街とその不確かな壁

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534372

感想・レビュー・書評

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  • やっぱり、おもしろい。

    もしも、意味の伝達をやめないものを古典というなら、わたしにとって彼の作品はそれである。

    今回も、耳、川、穴、雪かき、等々、お馴染みの単語が散らばる。わたしにとって彼の作品は最初から最後までハイライト。

    今作品に限らずほぼ全ての作品はあるひとつの事柄のメタファーなんだろうな、きっと。

    「村上春樹ってどんな小説を書くの?」
    もしそう聞かれたら
    「そうかもしれないが あるいは そうでないかもしれない 小説」と、わたしは答えたい。

  • 村上春樹さんの小説は初めて読んだが、雲を掴むような世界でありながら、美しくも廃退的な雰囲気がそれを全く感じさせず、今まで体験したことないような独特な読後感だった。

  • 非常に長い小説で、淡々と物語は進むが、不思議と飽きずに読み続けられる。高い壁に囲まれた異郷の街に紛れ込んだ主人公が、ずっと会いたかった初恋の少女に邂逅する。現実と虚構が混じり合う中物語は進むが、精神世界が個人個人独立しているのではなく、どこかで繋がっているという前提に立てば、壁に囲まれた街は、現実のその奥にある人間が共有しうる精神世界を表していると感じた。静かな感情で落ち着いて読める作品だと思う。


  • 久々の村上春樹作品。

    3部構成で成り立つこの作品。
    3部を読み始めた瞬間、ハッとした。
    私は今、何処にいるのだろう、と。

    リアルな世界で無いのに、グングン引き込まれるこの感じ。
    私が好きだった、春樹氏の初期作品に近い感じがして、若い頃に戻った気分で読み進めた。

    ある職場では信頼され楽しく働いていたのに、違う職場に移るとパワハラを受け、精神的に追い詰められることもある。
    その人は変わっていないのに、環境が変わることで、境遇が一変する事だってある。

    環境や周りを取り巻く人々によって、随分と居心地は変わるものだ。

    どんな人にも、合う場所や、合う人が必ずいる。
    上手く行かない時は、自分が適した場所に居ないだけなのかもしれない。

    全ての人々が、自分に合った場所で、自分に合った人に囲まれ、心地よく暮らせる世の中になると良いな、と思う。

  • 今回も村上春樹ワールドにどっぷりと浸れた幸せな時間でした。

    この、正解のない、読み手側に色んな風に解釈をさせてくれて、優しく素敵な異世界に運んで行ってくれる感じがたまらなく好きです。白黒のない優しくて不思議な世界。

    「現実」と「非現実」(想像)
    「本体」と「影」

    何が正しくて、普通で、確かなものなのか、断定できるものなどないもないこの世で、まさにその二つの境目なんて実は誰にもわからないのかも。私も影なのか?ここは現実なのか?現実とは何か?と妄想癖のある私は読みながら本気で考えた。(影響受け過ぎ笑)

    登場人物が魅力的で、みんな好き。他の村上春樹さんの作品同様、この本から何を感じ取ったか具体的に書けと言われても難しい。物語自体が起承転結!白黒ハッキリ!単純明快!誰が読んでもわかりやすい!ではないからなのかな。

    ただ、この何とも言えない哲学的というか、芸術的というか、不思議なワールドに入り込めるのが毎晩楽しみだった。なので焦らずゆっくりゆっくり読み終えました。とっても素敵な世界観でした。

    • shintak5555さん
      いやいや、個人的に好き勝手に解釈しただけですww
      褒め殺しは勘弁ですよ( ^ω^ )
      騎士団長殺しなら大歓迎です!
      いやいや、個人的に好き勝手に解釈しただけですww
      褒め殺しは勘弁ですよ( ^ω^ )
      騎士団長殺しなら大歓迎です!
      2024/02/04
    • Mayさん
      シンタロウさん、頭の良さがレビューに出てます!笑 騎士団長殺しの感想もぜひ読ませていただきたいです!!
      村上春樹さんの本は私には感覚的にしか...
      シンタロウさん、頭の良さがレビューに出てます!笑 騎士団長殺しの感想もぜひ読ませていただきたいです!!
      村上春樹さんの本は私には感覚的にしかわからないので、これからはシンタロウさんの考察を読んでしっかり理解するようにしたいと思います笑
      これからもよろしくお願いします^ ^
      2024/02/05
    • shintak5555さん
      騎士団長の備忘録はFacebookのノート機能を使ってた時なので(^_^;)
      あれはよく分からんかった(^o^)
      騎士団長の備忘録はFacebookのノート機能を使ってた時なので(^_^;)
      あれはよく分からんかった(^o^)
      2024/02/05
  • 「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の前日譚かなと思い読み進める。二章の子易さんが出てきたところから物語が動き始めてぐっと引き込まれた。



