- Amazon.co.jp ・本 (736ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102030073
作品紹介・あらすじ
孤児オリヴァー・ツイストは薄粥のお代わりを求めたために救貧院を追い出され、ユダヤ人フェイギンを頭領とする少年たちの窃盗団に引きずり込まれた。裕福で心優しい紳士ブラウンローに保護され、その純粋な心を励まされたが、ふたたびフェイギンやその仲間のサイクスの元に戻されてしまう。どんな運命がオリヴァーを待ち受けるのか、そして彼の出生の秘密とは――。ディケンズ初期の代表作。
感想・レビュー・書評
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いわずとしれたディケンズ初期代表作。運命に翻弄される孤児オリヴァーの波瀾万丈な少年時代、そして出生の秘密。
何度も映像化されていて見たことはないのだが、救貧院で薄粥のお代わりを求めるシーンが有名らしい。読んでみるとこれはひどい。貧民救済施設といえど、人を人間扱いしていないじゃないか!以下、当時の貧困層と弱者虐待の実態、低俗な人間の醜さが描かれ、作者ディケンズの痛烈な皮肉と風刺の切れ味がすさまじいほどに冴える。そのなかで前半はオリヴァーの逆境と克服が繰り返されるスリリングな展開が続き、先が気になって仕方なかった。
次第に集まってくる多くの登場人物たちの個性や配置が魅力的かつ巧妙だ。特に窃盗団たちの描かれ方は本作最大の特徴ともいえ、犯罪小説的な側面もある。善人と悪人がはっきりしていて、それぞれの人間性の程度にふさわしい結末が用意されているので、非常に健全なカタルシスが得られた。ただ、その意味では境界線にいる、とある少女だけは別で、ラストの文章など作者も特別な目線を捧げているのが印象的だった。
主人公オリヴァーは純粋無垢な少年だが、ひたすら運命に翻弄されるだけで、そこから特に成長するというわけではない。加えてあまりに都合の良すぎる巡り合わせが続いたり、後半はオリヴァーを置き去りにした展開になるなど、本作にはいくつかの欠点も見受けられる。しかし、そんなことは気にしなくてもいいじゃない、と言いたくなるほどのエネルギーとスピード感に満ちた大作なのは確かだ。700ページオーバー、面白いので一気に読めます!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
誕生の直後に孤児となり、オリヴァー・ツイストと名づけられた少年の物語。前半は救貧院における強欲な管理人による劣悪な生活や奉公先でのイジメ、ロンドンでの怪しい仲間たちとの出会いなど、つぎつぎと降りかかりる不幸と環境の変化に少年が耐える展開が繰り返されるが、後半は一転して風向きが変わり、さらに終盤は少年の出生の秘密へと焦点が移る。
本文中に「この伝記は~」といった表現が何度か登場しているが、本作で描かれるのはオリヴァー誕生から十二歳頃までであり、肝心のオリヴァー自身が成長するわけではなく、とりわけ後半以降は神輿に近い存在となっており、とうてい伝記モノとしての体裁はなしていない。ストーリー展開についても、終了時点では最重要となる人物が、物語前半の段階では伏線すらも張られていないなど、行き当たりばったりな印象は拭えない。このようなちぐはぐの原因については、1837~39年にわたって月刊連載の形式で発表された点を考慮すれば得心がいく。20代で本作を生み出した作者は、出生に秘密をもつ少年が波乱万丈を経て成功を納める伝記風の小説という大まかな構想をもとに連載を開始し、掲載後の読者の反応を受けて読者の好みに合わせて当初の構想から逸脱していったのではないだろうか。まさしく現代において、週刊少年漫画誌で連載を受け持つこととなった新人漫画家のようにである。
