- Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102200063
作品紹介・あらすじ
人間の脳下垂体と睾丸を移植された犬が、名前を欲し、女性を欲し、人権を求めて労働者階級と共鳴し、ブルジョワを震撼させる(「犬の心臓」)。ある動物学者が発見した生命光線を奪った役人の過ちにより、大量発生したアナコンダが人々を食い荒らす(「運命の卵」)。奇妙な科学的空想世界にソ連体制への痛烈な批判を込めて発禁処分となった、20世紀ロシア語文学の傑作二編を新訳で収録。
感想・レビュー・書評
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現代ロシア文学とまではいかないがソビエト連邦時代に活躍したロシアの作家ミハイル・ブルガーコフを読んでみた。
カテゴライズするのが非常に難しい小説であるが、むりやり当てはめるならSFになるのだろうか。
『犬の心臓』『運命の卵』の両作品とも非常に風刺の効いた作品である。
どちらも天才科学者がとんでもない発明、発見をするはなしであるが、これが面白い。
『犬の心臓』では、人間の若さを維持するために動物の臓器を人間に移植するのだが、あるとき、犬に人間の臓器を移植してみたらという話である。
『運命の卵』は、科学者が偶然、生物の成長を著しくスピードアップさせる光線を発見してしまい、それを政府が悪用した(悪用するつもりはなかったのだが・・・)というはなしである。
非常に当時のソビエト連邦政府を小ばかにしたというか、皮肉を言いまくっているところが面白い。
特に本書は、注釈が細かくついておりその当時の様子がよくわかる。
ロシア古典文学にはまっていた僕であるが、いやいや、近現代のロシア文学も面白いじゃないですか(笑)。
この調子でどんどんいってみましょうかね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ウクライナ出身(当時はソ連)の作家による、ソ連の政策などを風刺を交えて痛烈に批判しながらも、それだけには飽き足らずSFなどいろんな要素をぶっ込んで生み出された傑作。と私は思う。
読むのになかなか時間がかかったが、当時のソ連の情勢について詳しくなかったから、ところどころ注で解説してくれたので、面白かった。
当時のソ連の状態を風刺しているが、ソ連だけでなく、人類全体への警告と捉えてもいいかもしれないと読みながら思った。
犬の心臓は、コロフが気の毒で、なんとも言えない読後感だった。フランケンシュタインを連想させた。
運命の卵は山椒魚戦争を連想させた。
しっかり理解し切れたとは全く言えないけれど、物語として読み継がれるべき本だと思う。 -
「犬の心臓」とあるので、犬の心臓を移植するのかと思いきや、人間の下垂体を犬に移植するという話だったので、ちょいと驚き。
飢え死にする手前だった犬の「コロ」が、医者によって拾われ、悪魔の実験により「コロフ」という名の人格を認められる。
けれど、彼の使う語彙は、それまで彼の耳に入ってきた猥雑で汚いものばかりだったというのは皮肉。
それは「失敗」だったのだとしたら、一体何が「成功」だったというんだろう。
人を新たに作り出すことの、倫理と狂気の境目は、少しずつ曖昧になってきているように思う。
「運命の卵」では、偶然発見された赤い光線を当てると、生き物の成長速度が極端に早まり、また子孫を多く残した上、その形質は子孫にも保有されることが分かる。
カエルの実験を成功させたペルシコフの元に、公文書がもたらされ、赤い光線の実験がソフホーズで展開されることになる。
作品自体はフィクションだけど、これ、ウイルスって考えたら……という話だよなぁ。
人間が生み出したものを、人間では手に負えなくなる、よくあるテーマだけどソヴィエトという社会背景と織り混ぜて、上手く描かれている。
確かに発禁処分なるだろうし、仕事もらえなくなるよな、この作家さん。と思いながらも、自分専用に生かしておいたスターリンも、ヤバい。 -
Na図書館本
とりあえず流し読みでした -
社会主義体制を諷刺する作品を発表したため、
生前は冷遇されたという
20世紀ソヴィエトの作家・戯曲家、
ミハイル・ブルガーコフの中編小説2編。
奇天烈な事態に巻き込まれる人々の
ドタバタが描かれており、
読み進めながら笑ってしまったが、
作品に込められた意図、批判精神を想うと胸が痛くなる。
「犬の心臓」
ロシア革命後のソヴィエト体制下、
人間に虐待された犬を優しい紳士が救ったかに見えたが、
彼=フィリップ・フィリーパヴィチ教授には
マッドサイエンティスティックな目的があった。
犬は教授の実験台になり……。
楳図かずお『洗礼』愛読者もビックリ!
