黙示 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101390529

作品紹介・あらすじ

農薬散布中のラジコンヘリが小学生の集団に墜落する事故が発生。重い中毒症状に苦しむ子どもたちを目の当たりにした世論は、農薬の是非のはざまで揺れることに。その間隙を縫い、農薬を必要としない遺伝子組み換え食品を推進するアメリカの巨大企業と、日本の食品の買い占めを目論む中国……。私たちは何を選び、何を捨てるのか。日本の食のあり方を厳しく問う本格メガ・エンタメ!

感想・レビュー・書評

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  • 『黙示』真山仁著

    テーマ ★★★★★
    問題提起 ★★★★★
    現代社会とのつながり ★★★★★
    (直近の輸入食品中心とする、為替も理由として食糧高騰。)

    【A;購読動機】
    ハゲタカの真山さん。好きな理由は、新聞記者出身でいらっしゃるため、参考文献が豊富なうえでの展開であることです。
    過去、カジノ、地熱エネルギー、原発事故など社会性が高いテーマで展開されていました。
    今回のテーマは「食糧問題」です。
    ――――――――
    【B;テーマと登場人物】
    テーマは食糧問題です。増え続ける世界人口と不足しはじめている食糧を彫り上げます。

    日本は、自給率が低いです。
    どのように国内外から食糧を調達していくのか?という社会問題に切り込みます。

    登場人物は、農薬メーカー、養蜂家、そして農林水産省です。
    ――――――――
    【C;統計情報ほか】
    ①世界人口
    1986年50億、1998年60億、2010年70億、2022年80億人です。
    ②国内自給率/カロリーベース
    1990年48%2000年40%2020年37%
    ③遺伝子許組み換え食料/国内
    とうもろこし、大豆、菜種、じゃがいも
    ※すでに畜産の肥料として輸入されている。
    ④水耕市場
    土をつかわない農作物の製造。㈱グローバルインフォメーション調べ。
    世界2022年100億ドル。2030年301億ドル。
    ――――――――
    【D;物語】
    養蜂家では、最近、蜂が多く死んでしまう機会が増えました。農薬との因果関係が疑われますが、証明することができません。
    そんな中、誤った農薬散布方法が原因で、住民が重傷を負う事件が発生しました。

    農林水産省では、事件の原因が人為的なものであることとして処理します。
    また、農薬メーカーでは、正しい散布方法をさらに認知させるべく、マニュアルの見直しを図ります。

    農薬問題は、この段階でいったん沈静化します。

    一方で、別次元の課題がたちあがります。
    それは、温暖化よる干ばつ、そして農作物の大不況です。
    世界レベルで不作となり、国家間で食糧の輸出・輸入交渉が始まります。

    そこで、農林水産省は、自給率100%に近い米を中心に、生産ならびに輸出を強化するプロジェクトを立ち上げます。
    ーーーーーーーー
    【E;読み終えて】
    著者真山さんは、小説のなかで「知らないから怖い。だから(政策含めて)反対するのではなく、まず知ろうとする一歩目が大切」と記述しています。
    ・人口増加
    ・国内自給率
    ・減反よる減り続ける生産量
    ・遺伝子組み換え食品供給の世界的な状況

    わたくしが関心をもった内容が水耕栽培です。
    土をつかわず、工場内で農作物を生産するシステムです。
    ここ最近では、都市部のオフィスビル内部でも同様の試みが見られます。
    農家の後継者不足、天候による生産量の不安定さ、それが収入に直結することのリスク。こうした状況に対してのひとつの解決策になるのでは?と再認識できました。