全体を通しての感想としては、700ページ超と一冊の小説としては長い紙数となっているが、本格的にストーリーが面白く感じるようになったのは500ページあたりからだった。そこまで読み進めてはっきり好感を持てなければ、普通は作品としての評価も決して高くないはずなのだが、通読した時点で満足させられてしまっていたのは終盤の追い上げも含めて、作者の腕力によってねじ伏せられたと思わざるをえない。
作品の具体的な魅力として、悪玉たちについての描写が第一に挙げられる。登場人物が明確に善悪二分される本作において、フェイギンやサイクスといった悪党たちこそ人間としての奥行をもって描かれており、とりわけ終盤の悪党たちの末路は、情景と彼らの心理があいまって、本書最大の見せ場となっている。そして、ただひとり善悪に分類できない少女が、架け橋として重要な役割を果たしている。 -
初めてのディケンズ。
先が気になって一気読み。
キャラがとても特徴的なので、名前でこんがらがることがなかった。
舞台化にぴったりだと思った。
悪党のターンがあんまり多くて長くて、なんでこんなシーンを長々と読まなきゃいけないんだとイライラしたりもしたけど、なんだかんだ面白かった。
最終的にはすっきり勧善懲悪。
神様とお金が世界のすべてのようなところは、この時代の特徴なんだろうな。 -
もともとこの夏はディケンズ作品を読もうと思っていたが、ちょうど来月からオーブでこの作品のミュージカル版が上演されるとのことで、一作目は『オリヴァー・ツイスト』にした。
700ページ越えだから早々に挫折するかと思っていたけど、2日で終わった笑
先の展開が気になるように伏線をはるディケンズの手腕を感じましたね…。
酷い場面や恐ろしい場面、血生臭い場面と、安心してほっとできる幸福な場面が交互に描かれて、ある種のスリリングさがあった。
救貧法や新救貧法についても後から調べて勉強になりました。
オリヴァーを中心とした周囲の様々な階級、職業、地位の人々の描写を通して、新救貧法という制度が社会に何をしていたかを露わにするような作品。
実際、この作品が為政者を動かす世論づくりに貢献したという。
エンタメ小説っぽい展開なんだけど、社会批判的視点も含まれているという大衆受けとのバランスがちょうど良かったのかなと。シンプルにオリヴァーが可哀想でこれ以上酷い目に遭わせないで!って思うもん。オリヴァーの描写は当時の子ども観らしく純粋ではあるものの、お母さんを侮辱されたら(責められたほどではないけど)暴力も振るうし、At the Back of the North Windのダイヤモンドよりは全然ましだったかな。
反対に、邪悪または愚かな人々の描写一言一句に大袈裟な皮肉が込められていて面白かった。ただし、偏見が色濃いユダヤ人のフェイギンの描写が舞台版でどう描かれているか気になる。
ちなみに教区吏のバンブル氏は「尊大な下っ端役人」という意味で普通名詞bumbleになっているとか。
女性の描写も結構興味深かった。親切で心の美しいお嬢さん、生まれ落ちた環境のために悪の中で生きざるを得なかったがいまだ優しさや情など女心のようなものを持つナンシー、バンブル氏を尻に敷く抜け目のない夫人などなど…
ヴィクトリア時代の小説の女性も家庭の天使って感じのが多いけど、バンブル氏の夫人はかなり痛快だった。
あとフェイギンの一味の中でも、ナンシーや、少年(名前ど忘れした)は改心の余地があるように描かれていたが、ナンシーはサイクスを愛したがために自ら囚われたまま結局殺されることとなり、まだ若い少年は抜け出すことができたというのも興味深いと思った。
まだチケット取ってないけど、ミュージカル版観たいなと思う。 -
イギリス文学の傑作、ディケンズ読むならこれ! みたいな話を聞いたので読みました。
確かに面白い。しかもエンタメ作品として。
タイトルはオリヴァー・ツイストだが、オリヴァー以外の登場人物にもポンポン視点が移る群像劇。恩田陸並みに登場人物がたくさん出てくるのでメモ必須。
