トリニティ

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103259251

作品紹介・あらすじ

第161回直木賞候補作!

「男、仕事、結婚、子ども」のうち、たった三つしか選べないとしたら――。どんなに強欲と謗られようと、三つとも手に入れたかった――。50年前、出版社で出会った三人の女たちが半生をかけ、何を代償にしても手に入れようとした〈トリニティ=かけがえのない三つのもの〉とは? かつてなく深くまで抉り出す、現代日本の半世紀を生き抜いた女たちの欲望と祈りの行方。平成掉尾を飾る傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 戦後、まだ女性が社会に出て働くことが稀だった時代に、出版業界で働いた3人の女性たちの生き様を描いた長編小説。
    ライターの登紀子、イラストレーターの妙子(早川朔) 、編集雑務の鈴子。生まれも育ちも違う3人が、潮汐出版で出逢い、日本人女性の社会進出の先駆者として奔走する。

    現代を生きる私は、本の中で言うと鈴子の孫の奈帆や最後に出てくる桑沢に近い。今私達女性が当たり前に働き、男女平等が前提の社会を生きることができているのは、登紀子や妙子等初めとした、男女関係なく働き、自由に生きることを貫いた女性たちがいたからだろう。当時はまだまだ女性が働くこと自体に対する風当たりも強く、ましてや子育てと仕事の両立を前提とした制度もないなかで、女性たちかがどれだけの苦労を強いられてきたかは想像に難くない。
    また、3人の中で鈴子は仕事を辞め、家庭に入るという道を選んだが、彼女の葛藤と閉塞感もひしひしと伝わってくる。女は結婚したら家庭に入るという固定観念と、それに対する疑問符。そしてそれはおかしいのではないか?という気持ちがうまく言語化できないもどかしさ、声に出す勇気が持てない切なさ。

    戦後の高度経済成長期を生きた彼女たちの人生は三者三様だが、全員が強く、逞しく、まっすぐで、かっこよく、そして美しい。

    一方で、フリーで働くことに対しても考えさせられた。最近のニュースで、過去にテレビでもよく見かけ、名前の売れていたタレントや芸人が、生活保護を受けていると言った記事を目にした。彼らもまた、フリーであり、登紀子や朔と同じだ。独立すること、フリーで働くことは、自由と引き換えにリスクを抱えることになる。(どんな大企業でも倒産リスクがゼロではないが)働き方に正解はないからこそ、自分がどんな職業人生を歩み
    どう生きるか、真剣に考えて行きたいなと思う。

  • 仕事、結婚、子ども。
    これら全てを手に入れたい、と思うことはそんなにも欲深いことなのだろうか。

    昭和から平成にかけての50年、激動の時代と闘った女達の物語。
    出版社で出逢った三人の女性。
    新進気鋭のイラストレーター・妙子
    流行の一歩先を行き時代を読み抜くフリーライターの先駆者・登紀子
    そして事務職を寿退社し専業主婦となった鈴子。
    出自も職業も生き方も異なる三人の来し方を交差させながら、この時代の女の生き方を探る。

    新しい女、進んだ女、自由な女を常に追い続けてきた。
    なのに社会により阻まれる「女の自由」。
    三人それぞれが思い描く「自由」の枠組みは自身の結婚、出産、子育て等を経て、めくるめく時代の急速な流れに導かれるようにくるくる変わる。

    「男の社員にだって淹れなくていいのよ。自分で淹れればいいの。日本だってね、そのうちお茶くみなんて女子だってやらなくなるのよ」
    昭和の時代に若かりし頃の登紀子が鈴子に言ったセリフ。
    平成を経て新しい世となった令和の時代の、働く女性が今なお「お茶くみ」をしていると知ったら、登紀子はどう思うだろう。

    長編だったけれど夢中になってほぼ一気読みだった。
    出版業界の女性達が自分の信念のもと、生き生きと仕事に取り組む様はとてもカッコ良くて素敵。
    「女だって自由に生きていいのよ」
    登紀子が繰り返し言ってきたこのセリフは、今なお社会の柵にもまれ悩む女性達へのエールにもなる。

