暗渠の宿

著者 :
  • 新潮社
3.48
  • (9)
  • (29)
  • (28)
  • (7)
  • (2)
本棚登録 : 151
感想 : 29
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103032311

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ✩4つ

    いやはやなんともかんともどうしてよいかわからない、というのがこの本の正直な感想である。面白くないことはない。いやむしろ面白い本の仲間に入る。それが証拠にほぼ一気読み状態なのであるから。でもどうしてよいかわからない。

    この本、ほとんど改行は無く、決して読みやすく装丁した本でもないのに結構止まらずに読み進んでしまう。この作者は元東京都知事の石原慎太郎が強く押して芥川賞を獲ったらしいが、石原慎太郎もこういう文体本なのかしら。一度読んでみようかしらね。

    さてそれにしても、この古風で昭和初期の暗い部分の雰囲気がぷんぷんするお話に、JRとかハリーポッターとか携帯電話などという現代身近な言葉が出てくるとなにやら違和感を感じさせてしまうのであった。

  • 芥川賞受賞をきっかけに、著者の小説を初めて読みました。

    いやあ面白い。
    私小説を超えて、ほとんど回想録みたいだ(笑)。

    「けがれなき酒のへど」は恋人欲しさの一心で風俗嬢にアプローチをかけ続け、手痛い失敗を喰らうエピソード。
    「暗渠の宿」は、ついてに手に入れた恋人に対して、身勝手な支配欲を抑えられなくなっていく自己嫌悪に満ちた記録。

    その姿を嗤い非難することは簡単だけど、男ならどこか共感せざるを得ない煩悩が赤裸々に映じられているがゆえに、読んでいて微かな胸の痛みを感じるような。

    この率直さは貴重です。

  • 「けがれなき酒のへど」
    風俗嬢に入れ込んで貢がされた挙句、騙される男の話。秋恵サーガ前日譚。CRIMSONで例えるならGG&Fというところか。相思相愛の恋愛を追い求め下衆く打算するのではあるが、所詮、ロマンチックに愛を追い求めるオトコに勝ち目などなく、リアルに金を狙うオンナの手玉にとられてしまう。オトコの性が痛く哀しい。
    「暗渠の宿」
    秋恵サーガのデモバージョン。バイオレンスシーンは抑え気味。嫉妬深く嗜虐的な心理描写に図らずも同調してしまう自分を発見してしまった。

  • 「苦役列車」を映画で見、エッセイを読んでみて、私小説と本人が言うものを読んでみる気になった。
    そのどうしようもない心象風景がやるせなく、救いもないが、半面赤裸々な表現・思考・行動は多かれ少なかれ男という性に内在するものであろう。
    文体や表現も面白く、引きつけられる部分がある。
    もう少し読み進めてみようと思う。

  • 『苦役列車』を読んだとき衝撃を受けましたが、2冊目だったのでそれほどでもなし。でもおもしろかった。『けがれなき・・』の方が好き。ただ彼女がほしいっていうとこが切実で笑えます。
    自分のダメ人間ぶりをこんなに客観視できるのはさすがと思いつつ、開き直ってるだけのような気もしてきます。

  • 私小説のパワーを感じた。

  • 全ては他人事だからこそ面白おかしく読めたのかもしれない。少しでも共感を抱いて心を乱せば、この本をすぐにでも投げ捨てたい衝動にかられる。冷静な感情で読まなければ結構身体にも毒。と言うのも私自身、主人公(作者)と似たような感覚が多少あるからかもしれない(暴力は一切無いが)。不器用なところ、何かが歪んで足りないところ、一方で変な部分が純粋過ぎるところ。そしてその事に全く気づいていないところ・・・あと女にモテないところね。
    自分を鏡で見ているかのような、自己嫌悪と現実逃避の狭間をグラグラしながら読んでいました。
    でもね、世の中にこんな奴が他に居たのかという仲間意識か安心感も実はあるわけで。勿論相手は素晴らしい作家さんでありますけども。

  • 西村賢太の筆力には驚かされる。男の最も情けない部分をこんなにもさらけ出していて、情感豊かにユーモアを交えるなんて芸当ができるのはこの作家ならでは。時折藤沢清三の文章が引用されるが、これがまた間抜けな感じがして、逆に「ネタ?」とか思ってしまうほど面白い。

  • ここまで自分のことを赤裸々に描ききるのはすごい。

    ダメ男なのになぜかいとおしく思えるのは不思議だ。

  • 水戸黄門と一緒である程度パターンがわかっててもやっぱり面白い。中編2編が一冊にまとまっている本だが個人的にはタイトルになっている「暗渠の宿」のほうが面白く、3,4箇所では声を上げて笑ってしまった。スタイル、パターン、文体は癖になるわー。

著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西村賢太の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×