なストーリー(笑)。
教授の思惑と行為は
ヒトをそれまでとは違う新しいヒトに作り変えようとする
全体主義国家のあり方と二重写しになるが、
彼自身も事態の成り行きに翻弄され、疲弊するのだった。
「運命の卵」
モスクワ動物学研究所の所長であるペルシコフ教授は
両生類・爬虫類研究の第一人者。
1928年の夏、実験中に異変が起き、
特殊な光線を浴びた蛙の卵が異常なスピードで孵化。
教授はこの光線を用いた実験を進めたが……。
事態が人間の思惑を超えて惨劇に発展する
パニック・ホラーとも言える作品だが、
自分の研究以外に興味を持たない教授のキャラクターのせいか、
独特のおかしみがあって笑ってしまった。
作者が戯曲家でもあったせいなのか、
ブラックユーモアの滲む、
笑える恐怖映画のような雰囲気。 -
SFという形を借りて倫理を問う。作品の内容もゾッとするが、いつ殺されるかわからない社会でこれを書いてのける作家にも恐れをなす。人間がどんなに想像を逞しくしたところで、この世で一番こわいのは獰猛なアナコンダなどではなく、人間そのものなのだ。そしてそのこわさの源泉は人間の愚かさである。人々の幸福に資するためであれば何をしても良いのか?自分が他人のためにしていると思っていることが本当に他人の幸せにつながっているのか?間違いを犯したときに責任を取るのは誰なのか?様々な問いが湧いてくる。科学の進歩は人類の繁栄をもたらしたけど、その代償も大きい。そして実験には失敗はつきものだというのには、社会体制も含まれるのだな。ロシアは物理的な距離だけでなく、精神的な距離も遠い、と感じてしまう。
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新潮文庫からブルガーコフの新訳。「運命の卵」のほうは岩波文庫で読んでいたけど「犬の心臓」が読みたかったので。二作どちらも科学者(?)が発見した特殊な技術により、生物が変貌をとげ人間をパニックに陥れるという共通点があり、良い組み合わせ。
とりあえず初読の「犬の心臓」について。死んだばかりの人間の脳下垂体を犬に移植する実験のせいで、どんどん人間化しちゃう犬。言葉を喋れたり二足歩行するようになるのは悪いことじゃないけれど、いかんせんどうやら、移植元の人間の人格のほうに問題アリだったようで、おバカでも素直で可愛げのあったワンちゃんが、手術した博士とその助手に「身の毛がよだつような人間のクズ」「まったく信じられないようなクズ」と、さんざんクズよばわりされるようになってしまう(苦笑)
序盤は犬目線での語りだったので、ユーモラスで可愛かったのだけど、中盤人間になってからは周囲の人から見たそのクズっぷりばかり強調されてて可哀想。本人(犬)はどう感じてたのかな。第三者である読者の目からは、周囲の人間たちもそれぞれ醜悪なのだけれど。終盤はアルジャーノンよろしく、もとの犬の知性に戻っていくのだけれど、やっぱり犬のままのほうが幸せっぽい。
当時のソ連の歴史的背景をかなり皮肉っているようだけど、単純にSFファンタジーとして読んでも十分面白い。-
オススメしていただいたブルガーコフ、読みました!「犬の心臓」、無垢なコロちゃんがクズ人間に成り下がってしまい、教授同様読んでいるこちらもげん...オススメしていただいたブルガーコフ、読みました!「犬の心臓」、無垢なコロちゃんがクズ人間に成り下がってしまい、教授同様読んでいるこちらもげんなりしました。コロフが吐く汚い言葉や粗野な行動は周囲の人間を真似ているというのがまた皮肉ですね。思わず我が身を振り返っちゃう。
