美麗島紀行 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101425603

作品紹介・あらすじ

美しき、麗しの宝島、台湾。数奇な運命を辿ったこの島に魅了された作家が、丹念に各地を歩き、人々と語らい合い、ともに食べ、その素顔にせまる。日本人の親友の妹と結婚した考古学者、日本統治下時代を「懐かしくて悔して」と語る古老、零戦乗りを祀る人々。彼らの面影には私たちが見失った私たち自身の顔も浮かび上がるのだった――。歴史と人に寄り添った、珠玉のような紀行エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 台湾を訪れたことはないが、今一番行ってみたい国である。といっても、私の中の台湾のイメージは、
    食べ物がおいしいらしい。
    親日で、東日本大震災の時には多額の寄付をしてくれた。
    最近ではコロナの状況下で先進的な対策を進めた。
    という程度で、台湾の複雑な歴史と日本との関わりについてはほとんど何も知らなかった。

    本書では、乃南アサさんが台湾に残る日本の形跡を訪れ、人々と話をしながら、台湾と日本の過去と現在、未来について考えた旅の記録である。彼女も私同様、台湾の歴史をほとんど知らない状況で旅を始めたため、彼女の想いが私と同化して、自分も一緒に台湾を旅している気分になった。

    台湾はかつて一度も独立国家であったことはないそうだ。時代ごとに異なる民族や国家が小さな島を支配し、住民はその文化を受け入れ、融合させて、多民族・多文化の現状を造り上げてきた。その中には、日本によって植民地支配され、日本国民として文化や言語を強要された50年間もある。
    そんな彼らがどうして親日になってくれるのだろう、と不思議に感じたが、当時の日本が列強に負けない近代国家として植民地支配を成功させたい、とインフラや都市計画に力を入れたこと、日本が撤退した後の支配と比較して、日本の方がましだった、という感情もあるようだ。
    さらに言うと、今自分がいる町を良くしたい、と骨身を惜しまず働いた日本人や、きわめて人間的な対応をした日本人がいて、彼ら個人の誠実さが結果的に現在の親日感情を形成している部分もあるような気がする。

    多民族国家である台湾だが、多くは漢民族で構成される。その中でも、第二次大戦前から台湾で暮らし、先住民族との混合が進んでいる「本省人」、戦後中国大陸から移住してきた「外省人」、古くに黄河流域から移動してきて、独自の言葉と文化を持つ「客家人」に大きく分かれるという。
    複雑な歴史的経緯から、台湾ではお互いのルーツの話はしない、話す相手によって言うことが自然に異なる、という特徴があるそうだ。そのような特徴を作り上げてきた一端を日本が担っていると思うと、申し訳なさといたたまれなさでいっぱいになる。

    本書では、台湾の歴史を振り返るだけでなく、現在の台湾の状況についても語られる。かつての日本植民地時代の建物を保存・活用しようという動き、中国からの文化ではなく、独自の文化を発信しようとする動き。
    かつて「日本人」だったからではなく、アニメなど現在の日本文化に興味をもつ若者が日本に親しみを持ってくれていることも知り、ほっとした。
    中国大陸から渡ってきたものを展示している『故宮博物院』は台湾の観光スポットとして日本でも有名だが、近年、台南郊外に、島が歩んできた歴史を展示する『国立台湾歴史博物館』もオープンしたそうだ。

    乃南さんのシンプルで読みやすい文章で、ほんの一端ではあるが、台湾のことを知ることができた。もっと歴史を勉強しなければ、と思うし、いつか台湾をゆっくりと訪れて、今の台湾についても知りたい。

  • 【聞きたい。】乃南アサさん『美麗島紀行』 「故宮」「屋台」だけではない台湾 | インタビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/508297

    乃南アサ 『美麗島紀行―つながる台湾―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/142560/

  • 台湾の歴史やその文化について。
    隣の国なのによく知らない、台湾の人は親日だ、この本はただの歴史だけじゃ無い
    台湾が辿ってきた道を記している。
    民族や日本統治時代の風土、出しゃばっていた日本なのにそんな風に優しくされていいんだろうか。

    近年の日本の災害にたくさんの支援金を送ってくださったのも台湾だとか。それもアメリカ同等と。
    人口やその富裕度では台湾の方が圧倒的に少ないのに、そんなにも支援してくださるなんて私たちもこの本のようにたくさんの台湾を知って何かのお返しをしなくてはと思う本でした。

