誰がために鐘は鳴る(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102100172

作品紹介・あらすじ

マリアとの愛とゲリラ隊の面々への理解を深めていくジョーダンは、華やかで享楽的なマドリードにマリアを伴う未来を夢想する。だが、仲間のゲリラ隊がファシスト側との凄絶な闘いを経て全滅し、戦況は悪化。ジョーダンは果たして橋梁爆破の任務を遂行することができるのか──。スペインを愛し、その過酷な現実を直視したヘミングウェイが書き上げた、戦争の意味と人間の本質を問う渾身の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 1930年代のスペイン内戦が舞台。義勇兵のアメリカ人ジョーダンが、現地ゲリラ隊と協力し橋の爆破を決行する。その3日間でマリアという女性と恋をし刹那的な幸福を享受しながらも、いざ命を賭して敵と対峙する。登場人物が非常にユニークで、読者を引き込む大きな要素となっている。また、戦争という過酷な状況がリアルに描写されており、ひしひしとその緊張感が伝わってくる。人間としての弱さや欲望と葛藤しながら、正義という建前のもとに使命を全うしようとする彼らの姿は、非常に頼もしくあり、美しくもあり、悲しくもあった。

  • 下巻。
    デヴィッド・フィンチャーの「セブン」の最後にヘミングウェイの引用がある。
    「この世は素晴らしい。戦うだけの価値はある」。この台詞は、本作の主人公が最期に自分の人生を振り返って回顧する言葉である。知らなかった。
    スペイン内戦に義勇兵として参加したジョーダンが最後まで戦い抜く。愛する人と仲間がいて、おのれの信じたことのために戦った。ジョーダンにとってこの世界は素晴らしい。そして戦うだけの価値がある確かなものがあった。そう確信できた。短くも儚くとも、何も文句はないではないか。よき思い出をもって、充実した生を過ごせたと述懐する末期に感じ入り、また羨ましくもあった。

  • 知恵と勇気と愛のどうのこうのでなく、山の中でひっそり生まれいずる反戦文学。

    マリアとの愛の描写はお上品で儚すぎる。
    そちらはすっかり松葉に埋もれ、ジプシーたちとの大層味の濃い交流戦が台頭し続けていた印象。

    しかし、主人公に生きることの喜びを与えるのはマリアの方なのだ。

    上下巻の数%にしか満たない彼女とのやりとりが、彼を彼たらしめる。

    非戦下の我々の人生もそんなものだろうか。
    束の間の恋や愛で生きている感じがする。
    生きていていい、生きていてよかったと感じる。

    動物である以上、身体の機能や本能に種の繁栄が絡むとすると、刹那の恋で子孫を残せれば生物として正解判定で、幸せを感じるようにできているのだろうか。

    最近人間の恋する気持ちの意味が気になって仕方ない。

  • ▼「誰がために鐘は鳴る(下)」ヘミングウェイ。初出1940年。新潮文庫、高見浩訳。
    「キャパの十字架」に向けたロードマップの一環。キャパ→スペイン内戦、という訳で。
    スペイン内戦を舞台にしたジョーダンとマリアの物語。

    ▼下巻、圧巻でした。脱帽。たいへんにオモシロかった。
     ヘミングウェイさんはかなり、数十年以前?に「老人と海」を読んで、「すげえ」と思ったんですが(細部完全失念)、同等かそれ以上の衝撃でした。

    ▼戦場の混沌と不潔と悪臭の中にたたき込まれる。吐きそうな悪臭をはなつ人間たちが、ラストに向けてモノスゴイ熱量で愛を感じさせられる。何万何十万何百万という人の死が波打つ「戦争」の中で、小さな小さなひとり、一組の男女、数人のグループの生死に迸るような感情移入。これは映像フィクション作品でもドキュメント映像作品でも、漫画にしても追いつかないですね。文字だけから読み手の脳内で連鎖炸裂する想像力ってものだけがなし得る業でした。何かへの怒りの中に、それでも「現実の片方の陣営を美化する」如き精神が皆無。冷徹。深い。すごいモノを読んでしまった感。

