掘り下げた、という意味では大きな意味のある一冊。内容自体は荒削りな印象もあるが、今後の議論のためのたたき台としては十分なレベル。鉄道という移動の道具に過ぎないものが、いかに政治や文化・経済といった社会にどんな影響を与えてきたのか、それを考えるのにはいい一冊。

  • 政治思想史の研究者が、鉄道の発展が社会に与えた影響を考察する本。歴代天皇による巡幸、阪急と東急の沿線開発における類似点と相違点、西武沿線で共産党支持層が強かった背景、国鉄の「順法闘争」と乗客の反乱「上尾事件」の話題など。私が生まれてくる少し前(1950-60年代)の鉄道環境が書かれている箇所は、なかなか新鮮だった。

  • Twitterのまとめでスイマセン。

    『「鉄学」概論』の原武史先生の専門は近現代の天皇や皇室を中心とした日本の政治思想史研究。その分野で新しい眼差しを示したことで知られるから、その分野の著作は殆ど読んでいます。原先生が鉄道に興味のあることは存じてましたが、自分自身興味がなくスルーしていたのですが、読んで正解でした。

    きっかけは、やはり原武史『可視化された帝国』(みすず書房)でしょうか。明治日本は、鉄道という「メディア」によって「可視化された帝国」として生成されたと指摘した一冊。そこで関心を持ったので、授業が終わってから、図書館で借りてみた。帰りの電車でうんうん頷きながら読了した次第です。

    『「鉄学」概論』の解説を作家・宮部みゆきさんが担当。「『鉄道が好きだ』と明言する方はたくさん」いるが、「鉄道嫌いをはっきりと明言する方は、はたしているものでしょうか」。鉄道に対する態度は、おおむね「関心がない」のが実状でしょう。僕もその一人です。しかしインフラだから気にはしている。

    ちょうど水曜が千葉の大学で講義。ドアトゥドアで6時間かかる。だから僕自身もどの経路でいくのが安いのかだとか、どれが早いのかだとか、そして千葉駅から東の路線は、風に弱いから(運休の可能性)、天気まで気にする。「関心はない」けど、生活の一つなんだろうと思う。

    だから、鉄道の歴史を学ぶということは、『「鉄学」概論』の副題にある通り、「車窓から眺める日本近現代史」。同書で似た鉄道会社として「西の阪急、東の東急」を取り上げている。西のコピーと深化が東。ただ西は何処までも「民」、東は「官」接続の重視等の指摘は興味深い。

    たとえば、大阪駅と梅田駅は、歩いていく駅。渋谷駅に代表される国鉄(現JR)への私鉄の連続は、まさに国鉄依存・迎合による文化。ホームの設計自体にその違いも出てくるし、阪急、東急の創業者由来の美術館の所蔵品(西が無名でもモノへのこだわり、東が国宝重視とか)。

    日本近代史から少し脱線しましたが、原先生の大阪と東京の気質の違いの具体的表象に関する研究は、『「民都」大阪対「帝都」東京――思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ、1998年)というのでクリアカットに示されておりますので、深める場合はこちらを。

    いずれにしても、趣味としては「鉄道」に全く関心はなかった。しかし、「鉄道」に関する「気遣い」は実際のところかなりあったこと、そして『可視化された帝国』で明らかにされたように、鉄道が国民国家・想像のひな形として起因したことを刮目されたように思う。少し原先生の関連著作も読もうと思う。

  • 「車窓から眺める日本近現代史」という副題の通り、日本近現代のさまざまな側面を鉄道と関連させて考察しています。沿線に団地ができたことによる住民層の変化や、都電から地下鉄にシフトしたことによる人々の「東京観」の違いなど、切り口が興味深い。面白かったです。

著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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