    真山さんファンにはぜひ読んでほしい作品です。

  • 真山仁は、日本の様々な分野において問題提起をする。この黙示は、農業がこれでいいのか?ということを説く。根底には、日本の農業の再生をどう進めるのかにある。ここで、取り上げられるのは、農薬と遺伝子組み換えが主人公だ。
    小説では、農薬散布中のラジコンヘリが小学生の集団に墜落する事故が発生。この本が書かれた時にはラジコンヘリであったが、今ではドローンで散布する。また、病害虫のあるところに向けて集中的に農薬を散布することもできるようになってきている。少し技術は進歩しているが、テーマは変わらない。カーソンの「沈黙の春」の警鐘から、農業に携わる人々が農薬をどう捉えるのか?ということは、大きな問題でもある。農薬と化学肥料によって、農業の生産量は飛躍的に高まった。増殖しつづけるニンゲンの〈食〉をどう支えるのか?問題意識は、深いものがある。
    日本の農林省は、脱炭素社会をめざし、2050年までに農地の25%、100万ヘクタールを農薬と化学肥料を使わない農業へ拡大して行くという。現在の有機農業の面積は1万6000haであり、農業全体の栽培面積の0.4%だから、飛躍的な変化である。有機農業がなぜ広がらないのかという本質的な問題が明らかにされていない。相変わらず、農林水産省は勝手なこというご都合主義でもあるが、そうしなければならない環境を直視する農業を作る必要もある。
    ラジコンヘリの暴走と墜落。農薬が直接子供達に降りかかる。子供の中には農薬開発者の息子がいた。その子供は意識不明となる。自分のつくった物で、自分の子供が被害に遭う。それでも、農薬は必要と考える平井。
    戦場カメラマン代田がミツバチを育てる。代田は、農薬は 第2の放射能だという。
    現在ミツバチは急速に死滅している。害虫を殺すものが、ミツバチをも殺すのだ。アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジンなどのネオニコチオイド系農薬がミツバチを殺す。
    農薬開発者と平井とミツバチを育てる代田の対談がじつに興味深い。
    世界的な天候不順(地球温暖化)による干ばつによって、農業は影響を受け生産量が減少するとされる。その干ばつに対応する遺伝子組み換えトウモロコシが広がって行く。農業技術は、問題があればそれに立ち向かおうとする。農水省で農産物輸出のビジネス戦略を命じられる女性キャリアの秋田。「弱い」と言われる農業を何とか強くすべく、若手官僚として農業に対する方向性を探す。植物工場、アグリトピア、フードバレー、原村、淡路島とひろがる。平井、代田、秋田という三人の主人公が、日本の農業と食の安全について、それぞれの立場から悩み解決しようとする。
    中国が100万トンから400万トンの米を欲しがるという設定から、減反にたいする中国の提案。
    これが、実におもしろい。日本の人口が高齢化と減少の中で、農業の生産量が過剰になって行く。一方で世界は相変わらず人口増加していることで食料不足は想定できるので、日本の農産物を輸出するということも視野におく。この本の提起されていることに、日本人は立ち向かうべきでもある。
    ここでは、日本の肥料の過剰投入によって、環境を破壊し、地球温暖化を進める亜硝酸ガスの発生や農産物の硝酸態窒素の過剰について触れられていないのが、残念。日本の農産物の硝酸態過剰は、健康被害を起こし、病害虫を増やし、日持ちを悪くしてロスを増やしている。ヨーロッパの硝酸態窒素の基準をはるかに超えているので、オリンピック村の野菜は海外から輸入するということが起こっている。

  • 家人の購入本で、真山さんの作品であったので購読した。
    真山さんの作品であるからには、、、農薬、遺伝子組み換え食品を題材に巨悪の陰謀と闘う!、、、という先入観で期待したんだが、少し拍子抜けであった。

  • 大好きな作家な一人である真山さんの小説。

    今回のテーマは、農業(と言ったらよいのか)。
    小説内では、当初は農薬のマイナス面からスタートしていましたが、
    途中でGMOの是非にまで、テーマが多岐に渡っていきます。
    まさしく社会派小説。

    真山さんの小説は、初期のころはハゲタカに代表されるように
    ファイナンス寄りの小説だったように記憶していますが、
    最近は社会の問題に鋭く切り込んで、
    問題提起をするような小説にシフトチェンジしてきているのでしょうか。

    エンタメとしてのアップ・ダウンは今一つだったのですが、
    この小説を通じて、そこまで興味のなかった「食」という問題に関心を持つことができました。
    後半に行けば行くほど、面白かったです。

  • 食糧問題、官僚の悲哀。
    登場人物が多すぎたのか、総じて人物像がうすっぺたく、FPの女性の登場意義が全くわからなかった。
    農業の現状や問題点を知る、という点で読むのには面白かった。自分でも調べてみようと思わされた。

  • ラジコンによる農薬散布時の事故により農薬の使用に疑義が唱えられる。一方で大規模な旱魃被害により食料の安定供給の為、あるいは自国の人口増加による食料調達の為、GMO(遺伝子組み換え)を積極的に研究、採用するアメリカ、中国の両大国。GMOは農薬の代替となりうるのか。

