ブロッコリー・レボリューション

著者 :
  • 新潮社
3.20
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本棚登録 : 269
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103040521

作品紹介・あらすじ

泣いてるのはたぶん、自分の無力さに対してだと思う、わかんないけど。海辺のちいさな部屋で。もう二度と訪れることはないかもしれない東京で。延々と改装工事が続く横浜駅の地下通路で。そして、タイの洞窟にサッカー少年たちが閉じ込められていたあの夏、きみは部屋から姿を消した。どうしようもなくこんがらがっていく世界を生きるわたしたちの姿を演劇界の気鋭が描きだす、15年ぶり待望の第二小説集。

感想・レビュー・書評

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  • チェルフィッチュの演劇はまだ観れていないけど、岡田利規の書く小説はやっぱり好き。けっこう短めの小説が多く、長めのものが読みたいと思っていたので、表題作「ブロッコリー・レボリューション」を読めてよかった。三島由紀夫賞受賞作でもある。そりゃ獲るよ、獲らなくたって勝手にあげる。

    (本書でも、語りの視点に関してもいろいろ実験的な試みがなされている。例えば1人称であるにもかかわらずなぜか語り手が全知であったりして)

    表題作は2人称小説。語り手の男はある時ふいに妻に去られた。その妻に語りかけるかたちで、以後、妻がタイで暮らす様子が語られる。

    が、繰り返し、「ぼくはいまだにそのことを知らないでいるしこの先も知ることは決してないけれども、」と書かれているとおり、「ぼく」は妻の行方を知らないながらも、失踪した妻のその後を把握しているというねじれた構造。そこが不気味でもある作品。

    岡田作品の特徴としては、描写はかなり正確。例えば、横浜駅がかなり執拗に描写される。
    同時に話し言葉が妙に生々しく、両者がせめぎあいながら小説が進んでいく。たいしてストーリーもないのだが語り口が魅力で読み進めてしまうのだ。

    可笑しみも、ある。「ショッピングモールで過ごせなかった休日」の、奇妙なラップには爆笑させられた。基本、ゆるい語りが笑いを誘う。しかしこうした可笑しみはすぐに、やるせない悲哀へと転化させられる。

    意外にも、岡田作品を底のほうで駆動させているのは、激しい"怒り"ではないかと気づいた。

  •  劇作家岡田利規の久々の短編小説集。語り手が知り得ない視点から描かれる小説は、感情的な衝動を排し、なぜかやさしい印象を与える。三島賞受賞の表題作は、読んでいる時には村上春樹の小説のように思えるが、暴力性も救いようのない性描写もなく、人と人との分かり合えなさを淡々と描いている。
     確か作者は東日本大震災をきっかけに首都圏を離れて移住したとどこかで聞いた。本作品に描かれる「世界中の人間みながツーリストになればいいんじゃないか」という甘い空想は、そうした作者の移住体験とも無縁ではないのかもしれない。確かにこの歳になって「あと何回旅行できるのか?」とか、旅行による非日常的な世界を求めて変わらない日常を過ごしていることとか、とりわけコロナ禍で「旅行」や「観光」の意味や価値は大きく変化している。
     ミドルクラスの観光客の戯言に辟易するレオテーの吐露は、なんとなく情報にアクセスして「わかった気になる」現代人への強烈なカウンターと感じられた。優しい語り口の中にある怒りのようなものが現れた描写であった。

    最初の短編「楽観的な方のケース」は、表題作よりは幸せなファンタジーで、読んだ後に、なぜか自分もパン屋に行く頻度が増えた。小説は不思議な力があるもんだ。

  • 内容(駅で立ち尽くす人、パン屋)の面白さの分、語り手の不明瞭な(誰かは分かるがどの視点から、というのが曖昧)文体は良かったが、小説としての終わり方、一挙手一投足の説明に違和感を感じてしまった。

  • 一文が長く、ひらかれた漢字が多く、段落も少なく、と話によってはとても読みづらさを感じてしまった。視点がマクロになったりミクロになったりした点はユーモア。
    表題が1番好きだったけど、どの話も起承転結が曖昧で不思議な読書体験だった。

  • 村上春樹に近い文体かな?

  • そこで起きてることやその人の気持ちを知らない人の側の視点で語られる。ストーリーに盛り上がりとかはない。自分には読みづらい文書だった。

  •  めっちゃ面白く読んだ。岡田利規ってもっとなんていうかシラけている感じがあると思ってたけど、ここに収められてるそれぞれの短編も表向きそのような他者性というのを低体温な感じで描写しながらではあれ、そのじつ、かつてはここにあったかもしれないけれど少なくとも今はここにはない何か、みたいなものを信じようとしているのかもしれま千年、それはやはり暗澹たる時代のせいなのか?
    楽観的な方のケースが最もお気に入り。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00627582

    海辺のちいさな部屋で。もう二度と訪れることはないかもしれない東京で。延々と改装工事が続く横浜駅の地下通路で。そして、タイの洞窟にサッカー少年たちが閉じ込められていたあの夏、きみは部屋から姿を消した。どうしようもなくこんがらがっていく世界を生きるわたしたちの姿を演劇界の気鋭が描きだす、15年ぶり待望の第二小説集。(出版社HPより)

  • 2022年の小説にしては、古い印象がしました。80年代のポストモダン小説だと言われれば、違和感なく読めたと思います。
    人称や小説の枠組み自体を操作しようとする意気込みは感じられますが、その意気込み自体が古めかしさを漂わせ、それはいいとしても、よくある実験小説の枠組みからは抜け出せていないように思えました。言葉選びは良かったです。

  • [鹿大図書館・冊子体所蔵はコチラ]
    https://catalog.lib.kagoshima-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC15528059

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著者プロフィール

1973年、神奈川県生まれ、熊本県在住。演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。主宰する演劇カンパニー、チェルフィッチュでは2007年に同作で海外進出を果たして以降、世界90都市以上で上演。海外での評価も高く、2016年よりドイツを始め欧州の劇場レパートリー作品の作・ 演出を複数回務める。近年は能の現代語訳、歌舞伎演目の脚本・演出など活動の幅を広げ、歌劇『夕鶴』(2021)で初めてオペラの演出を手がけた。2023年には作曲家藤倉大とのコラボレーションによる音楽劇、チェルフィッチュ×藤倉大withクラングフォルム・ウィーン『リビングルームのメタモルフォーシス』をウィーンにて初演。小説家としては2007年にはデビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(新潮社)を発表し、2022年『ブロッコリーレボリューション』(新潮社)で第35回三島由紀夫賞、第64回熊日文学賞を受賞。

「2023年 『軽やかな耳の冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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