- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103002314
作品紹介・あらすじ
自業自得の死だったのか?自己責任と切り捨てていいのか?「自分探し」フリーターの足跡をたどる。
感想・レビュー・書評
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社会を騒然とさせた香田証生さんの事件が、どのような道筋を通って発生してしまったのかを、バックパッカーで有名な著者が実際に辿りながら考察している本。本書を読むまでは私も「この人(香田さん)はどうしてこんな危険な場所へわざわざ出向いたのだろう」と、あまり好意的な印象は持っていなかったが、筆者による彼が置かれていた環境とそこから生まれた精神状態の考察を読むにつれ、彼の気持ちを幾分かは理解できたような気がする。
周りの恵まれた学生と比べて年齢が高く、自由に使えるお金も少ない、「自分たちは金を落としていき、国のイメージを損なわないために守られている存在(ニュージーランドやイスラエルにて)」という感覚に苛まれ、最後には世界で今、何が起きているのかを自分の目で確かめたいという欲求に駆られてしまった・・・という、あくまで憶測の域を出ないものではあるが、尤もらしい考察がなされている。
一読して思ったことは、「今後いつ、同じような事が起きても決して不思議ではない」ということだ。筆者はこの旅を通して、「周りの友人とは世間話だけで語り合えない」、「周りからプレッシャーをかけられるが、自分で物事を決められない」という、やや旅行に依存している日本人達の事を思い出している。彼らの中から「本当の事」を知るために危険地帯へ行ってしまう事は、現に「イラクへ行ってくる」という書き込みが多くなされた旅行ノートからも既に分かってしまっている。
「迷路に入り込んでしまった若者たちに接すると、僕は、「どうしてそんなに急ぐのだろう」と呟きたくなってしまう」
「旅とはそういうものなのだ。確かな目的もなく、知らない国に分け行っていく。旅はそれでいいはずだ」
いくつもの国を旅してきた筆者からの言葉である。学生・社会人を問わず、いち早く結果が求められている現代社会では「何を甘えたことを」と言う人もいるかも知れない。けれども、誰もが経験する「自分は何者なのか」という答えを探すための一つの方法として、「旅に出ること」を咎められる人は果たしてどれだけいるのだろう。もしいるとしたら、心のどこかに彼らのことを羨ましく思う気持ちが隠れているのかもしれない、などと考えてしまった。
自分用キーワード
カオサン(タイにある通り。バックパッカーが集う街であり、本書ではどこか心を病んだ日本人が集まっている場所のように描写されている) 魂(筆者が以前訪れたメキシコではミイラが観光名所となっており、理由を口にしたところ、「日本人はアメリカのプラグマティズムを受け入れてしまい、死んだら終わりと考えているようだがメキシコ人は違う。魂を大切にするため、それが抜けている死体やミイラは怖くない」と返ってきたという) ビーチサンダル(筆者曰く「貧乏旅行者の定番」であり、最初は丈夫な靴を履いていても、壊れるにつれどこでも買えるサンダルに落ち着くとのこと) 大使館(筆者曰く「バックパッカーから毛嫌いされる存在」。守ってくれる存在ではあるが、どこか冷たい態度をとるとのこと) -
こういうふうに書かれると、香田さんの気持ちわからなくはないけど、やっぱり無知って怖い…旅は自己責任と再確認。
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旅人成分0%な私には、違和感ゆんゆんな一冊でした。旅行作家がイラクで誘拐→殺害された一人の青年の足取りを追う記録。著者目線でこの当時の(そして今の)日本人に対し、大変な違和感や失望を感じているけど、実際国内でリアルタイムに事件を知り、報道を観ていた人間からすると、その気持ちが違和感。著者の推測でしかないフォローがあるけれど、少ない資金しかも初の貧乏旅行で、どうしてそんな無謀なことをしたのか、読んでて理解できませんでした。というか危険な地で、帰りのバス代すら尽きていたんじゃ、誘拐以前に力尽きてしまうのでは…?読んでいてかなりおっかなく思いました。事件に便乗した、著者の自己満足記にも思えてきましたよ。タイトルも違和感…というかこのタイトル、殺したのは国内の日本人になると思うのですが、眉を潜める不快な思いです。
