ずっと本棚に置きっぱなしになっていた小説。古いイギリスの小説らしく、主従関係や異民族を見下すのが当然という風習をベースに登場人物間の愛憎が繰り広げられていて、時折その表現の露骨さや登場人物の吐くセリフに生理的嫌悪感を催すこともありますが、読み応えのある小説です。
200年ぐらい前の小説を読むと、多くの場合は単に時系列で話が進んでいって、登場人物も時間軸に応じてどんどん入れ替わることがあるのですが、この作品はかなり人間関係が複雑。そのうえ、一応はこの小説の主な登場人物の一人であるはずのロックウッド氏の生きている時の数十年前の時代が小説の軸であり、その軸の部分を語るのがロックウッド氏の仮住まいに仕える女中、ネリーであるという入れ子構造が、この小説の階層を厚みのあるものにしています。
ネリーは、ストーリーの多くに関わってはいたものの、嵐が丘に住んでいるヒースクリフやヘアトン・アーンショーやキャサリン・リントン、かつてそこに住んでいたヒンドリー・アーンショーやリントン・ヒースクリフ、さらにロックウッド氏が借りているスラシュクロス邸にかつて住んでいたエドガー・リントンやキャサリン・リントン(母)、イザベラ・リントンに比べると、少しだけ人間関係の枠の外にいる立場です。その立場から、第三者の視点で物語を語っているため、「自分で見たこと以外は分からない」という話し方になります。今の小説では普通の手法だと思いますが、昔の小説でこのパターンを取るものはあまり多くない気がします。その分、語り手であるネリーの推測なども恐らく混じっているはずで、そこに人間臭さというか、不完全な語り手の妙が感じられます。
上巻は、アーンショー家にジプシーの子であるヒースクリフが拾われ、ヒースクリフとキャサリンの友情が育まれる一方でヒースクリフとヒンドリー・アーンショー、エドガー・リントン、イザベラ・リントンと諍いが生じていった少年期がまず展開されます。そして、長じたヒースクリフとキャサリン・アーンショウがお互いを愛し、必要としながらも、身分の違いからキャサリンがエドガー・リントンを夫とし、それに絶望したヒースクリフが失踪した時期、さらに数年後にどこかで富を蓄えたヒースクリフが嵐が丘に戻り、ヒンドリーやその息子であるヘアトン、キャサリンを奪ったエドガー、そして自分を裏切った愛憎入り混じるキャサリンへの復讐を始める時代へと展開していきます。上巻の最後にキャサリンは発狂して死に、お腹の中にいた赤子は助かって母親と同じキャサリンという名を与えられたことまでが述べられています。
下巻でヒースクリフの復讐と愛情、憎しみがさらにどのように進んでいくのか。ワクワクする楽しみではなく、暗い楽しみではありますが、下巻のストーリーにも期待しています。