小公子 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102214053

作品紹介・あらすじ

アメリカに生まれた少年・セドリックは、大好きな母や周囲の人々の細やかな愛情に包まれ幸せに暮らしていたが、名も知らぬ貴族の祖父の跡継ぎになるためイギリスへ渡ることとなった。祖父は意地悪で傲慢で、アメリカという国を嫌っていたが、セドリックの純真さに心動かされ、次第に変化していく。だがそこへ真の跡取りを名乗る者が現れて──。川端康成の名訳でよみがえる児童文学の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 最初から、最後まで、素晴らしい翻訳でした。

    少年セドリックは、イギリス人の父とアメリカ人の母、家族三人慎ましくも愛情溢れる生活を送っていた。美しく、愛らしく、賢いヒューマニティの宝石箱の様な少年は、周囲の人たちにも愛されていく。
    父親の死後、突然、父の祖父から伯爵家の後継としてイギリスに迎えられる。
    小公子となったセドリックは、慈愛溢れる言動で、頑なな祖父伯爵の心を、領民の信頼を得ていく。
    川端康成の名訳(共訳で後に改修もあるらしいけど)の小公子セドリックに、すっかり癒されます。

    私は「少年少女世界の文学・アメリカ編」で、小公女・小公子をはじめ読みましたので、川端訳だったようです。
    そして、贅沢に川端康成から子供達へ「小公子」の本を読む前にという言葉が掲載されています。(なぜか、最後に)セドリック愛に溢れた文章です。
    そして、優しい先生のような文章です。
    ほんと、児童文学の名作です。

  • 『小公子』(1886)は、『小公女』(1905)と並び、フランシス・ホジソン・バーネット(1849-1924)の代表作です(もう1つ、よく知られている作品に『秘密の花園』もありますが)。
    金髪の巻き毛で人懐こいかわいい男の子、セドリック。父を亡くし、母と一緒にニューヨークで暮らしています。質素な暮らしですが、素直なセドリックは、優しく美しい母、多くの親しい人々に囲まれ、幸せな日々を送っています。
    ある時、イギリスから驚くような知らせが届きます。セドリックはドリンコート伯爵である祖父の跡継ぎとなり、イギリスのお城に迎え入れられるというのです。セドリックの父は伯爵の三男でした。若くしてアメリカに渡った父は、祖父の知らぬ間に母と結婚していました。アメリカ嫌いだった祖父は激怒し、親子の縁を切ってしまいました。しかし、長男・次男が不慮の事故で亡くなった今、伯爵家を継ぐのはセドリックしかいないというのでした。セドリックは伯爵家の次期当主、フォントルロイ小公子となるのです。
    セドリックと母は戸惑いながらもイギリスへと渡ります。しかし、いまだに母のことを認めていない祖父は、セドリックのみを家に迎え入れ、母は近くの別の家に住まわせます。セドリックは大好きな母と離れて淋しくてなりませんでしたが、持ち前の素直さと明るさで、頑固で自分勝手な祖父の心を徐々に溶かしていきます。
    どんな人にも分け隔てなく接するセドリックは、貧しい人たちにも親切にして彼らを助け、領地の人々もそんなセドリックを愛するようになります。ケチで尊大だった伯爵もセドリックのやさしさに触れ、困っている人たちを援助するようになっていきます。
    ところがそんなある時、伯爵の長男の嫁とその息子と称する親子が現れ、こちらが正統のフォントルロイ小公子だと主張します。もしそうであれば、セドリックは伯爵にはなれないことになります。さぁどうなるのでしょうか。

    古くから親しまれている「小公子」の物語、こうして読み返してみると、起伏のあるおもしろいストーリー展開です。
    伯爵は頑固で癇癪持ちです。3人の息子のうち、長男・次男は今一つ出来が悪く、三男を愛していたのにちょっとしたすれ違いで縁を切ったまま死に別れてしまいます。初めて会う孫は本当に愛らしく素直で、頑なな老伯爵の心もほぐれていくのです。このままめでたしめでたしとなるのかと思うと、もう一山、というのもおもしろいところです。
    紆余曲折がありながらもハッピーエンドに落ち着く全体の構成も安心感があり、ああよかったねと誰もが胸をなでおろすことでしょう。

    三人兄弟、思わぬ幸運と何だかおとぎ話のような趣もあります。
    セドリックがちょっとよい子過ぎて、いささか現実味がないようにも思うのですが、ここは素直にほほえましい彼の魅力を受け入れるべきなのでしょう。
    何せ、フォントルロイ小公子は読者の心も射抜き、挿絵に描かれた黒のベルベット製で白いレースの襟のついた服は、フォントルロイ・スーツとして大流行、母親たちはこぞって自らの幼い息子に着せたといいます。また、英語でFauntleroyというと、一般名詞として「(過度に)丁寧で身なりのよい子」を指すようで、その大ヒットぶりがしのばれます。

