十字軍物語 3

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (500ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103096351

作品紹介・あらすじ

サラディンによって聖地イェルサレムを追われた危機から、ヨーロッパからは十字軍が陸続と起こった。「獅子心王」の異名をとったリチャード一世。十字軍を契機に飛躍するヴェネツィア。巧みな外交戦術で聖地を一時的に回復したフリードリッヒ二世。二度の十字軍を率い、「聖人」と崇められたルイ九世。しかし、各国の王の参戦もむなしく、最後の牙城アッコンが陥落すると、二百年に及ぶ十字軍遠征に終止符が打たれることとなった-。中世最大の事件がその後の時代にもたらしたものとは何か、そして真の勝者は誰か。歴史に敢然と問いを突きつける、堂々のシリーズ完結編。

感想・レビュー・書評

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  • 十字軍物語の最終巻読み終わりました。
    文庫にすると2冊になるボリュームのため、読み進めるのに時間かかりました。あとは後ろに読み進めるほど内容が辛くなってくるというのもありますが。 

    今まで歴史の授業で「十字軍がありました」くらいにしか把握してなかったので、こんな色々なことが教科書では一行で終わっていたのかと思うとビックリです。

    イメージとは違って血生臭い戦いだけではなく話し合いもされていたのが驚きでした。イスラム側にもキリスト教側にも無用な闘いを避けようと冷静に事態を収拾しようとする人たちがいたのに当時の教皇側にその認識がなかった(そもそもが権威を示すために起こしたから平和裡に解決してほしくなかったのかもしれませんが)のが残念でなりません。そういう人たちは現場で兵士たちが何人死のうと意にも介さないのは現代でも同じなのでしょうが。

    最後に聖堂騎士団に責任を被せるようにしたのは本当に気の毒でなりませんでした。命がけで最後まで戦い、戦いをけしかけてきた側から裏切られた彼らの悔しさと悲しさはどれだけのものであったか。

    塩野七生先生の話が面白いのが分かったので折を見てローマ人の物語も読んでみたいです。

  • カトリック教会の権威を高め、神聖ローマ帝国皇帝の力を削ぎたいローマ法王の策略によって始まった聖地エルサレム回復を大義としたイスラム世界への侵略戦争である十字軍の二百年余の歴史を、塩野七生さんが、彼女らしい、自由なのに冷徹な考察と、情熱的なのに冷静かつ骨太な文体で再構成した通史。

    皇帝や王よりは下に位置する封建領主たちが、バラバラな指揮系統に苦労しながらもイェルサレム奪還とキリスト教連邦国家設立を果たした第一次十字軍(1096-1099)。

    神聖ローマ帝国皇帝やフランス王まで参戦したのに、勢いをつけ始めたイスラム世界を前に散々な結果に終わった第二次十字軍(1147-1148)。

    イスラム世界を統一しイェルサレムを奪い返したサラディンと、戦闘にかけては天才で獅子心王とまで呼ばれた英国王リチャード1世による、名将同士の全面対決となり、「花の第三次」と呼ばれた第三次十字軍(1188-1192)。

    キリスト教より国益優先の冷徹な通商国家ヴェネツィア共和国が、ライヴァルの海洋国家に溝をあけるために、ギリシア正教とはいえ同じキリスト教国であるビザンチン帝国の首都コンスタンティノープルを攻略して終わった第四次十字軍(1202-1204)。

    第一次十字軍以降現地に定住しイスラム世界との共存に慣れきったキリスト教徒たちが、ローマ法王の命令で不本意ながら実施して失敗した第五次十字軍(1218-1221)。

    宗教的な頑迷からは自由だった神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ二世が、一度も戦わずにイスラム側との外交交渉だけで平和裡にイェルサレムの譲渡を勝ち取りながら、キリスト教世界から断罪された第六次十字軍(1228-1229)。

    (あくまでローマ法王目線で)理想的なキリスト教徒のフランス王ルイ9世が率いながら、王以下全員がイスラムの捕虜なるという失態に終わった第七次十字軍(1248-1254)。

