あとかた

著者 :
  • 新潮社
3.53
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本棚登録 : 758
感想 : 126
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  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103341918

感想・レビュー・書評

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  • この本、とても好きだなあ。ブクログのどなたかが感想で「低温火傷」と評されていたけれど、まさにその言葉どおりだと思った。
    ゆるゆると話が繋がっていく感じも好き。

    ・イナダはどんな気持ちだったのだろう。どんな顔をして部屋の中にいたのだろう。考えると胸が痛くなった。きっともう会うことはないのだろうな。

    ・「たとえ明日、世界が終わるとしても魚も人もきっと恋をするもの。惹かれた相手と1秒でも長く一緒にいたいと願うはずだよ。」

    ・夜明け前のビル、夜明け前が一番暗い、からの最後に「朝の光を浴びる前に誰かが昏い影に引きずられてしまわないように」。素敵な終わり方だった。

  • 「人間って生きることで何を遺せるのだろう。」を軸にゆるりとつながる6つの短編。

    「ゆびわ」で明美が語った、「子どもを作ったって何か遺したことにはならないよ」という一文が心に突き刺さりました。

    6人それぞれが、何かしら欠陥を抱えていて。各章で彼らがそれぞれ主人公になることで、心情の吐露がなされることで、少しずつそれが明らかとなって。各章終わりに救いというか、光が差し込むようになっているけれど、その先の人生で彼らが何かをのこせるようになるのかはわからないままというのが、どこか寂しさも残る読後感で、いいなと思います。

    あと、千早茜さんの描く男女(に限らず、人対人?)の関係性ってどろっとしていて、纏わりつくような熱量を持ってるなと、この連作短編集を読んでまた実感しました。だから、「うろこ」の松本と啓介みたいな「普通」の大学生男子の会話シーンがなんだか新鮮でした。最後に出てきた水草くんも気になる存在でした。彼が主人公となる章も読んでみたかった。

  • --きれいに洗っても、忘れようとしても、まだ残っているもの。
                 それで、人生は満ちている----。


    ●『ほむら』 
    ●『てがた』 
    ●『ゆびわ』
    ●『やけど』 
    ●『うろこ』 
    ●『ねいろ』


    6編の連作短編集
    物語の登場人物が交錯し、脇役から主役へと繋がっていく、紡がれていく
    話事に語り手が変わっていく。その移り変わりがとっても上手だった。
    『うろこ』と『ねいろ』が良かったなぁ
    生きている誰しもが何らかの矛盾や後悔や理不尽さを抱えずにいられない
    結婚前の不実も不倫も自傷も恋人に本心を伝えられないのも
    怖いから…抗いたいから…日常の澱の様な物を描いてる。
    何とも言えない倦怠感が満ちています。
    うろこの松本君頑張れ~(b≧▽≦)☆
    ねいろの水草くんの言葉が素敵だった

  • 著者の作品2つ目
    前回手にした『からまる』と同じく、連作短編集。

    5年も同棲していた彼との結婚を間近に控ええ、束の間妻子ある男性と関係を持つようになるOL…ほむら
    子どもが生まれ、妻との関係が変わってしまった洋平…てがた
    周りと同じように結婚して、子供を産んで、としてきたはずなのに、若い怪しげな男と不倫の関係を続けることになってしまった人妻明美…ゆびわ
    自分を痛めつけることで、過去から決別しようとし続けていた背中に大きな傷を持つハーフの美女サキ…やけど
    サキが転がり込んでいた部屋の主、松本…うろこ
    災害医療の現場で働く恋人を待ち続けるフィドル奏者…ねいろ

    それぞれの話が微妙につながって、少しずつ良い方向に向かっているような、そんな流れのストーリー。
    この方の文章、すっごく好きです。
    「ゆびわ」が切なくて良かったです。
    「うろこ」に救われました。

  • ずっしりと重いものが乗っかってくるような後味。あるいは出口のない袋小路に一人で迷い込んでしまう恐ろしさみたいな感じ。
    ほむら…もしかして本当に愛しているのではないかと読むうちに思った。結婚相手では得られないものがそこにあるのだろう。
    てがた…上司の自殺を反面教師として自らを戒めつつ、妻と子供を守る道を選ぶ。
    ゆびわ…てがたの奥さんの話。安定を手にするとその反動で不倫に走るのか。危険なものに近づきたくなる気持ちは少しわかる気がする。
    やけど…ゆびわの不倫相手の隣の部屋に居候する女の話。ほむらの男と繋がっていた。心を病んでいるようだけど不思議とまともに見える。病んでいるのはこっちなのではないかと。
    うろこ…やけどの女が居候している部屋の男の話。心の底では好きなのに男のプライドが邪魔をして本心を誤魔化している。だけど女が居なくなりそれにやっと気がつく。魚の痛覚の話は哲学的で面白かった。
    ねいろ…フィドルの女の話。うろこの男と同様に自分の感情を押し殺しよしとする。その感情は行き場をなくし自分の心の奥底に沈んでいく。そのうち自分の気持ちがわからなくなっていく。

  • 初読み作家さん。
    イタい。イタすぎる。
    わかるなぁ。って思っちゃう自分に涙。
    イタいよ…

  • 社会の、マジョリティコード、約束事に則ったという意味で、「ふつう」の小説であり、個人的に現実感の感じられない小説だった。湿った空気に、広がる寂寥感。普段そんなにこの手の小説を読まない身でも、こういった話は他の女性作家さんの小説でも見かけること度々で、似たようなのを過去に何度か読んだ記憶がある。
    この、湿った空気、が、いいんだろうか。流行なんだろうし、こんなに人は孤独だという話だったような気はしますが、だからなんだって感じもする。なんとなく、苦手な人の方が多そうなイメージだけど、人気だと聞いて、へぇと。ここにあるものが本当らしいというのはなかなかグロテスクな現実を突きつけられた感もあり。連作短編として、並び順がこうでよかった。ラストふたつは仄かな明るさがあって。とくに後ろから二番目は、乙一さんの書く苦いけど後味の悪くない青春ものっぽくもあり。
    『孤独』の物語に始まり、『救い』の物語に終わる。

  • 本当の自分とは、自分らしさとは、葛藤、孤独、自己表現、愛する心、迷い。登場人物のもつさまざまな悩みや心の動きが鮮やかに表現されていて、読み応えがありました。

  • 孤独を描いた連作短編集。どの話も自殺した男が媒介となって、つながっている。
    どの話し手たちも、孤独感に苦しんでいる。その引き金となったのが、男の自殺であった。彼の存在が、直接的にせよ間接的にせよ、みんなのトラウマになっている。このままだと皆、破滅しかねない状況だ。
    しかしそうはならない。救われない結果から逃れようと、話し手たちは決意する。表明することは人によって異なる。すれ違うんじゃないかと思うものもある。でも、それでもいい。トラウマと対峙し、克服しようとする決意が、大切なのだろう。

  • 直木賞候補作に挙がったため、手に取る。
    登場人物が少しずつつながっている、連作短編集。どこかいびつで哀しい人たちの日常が、恋愛を中心に展開される。各人の抱える問題がじつはかなり深刻なのだが、そのどれもがさらりと描かれている。ひとつひとつを、もっと膨らませたものを読んでみたい。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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