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「イラク聖戦アルカイダ機構」による香田証生さんの拉致殺害事件は、いまだに脳裡から離れない。彼は、緊張と恐怖に言葉を詰まらせながら、日本政府・日本国民に対して静かに次のようなメッセージを送った。
「彼らは、なぜ日本政府が法を破ってイラクに自衛隊を派遣したのかと尋ねています。小泉さん、彼らは日本政府に自衛隊の撤退を求めています。さもなくば、僕の首をはねるといっています。すみませんでした。また日本に戻りたいです」
このメッセージに対する政府・国民の反応は、極めて酷薄かつヒステリックなものだった。高遠さんら3人の人質事件でも叫ばれた「自己責任」論が渦巻き、「自業自得」だとの論調が大勢を占めた。要するに「勝手に死ね」ということである。
本書は、なぜ彼がイラクに向かうことになったかを丁寧に追跡する。確かに彼の行動には軽率な部分があったかも知れない。そしてそれが日本に対する敵意を顕在化させ、日本国民に突き付けることになった。しかし、それではなぜそこに敵意が存在するのかという問題は、彼への個人攻撃の嵐の中で棚上げにされていった。
そもそも、米英のイラク侵攻に何の正当性もなかったことは既に明らかになっている。米英の尻馬に乗って自衛隊を派遣し、派遣を継続するため「自己責任」の名の下に一人の青年を犠牲にした人々は、いまだに自らの責任には目を瞑ったままだ。 -
04年、イラク・バグダットでテロ組織に殺された香田さんは、なぜバグダットへ行ったのか? その半年前にNPOや報道で活躍している3人が拉致され、解放されたのだが、そのときに「自己責任論」が展開された。その頃香田さんはニュージーランドでワーキングホリデー中だった。
フリーターで、自分が何者であるかを探し続けていた24歳。イラクに入国する頃には、普通のバックパッカーになっていたことが、下川の追跡で明らかになる。彼がイスラエルからヨルダンを経て、イラクに入国したことはなんちゃってバックパッカーである僕には簡単に理解できる。若いということは、危険をも楽しむものだし、覗いて見たいものなのである。それが若さであり、大人はそれを支える義務があるのだ。殺された責任は、殺されたという事実を本人が受け止めるだけでいいわけで、その他の誰からも非難される言われはない。
それにしても、日本の大使館は日本人を、たとえどんな日本人であっても保護をする、というところから非常に遠いところにあるらしい。邦人保護ではなく、あくまでも「体制保護」のためにあるのである。こういうところは、日本の官僚組織は一貫している。すばらしい! -
イラクで惨殺された香田さんの「あのイラクへの旅行」についての書。香田さんの人となりがもう少し判った方が、なぜ殺されたのかも判ったかも知れない。あまりにも情報が少なすぎた。
著者が後で同じコースをたどり、その町の風景などを解説してくれたので、わずかながら香田さんがどういう思いで、イラクに行ったのか、その鱗片を感じることができた。
しかしながら、当時の日本人の香田さんへの非難はひどすぎる。日本人のイヤな部分を感じる。私としては、まだ24歳という若さ故に、確かに軽率ではあるが、危険な地へあえて乗り込むという若さを認めてやるべきだと思う。彼の行動は社会的には問題がある。しかし、あそこまで非難できる資格が皆にあるのだろうか。 -
2008/9/11 読了。
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今の日本社会で彼のことを口にするのはかなり勇気がいることかもしれない。でも、そこであえて彼が「なぜ」殺されたのか、彼のイラクまでの行程を追いながら彼の心理に迫るということに興味を覚えた。彼の死はあまりに悲しい。