文章はとにかく皮肉まみれで思わずニヤリとさせられる表現が多い。キャラはみんな個性が尖っていて特に悪人の描写が上手い。
文学的にどうこうは置いといて、ヴィクトリア朝イギリスの風俗小説として、メロドラマとしてなどの俗っぽい楽しみ方もできることは特筆すべきである。
ただし、ストーリーの構成がガタガタで最後の方などオリヴァーが出てこなくなるので、その点はマイナス。 -
あ〜面白かった〜と声が出てしまうような読後感。小説を読むことの原初的な喜びを思い出させてくれる作家。
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役者あとがきにある通り、人物が生き生きとしている。
オリヴァーや女性たちが受ける扱いは本当にひどかった。この時代では当たり前のことだったのかと思うと、現代に生まれた幸せを感じる。 -
■”小公女”セーラは、命が危険にさらされたとき彼女のスタンド【リトル・プリンセス】が発動される。その際どんな陰惨なイジメにあっていようと、また、一日中こき使われたあげく晩メシ抜きで屋根裏部屋に押し込められていようと、彼女は瞬時に「わたしは今、スッゴイごちそうに囲まれた最高にハッピーなお姫様なの!」という”気分”になることができ、そのせいでありとあらゆる困難を克服することができるのだ!
■それにひきかえ、このオリヴァー・ツイストの無能ぶりはどうだ? 悪党の一味に引き入れられて泥棒にまで身を落とす。しかし善良なお金持ちに拾われてお屋敷の中で暮らす。再び悪党に連れ去られて生死の境をさまよう。次は別な金持ちに救われて大切に育てられる。あっちに突き飛ばされェ、こっちに引きずりこまれェ、病気になったりィ、おシャレしたりィ、ケガしたりィ……。最後、悪人たちは次々と自滅していって、晴れてオリヴァーはお金持ちの仲間入り、と。……いや待て、ひょっとして彼はそういうスタンド使いなのか? 主体性を持たず、ただボケ~っとしてたら最後に金持ちになれるという能力の!?
■そもそもこの作者の発想というのが………
・”血筋が良い者たち”は、①品があって顔が美しい。②どんな劣悪な環境に置かれても悪の道に進まない。③当然金持ちであってしかるべきである。
・逆に”汚れた血が体に流れている者たち”は、①見た目がいやらしい。②悪いことするしか能がない。③むごたらしく死ぬのがお似合いである。
・特に”ユダヤ人”は、①皆に嫌われている。②人の金を横取りすることだけに長けている。③死ぬのは当たり前だが、まずは発狂してからのハナシである。
………う~む。偏見にもホドがある。こんなの令和ニッポンで出版しててもいいのか? ただし、こんな不自然な日本語を最後まで読むのはよっぽどの物好きだけだから、日本ではこの本、実質発禁扱いなんですけどね。 -
子供の頃に手にとっていたら夢中になったかもしれない。
ストーリーとしては、善玉はとことん善良で、悪玉は救いようもなく邪悪な定型的なメロドラマ。
ただ、社会の最下層で押し潰されそうになっている人々の悲嘆や、それにも負けずずる賢く立ち回る悪人たちの描写が奮っている。あまり当時のイギリスの世相に詳しくないけど、かなり風刺も入っているのかな?と思わせた。 -
イギリス文学をかじろうと邪な気持ちで手にとってみた。
19世紀の中旬の刊行。著者は、貧困階級を主人公とし、弱者の視点で社会を風刺したチャールズ・ディケンズ。
孤児として生まれた主人公が、泥棒集団の仲間に入れられるものの、泥棒は失敗に終わり誤認逮捕された主人公は上流者階級に引き取られる。泥棒集団は彼の口から内実がバレることを恐れ主人公を捕らえようとする。
往時のイギリス社会の貧富の差が垣間見える作品。イギリス社会は決して裕福さだけで語られるものではない。話が冗長に感じられるのは、自分の忍耐力が減ってきたからだと思う。反省。