    ▼骨太で、主題がブレずに広がりが豊穣で、人間ドラマで、エンタイメントで、陰鬱で痛快で衝撃で、クラシック(古典)ならではの普遍性に満ち満ちて、その叫びのような訴えは瑞々しいまでに現在でも生々しい肌触り。トルストイ=ドストエフスキーのレベルでした。

    ▼(以下、ネタバレを含みます)
    結局やはり、上下巻を通して4日間の物語でした。
     山岳ゲリラの長だが常に裏切りと背中合わせのパブロ。パブロの妻で強烈に頼りになるピラール、運命の恋人マリア、猟師で最後まで人命を奪うことに罪悪感を抱くアンセルモ、側面協力のはずが途中で壮絶に息絶えるエル・ソルド、そしてその他の登場人物たちも、とにかく強烈に描かれて愛おしい。作家の力量。みんな人間くさくて、欠点まみれのなかに光がある。
     予備知識ゼロで読んだので、最後までジョーダンがマリアと生き延びる結末を固唾を飲んで熱望して…そして読み終えました。
     何重にもはりめぐらされた、生の希望と死の予感のジェットコースターの中で、やっぱり圧巻だったのは「裏切ったはずのパブロが戻ってきた瞬間」でした。
     そしてキャラクターとしては圧倒的にピラールが輝いています。人間くささの中に、煌めくような信念と優しさ。

    ▼そして死を迎える主人公ジョーダンの心境描写に、本当にガツンとやられました。
     なるほど、これがやりたかったのか。もとから戦争の「正義」というものに距離を取りながらも、ファシズムへの怒りで動いている主人公(ヘミングウェイさんの心情ですね)。しかし味方の「正義」だって完全には信じられない。そんな心情、ややニヒリズム。したがって、ジョーダンは目的主義の目線だけでパブロ軍団を見ていた。なんだけど、最後には彼ら彼女らの「正義」ではなくて「人間」に共感していく。全く自分と異なる人間を、深いところで共鳴していく。

    ▼恥ずかしながら最後まで「あれ?タイトルの意味って触れないのかあ」と読了したんですが、解説を読んで「あっ!」と思って大冒頭の引用句を紐解いて。

    「誰が死んでもわたしの一部が死ぬ」
    「誰のためにあの弔鐘は鳴っているのかと あれはあなたのために鳴っているのだ」

    ウクライナに象徴される2022年末現在、全く他人事ではない。

    歳末に読書の快楽でした。ありがたや。

  • 死の任務までの凝縮された4日間。マリアとジョーダンの、あり得ないと分かっているマドリードでの幸せな暮らし。死ぬ直前までソルドやジョーダンは生き、話し、青空を眺め麦畑を夢みて松葉の匂いを嗅ぐ。その強烈かつ平穏な生と、あっという間の死。
    橋の爆破までが長く、戦闘シーンの分量はとても少ない。絶望の中の最後の輝きといった終わりも良かった。

  • ジョーダンの最期に息を呑む。自殺と闘いながら、何かのために少しでも長く生きる道を選ぶ。死はすぐそこなのに。

    宗教のいい意味でのこびりつき方の描写が見事だった。

    組織のしがらみの苦々しさも。

  • ヘミングウェイの有名な長編だが読んだことのある人は案外少ないのではないか?

