- Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101355139
作品紹介・あらすじ
建築家・笠井泉二は、一風変わった建物をつくりだす。それは、足を踏み入れた者が、異様な空気に酔いしれる…。老子爵夫人には、亡き夫と永遠に過ごせる部屋を、偏屈な探偵作家には、異次元に通じる家を。そして嫉妬に狂う男には、怒りを静める別荘を。その悪魔的とも言える天才の産物が、不思議世界へと誘う6話。-選考委員絶賛!第20回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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文章は非常に自然体で、なおかつ明治の描写は(その真偽はわからないが)説得力に溢れていました。
本書で描かれる日本のノスタルジーには誰もが共感できる普遍的な優しさに包まれており、これが主人公[笠井泉二]しいては著者[中村弦]のキャラクターなのだと思います。
手放しに「感動した!涙が止まらない!」という作品ではないのですが、一軒の優れた建造物、一枚の類い稀な絵画、そういった芸術作品を鑑賞したじんわりとした満足感のようなものが、この作品で得ることが出来るような気がしました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とても良かった!
日本ファンタジーノベル大賞とは、基本的に相性が良いのですが、
今回この作品を読んで改めてその事を実感しました。
ある一人の建築家を巡る物語。
真っ先に綾辻さんの館シリーズに出てくる中村青司を思い出すのだけれど、
中村青司の建てる館が、逃れられない死に結びついているとすれば、
笠井泉二の建てる家は、凪いだ海のように心を穏やかにさせる。
幼い頃から神童と思われるほどの才能を発揮していた泉二。
死者と生者が一緒に暮らすための家、また異次元へ通じる家…
とても幻想的で、それでいて心温まるお話の数々に、
思わず目頭が熱くなりました。深く、深く感動のため息をつきました。
素晴らしい作品だと思います!! -
明治から昭和初期にかけての天才建築家・笠井泉二の軌跡。ファンタジックで概ね面白かったです。“自分の成すべき事は何か?何を犠牲にせねばならないか?”という笠井が天使から受けた啓示がピンと来なかったです。特別な建築設計をするのに何故に妻子が犠牲にならないといけないのか不思議。作中で創ったのは個人の邸宅ばかりで、歴史に残るような建築物が無かったのが残念。ラストの“満州の町”がそれに当たるのかな?それと、いけ好かないヤツ・雨宮を何か懲らしめてやりたかったなぁ。
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″A House is not a Home″というバカラックの名曲を思い出す。明治から大正、そして昭和という激動の時代を舞台に、ひとりの「異端の」建築家の姿を6つのエピソードからあぶりだした不思議な風合いをもつ物語。
「家」とは奇妙なものである。たいがいの「家」は地面に建つ。物理的にはもちろんのこと、メタフォロジカルな意味でも、また。だから、ときに「家をもつ」ということはそのまま、そこに暮らす人間の〝現世への執着の現れ〟でもある。ところが、主人公・笠井泉二のつくる「家」はちがう。それは、現世に定着できず、ふわふわと宙空に舞っている依頼人の「思い」をかきあつめ、そこに納めてやるための「うつわ」、あるいは「モニュメント」のようなものとして描かれる。その意味で、主人公はみずから宙空を舞いながら人々のやりきれない「思い」を回収する、まさに天使的存在なのである。
彼の建築は普遍的ではないが、だれか一人のために役立つと語る、笠井の理解者である卯崎教授のことばが心にしみる。その後の主人公は、大陸でいったいどんな「街」をつくったのだろうか? ほんのりとあたたかい心持ちで本を閉じた。
余談。主人公が暮らしているのは小石川植物園にほど近いところとなっているが、そこは当時「貧民窟」として知られた場所である。華族や実業界の大立て者をクライアントとし、みずからもけっして貧しくはなかったであろう主人公に自身の「家」としてあえてこうした土地を選ばせたところに、作者の、天上と地上とを自由に行き来する中間的存在に対する考え方を透かし見ることができておもしろい。装幀は、有元利夫が描いた作品であったなら……と個人的には思わずにいられない。 -
やっと読み終わりました。
最初、ミステリだと勝手に勘違いしてましたが、中身はファンタジーでした(笑)
ですがミステリの要素も多分に含んでいる作品ですね。
明治~昭和初期を舞台にした作品は大好きなので、これもストライクでした。
日常からファンタジーの世界への導き方に好感。
愁いを帯びた世界観が秀逸で、中・長編を読みたくなりました。
非常に読みやすい文章なので安心して人に勧められます。 -
第20回ファンタジーノベル大賞受賞作。
たまたま手に取ったのだけれど、面白かった!
明治~昭和初期の建築物が設定にぴったりあっていて、不可思議な雰囲気を醸し出している。
天才的だが万人に受け入れられる建築家ではない笠井泉二。
彼の設計になる建物にまつわる話が六篇収められていて、どれも惹き込まれる。
謎に包まれた笠井自身の話もそのなかにある。
久しぶりに、現実とその隣にある不思議な世界を感じさせる話を読んだ気がする。
最近のファンタジーって明るいものも多いけれど、この作品は暗いけれど安らかで穏やかなものを感じさせ、おどろおどろしくなくてその加減がとても良い。-
そよかぜさん、こんにちは!
今、この本が積読本になっているのですが、そよかぜさんのレビューを読んで、読むのがますます楽しみになりました♪そよかぜさん、こんにちは!
今、この本が積読本になっているのですが、そよかぜさんのレビューを読んで、読むのがますます楽しみになりました♪2011/08/10 -
すずめさん、こちらでもよろしくお願いします。
全く予備知識なく読んだのですが、面白かったですよ。
雰囲気がね、なんというか陰翳礼賛という...すずめさん、こちらでもよろしくお願いします。
全く予備知識なく読んだのですが、面白かったですよ。
雰囲気がね、なんというか陰翳礼賛というのかな、そんな感じです。(かえって?かな)
お読みになったら、すずめさんの感想も(おっと、ここではレビューでしたか)お聞かせくださいませ。2011/08/10
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(110728)
建築の人間としては少し気になりまして。
ライトさんとかコンドルさんとかの名前は出てくるけど、コンドルさんの弟子として登場する人物は実在の人ではないようで。
どうせならもっと徹底的に建築が物語に関わるようなお話にしてほしかったな~と思いました。 -
ただ雨風をしのぐだけではない、かといって芸術性だけでもない、建物を巡る多次元的なストーリーが空想力をくすぐる。
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建築家の笠井泉二の人生を短編での物語り。天才が造る家に依頼主は満足するがその依頼も変わっている。何故妻と子供が笠井の人生 の犠牲にならなくてはいけなかったのか分からなかったからそこを深く突っ込んだ話の続きが読みたい。
明治から昭和初期の話なので幻想的で歴史になってるような小説。
日付忘れる。