  • 台湾はそのまま日本を知る重要な糸口となると著者。
    日本がかつての姿を捨て遮二無二猛進した理由、そして失ったもの、アジア諸国との関係、現代に繋がるそれらに我々は余りに無知だ…

    著者お勧めの一つ、国立台湾歴史博物館訪問熱が高まりました。
    東日本大震災の時に29億円もの多額の義援金を集めてくれた台湾。
    先の戦争を思うと何故?と僕は感じてしまうけど、この本をきっかけに、大切な隣人に対する尊敬の念と共に強い興味を惹かれました…

  • いつか観光に行きたいと思っていた台湾のことをなにも知らなかったことに気づかされた。台湾に日本語を話せる人がいるということ、日本の歌を歌える人がいるということ、東日本大震災のときに多額の援助をしてくれたこと。その理由を多くの日本人が知っておくべきだと思った。

  • 日本との繋がりが強い台湾。観光地としての側面ばかりではなく、日本統治時からの歴史を振り返りながら台湾の魅力を伝える。台北ばかりでなく台湾各地で垣間見れる日本の影響や統治時を経験した人々の証言などより台湾を知ることができた。

  • 日本の教科書で日本の"植民地支配"のことを学んだが、台南の国立台湾歴史博物館に行って日本の"統治時代"について現地で学ぼうと思った!

  • 台湾の各地を、日本とかかわる歴史と人に寄り添い、語り、歩く。

    歴史は変えられないから、いつも台湾における日本統治の歴史を思うと苦しくなる。
    歴史は知らないといけないし、学ばないといけないこと。

    未来の人たちがつらい思いをしないよう、戦争をしたり悲しい歴史を作ることは絶対にしてはいけないと強く思う

  • 「人気作家乃南アサが台湾各地を巡り歩き、台湾と日本の関係性についてその歴史から思いを馳せる異色の台湾紀行。叙情性あふれる文章に込められた著者の深い想いが全体を包む、台湾紀行の決定版ともいえる作品。」

    「『美麗島紀行』を読むと、たいわんお歴史、とりわけ日本統治下の歴史がよくわかる。にほんが台湾に総督府を置いたのは1895年のこと。以来50年に渡って日本の統治時代が続きました。オランダ、清、そして日本と、様々な国に翻弄され続けた歴史をもつ台湾。今では日本が台湾を植民地にしていたことを知らない人も増えているようです。そんな”忘れられた台湾”を知るのに最適な1冊。」
    (大居雄一『差がつく読書術』より)

    目次
    時空を超えて息づく島
    夏場も時代も乗り越えた小碗の麺
    牛に引かれて、ならぬ「牛舌餅」にひかれて
    台中で聞く「にっぽんのうた」
    道草して知る客家の味
    過去と未来を背負う街・新竹
    「お手植えの黒松」が見てきた歳月
    宋文薫先生夫妻
    淡水の夕暮れ
    矛盾と摩擦の先にあるもの
    日本統治時代の幕開けと終焉――宜蘭
    嘉南の大地を潤した日本人――八田與一
    「文創」が生み出すもの
    三地門郷で聞く日本の歌
    「帰れん港」と呼ばれた町・花蓮
    出逢いと別れを繰り返す「雨港」――基隆
    夕暮れの似合う街・台南ふたたび
    手のひらに太陽を
    「日本人だった」――台湾の老翁たちにとっての日本統治時代

  • 著者が本書のなかで会う台湾の人々は素敵な方ばかり。ただ日本植民地時代を懐かしむ様子は喜びや悲しみ、悔しさなど色んな感情が混ざり合い、複雑なものだと感じた。

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著者プロフィール

1960年東京生まれ。88年『幸福な朝食』が第1回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。96年『凍える牙』で第115回直木賞、2011年『地のはてから』で第6回中央公論文芸賞、2016年『水曜日の凱歌』で第66回芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞。主な著書に、『ライン』『鍵』『鎖』『不発弾』『火のみち』『風の墓碑銘(エピタフ)』『ウツボカズラの夢』『ミャンマー 失われるアジアのふるさと』『犯意』『ニサッタ、ニサッタ』『自白 刑事・土門功太朗』『すれ違う背中を』『禁猟区』『旅の闇にとける』『美麗島紀行』『ビジュアル年表 台湾統治五十年』『いちばん長い夜に』『新釈 にっぽん昔話』『それは秘密の』『六月の雪』など多数。

「2022年 『チーム・オベリベリ (下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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