わたしの渡世日記〈上〉 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 117
レビュー : 15
  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369815

作品紹介・あらすじ

「お前なんか人間じゃない、血塊だ」-養母に投げつけられた身も凍るような言葉。五歳で子役デビューし昭和を代表する大女優となった高峰秀子には、華やかな銀幕世界の裏で肉親との壮絶な葛藤があった。函館での誕生から戦時下の撮影まで、邦画全盛期を彩った監督・俳優らの逸話と共に綴られた、文筆家・高峰秀子の代表作ともいうべき半生記。日本エッセスト・クラブ賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 高峰秀子。大女優が学校に行かれず、身内のために小さなうちから働いていた。母親の身代わりのように。
    そのなかで、物事を見る目、人との関わりを学んでいく。
    ここに、戦争の影が当たり前のようにさしこんでくる。
    時代と個人の考え、人生は切り離せないね。
    愛らしいデコちゃんがどうなったか気になる。

  • 何度も読み返しているけど何度でも引き込まれる。やはり母親の強烈な性格がある意味では最大の魅力だと思う。(高峰秀子の)内側の話ばかり読んでいるから、今度は外側からの話を読んでみようかと思った。

  • -

  • 面白かったの一言に尽きます。古い日本映画が好きで高峰秀子さんも勿論大好きな俳優、という私のような人でなくとも、きっと楽しめるでしょう。そこには、映画界という特殊な世界ではあれど、昭和初期の戦争を挟んだ時代の空気感、生活感が満ち溢れ、いきいきと迫ってくるからです。また、「無学」「耳学問」というのが信じ難いほど巧みな筆力で、人並以上の苦労も悲哀もまるで何てことのないドタバタ喜劇かのように笑いに昇華してみせる、その強さと健気さは一人の女性として尊敬の念を持ちます。中でも多くの頁をさいて綴られる戦中のエピソードは、他の類書にみられない独特で率直な視点があり、胸を突かれます。

  • 778.2

  • 励まされました、大女優なのにお金、名誉に執着せずに淡々と生きていく姿、いいね~

  • ほんとにたまたま出会って、悩まず買って、一気読み。
    そのまま、下巻を買いに走り、これまた瞬間読破。久々に引き込まれてしまったエッセイ?でした。

    生い立ちや、考え方はともかく、やはり東大入試問題にも使用されたのがうなずけるような文章の力にびっくり。
    最近では使わなくなったような言葉や言い回しがとても心地よく、使ってみたいと思い書きとめました。

    この一冊に出会って良かった。

  • 2012.8.25〜9.14 読了。
    これは出色の自伝だ。ある意味、悲惨な人生だが、思うところを包み隠さず表現しているし本人の性格がサッパリ、キッパリ、スッキリで心地よい。交友関係が大物ぞろぞろ(谷崎潤一郎、志賀直哉、梅原龍三郎、川口松太郎)だが美人女優という要素のほかに本人の気性と座持ちの良さが呼び込んだものだろう。河野一郎に”この女は只者ではない!”と思わせるところは面目躍如か。しかし、いくら5歳の子役からとはいえ300本を越える映画出演数はスゴイ。他のエッセイも読みたくなった。

  • 高峰秀子さん自身が著した自伝。
    5歳の時、養父に撮影所へ連れられ、
    期せずして女優の道を歩く。
    上巻は終戦までの歩みが書かれている。

    田中絹代、エノケン、入江たか子、杉村春子、黒澤明、市川昆、谷崎潤一郎などとの交流。当時の映画制作の様子。彼女の生い立ち。
    内容も文章もとても面白く一気に読み終えた。

    彼女の人生は実にドロドロじめじめしている。
    4歳で叔母の養女となり、芸能界で成功したかった叔母は、高峰さんを自分の分身、所有物のように扱う。
    そもそも叔母の芸名が「高峰秀子」ずばりだった。
    子役時代には、歌手の東海林太郎の異常なまでの溺愛に苦しみ、同時期には親戚9人を高峰さん1人で養っていた。まだ子供である。
    数回しか会ったことのなかった実兄は、怪しい商売を思いついては彼女の給料を無心する。彼女は女優を続けて金を稼ぐ他ない。
    そして戦争の混乱も経験し…

    そんな、私だったら確実にグレてる人生も、
    高峰さんの文章は実にカラッとして潔いので、暗い部分や恨み辛みも嫌味に感じない。
    もう1人の高峰さんが冷静に俯瞰している感じを受ける。
    彼女のサッパリとした性格、逃げられないと分かると腹をくくってその中で上を目指そうとする懸命さがこの文章に表れている。

    小学校もろくに行けず、無学コンプレックスに悩んだというが、
    高峰さんの表現力は実に素晴らしい。

    例えば、空襲の様子について。
    "B29の百機、二百機という大編隊の、大鮫の大群のような白い腹をふりあおいだとき…"

