水神(下)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103314189

感想・レビュー・書評

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  • 身代と命を賭けた五庄屋と、その五庄屋、ひいては百姓たちを守るために自決して嘆願書を出した源三衛門。彼らが同時代にいたことの奇跡。ほぼ実話ということには驚きました。藤兵衛が助左衛門に語った話が好きです。菜種畑の夢は叶ったのかなぁ。オイッサ、エットナ。取水の日、筑後川からまるで龍のように勢いよく、轟々と流れてきた水には、百姓たちと一緒に感動しました。

  • この作家の歴史物はスロースターターで前半部がもたもたしているのでイライラさせられるが、後半部になると必ず泣いてしまう。よくある江戸人情ものでも、武士の剣客を競うものでもない。なのに泣ける。

    筑後川にかかる大普請の号令がおり、いよいよ工事がはじまる。反対派だった庄屋や百姓たちも意気投合していくさまは気持ちがいい。『火天の城』でもあったが、大きな事業のために国民一丸となるという構図はやはり心が洗われる。

    タイトルの「水神」がいったい何を意味するのかは最後で明らかになるが、ある人物の嘆願書の部分、これは泣ける。上巻のやたらともったりとした展開はこのためにあったのだろう。構図としては『天に星、地に花』と似てるのだが、けっして神がかり的なことを扱ったのではない。

    昔の人は他人のために命を賭けて尽くした。ひるがえって今の世の政治家にこれだけの志があるだろうか。税が重く暮らしが苦しいのはどの時代も同じ。それでも世の中を良くしたい、功名心のためではなく利他心のために。現代人もこのように生きねばならないことを諭してくれる名作である。

  • 全編筑後弁。アツい話に只々涙するばかり。読了後も筑後弁が抜けず。

  • ウルウルしてしまいました。

  • 週刊ブックレビューで絶賛されていたので読んだのだけれど、時間かかったわー。

    江戸時代の九州のお話。
    筑後川の水を各地に引こうと決意した5人の庄屋さんと彼らを取り巻く人々。

    漢字が多くて大変だったけれど、丁寧な描写はやはり嬉しく、登場人物の誠実さや九州の言葉が心地良く、読後は静かな感動に包まれた感じ。
    泣いちゃったよ。

  • 五庄屋は実在の人物で、今も銅像があり皆に水神として祭られているそうです。
    昔の百姓の苦労と努力をまざまざと見せつけられ、今の自分を省みてこんなんじゃ駄目だなぁと少し反省。
    この庄屋さんたちを見ていると理想の上司じゃありませんか?
    江戸時代の庄屋ってもっと偉そうで自己中なのかと思ってました。

  • 江戸時代の九州、周辺に滔々と流れる大河がありながら水の恩恵をいっさい受けず貧しい生活を何代にも渡って強いられてきた江南原の百姓たち。水不足にあえぐ村のために、身代のみならず命をかけて堰渠事業に取り組もうと立ち上がった五つの庄屋。

    限りなく貧しい百姓たちの生活、藩を説得するための誓詞血判の嘆願書、反対する村からの妨害、一心不乱に堰渠・灌漑工事に取り組む百姓たち、水路破壊の責をとるために庄屋の身代わりとなって切腹した下奉行の遺書、堰渠が完成した時の喜び。気迫ある言葉のひとつひとつに心が打たれた。『国銅』を読んだ時も思ったけど、この著者の丁寧な取材にも驚く。これが事実だったとは。後世のために遺したい、遺さなければいけないと戦い続けた庄屋の想いにも圧倒された。遺書を彫ってという石碑、新しくできた「新川」、そして今も同じ場所にある堰渠を見に行きたくなった。

  • 一切奇を衒うことなくド直球で勝負、そんな、非常に読み応えのある大作だった。

    帚木蓬生氏といえば、もちろん幅広いジャンルをカヴァーする作家ではあるが、中でも巷間もっとも知られているのはやはり医療モノだろうと思う。
    この作品はそれらとは趣をまったく異にする、江戸時代の農村を舞台にした話。

    冒頭に“奇を衒うことなく”、と書いたように、物語の筋も展開もどこまでも正攻法で、意地悪な言い方をすれば、読者の予想の範囲を超えるようなものでは決してないが、その真っ直ぐな世界がドンと心情に迫る。
    描写そのものも抑えられており、どちらかといえば淡々とした筆致で綴られているが、そのことが庄屋や百姓たち、そして心ある侍が抱える艱難辛苦を読む者に共感させるという点において高い効果を上げているように思う。
    足掻いても騒いでもどうしようもない、当時の民衆が直面し、畢竟受け入れざるを得ない現実というものを、抑え気味の筆遣いだからこそ、現代に生きる我々も感じ取ることができるのではないだろうか。
    しかし、渇水しようが氾濫しようが不作だろうが、否応なく巡ってくる毎日を生きていかねばならないという半ば諦観めいた日常の中、自らの身代と生命をなげうっても事業を成し遂げたいという庄屋たちの激情もまた、そうした筆致は充分に伝えてくれる。

    いくつかの困難を乗り越え、そろそろ事が成就して大団円かと思われる矢先に皆を襲うアクシデントも、タイミングといい絶妙すぎる。
    実際、私も下巻に入ってからのあまりにスムーズな運びに、「このままいったらちょっと呆気ないんでないの…」と思っていたところだったから、見事に騙された。
    それがまた物語の結末における感動を増加する。

    些事だが、本文中に出てくる食べ物が、当時の百姓料理を始めとする粗食ながら、池波正太郎の「剣客商売」シリーズよろしく、実に美味そうに描かれている。
    大根、鮠の煮干し、菜飯、粥、鮒の串焼き、山鯨(猪)、鯉の膾…。
    腹が減ってくるわ。

    最後に、各章の小章に付けられている小見出しがまた素晴らしい。

著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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