  • すごい。
    この一言に尽きます。
    そして、私は、本当に無知だと実感させられました。
    巻末の参考文献の多さ、豊富さには、度肝を抜かされました。内容の濃さからして、相当調べてはおられるのだろうとは思っていましたが、まさかシェパードの飼い方まで参考文献があるとは。。。

    蜜蜂を殺すかもしれないネオニコチノイド系農薬、「ピンポイント」が誤って人に対して散布された。一時、命が危ない人までも居た散布事件で、農薬に対して批判が集まる。
    果たして、農薬は危険なのだろうか?
    それに対して、農水省では、植物工場やGMOを推進するプロジェクトを始めようと企んでる人たちがいた。
    私たちが、生きる上で欠かすことのできない食物。知らなければ、恐怖はなく声をあげることもない。知らない方が幸せなのだろうか。
    「ピンポイント」を開発した平井、養蜂家の代田、農水相の秋田。それぞれが思いを抱えて、誇りを携えて、そして未来の日本へ向けて、今を生きるーー

    農薬は必要悪か?
    私は、知らないことが多すぎる。
    だから、不安なのだと、この本を読んで思った。知ることの恐怖。
    でも、それと同時に、知ることで拓ける未来もあるのだと感じました。
    人はわかりやすいことが好きだ。だから、土屋宏美のような人がいて、それは、私たちの代表だと言っても過言じゃないのではないでしょうか。

    いつもこの著者の本を読み終えると、余韻が長い。感情や考えがわーって押し寄せて、だけどまとまらない。
    時間を空けて、感想書き始めたけど、結局頭の中でうまくまとまってないなぁと実感。
    時間の問題じゃなく、私の知識とかの問題かな。。。

    さおりが、なぜ登場して、去って行ったのか。
    私は、彼女がキーパーソンであり、何かこのことに絡んでたと思っていたので、ちょっと肩透かし。。。読みきれてないとこがあるのでしょうか??

    GMOやら農水相やら農薬やらの参考文献を読んだ上でもう一度読みたい。そう思える本でした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/764801

  • 農薬、遺伝子組み換え作物=GMO、
    食料問題について問うた内容。
    全く興味がなかった分野だが、
    この本を通して興味が持てた。
    先ずは巻末の参考資料を手に取って学んでみようと思った。

  • 2021年3月20日記述

    黙示(もくし)
    真山仁氏による著作。
    2013年(平成25年)2月に新潮社より刊行された。
    2015年(平成27年)8月1日発行(新潮文庫)

    ハゲタカや当確師などの著作を持つ真山仁氏の作品。
    1962年大阪府生まれ
    1987年同志社大学法学部政治学科卒
    同年4月中部読売新聞(のち読売新聞中部支社)入社
    1989年11月同社退職
    1991年フリーライターに
    2004年『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)でデビュー

    政治、経済を舞台とした作品が多いのだなと思った。
    著者は同志社大学法学部政治学科卒とあるのでその経歴から来る元来の志向と
    いうものも影響しているのだろう。
    当確師は以前読んだ事があった。この黙示も農薬や遺伝子組み換え作物に関して
    勉強になることが多かった。
    youtuberのマコなり社長やもふもふ不動産も語っていたのだけれど
    ハズレ回を上げては駄目だと。ただの数撃ちゃ当たるという作品発表は駄目。
    それは小説でも同様だと思う。
    同じ作者の作品を次読んでみようと思えるかどうか。
    ただ現実には官僚機構でここまで主体的な動きを見せる人たちっているだろうか。
    この日本で。第二次安倍晋三政権が出来て以降は恐ろしく主体性の無さが
    目につくようになった。米野太郎や秋田のような動き方、働き方が必要だ。

    あらすじ
    農薬を散布していた一機のラジコンヘリが、小学生の集団に墜落した。高濃度の農薬を浴びた少年は意識不明の重体に。少年の父親の平井は、農薬の開発責任者だった。
    事件の一部始終を目撃していた養蜂家でもあるカメラマンの代田は、テレビ番組で発言する。「農薬の恐怖は、放射能以上だと言っていいんじゃないでしょうか」。使われていた農薬は、ネオニコチノイド。ミツバチの集団失踪現象の犯人とも言われている薬剤だ。
    同じ頃、農水省キャリアの秋田一恵は大臣直轄のセクションに抜擢される。命じられた課題は、農産物輸出のビジネス戦略だったが…。
    女性キャリア官僚、農薬メーカーの開発者、カメラマン。3人の理想と現実、矛盾と葛藤、そして「危険な正義」。それぞれの戦いが交錯し、思いもよらぬ結末が待ち受ける。