    人について
    "人間は本当に偉くなってしまうと、もろもろの虚飾やゼイ肉が蒸発して、地金だけが底光りしてくる"

    広辞苑を編集した新村先生は彼女の大ファン。
    和歌付きの手紙を送ってくれる先生のことをこう呼んだ。
    "八十三歳の光源氏"

    言葉のチョイスが素晴らしくセンスが良い。
    高峰さんに別の人生があったなら、私はコピーライターになって欲しいと思った。

  • 1924年、大正13年に生まれ、2010年の暮れに亡くなった高峰秀子自身が書いた半生記。文庫としては朝日、文春、新潮と3度目の刊行。おおもとは1975年の5月から翌年の5月まで「週刊朝日」に連載されたものである。

    生まれた家族のこと、養女にもらわれることになったいきさつ、5歳で子役デビューするに至った偶然から、映画界で生きぬいてきた年月のことが書かれている。そうした経歴の概略は、「芸術新潮」の特集号や、高峰の養女となった斎藤明美の本などでも読んでいたが、この文庫で上下2巻になる「渡世」日記はまたすごかった。

    13歳のころから、高峰秀子は無学コンプレックスに悩みはじめた。
    ▼同じ十三歳の女の子に比べて、自分は、なんと物知らずの人間なんだろう……。今でこそ「大学を出たってアホウもいるさ」などと、やけくそな啖呵の一つも切れるけれど、当時の私は純情だったから「小学校もロクに行っていない情けない奴」と、自分で自分をののしり、同じ年頃の娘に嫉妬した。(p.150)

    高峰の無学コンプレックスは、ずっとずっと彼女のうちに居座ったものとみえるが、一方でその無学ゆえに、自分はこうなのかもしれないと書く。たとえば谷崎潤一郎や新村出(広辞苑の編者)とのつきあいについて。

    ▼私は無学のせいか、こわいもの知らずで、「偉い人」を恐れない。あちらがたまたま「偉い」だけで、こちらが「偉くない」だけで、人間であることに変わりはないからである。
     しかし、この言葉を不遜と取られては困る。はじめからそう思っていれば、背のびをする必要もなく、肩もこらないからというのがその理由だが、そうは言うものの、いくら私が図々しくてもやはり偉い人に会えばガックリと疲れて、ふだんはかかない大イビキをかいて寝たりするらしい。(p.176)

    そして、大のデコちゃんファンであったという新村出に、谷崎夫妻の手引きで会ったあと、高峰秀子は谷崎にこんな手紙を出している。
    ▼…新村先生のようにはとうていなれないけど、どんな方の前に出ても背のびしたりちゞまつたりせず、自然にありのまゝの姿でぽかんとしていられる人間になりたい、というのが私たち夫婦の課題です。…(p.185)

    下巻は、ポツダム宣言受諾の後、終戦からの年月が書かれる。戦後の映画界の話、高峰の青春時代の話にも興味はひかれたけれど、いちばん印象に残ったのは終戦直後のことを書いたここだ。

    戦中に、高峰は「日本軍の兵士のために軍歌を歌い、士気を鼓舞し、一億玉砕と叫び、日本軍の食糧に養われていた」。食糧のみならず衣服も、民間では到底手に入らぬ立派なウールが日本陸軍から贈られていた。それが終戦から半年たらずで「今度は米軍の将兵のためにアメリカのポピュラーソングを歌い、PXのチョコレートやクッキーに食傷し」、アメリカ海軍から与えられた服地で仕立てたコートを羽織っていた。

    つじつまの合わない「昨日までの自分」と「今日の自分」、20歳すぎの当時を振り返り、そのうしろめたさについて高峰はこう書いている。

    ▼私の歌った「同期の桜」で決意を固め、爆弾と共に散った若き将兵も何人かはあったはずだ。私がみせた涙で「生」への決別を誓った軍人もあったに違いない。あの日の涙は、何人かの人間を殺している。私は「アーニー・パイル」のステージに立ちながら、混乱するばかりであった。(pp.11-12)

    アーニー・パイルは、米軍用に急遽改造された日比谷の東宝劇場である。

    自身を率直に書いていく高峰の筆はかなりおもしろく、私はこの渡世日記の上下巻を読みながらずいぶん笑っていたらしい。この年に高峰は何歳…と数えながら、たとえば私は5歳のころに、13歳のころに、20歳すぎのころに、何を思い、どんなことをしていただろうと考えたりもした。

    (上3/7了、下3/8了)

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著者プロフィール

1924年生まれ。日本を代表する名女優であり、歌手、エッセイスト。著書に『私の渡世日記』など。

「2018年 『あぁ、くたびれた。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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