EU版FBI、ユーロポールに所属するプロファイラー、クローディーン・カーターの活躍を収めた短編集。プロファイリングがテーマとなっているので事件はおのずと猟奇性を帯びたものばかりになってしまう。
スペインを舞台に闘牛を模した連続殺人事件が起こる「最後の被害者」。
パリのセーヌ川に次々と浮かぶダウン症患者の溺死体の犯人を追う「屍泥棒」。
オランダで起きた十字架に磔にされたキリストのような十代の若者の死体が連続する「猟奇殺人」。
コペンハーゲンで行われるプロファイリング捜査の国際会議に出席中に起きるハイジャック事件と直面する「天国への切符」。
ベルリンで続発するセックス産業の元締めとその恋人の惨殺事件を扱った「ロシアン・ルーレット」。
フランスのリヨンの山奥でコミュニティを形成する聖人を自称する男と対決する「神と呼ばれた男」。
ロンドンで起きた切り裂きジャック事件を髣髴する婦女強姦事件を捜査する「甦る切り裂きジャック」。
イタリアで続発する麻薬過剰摂取による若者の死の謎を追う「モルモット」。
世界的に有名な興行主の息子が誘拐された事件を元FBIの私立探偵チームと競い合いながら解決に向かう「誘拐」。
ドイツで相次いだ老人宅への強盗犯罪がナチの亡霊を浮かび上がらせる「秘宝」。
獄中の大実業家が自分の身の潔白を証明するために検察に殴り込みをかけ、事件の洗い出しを要請する「裁かれる者」。
そしてベルギーの富豪の息子である人喰い魔を追う「人肉食い」
これらヴァラエティに富み、しかもヨーロッパ諸国にそれぞれ舞台を変えて展開する物語。
こうやって書くとかなり面白く思えるのだが、さにあらず、正味30ページ前後の短編では、シナリオを読まされているような淡白さでストーリー展開に性急さを感じた。
なぜこのように淡白に感じるかというと、被害者の描写が単なる結果としか報告されないからで、あまりに省略された文章は読者の感情移入を許さないかのようだ。
あと、ちょうど島田荘司氏の『ハリウッド・サーティフィケイト』を読んだ後では、これら猟奇的事件の衝撃がさらに薄まって、驚きに値しなかった。
全12作の中でよかったのはリアルタイムで事件が進行し、タイムリミットが設定された「天国への切符」とイタリアで蔓延する新型麻薬が実はハンガリーの新型麻薬の開発のために、人間を実験動物の代わりにしていたという真相が意外だった「モルモット」ぐらいか。
2006年現在ではほとんど手垢のついた題材で新味がないというのは事実。
とにかく読中は小説を読んでいるというより、1話完結のプロファイリングをテーマにした連載マンガを見ているかのようだった。仕事仲間のロセッティとフォルカーと主人公クローディーンとの関係が進展しそうでしないのもちょっと肩透かし。このシリーズはまだあるみたいなので今後に期待するか。