    僕の中で「小説というものは物語がまず軸にあり進んでいく」という思い込みを覆された作品。
    最低限の情景描写はあるものの、あとは登場人物の自問や独り言が8割くらいを占めている。
    それなのに読ませる。1000ページで実質3日間しか経っていないのにである。
    ちょっとこれは真似できないテクニックでなかろうか。
    ハードボイルド小説と呼ばれているらしいが、ノーベル賞作家である文豪の凄まじさを知るには十分過ぎる程濃厚な作品であった。

  • 作中経過する時間は4日程度。
    その間の主人公ジョーダンの心情の独白を丁寧に描写しながら進行していく。
    その描写は細かく、情景は目に浮かび、土や木の匂いまでが感じられるようだ。
    その空気をまるごと感じるように読み進めていくことが、自分とヘミングウェイとのちょうどよい距離感だとわかった。

    とはいえ、時代のせいか国柄のせいかわからないが、ヨーロッパの作家たちの作品に比べるとやや戸惑う記述も少なくなく感じられた。


  • 作戦準備と決行、結末までの話。最期はマリア達を逃がすために、傷つきながら敵兵を撃とうとする場面で終わり。全体を通して数日の話。平和を想像しながら、戦う兵士達から戦争は悲しい話だと感じる。決行までがかなり長く間延びする感があり、戦場でここまでの恋が生じるものなのだろうかという気もした。名作ということで読んでみたが、まあまあ面白いくらいな感じ。

  • 遂に読み終わったヘミングウェイの作品。
    原文の翻訳が上巻同様に難解なのでパワーを沢山使った。
    当時の時代背景、価値観を知らないので理解出来ない点は沢山あるが、人生の理不尽さは凄い。戦争の悲惨さも、あくまで戦争が悪いのではなく、人生、世界の与える罰だから受け入れなくてはならない、という考えだと思う。
    戦争はいけない事だと責任をぶつけるのではなく、意味がない事だと分かりつつも受け入れて全力で生きる姿に美しさを感じた。
    美しいと感じるということはつまり、その姿を肯定、尊敬してるんだと思う。

    アメリカ人のロバートジョーダンが橋の爆破でスペインに派遣され、現地ゲリラのパブロ達とファシストと戦うのだが、アンセルモのじいさんのけなげさと人殺しへの抵抗とそれを行う諦め、すべきことをなした後の扱いには戦争というよりも世の中の冷酷さに悲しくなった。
    マリアの一途さには恋の美しい憐憫さと不幸への予感を感じずにはいられない。
    作者もこの物語に関わりがある点は読んでてくみ取ることが出来た。
    パブロの処刑は道徳的、集団心理的に許せないが、この悪も世の中の一部であり、無能な指揮官同様に、味方の全てが善ではなく全体を蝕む毒、アレルギー反応のような存在も持つことをワールドワイドに教えてくれた。

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著者プロフィール

Ernest Hemingway
1899年、シカゴ近郊オークパークで生まれる。高校で執筆活動に勤しみ、学内新聞に多くの記事を書き、学内文芸誌には3本の短編小説が掲載された。卒業後に職を得た新聞社を退職し、傷病兵運搬車の運転手として赴いたイタリア戦線で被弾し、肉体だけでなく精神にも深い傷を負って、生の向こうに常に死を意識するようになる。新聞記者として文章鍛錬を受けたため、文体は基本的には単文で短く簡潔なのを特徴とする。希土戦争、スペインでの闘牛見物、アフリカでのサファリ体験、スペイン内戦、第二次世界大戦、彼が好んで出かけたところには絶えず激烈な死があった。長編小説、『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』といった傑作も、背後に不穏な死の気配が漂っている。彼の才能は、長編より短編小説でこそ発揮されたと評価する向きがある。とくにアフリカとスペイン内戦を舞台にした1930年代に発表した中・短編小説は、死を扱う短編作家として円熟の域にまで達しており、読み応えがある。1945年度のノーベル文学賞の受賞対象になった『老人と海』では死は遠ざけられ、人間の究極的な生き方そのものに焦点が当てられ、ヘミングウェイの作品群のなかでは異色の作品といえる。1961年7月2日、ケチャムの自宅で猟銃による非業の最期を遂げた。

「2023年 『挿し絵入り版 老人と海』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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