    懲りないルイ9世が実施してまたも失敗した第八次十字軍と、イスラム側に台頭したマメルーク朝によるキリスト教徒一掃作戦によって中近東のキリスト教国の滅亡に終わったその後(1258-1291)。

    それぞれの遠征の一部始終がコンパクトにわかりやすく、しかも、あらゆるタイプの生身の人間たちの人生として活き活きと描写されており、高校の世界史の授業で年号と一部の単語だけを覚えさせられた単調さはどこへやら。とても面白いです。

    何よりこのシリーズが魅力的なのは、日本人にとっては、これまでバラバラな点でしか捉えられなかった各十字軍を、時間的には一連の流れとしての線、空間的は面として繋げることに成功し、しかも、新たな視点を組み込んで記述してることだと思います。

    各十字軍遠征の間の空白期を異教徒に囲まれた現地のキリスト教徒たちはどうやって耐えたのか。
    迎え撃つイスラム教国側の時々の事情。
    敵であったはずのキリスト教徒とイスラム教徒が成していた交流と共存による高い利益。
    ローマ法王的には敬虔な行為でないながらも、結果的には十字軍を支えることになった、地中海の制海権を握り続けたイタリア海洋国家の策略と合理的な姿。
    十字軍の主戦力であり続けた各宗教騎士団の事情とそれぞれの末路。
    そして、ローマ法王の権威を高めるために始めた十字軍が、結果的にはローマ法王の権威の極度の失墜に繋がったことなど。

    キリスト教徒でもイスラム教徒でもなく、考察力と完結なのに有機的な書きぶりに定評のある塩野さんが、両者の資料を読み込み、十字軍や西欧・イスラム世界双方への知識が少ない日本人に向けて、日本人にもわかる例を挙げて説明してくれています。

    十字軍はなくなっても、「聖戦」は「正戦」にとって代わられて現代も残っている、という塩野さんの指摘は鋭いです。

    画集を含めたら全四冊からなる大作ですが、飽きることなく読める作品でした。

  • 第3回は英国・リチャード獅子心王vsサラディン・アラディール兄弟の闘いと一方での紳士的な対談・そして信頼関係、第4回はヴェネツィア元首ダンドロとフランスの諸侯たちがなぜビザンチン帝国を攻撃したのか、第5回はイスラムのスルタン・アル・カミーユ(アラディールの長男)と聖フランチェスコの出会い、第6回はフリードリッヒ3世など印象に残る場面が多くあります。歴史上は一括して「十字軍が失敗した」と言われますが当然のことながら、各8回毎にドラマがあり、英雄がいます。暗黒の時代ですが、塩野氏は今回も上記の魅力的な英雄たちを描いています。

  • 非常に、おもしろかった。獅子心王リチャードとサラディンの第三次十字軍、イェルサレムまで、もうちょいだったのに…。ビザンチン帝国を滅ぼした第四次十字軍、キリスト教同士の争いで得したのはヴェネチアだった。法王代理に振り回され、やるだけ無駄だった第五次十字軍。したたかで、親イスラム派?のフリードリッヒに、率いられた第六次十字軍は、講和でイエルサレムを取り戻した。キリスト教の優等生のフランス王ルイは、第七次十字軍で「元奴隷」(マムルーク)の兵士に惨敗した。第八次十字軍では、再びルイが率いたが、遠征先で死亡…。最後はマムルーク朝の攻撃で、キリスト教側は、パレスティーナから一掃される。宗教のためとはいえ、これだけ長い間戦争するとは、いやはやである。