    「ほら、あれ見て。できたときから、夜になると、ちかちかしてるの、あの赤い灯。鼓動と同じだよね。ビルの鼓動。あのビルもまだある。私たちもまだ生きてる。まだまだずっとこのあとも続くんだよ。やりたいことやろう。やりたいことやって、やりつくそうよ」
    令和の時代でもなお、ビルの鼓動と共に三人の魂は生き続ける。

    大島さんの『渦』も良かったけれど、直木賞はこの作品にとって欲しかった。

  • 『トリニティ』窪美澄著

    1.きっかけ
    Twitter繋がりの方の投稿です。
    窪さん初めてです。
    読書好きなひとと繋がると、初めましての作家さんが増えます。
    新しい世界。贈り物です。伊坂幸太郎さん、浅田次郎さん、筒井康隆さんらは、繋がりからのご縁です。

    2.内容
    昭和平成そして令和。3つの時代を駆け抜けた女性三人の物語です。
    安保闘争、東京オリンピック、大阪万博の時代をメインに女性が働く/生きる姿が描かれています。
    描くという表現では補いきれません。

    文面から高度経済成長の匂い、臭い、そして立ち向かう生き様が赤裸々すぎるほどに切実であり、時に痛々しくもあります。
    ノンフィクションではなく、題材をもとにしたフィクションと冒頭に記載ありました。

    3.読了感
    団塊世代の読み手には相当のリアリティを感ずる方もいらっしゃるのでは?
    と推察します。
    窪美澄さん。初めての書籍です。
    読書が戦いのような体験でした。
    初めての感覚です。
    その時代に身体がタイムスリップして一緒に歩むような。。。
    執筆、ありがとうございました。





  • イラストレーターの妙子。
    フリーライターでエッセイストの登紀子。
    寿退社で専業主婦となった鈴子。

    まったく異なる生い立ちの3人が選んだ、それぞれの道のりをえがく。

    女性が働くことへの差別がひどかった時代。
    デモに交じって叫ぶ3人や女子学生たちのくやしさは、痛いほど伝わる。
    逆境の中、実力で仕事をこなしていく、妙子と登紀子がすがすがしい。

    昭和から平成へ。
    時代の変化と、それぞれの生き方と葛藤。

    3人の回想だけでなく、次の世代である孫や息子の思いに、じーんときた。

  • 登場人物の生き様を知って、どう受け止めれば良いんだろう。
    私の親世代が生きた時代。実感はないし、深い共感も湧かない。
    働いていた頃、労組の先輩に、
    「今は当たり前の権利も、自分や先輩達が闘って、勝ち取ったのだ。」と、何度となく聞かされた。感謝の気持ちはあったけど、それ以上何を求められていたのか…
    読了後、それと似た感じかも知れないと思った。

  • 1960年代から現在まで、東京オリンピック・安保闘争・学生運動・赤軍派による浅間山荘事件・阪神淡路大震災・地下鉄サリン事件等、時々の時代背景を盛り込みながら激動の時代を、自分の生き方を模索し、切り開いてきた三人の女性の物語
    女の来し方、女はどう生きればいいのか、どう老いればいいのか

    妙子が、来る日も来る日もポートフォリオを持って出版社を訪ね歩き、ようやく絵を描いて食べていける目処が立った夜、痩せた黒い野犬のそばにしゃがみ込み、牛乳をやりながら、「私、イラストレーターになるの」と声を出さずに泣くシーンには胸を打たれた

    また、後に新宿騒乱と呼ばれたデモに三人が参加し石を投げながら叫ぶシーン
    「鈴ちゃんなんて慣れ慣れしく呼ぶな!お茶くみなんて誰にでもできるって馬鹿にしないで!
    「男どもふざけるな!女を下に置くな!」
    「男の絵なんか描きたくない!好きな絵を好きなだけ描きたい」
    今まで、男社会で働く中、抑えられ鬱屈した思いを吐き出すシーンに感動した

