誰がために鐘は鳴る(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102100165

作品紹介・あらすじ

1930年代後半、スペイン内戦。共和国側の義勇兵であるアメリカ人ジョーダンは、山峡の橋の爆破を命ぜられる。協力するゲリラ隊には、腹の読めないパブロ、女傑ピラール、そして敵側に両親を殺された娘、マリアらがいた。無垢なマリアと恋に落ちたジョーダンだが、死を賭した作戦決行が数日後に迫っていた。内戦取材を元に、激動する運命と愛を生々しく描き切る、ヘミングウェイ畢生の大作。

感想・レビュー・書評

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  • 1930年代のスペイン内戦が舞台。義勇兵のアメリカ人ジョーダンが、現地ゲリラ隊と協力し橋の爆破を決行する。その3日間でマリアという女性と恋をし刹那的な幸福を享受しながらも、いざ命を賭して敵と対峙する。登場人物が非常にユニークで、読者を引き込む大きな要素となっている。また、戦争という過酷な状況がリアルに描写されており、ひしひしとその緊張感が伝わってくる。人間としての弱さや欲望と葛藤しながら、正義という建前のもとに使命を全うしようとする彼らの姿は、非常に頼もしくあり、美しくもあり、悲しくもあった。


  • 1930年代のスペイン内戦を舞台にした話。共和国側の義勇兵米国人ロベルトジョーダンの橋爆破作戦とマリアとの恋、戦争の悲しさを描いている。協力するゲリラ隊のパブロ、ピラール、アンセルモなど特徴あるキャラ。作戦準備とマリアとの出会い・恋が上巻の主。アルセルモの、戦時中とはいえ殺人に対する自戒と罪の意識の想いなど兵士の辛さなども描かれる。

  • 『誰がために鐘が鳴る』

    年寄りになって賢くなるのではない。用心深くなるのだ。『武器よさらば』

    だれかを信頼できるかを試すのに一番いい方法は、彼らを信頼してみることだ。

    あちこち旅をしてまわっても、自分から逃げることはできない。

  • ▼「誰がために鐘は鳴る(上)」ヘミングウェイ。初出1940年。新潮文庫、高見浩訳。
    「キャパの十字架」に向けたロードマップの一環。キャパ→スペイン内戦、という訳で。
    スペイン内戦を舞台にしたジョーダンとマリアという男女の物語。

    ▼スペイン内線は

    A【ファシスト;フランコ;独裁;ヒトラーが支援】



    B【共和国;義勇兵;パルチザン;共産主義;スターリンが支援】

    とが1936−1939の期間(つまり第二次世界大戦直前まで)戦って、Aが勝つ訳です。

    ✴︎スペインはなんと1975年まで全然自由も民主主義もない恐怖の独裁国家になります。当然ながら資本主義的なビジネスの発展には限界があります。資本主義は自由主義の養分で育ちますから。

    ✴︎75年にフランコが逝去して、フランコの遺言で政権を得たカルロス1世が、予想に反して自由主義国家に転換するまで続きます。スペインでは1977年に総選挙が行われますが、これがなんと41年ぶりの総選挙でした。

     このAとBの戦いだと、「共産主義にもファシズムにも反対」という政府はどっちにも味方ができない。アメリカやイギリスです。そこで、そういう国々から義勇兵が参加します。つまり「反共産主義」よりも「反ファシズム」の方が重かった人たちですね。
     1930年代ということは、第一次世界大戦も終わり、欧米先進国ではジャーナリズムがかなりもう栄えていますから、このスペイン内戦は非常に話題になります。まだ世界大戦は起こっていないので、対岸の火事、戦争はいつだって最大のショウになります。
     そして、ヘミングウェイさんを最大の筆頭に著名人・文化人が義勇兵として参加した訳です。