    【気になる言葉たち】
    ・君主は、無思慮で自己抑制に欠けるよりも、思慮分別と中庸に長じているほうがよい。
    ・当初立てた計画を忠実に実行するだけならば、特別な才能は要しない。だが、想定していなかった事態に直面させられたときでもそれを十二分に活用するには、特別な才能が必要になる。
    ・勝つたか敗れたか、よりも、どのようにして勝ったのか、また敗れた場合でも、どのように敗れたのか、のほうが重要になるのと同じだ。
    ・外交上の接触も建物と同じで、最初の基盤造りから慎重に始めないと、途中で崩れてしまうものである。
    ・情報とは、その重要性を認識した者にしか、正しく伝わらないものである。
    ・戦争は、指揮系統が一本化していなければ勝てない。なぜなら、その進行中に各部門で、無用なエネルギ―が消費されてしまうからだ。
    ・外交の担当者には、内政を担当する者以上の賢明さが求められててくる。悪質さ、悪辣、と言ってもよいくらいの知カ(インテリジェンス)ガ求められるのである。
    ・「現実主義者が誤りを犯すのは、相手も同じように現実的に考えて愚かな行動には出ないだろう、と思いこんだときである。

  • 花の第3次十字軍から始まります。
    リチャード獅子心王VSサラディンはには血が沸き立つような興奮を覚えます。
    しかし、その後の十字軍にはリチャード獅子心王ほど面白い人物が居ないせいか、読むスピードが落ちます。
    ヴェネチア主導で聖地奪還とは程遠くなってしまった第4次十字軍。
    やるだけ無駄だった第5次十字軍。
    話し合いでイェルサレム奪還の目的は果たしたものの、戦いをしなかった為に評価されなかった第6次十字軍。
    宗教的には理想的だったにもかかわらず、失敗どころが返って十字軍国家の滅亡を早めてしまった第7次・第8次十字軍。
    第5次十字軍の章を読んでいるあたりから思いましたが、聖地奪還の為の十字軍の筈が、聖戦のための十字軍という感じに手段が目的化している傾向にあります。特に聖職者にその傾向が強い感じです。
    聖地奪還という目的を果たしたのに評価されないフリードリッヒ2世と無残な失敗に終わったのに聖人に列せられたルイ9世。そして宗教的に忠実に聖地を守ってきたテンプル騎士団の運命を見ると、皮肉どころか一種の悲惨さを感じます。

    クレメンス5世と美男王は聖地に散った2万人のテンプル騎士団に祟られたんじゃないかと思います。

  • 地中海から見た法王と聖王ルイ、十字軍とキリスト教、イスラム教徒の争い、アッコンの陥落までの十字軍の戦いがよく分かる本であった。良い時もあれば悪い時もある、それは人間でも戦いでも同じだ。壮大な人間の物語を見れた気がする。

  • 1,2と比較して、1.5倍の厚さだったが、一気に読み切ってしまった。塩野さんの本はほんとに読ませる。
    十字軍とはなんだったのかを存分に考えさせてくれる本だ。しかし、世間の評価と、平和の訪れとはほんと関係ないのだなぁと改めて思う。無血で平和を実現したフリードリヒが日の目を見れず、大量の血を流しながら、以前よりも状況を悪化させたルイが聖人なのだから。ドイツを弱体化させたばかりで、フランス王の虜囚になってしまう法王のことを考えると、所詮、法王といえども人間なんだなぁと思う。

  • 先日塩野七生女史がBSNHKに出演されて、「書きたい男性が二人います。そのうちの一人は十字軍物語第三巻に主人公として登場しています。」とおっしゃったので、「誰なんだろう」という気持ちもあってとても面白く読めました。
    自分の知識がなくてこの第三次から後はたいした人は登場しないのではないかと思っていましたが、獅子心王リチャード、元首ダンドロ、皇帝フリードリッヒやイスラムの人たちや、騎士団など魅力的な人物がたくさん。塩野女史が次に誰を書きたいのか?わかりません…。ローマ法王とフランス王ではないことだけは確かなんですが。
    個人的に、今回は地元の図書館で一番に借りられたし、クリスマスイヴに読み終えられたので感無量です。
    十字軍のひとたちが現代のキリスト降誕日(クリスマス)の状況を見たらどう思うでしょう…。

  • この巻は十字軍の華である第三次十字軍。

    獅子心王リチャードとサラディンの戦い。

    例によって男の好みにはウルサイ塩野七生氏が思いっきり二人に入れ込んで書いているのが面白い。

    十字軍は8次まであったのだが、次に彼女が入れ込んで書いたのが第6次十字軍。

    この回の対象はフリードリッヒ2世。

    彼は戦わずしてイェルサレムの領有権を勝ち取るのであるが、イスラム側と妥協した点でキリスト教側の評判が悪い。

    その彼を、塩野女史は好意を込めて描くところが微笑ましい。

    ・・・・・・っで、いったい宗教とは何か?