    印象に残った点

    ラジコンヘリによる農薬散布では、人が散布するのに比べて濃度が100倍以上の
    溶液が使用される。

    農家が手塩に掛けて育てた農産物を出荷停止する痛手を、若森は理解していない。
    我が子を殺せと言っているようなものだ

    官僚とは、土だ。土は全ての実りの礎だが、土が痩せたり腐ってしまえば、
    まともな作物などできはしない。今の官僚は、それを忘れかけている。
    だから、おまえが身を挺して、コメのための土になれ。

    1960年代にアメリカの生物学者レイチェル・カーソンが「沈黙の春」で
    農薬の危険を訴えて、農薬に関する社会の関心は一気に高まった。
    だがそのブームが収束した後は、それ以上の大きな関心事にならないまま
    現在に至っている。

    反対ばかりしていても、何も変わらない。
    大切なのは前に進むことだと思う。

    対立からは何も生まれない。異論がある時こそ、相手を納得させるように
    話すのが大事だよ

    ハチは未来のために生きている
    種を守り、種の未来のためにプログラムされた生き方を貫くんだ。
    その掟に対してけなげなほど忠実なハチを見ていると、人間って
    なんて愚かな生き物なんだろうなあと反省する

    とにかく農薬散布は、除草と並んで重労働だ。
    散布回数が少なければ、それだけ農家の作業は楽になる。

    扇情的なニュースで人を動かしても、それは一過性のブームで終わる。

    感情を煽るようなやり方じゃ、結局は宗教論争みたいになってしまうでしょ

    紛争地帯を取材する中で、独裁者の狡猾さをいやというほど見てきた。
    彼らの多くはとにかく恐怖を煽って国民を混乱に陥れて、権力を握るのだ。
    知性や教養が豊かな人でも、恐怖に取り憑かれると脆い。
    そしてヒステリックな群集心理に同調していく。

    テレビのワイドショーや週刊誌などから得た偏った情報だけで、
    すべてを知った気になる賢いママの類だ。社会に対して問題意識を
    持つべきだと思うが、手当り次第に批判するのがいいとは思わない。
    問題を正しく理解した上で反応するならそれは素晴らしいのだが、
    生半可な情報で早合点して、自分は正しいとか、騙されたなどと
    騒ぎ立てるのは、知らないままでいるよりももっと不毛な気がする。

    子どもにとって家庭円満は重要案件だからね。

    どれだけ過酷な環境でも、生き残る生物がいる。
    子孫の繁栄をおびやかす脅威に直面しても、時に自らの体質を変えてでも
    生き抜こうとする。その強かさからすれば、農薬なんて所詮、
    子供だましに過ぎない。その一方で、人間は生命力をどんどん失っている気がする。

    農薬問題を知れば知るほど、農薬の無い社会は理想だが、現実的ではないかも
    知れないと思えて仕方ない。狭い国土で、そのうちの7割が山林という
    日本列島で、一億人以上が飢えずに生きるためには、農薬と賢く共生する
    必要があるのではないか。

    GMOを推奨する科学者達は、品種改良との最大の違いは「時間の短縮」だと
    主張している。すなわち、人力ならば数年あるいは10年余りを費やす品種改良が
    科学の力で瞬く間に行われるに過ぎないというのだ。

    所詮、農薬は道具です。上手に使えば、安価な農産物が手に入る。
    安全性だって絶対ではないものの、ある程度は担保されている。
    要は使い方なんですよね。なのに事故が起きると、全てを悪だと断じて
    危ないものは使うなと叫ぶ。それは現実を知らない者の、
    無責任なたわ言だと思うんです。

    危険性を知るのは、大事ですよ。むしろ知らずに生活している方が、危険です。
    だから、正しい知識を伝える人が必要なんです。

    私達は、万能感の錯覚に陥っているんです。でも、人間なんて無力ですよ。
    何より情けないのは、自分たちが生み出した流れすら止められないことです。
    だったら、それに抗わず、どう向き合い折り合うかを考えるべきじゃないでしょうか

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著者プロフィール

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。映像化された「ハゲタカ」シリーズをはじめ、 『売国』『雨に泣いてる』『コラプティオ』「当確師」シリーズ『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』『ロッキード』『墜落』『タングル』など話題作を発表し続けている。

「2023年 『それでも、陽は昇る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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