「運命の卵」はめちゃめちゃ怖かったです。寒波で死に絶えるというのは強引な結びだなあと思いましたが(^_^;)どちらの作品も、教授がいかにも自己中心的な俗物っぽいのも面白いですね。自分のしでかしたことの深刻さに耐えられないちっぽけな人物が大きな力を持ってしまうことへの警鐘なのでしょうか。2017/10/24 -
マヤさんこんにちは(^o^)
「犬の心臓」おバカだけどピュアなコロちゃんが「クズ人間」とまで呼ばれるようになっちゃうというのはホント皮肉で...マヤさんこんにちは(^o^)
「犬の心臓」おバカだけどピュアなコロちゃんが「クズ人間」とまで呼ばれるようになっちゃうというのはホント皮肉ですよね。もう人間全般がクズなんだとしか・・・(^_^;)
「運命の卵」、私は「怪獣大行進!特撮映画みたい!」って感じで結構楽しく読んでしまいました。ブルガーコフって、結構映像化むきの作家なんじゃないかと密かに思っています。2017/10/26
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二つの話が収録されている。どちらの話も当時のロシアへの痛烈な皮肉があの手この手の表現を尽くしてか書かれていて、ロシアで発禁になるのも仕方がない。逐一注釈が同じページにあるし、最後の解説でもあるのでロシア文学に詳しくなくても楽しめる。著者は劇作家でもあることから劇にも造形が深く、かといって耽美的な描写というのはほぼ縁遠く、比喩表現も喜劇のように読み手に受けることを確信した語り口でテンポ感もある。
何が斬新かって、未来❨それも2、3年先くらい❩を勝手に捏造ししかもあたかも事実のようにピシャリと書いてしまうというところ❨しかも世界的な出来事ではない。注釈は入っている❩。いつか地球が一度滅んで、後の生命体がこれをうっかり見つけでもしたら信じられてしまうのではと勝手に心配してしまう。
どちらの話も人間が恐ろしいものを人間の手で産み出してしまう、というテーマで書かれている。犬の心臓はまだ喜劇の範疇で収まるが、運命の卵は途中から突然マジで深刻な描写ばかりになるので度肝を抜かれた。途中まで軽妙で機知に富んだ語り口でユーモラスに話が進んでいたので油断した。そういうのに弱い人は注意。個人的にはスリリングで、どうやって収集をつけるか気になって最後まで読んでしまった。 -
『犬の心臓』
物語の筋らしい筋が展開されるまでが冗長すぎるように思う。革命後の社会に対する嫌悪と恐怖がやや粗雑に表出してしまっている印象があり、性急なテンポの文体とも相俟って、あまり面白く読めなかった。風刺のための戯画が、人間や社会というものにどうしようもなく刻み込まれてしまっている深淵に沈潜していこうとしているようには感じられなかった。
ただ、高度に発達した科学技術によって「人間」が「新しい人間」を創造してしまうということはどういうことか、という「創造主」問題には興味を惹かれた。「産み出す」主体(meta-level)と「産み出される」対象(object-level)とが、同じ「人間」であるということはどういう事態なのか。階層上の混乱か。「人間」を不当に特権化しているだけなのか。もしそうだとするならば、「人間」を不当に特権化したがる傾向、その無意識の根拠は何なのか。人間が作りだすロボットや人工知能が人間の社会でどのような権利と責任の主体となるべきなのか、という倫理学の問題とも通じるような気がする。
また、創造の原初に孕まれる暴力ということも考えさせられた。「私のもうひとつの仮説は次のようなものである。コロの脳は彼が犬として生きてきた間にいろいろな概念を貯め込んだ。コロが最初に使い始めた言葉はどれも、路上で使われているような言葉ばかりだった。コロがどこかでそれを聞いて、脳に保存したのだ」