1982年アメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞
原題は『Hoodwink』(目隠し)
私は6千冊以上のパルプ・マガジンを収集していて、それが警官になり、私立探偵になった動機でもある。
サンフランシスコの探偵事務所でパルプ・マガジンを読んでいると、その著者のラッセル・ダンサーが訪ねてきた。
往年の作家からなる<三文文士の会>のメンバーに脅迫状が送られてきたので、調査を頼みにきたのだ。
脅迫状は、短編小説『目隠し』のコピーと30年前、それを盗作して映画『ガス燈の悪魔』の脚本を書いた証拠があるというものだった。
パルプ・マガジン大会に招待された私は、<三文文士の会>のウエイド夫妻の娘ケイトと知り合う。
その夜、何者かがウエイド夫妻の部屋に侵入し、夫人のスーツケースから拳銃を盗んでいった。
翌日、ダンサーの部屋に向かう途中で銃声が響いた。
部屋に入ると、編集者フランク・コロドニーの射殺死体の横に、ダンサーが拳銃を握って立っていた。
銃声のあと部屋から出てきた者はなく、ドアはロックされており、密室状態だった。
ダンサーは隣室のイラストレーターのオジー・ミーカーを訪ねたが不在だったので、部屋に戻り寝た。物音で起きてくるとコロドニーが倒れていて、拳銃がおちていた。コロドニーを部屋に入れた覚えはないという。
コロドニーは前日、ミーカーと言い争いをしていたが、事件当時、ミーカーは大会の事務局長ロイド・アンダーウッドとイラストの展示をしていたと証言した。
言い争いの原因は、コロドニーが30年前、作家から原稿料をネコババし、出版社が倒産すると姿をくらましたことだという。
<解決篇>
『目隠し』には美術用語が多いことから、作者はミーカーではないかと思いつく。
アンダーウッドからミーカーの住所を聞き、会いに行くが、そこでミーカーの死体を発見する。
アトリエは荒らされていたが、扉は内側から鍵がかかっていたため、はしごに昇っていてバランスを崩し、斧の上に倒れて頭を割ったと警察は判断した。
ウエイド夫人はコロドニーと昔関係があり、それをネタに脅迫されていたので、拳銃で彼を脅したという。
さらに、『ガス燈の悪魔』の映画化権を売ったのはコロドニーだった。
アンダーウッドからコロドニーの住所を聞き、アリゾナまで行くが、家は荒らされていた。
外に出たとたん銃撃され、車のタイヤを撃ち抜かれ、家の中に逃げ込んだ。
武器は手斧のみ、窓は鉄棒がはめてあり、出口は正面の扉だけだった。
斧で天井に穴をあけると、そこに鉄製の金庫が隠してあった。
金庫には脅迫のネタになる写真や手紙が入っていた。
それから錯乱状態のふりをして男をおびき出し、屋根に昇り、窓から中を覗き込んだ男の上に飛び降りた。
倒れた男はアンダーウッドだった。
コロドニーはミーカーに脅されたので、彼を殺すために銃を盗み、部屋に行った。
ミーカーがダンサーの部屋との境のコネクティング・ドアの鍵をはずしておいたため、二人は格闘しているうちに、ダンサーの部屋に転がり込んでしまった。
そしてコロドニーが撃たれ、ミーカーは自分の部屋に逃げ込んで鍵をかけた。
二人が格闘しているのを目撃したアンダーウッドは、金を一人占めするためにミーカーを殺したと自供した。
密室殺人については、ミーカーの人差指に裂傷があったのが決め手だった。
ドアの近くに立てかけたはしごにミーカーの死体をよりかからせ、ドアの鍵をボルトがおりる直前まで回して、鍵のつまみの穴にミーカーの人差指を入れた。
斧を置き、釣り糸で梯子の脚をしばり、糸をドアの下に通す。
そしてドアの外に出て糸を引っ張ると、はしごが倒れ、ミーカーの死体が倒れるとき、彼の指先が鍵をまわしたのだ。
コロドニーの家もミーカーのアトリエも室内は荒らされていたが、パルプ・マガジンだけはそのままだった。
<シュリッツ・ビール> 酒はビールと決めている探偵が自宅で飲んでいる。