    食わせてやっている 食わせてもらっているんだから浮気のひとつふたつでガタガタ言うな
    家だけにいる君には分からないことがたくさんあると一蹴されると言い返せない
    ハイヒールの踵を鳴らして出勤するお隣さんを羨ましげに見てしまい、自分の娘には専業主婦なんかつまらないわ 。あなたは仕事して自由に生きなさいとつい言ってしまう

    方や、働く女性も夫とギクシャクする関係でありながら、妻という立場を失いたくない 妻という着ぐるみを失いたくないと、今の立場に固執する

    いろんな問題は、女性の心に巣食っているのかと思うが、そうさせているのは、やはり世の中の常識やら世間体というものなのか

    先駆者として新しい女性の生き方を示したものの、寂しい晩年は気の毒だ
    三人の生き様が書籍化するよう奈帆子の奮闘に期待したい

    働く女性が当たり前になり、少しずつ少しずつ働く女性の立場が改善されつつはあるが、職場での仕事と同等に家庭内の仕事も評価される世の中であるべきだ
    女性の社会進出に伴って、子育てしながら外に出て働く女性だけが立派?という世の中の趨勢は、これまた問題がありそうな気がする




  • 戦後の高度成長期、雑誌出版の世界で束の間同じ時を過ごした3人の女性。
    フリーライター、イラストレーター、結婚までの腰掛けの一般事務、それぞれの人生。
    女性の生き辛さ、時代の渦、3人の生い立ち、一気に読んだのでお腹が重くなるような感じ。
    登場する男も女も、あの時代に確かに生きていたのだと感じさせる。
    残念ながら私自身とは遠い世界に思えて共感は出来なかったが。

  • デビュー時の2・3編を読み、するどい描写はなかなかだが、扱ってるテーマが今一つでこの先どうなるのだろう、と思っていた作家さん。直木賞候補になったのを機に読んでみた。題材もテーマも言うこと無しの傑作だと思う。
    70年代からの記憶しかないので、平凡パンチもアンアンも持って歩くことがオシャレという時代は終わっており、後追い雑誌に部数も負けていた頃からしか実体験はないが、黎明期を支えたイラストレーター・大橋歩、ライター・三宅菊子ぐらいは知っていたので、半分懐かしさも感じながら読んだ。
    タイトル通り、戦後の3人の女性の3者3様の生き方とその時代の世相も反映しながらの感じ方を通して、人生を考えることができる。勿論正解など無いし、感じ方・捉え方も人それぞれだろうが、間違いなく一生懸命生きる「人間」がしっかりと生き生きと描かれている。「愚か者たちのタブロー」共々、何故受賞できなかったのか不思議なぐらいの作品。絶対読んで損はない。勿論私のような男性でも。

  • イラストレーターの朔、ライターの登紀子、OLをやめて専業主婦となった鈴子。昭和から平成、3人の女性はそれぞれの道を突き進む。彼女たちが望むものは、そして、選んだもの、手に入れたものは何か、そしてその先は…。
    男か、仕事か結婚か、そして子供か。女は岐路に立たされる(ましてやこの小説では60年代よりが舞台だ、今以上に壁はあるであろう)。才能を持ったイラストレーター、ライターが登場し、新しい生き方を求め、人生をゆく。そして、若者へバトンを渡す時、必ずやってくる老い。喜びも悲しみも三者三様見事に描き切れている。私も若くない部類だし、要所要所で同感するところがありました(彼女たちのようなクリエイティブな才能はないけどね)。そしてモデルとなった方もいらっしゃるだろうし、時代を語るものでもあり、実に読み応えがある物語でした。女の悔しさや貪欲さ、逞しさ、それでも輝きがありました。時代に流れも味わえて良かったです。

  • 実在したエッセイストとイラストレーターに着想を得たという。
    昭和・平成を駆けて行った三人の女性
    過去の話しではなく今を生きる若者と交錯させてうまく構成している。

    大切な三つのもの 「結婚」「子ども」「仕事」
    すべてを手に入れたいというのは無謀なことだろうか?

    同世代としてリアルな時代背景と共にひりひりと彼女たちの葛藤が伝わって来た


    ≪ トリニティ かけがえのない 三つこそ ≫

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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