    ▼というわけで実際にスペイン内戦の現場を知っているヘミングウェイが書いた「誰がために鐘は鳴る」。
     ジョーダンはアメリカから語学留学か何かでスペインに来て、そのままスペインで語学教師とかしている流れで義勇軍に参加。色々あって爆破爆弾のプロである。30代とかか。スペイン語は喋れる。さて、またとある重大な「厳密なとある日時に、とある橋を爆破する」というミッションを負って、とある地方にやってくる。そこには一癖も二癖もある、裏切りそうだったり、粗野そのものだったりするようなパルチザン/山岳ゲリラのスペイン共和国派の人々がいて、ジョーダンは迎え入れられて爆破の準備にかかる。下見したり、計画練ったり、爆破後の脱出を考えたり。そこで出会うのが、マリア。
     マリアは内戦のゴタゴタで酷い目にあった若い美女。酷い目って言ったって服が汚れたとかそういうレベルではなくて、身内が殺されて自分も汚された、みたいな次元です。今はこの山岳ゲリラグループの煮炊き手伝いみたいな立場。この二人が会った瞬間、恋に落ちます。

    ▼この恋の成り行きと、ジョーダンの仕事がうまくいくのか?というサスペンスが、まあ大体3対7くらいの割合で描かれる。主人公はジョーダン。ジョーダンの意識で描かれる。これが結構サスペンス。緊張感。(恋愛はそうでもない)

    ▼と言いながら実は、ジョーダンの仕事話の半分以上は、ジョーダンがパルチザン兵たちから聞く過去の話に費やされます。ここで何が描かれるかというと、「ゲンナリするような、胸が潰れるような、戦争の正義をめぐる残酷さ」。これが圧巻。舌を巻きます。

    ▼つまり、前記のようにイデオロギーや政治体制をめぐる争いなんで、例えば一個の街を、どちらが支配しようが反対側の住民が弾圧される。弾圧って便利な言葉ですが、要は正義の名の下に殺される。それでいてまた敵軍に奪われると今度は逆のことが起こる。顔見知りが殺し合う。正義の名の下に。みんな家族の誰かは殺されている。そんな体験をジョーダンが聞く。それをヘミングウエイが執拗に描く。なるほどそれがやりたかったのか。さすが。

    ▼というわけで多分上巻は全部で48時間くらいの話で(笑)、あんまり物事は進まないけれど、小説世界の精神的展開と、恋愛の展開だけは怒涛のペースで進みます。下巻へ。オモシロイ。

  • 長い1日。教養がないとつらい。

    何ページにも渡る回想や独白にSTAND BY MEを思い出す。
    アメリカ文学らしいと言っていいの?
    日本語に訳すと似たような雰囲気になるのかもしれない。

    戦いと洞窟とジプシーの匂いが強烈で目に沁みる。
    下巻も頑張って読んでみる。

  • 「老人と海」が面白かったので、引き続きヘミングウェイを読んでみた。

    最初の50頁くらいまでは正直読むのがしんどかった。
    話が中々動かず、なんてったって先が長い。
    進みが悪いまま何日も放っておいていた。
    でも無理やり読み進める途中から、いつの間にかどんどん引き込まれていき、
    そこからはあっという間。二日間で400頁弱を読み切った。間違いなく面白い。

    話は中々進まない。
    ロバートが任務を遂行する準備をしているといえばそうなのだが、
    仲間集め以外特に何もしないまま、上巻は終了する。
    わずか2日間のそれだけの出来事に、450頁あまり。
    しかし、描写は非常に緻密で、心情の葛藤がとてもリアルだ。
    登場人物は皆とても生き生きして、人間らしくて、
    脇役にもいつの間にか愛着が湧いてしまう魅力がある。
    ピラールなんて、もう大好きだ。
    人間とはどんな生き物なのか、
    その悪癖も、愛すべき優しさや美徳も含め、
    スペイン内戦という極限の状況を舞台に情熱的に描いている。

    下巻がとても楽しみになったし、
    ヘミングウェイの他の本ももっと読んでみたくなった。


    《マリアとすごせるときは、もう二夜とない。一生涯を共に暮らすこともかなわず、並の人間に与えられているいかなるものも、二人で共有することはできない。一切、できない。あるのは過ぎ去った一晩、過ぎ去った午後、そして、これから訪れる一晩。たぶん、それだけだ。そう、それだけだ。

    時間。幸福。娯楽。子供たち。わが家。浴室。清潔なパジャマ。新聞の朝刊。二人して目覚めること。目を覚まして彼女を見、自分が一人でないと知ること。それらの一切が、おれたちからは奪われている。まったく存在しない。だが、それが人生で得られる望みのすべてなら、そうだとわかったのなら、せめて一晩くらい寝具の整ったベッドで寝たとしても、バチはあたるまい?

