悪なき殺人 (新潮文庫 ニ 4-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102403518

作品紹介・あらすじ

吹雪の夜、フランス山間の町で一人の女性が殺害された。事件に関係していたのは、人間嫌いの羊飼い、彼と不倫関係にあるソーシャルワーカーとその夫、デザイナー志望の若い娘という、4人の男女。それぞれの報われぬ愛への執着を描く物語は、遠くアフリカに住むロマンス詐欺師の青年の物語と結びつき、やがて不可解な事件の真相を明らかにしていく。思わぬ結末が待ち受ける心理サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 田舎街で発生した殺害事件。人間の歪んだ愛情、煩悩や執着を描いた腸がよじれるサスペンス #悪なき殺人

    ■あらすじ
    フランスの田舎街で、資産家の妻が行方不明になっていた。その事件には、牧場を営む夫婦、人間嫌いな羊牧場を営む男、装飾デザイナー志望の若い女性など、様々な人間が関係していた。この事件の背景に描かれる人間模様とは…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    人間というのは、なんて弱々しく寂しい生き物なんだろうか。悲しい事件で身勝手な登場人物ばかりなんだけど、何かにすがりたくなる気持ちはホントよくわかる。人間の歪んだ愛情と煩悩や執着を描いた、腸がよじれるサスペンスです。

    さて、本作は登場人物へのメッセージという形でレビューを残させてもらいます。

    〇アリス(牧場の女性、農協のソーシャルワーカー)
    正しさを言い訳に自分の責任から逃避する。なまじ優しさを持ってるだけに、実は一番たちが悪い。一番やってはいけない振る舞いをしたのは、あなただと思いますよ。

    〇ジョセフ(羊飼い、人間と関わり合いのない人生を歩んできた男性)
    人生すべての巡り合わせが悪いと、こうなってしまうという典型。人類って70億人もいるんだから、もっと早く誰か手を差し伸べてあげてたらと思わずにはいられない。人間は一人では生きられないし、生きるべきでもないのです。

    〇マリべ(服飾デザイナー志望の若い女性)
    愛とはどういうものか、さっぱり理解していませんね。さぞ、おめでたい人生を送ってきたのでしょう。ただ貪欲なのは嫌いではない。もっと誠実な人に出会えば、きっと明るい未来が待ってますよ!

    〇アルマン(とある犯罪に手を染める若い男性)
    犯罪者の典型、人間のクズ。ただその人が悪いというより、環境や教育がもたらした結果なので、読んでいて辛くなる。人生は長いんだから、これからも諦めずに生きてほしい。

    〇ミッシェル(牧場を営む男性、アリスの夫)
    気持ちわかるわ…、私自身の人生でも、なにかひとつ間違えばこうなってしまう自信がある。世の中にある不倫、犯罪など、ほとんどは誰だってやりたくないし、巻き込まれたくもない。日常の幸せと欲望と犯罪が、いかにすぐ近くに潜んでいるかがよくわかる。こわっ

    ■ぜっさん推しポイント
    本書にでてくる登場人物たちは自分勝手で悲しい奴らばかり。ただ読んでいると、なんとなく彼らの気持ちはどこか理解できてしまうんですよね。

    人間の純情さ、醜さ、欲望っていうのは、むしろ正当なもので、いかに折り合いをつけるのが難しいか。大きい小さいはあるでしょうが、どこの誰にでもありうる話で恐ろしいお話でした…

  • 『悪なき殺人』|感想・レビュー - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/21602110

    第25回 今月のイチオシ本――コラン・ニエル『悪なき殺人』ほか(執筆者・♪akira) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート(2023.11.29)
    https://honyakumystery.jp/24024

    Seules les bêtes - Colin Niel - Babelio
    https://www.babelio.com/livres/Niel-Seules-les-betes/891940

    映画『悪なき殺人』 公式サイト - 悪なき殺人 12/3(金)公開!
    https://akunaki-cinema.com/

    コラン・ニエル、田中裕子/訳 『悪なき殺人』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/240351/
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    まーうーさんの本棚から

  •  何とも奇妙で不思議な小説である。フレンチ・ノワールの流れを汲みそうなイメージなのだが、何とやはり、というか既に映像化され、現在はDVDとして観ることができそうである(「悪なき殺人」”Only the Animals”(2019))。しかし、、、。

     そう、しかし、である。本書は文章作品としての味わいが実に個性的なので、先に映像化作品を見ることはお薦めしない。本書の構成は5人の登場人物が各章毎に主人公となって語る形式の小説である。全員の証言を読む毎に、作品の世界がまるで違った角度から見えてくる。そのことがこの作品を、格別、個性的なものに化けさせているのだ。