    一神教同士がお互い自分の神以外認めず、血を流し合う。

    でも、それに何の意味があるのだろうか。

    結局のところイェルサレムは宗教上の聖地であって、戦略的にも、商業的にも、農業的にも何の価値もない。

    それをお互いの意地の張り合いだけで、何万という死者を出す結果となった。

    それが無意味だということに気付いたのが、サラディン、リチャード、フリードリッヒ。

    なにも所有しなくても、お互い巡礼できればイイじゃん。

    こういう柔軟な考えが出来たのは、キリスト側ではなくイスラム側であったのが興味深い。

    最後に塩野氏は過去の十字軍による「聖戦」は終わったけれど、宗教の名前の下ではなく「正戦」という正義の戦争をいまだに人類は繰り返していることを指摘。

    この指摘はかなりスルドイ。

  • 八次に及ぶ十字軍派遣の背景には、象徴的な二つの出来事に挟まれた200年の間、キリスト教と欧州に形成されつつあった大国間の覇権争いがあったと考えれば良いのだろうか。
    1077年ローマ法王の前に神聖ローマ帝国皇帝が跪かされたカノッサの屈辱、その後に法王の絶大な権力のもとに始まった第一次十字軍、1270年にチェニジアで無残な終わり方をした第八次のあと、余波に引きずられるように起こったフランス王によるローマ法王のアビニョンでの拉致が始まる1306年とともにカトリック教会と法王の権威は失墜したとある

    多数の才人に恵まれ、聖都奪還を果たしイェルサレム王国を樹立した成果絶大なる第一次、
    為す術もなくあっという間に敗退した第二次、
    リチャード獅子心王とサラディンの間で争われた花の第三次、
    コンスタンティノープルを陥落させた第四次、
    エジプトを攻めた第五次、
    二度破門されながらも、戦闘ではなく外交でイェルサレムを奪還したフリードリッヒ二世の第六次、
    フランス王ルイ9世が軍もろとも捕虜になった屈辱の第七次、
    雪辱を果たそうと再度ルイ9世が臨むも、チェニジアでの落命とともに終わる第8次、

    とその成り立ち、攻め方、派遣先まで、その時の情勢によって様々な在り方を見せた十字軍の歴史は、宗教の意義と権力者たちのせめぎ合いに振り回されてきたことがよく分かる。

    塩野氏の筆致は相変わらず心地よく、特に魅力的な人物に焦点を当てた時に輝き出す。
    第一次に活躍したタンクレディから始まり、リチャード獅子心王、フリードリッヒ二世と惹きつけられる人物たちが続々と現れる。
    これが次作の「フリードリッヒ二世の生涯」を書こうとする意欲に繋がったと言うのは、妙に納得感があるところ。

    十字軍の歴史で忘れてはならないのは、個性的な騎士団たちでもあるだろう。
    打倒イスラムとしてだけ存在意義を持っていたテンプル騎士団(聖堂騎士団)は、十字軍の歴史とともに劇的に幕を下ろす。
    元々は医療活動を目的としていたヨハネ騎士団(病院騎士団)は、十字軍終了後もロードス騎士団、マルタ騎士団として地中海の歴史の中で強烈な存在感を示し続ける。
    個性的でかつ存在意義に忠実な動きを見せ続けた彼等騎士団の存在が、かくも永きに渡る十字軍の歴史を成り立たせてきたことは間違いない。

    中世において特異な航跡を残す十字軍、今まで高校時代の世界史で表面的に知っていただけだったが、改めて歴史を通してみることで宗教が及ぼす影響を思い知った感がある。

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