    いや、それもいまとなっては見果てぬ夢だ。かなわぬ夢だ。》ーーー345頁

  • 1930年代のスペイン内戦。
    共和国側の義勇兵として参加したアメリカ人のジョーダン。橋の爆破を命ぜられ、協力するゲリラ隊とともに山間に潜み決行を待つ。ゲリラ隊の頭・パブロ。魅力的なパブロの妻・女傑ピラール。そしてジョーダンが恋に落ちるマリア。文体、情景描写、人物造形、やっぱりヘミングウェイはいい。
    作戦はうまくいかないかもしれないし、自分は死ぬかもしれないとどこか悟っている。にもかかわらず、敗北主義や厭世観にとらわれない。いま目の前のことを一生懸命やる。その一瞬に賭け、瞬間に情熱を燃やす。そこに生の手応えを探り、充実を求めているジョーダンの姿が読ませる。

  • ヘミングウェイの上巻を苦戦しながら読んだ。
    三島と同様にページをめくる手は鈍く、洋書かつ古い作品の難しさを知った。何故難しいのかを考察すると、一つは表現の遠まわしぶり、二つ目は人物のその場その場での考えと思いが読みとりづらいためであると、思う。
    今、ロベルトジョーダンは怒っているのかいないのか、はたまた悲しんでいるのかどうかも曖昧な為、前後の文章から空気を読めずに、述べられた事実しか分からないのが辛い。小説を読む上で、余すところなく堪能し、自らの血肉にしたい思いに反した行為を続ける不徳が、己を苛む動機になっているからだろう。
    ただ、マリアを愛する心の描写は良かった。また、これまでのイメージしていた戦争とは国と国の戦いだが、今作は主義主張の違う内戦なので、日本人に馴染みのない分野なのも先に進みたくても進めない理由の一つだと思う。この国は内戦というものに危機感と歴史的体験が、敗戦によって上から強く塗りつぶされてしまったのかもしれない。
    下巻はいよいよ行動に起こすが、ここは一つ、折れた竜骨と、人間失格でインターバルをおこう。
    ページをがんがんめくる楽しさを、自己満足の為には必要だね!

  • 主人公が次第にゲリラのメンバー達に感情移入していくのをこちらも感じながら共感して読んだ。作戦の達成はブレることはなく、冷静でいると言い聞かせるも、どこか昂っている自分に読者である自分も感じる。パブロとの二度にわたる緊迫のシーンは、読み終えると思わず息が漏れた。

  • 『この世は美しい戦う価値がある』

    フィンチャーのセブンでも引用されてる

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著者プロフィール

Ernest Hemingway
1899年、シカゴ近郊オークパークで生まれる。高校で執筆活動に勤しみ、学内新聞に多くの記事を書き、学内文芸誌には3本の短編小説が掲載された。卒業後に職を得た新聞社を退職し、傷病兵運搬車の運転手として赴いたイタリア戦線で被弾し、肉体だけでなく精神にも深い傷を負って、生の向こうに常に死を意識するようになる。新聞記者として文章鍛錬を受けたため、文体は基本的には単文で短く簡潔なのを特徴とする。希土戦争、スペインでの闘牛見物、アフリカでのサファリ体験、スペイン内戦、第二次世界大戦、彼が好んで出かけたところには絶えず激烈な死があった。長編小説、『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』といった傑作も、背後に不穏な死の気配が漂っている。彼の才能は、長編より短編小説でこそ発揮されたと評価する向きがある。とくにアフリカとスペイン内戦を舞台にした1930年代に発表した中・短編小説は、死を扱う短編作家として円熟の域にまで達しており、読み応えがある。1945年度のノーベル文学賞の受賞対象になった『老人と海』では死は遠ざけられ、人間の究極的な生き方そのものに焦点が当てられ、ヘミングウェイの作品群のなかでは異色の作品といえる。1961年7月2日、ケチャムの自宅で猟銃による非業の最期を遂げた。

「2023年 『挿し絵入り版 老人と海』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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