     物語の中で起こるのはある女性の失踪。季節は冬、舞台となるのは山深い山間の村なのだが、失踪したのはアウトドア好きな主婦で、生死の判断もなかなか下しにくい。農協のソーシャルワーカーとして村の農家を訪問する女性アリスに始まる本作は、導入部から早速、危険の匂いを感じさせてくれる。と同時に失踪中の女性のことが話題にされる。この失踪した女性という謎が本書の軸になりそうだとわかる。

     二つ目の物語はソーシャルワーカーの訪問を受けていた羊飼い。本作が凄いな、と思われるのはここで早くも失踪者の事件が見えてしまうからだ。しかし、その見え方はどうみても幻惑的に過ぎるように感じつつ、その不信感を基に、その後の物語に繋げてゆく。

     しかし三つ目の物語辺りから物語の様子は変容する。マリベという他所の土地から来ている若い女性。時系列を記憶により戻したり、この先の展開に受け渡したりする役目の章だが、毎度視点が変わる毎に唐突な展開と思えるのが本書の構成の特徴でもあるようだ。しかし、物語は唐突なジャンプを繰り返すたびに、不思議なことに真相へと近づいてゆくのである。

     四つ目の物語はいきなりアフリカに飛ぶ。若者たちが従事するネット詐欺の小屋へと唐突にジャンプした物語
    に面食らうが、こうなると既に快感である。若い美人女性のふりをして、画像を挙げ、引っかかったカモになる男たちをたぶらかし大金を送金させるというネット詐欺。そしてそこに引っかかるカモ。

     最後の章は短い。五つの物語が繋がったときに、それぞれの物語の環が完成する。なかなか珍しい構成だが、わかりやすく言えば芥川龍之介の『藪の中』、黒澤明監督により『羅生門』として映画化されたあれである。同じ事件であれ、観たものによって、それは万華鏡のように別々の形となる。一人の女性の失踪事件の真相を語るためにその手法を用いることで、五つの物語を繋げてしまったのが本書である。さらにそのことで起こってきた化学反応自体が、失踪事件以上に闇が深い。

     人間の愚かさと悲喜劇と運命に翻弄される生き物という立場。それらが衝突し合うことで発生する化学反応を一連のストーリーとして物語ったのが本作である。ある意味、凄い発想。そして驚愕。刺激的な作品構成とその内容。フレンチ・ミステリらしいノワールさが際立つ作品である。

  • コラン・ニエルの本邦初訳。シリーズ作品があるようだが未訳。本作は映画化されているらしい。

    可能なら、裏表紙のあらすじ、帯、登場人物表を見ずに読み始めると楽しめる作品。

    フランスの片田舎で女性が行方不明となる。農業従事者を相手にメンタルケアを行うソーシャルワーカーのアリスは、自身の不倫と女性の行方不明を関連付けるが。。。

    複数視点により、ある失踪事件が描かれる。いかにもフランスらしい作品で、癖もなくサクッと読めるため、フランスミステリの入門にはうってつけ。

  • CL 2024.1.10-2024.1.13
    一人の女性が失踪するところから始まる5人の男女の一人語り。犯人捜しかと思って読んでいると物語は全く別の方向に流れていく。それぞれの立場で、この順序で語られ、徐々に明らかになっていく事実が興味深い。
    誰もがどうしようもない孤独を抱えている。だからひとりにとてつもなく執着して、とんでもないことが起こる。これほど"孤独"に蝕まれてしまうとはなんと哀しいことだろう。

  • フランス山間の町で殺害された女性の事件を発端に、関わり合う5人の視点で語られていく。
    最初は独白に馴染めなかったが、マリべが語る所から加速がつくように面白くなった。広げた糸をたぐるような終わり方が新鮮だった。

  • 視点が変わると新たな「真相」が見える展開は面白かったが、あまりに偶然が重なりすぎで…。

  • 五人の語り手が登場し、一人の女性が失踪したところから始まっていく。それぞれが孤独や諦観などを抱えていて、愛情を求めている。何かを変えるため、逃げるためにどんどん深みに嵌っていく登場人物たちの行動から目が離せなくなっていく。意外な繋がりや前の人物で語られていたことの真相がその先で見えてきたりといった面白さもある。

  • 軽い感じで読みやすかった!こんな雰囲気の日本ミステリー読んだことあるような、、。人の見えてる部分なんてほんの僅か。わかってるつもりでも全くわかってないな、と思い知らされました。はすっぱな口調で若者の雰囲気出てたし、フランス農村部の過酷な様子もよく分かりました。なかなかのアブノーマル出て来るところ、フランスミステリだな、と実感。

  • 悪なき・・・ではないと思う
    度重なる偶然で起こってしまった事
    みんながそれぞれ不幸だわ

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