おそめ―伝説の銀座マダム (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101372518

感想・レビュー・書評

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  •  なお白州次郎は『夜の蝶』に関して「まったく川口はひでえ野郎だ。勝手に人をあんなふうに書きやがって」と「おそめ」で気を許した女給に、苦笑して語ったという。
     考えてみれば、商売上ライバル関係あるふたりの女が、同じ男を取り合う、というのは、「春色梅児誉美」などにもみられる、ある種、古典的な一つの型である。川口はもちろん、そうした流れを踏まえた上で『夜の蝶』を書いたのだろう。

     門田は最初から最後まで、徹底して自分の金で飲んだ男だった。朝日新聞社会部の後輩たちを引き連れて、「おそめ」に通った。
     昔は、門田に限らず文士たちも皆、編集者を連れてきても、編集者の分まで作家が払ったという。しかし、昭和三十年代に入って、そんな出版業界のあり方も変わってゆく。出版社は次々と週刊誌を刊行し、月刊誌も増え、好景気に沸きだした。大衆化にいっそう拍車がかかり、新しいタイプの書き手たちが大量に迎えられるようになる。それはまた、文壇と呼ばれたものが崩壊していく過程でもあった。
     編集者たちは会社の金で銀座に繰り出し、作家もまた編集者に連れられて、その懐で飲むことが増えていった。門田は、そんな彼らを「乞食ども」と冷ややかに見たのだった。この頃、角田は親しい間柄にあった作家・大佛次郎に「お前さんの小説が面白くないのは、人格と教養が邪魔するからだ。小説はやつらにまかせておいて、市電のようなものを書いたらどうだ」と助言し、それが『パリ燃ゆ』といった一連のノンフィクション作品を大佛が手がける契機になったとも言われている。

     文壇、という言葉を持ってなにを指すかは人によって定義が異なるであろう。しかし、私は、高専前の純文学者たちが権威を維持していた時代の終結をもって、日本にあった「文壇」と呼ばれたものの形は潰えたのだと思う。「おそめ」は、まさに文壇の終焉を見届け、ともに滅びていったのではなかったろうか。
     確かに、その後も、いや、むしろ三十年代後半から四十年代以降、出版会は肥大化し隆盛を続けていく。だが、それはすでに昔とは大きく違う社会だった。作品は大量に書かれ、大量に消費され、忘れられていった。週刊誌が次々と発刊され、大衆化した活字文化が生まれた。作家と呼ばれる人たちも芥のように誕生している。しかし、それは決して、かつての「文壇」と同じものではなかった。だから私は、「おそめ」以降の店で、分断酒場と呼ばれるべきものは、ひとつもないと考える。それは単に、出版関係者や、作家たちが客に多いというだけのことではないか。「眉」にしても、「姫」にしても……。勢いづくマスコミ社会を背景に、書き手は安易に女の接待を受ける。作家は、銀座で飲めることで、かつてこの街に遊んだ文豪たちの列に連なったような錯覚に酔う。

  • 図書館で。
    小池都知事の本を書いた人っていうので読んでみました。随分作者はお染さんにほれ込んで書いてるなぁと思いました。

    銀座のマダムと言われても自分にはとんと縁の無い世界なのでそういう人が居たんだ~という感じ。個人的にはこういう女性は同性からは好かれないだろうな、と読んでいて思いました。自分が一番で、お姫様扱いされたいタイプというか。だから自分を可愛がってくれる年配の男性が好きだったんじゃないかな。「夜の蝶」を見てご自分がモデルになった役を「こういう人は嫌い」と言った辺りで、あぁ、うん、ワカルなぁと頷きました。同族嫌悪なんだろうなぁ。

    よくいえば天真爛漫なんだろうけど、悪く言えば世間知らずで考えなし。情が強い、んだろうなぁ。好きな人はとことん好きで尽くすけど、嫌いな人には笑顔も見せない(落籍せたダンナとか)辺り、女ってそういう所あるよな、と苦笑。女はちょっと抜けている方が可愛いなんて言う世代が代替わりしたら店も廃れていったというのはわかる気がする。

    まぁそれにしても付き添ったのはイヤな男だな。でもこういう男が好きなんだから仕方ないんだろうなぁ。

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    かつて銀座に川端康成、白洲次郎、小津安二郎らが集まる伝説のバーがあった。その名は「おそめ」。マダムは元祇園芸妓。小説のモデルとなり、並はずれた美貌と天真爛漫な人柄で、またたく間に頂点へと駆け上るが―。私生活ではひとりの男を愛し続けた一途な女。ライバルとの葛藤など、さまざまな困難に巻き込まれながらも美しく生きた半生を描く。隠れた昭和史としても読める一冊。

  • 夜、酒の入った時の話は皆したがらないだろうし、当時のお客さんも鬼籍に入られた方が多い中、取材には大変な苦労をされた事と思う。しかし、文壇の大先生、各界の著名人を集めたという秀の魅力、おそめの本当の魅力は言葉に表せない所に有るようにも感じた。夜の世界の何か上澄みだけを飲まされているような感覚が拭えない。
    年をとり、幻覚と現実の境目を失い始めた秀を見つめる著者の目線は暖かく、秀やその家族を守るためにあえて書かないことも多かったのではと推測した。そういう点では単なる暴露本ではない優しさをもったノンフィクションだったのかな。

  • ノンフィクション。夜の蝶という映画が観たくなる。

著者プロフィール

太田・石井法律事務所。昭和61年4月弁護士登録(第一東京弁護士会)。平成30年経営法曹会議事務局長。専門分野は人事・労務管理の法律実務。

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