    バーネットはもともとイギリス生まれですが、10代でアメリカに渡ります。本作はアメリカで爆発的にヒットし、のち、イギリスでもよく売れたようです。
    セドリックのニューヨークの友人がイギリスの貴族についてやや偏見を持っていたり、伯爵がアメリカを見下していたり、といった描写もあるのですが、当時のアメリカとイギリスの距離感を想像させておもしろいところです。
    各国語に訳された本作、邦訳もさまざま出ていますが、新潮文庫版は川端康成訳を採用しています。川端名義ですが、実際のところ、共訳者とされている野上彰が大部分を手掛けたといってよいようです。
    「小公子」という絶妙の訳は川端・野上のオリジナルではなく、元々は、原作刊行のわずか4年後(明治23年)に邦訳の連載を始めた若松賤子(しずこ)によるものです。原題はLittle Lord Fauntleroyですが、これをすぱっと「小公子」としたセンスはすばらしいと思います。のちの「小公女」(Little Princess)と対になるところもよいですね。
    こうした時代背景や翻訳事情にも触れた巻末の鴻巣友季子の解説も読みごたえがあり、作品世界が広がります。


    *以下、蛇足ですが。
    おじいさんはドリンコート伯爵(Earl of Dorincourt)ですが、セドリックはドリンコート小公子ではなく、フォントルロイ小公子(卿)(Lord Fauntleroy)と呼ばれます。イギリスの爵位はいろいろ細かい決まりがあり、跡継ぎになる人には儀礼上の爵位が与えられるもののようです(英王室のウィリアム王子もケンブリッジ公爵の称号も持ちますし)。これは当主の副次的な爵位名を使うもののようで、そのため呼び名が異なるのかと思います。
    本作の場合、ドリンコートは苗字というより地名であるのかもしれません。お城の名前もドリンコート城ですし、ofが入っていてドリンコート「の」伯爵となっていますし(紅茶の名前の元になっているグレイ伯爵(アール・グレイ)はEarl of Greyではなく、Earl Greyです。これは姓なのかな・・・?)。
    バーネットの記述がどこまで正しいのかよくわからないのですが。
    いずれにしてもドリンコートもフォントルロイも何となく高貴そうな感じはしますね。

  • とても優しいお話。心の滋養。セドリックは子どもだから、純粋だから、人に優しく親切にできる。これは違うと思う。きっと大人になっても優しい親切な心は持ち続けられるはずで、ただ、それは簡単なことではなくて、もちろん陰ってしまう時もあるのだろう。そんなとき、小公子のような児童文学を読み返してきれいな気持ちを持ち直すのは大切なこと。

  • ニューヨークの下町で母と2人で暮らす少年セドリック。明るく優しくて誰からも好かれる子だ。そんなセデーは、ある日突然、英国貴族の跡継ぎとして英国へ。広大な領地と城のような大邸宅を有する伯爵の身分を受け継ぐことになる。迎えた老伯爵は頑固で意地悪で超性格が悪い爺さん。だが美しく可愛いらしく純真なセデーの言行に触れるうちに冷たい氷が溶けてゆくように、心変わりしてゆく。

    セドリック少年の天使のような素直さ、優しさに、まぶしいような感じがした。人の優しさや思いやりの大切さに思い至る、という物語である。

    ちなみに翻訳はなぜか川端康成。

    だが、おじさんになっての初読のためか、お伽話のよう、ファンタジーのようにも感じたのであった。子どもの頃に読んでいたらもっと素直に受け止められたかもしれない。

  • 川端康成 訳と知らなくて購入してビックリ。
    ひら仮名が多く読み易い!セドリックに振り回される伯爵の様子が面白い!美しい日本語を味わえた。

  • 読後にほっこりとしたいい気分が残る作品だった。親切な行い、心根の優しさの重要性を、セドリックを通して学ぶことの出来る、子供だけならず大人にも良書。

  • 小野不由美さんが帯を書いていて買ったけど、買ってよかったと思えた本。主人公のセドリックが可愛い、心が綺麗、癒やされる。元気がない時、やさぐれてる時にもまた読みたい。苦しくなる場面がほぼないので安心して読める。

  • 名前は知っていたが読んだことのなかった「小公子」児童向けの小説と思っていた。少年セドリックの優しさや清らかな心、意地悪な伯爵に心からぶつかっていく姿。シンプルなストーリーだけど、読みやすいのでぐいぐい読めました。人に親切にすれば自分も幸せになる。読んでるとなんか心が洗われます。

  • 翻訳がとても分かりやすかった!

  • 川端康成さんの訳、ということで読んでみました。物語そのものの魅力で、がっちり惹き付けられます。「川端康成」を忘れるほどに、没頭しました。児童書とのことですが、名作です。

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著者プロフィール

フランシス・イライザ・ホジソン・バーネットは、1849年イギリス・マンチェスターに生まれたが、幼い頃父を亡くし、16歳で一家とともにアメリカへ渡る。1873年、医師のスワン・バーネットと結婚、二人の男児をもうける。1886年『小公子』を発表し大ベストセラーに。1905年『小公女』、1911年『秘密の花園』を発表し、世界的な児童文学作家としての地位を不動のものにした。ニューヨーク州で余生を送り、1924年同地にて死去。

「2021年 『小公女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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