    疫病の侵入を防ぐための高い壁、その中の街には必要なものしか存在しない。不必要なものは侵入を許されない。壁の中には時間という概念がなく、影を切り離された人たちが生活している。
    コロナ禍に執筆されたとのことで、コロナ禍の生活を思い出す。あの日々は息苦しい生活だった。家の中にいれば安心だったし、マスクがないと不安になった。(コーヒーショップの店員の下着は、あの頃のマスクと同じかもしれない。)



    きみと君、彼女、昔のガールフレンド…
    場面によって呼び方が変わるの、考察すると面白そう。



    選ばなければならない。たまりを探し出すことも、たまりに飛び込むことも、ろうそくの火を消すことも、結局は自分で選び行わなければならない。でも、もし、大切な人がわたしと同じ選択をしなかった場合、わたしはどうするだろう。



    雪が降り続ける寒い日、パチパチと暖炉の音のなる部屋で、熱い紅茶かコーヒー(ブルーベリーマフィンがあればなおよし)をお供に読みたい。途中でうたた寝したりして、あちら側とこちら側をさまよう様に。

  • 読書備忘録763号。
    ★★★★★。

    私はハルキストではないです。
    でも春樹さんの作品は無条件に★5つです。
    読んで個人的な評価をしているのではなく、読む前から★5つです。笑

    春樹さんの作品は備忘禄になりません。
    備忘禄にできません。意味わからんから。笑

    でも理系人間として作品を整理して、自分なりの解釈をしたいと思います。まずはあらすじ。
    めちゃくちゃおおざっぱですがネタバレ満載。

    【第一部】
    ぼく(17歳)ときみ(16歳)は、高校生エッセイ・コンクールで知り合った。そして、きみはぼくにその街のことを教えてくれた。壁に囲われた街。街には誰も入れない。街からは誰も出ることは出来ない。そして、本当のきみはその街の図書館で働いているという。きみは、実際のこの世界では影のようなものだという。
    あなたがほんとうの私を求めているなら、あなたはその街に行くことになる。でもほんとうの私はあなたのことを知らない。それでも良ければ。
    街には特別な役割を持つ人が必要。それは「夢読み」。「古い夢」を読み図書館に記録している役割。あなたが街に来たら、そのポジションが用意される。と。
    ぼくときみは文通をしながら街の世界を作り上げていくが、しかしきみは突然ぼくの前から消えた。
    社会人になった私。強烈だった恋愛を引き摺り、心に空洞を抱えながら。そして穴に落ちた。私は45歳。そして壁の街に・・・。
    その街に入るとき、影を切り離さないといけない。影は影として生きるが、本体と切り離された影はいずれ死ぬ。
    図書館でほんとうのきみに再会した私。そこで夢読みの仕事をしながら、きみとのささやかな交流を続ける。
    ただ、影が言う。このままでは私は死ぬ。その前にもう一度一体となり助けてくれと。もとの世界に戻ろうと。
    そして、私の選択。影をもとの世界に帰し、自分は街に残ることにした・・・。
    【第二部】
    私は戻ってきた。街の記憶をもって。影がある自分。結局影といっしょに戻ってきたのか?
    私は図書館の仕事をするために、会津地方の小さな図書館の館長に職を得る。
    そこには、元館長の子易さんがいた。しかし子易さんはすでにこの世にはいない方だった。幽霊。子易さんに助けられながら館長の仕事をこなす私。
    第二部では、子易さんとの交流、私と同様、子易さんが見える図書館の職員添田さんとの交流、コーヒーショップを営む女性との淡い交流(ちょっとした恋)が描かれる。
    そして、図書館の本を片っ端から凄まじいスピードで読破していくサヴァン症候群の少年M**くんとの出会い。彼は私から壁の街のことを知り、自分はその街で夢読みとして生きる宿命だと悟る。そしてある夜、M**くんは行方不明に。
    私は悟った。M**くんは壁の街に・・・。
    【第三部】
    壁の街。私は、夢読みの仕事をしている。
    そして街で見慣れない少年を見かける。
    誰も彼のことを知らない。私も知らない・・・。
    そして見慣れない少年M**は、夢読みになるために私と一体になるという。
    そして、私は・・・。

    というあらすじです。

    この世界とは違う世界の街。
    似たような物語として、1Q84では月が2つある世界が描かれる。そして異世界を生き抜く過程での純愛物語だった。
    この物語もぼくときみ、私ときみの恋愛小説かなと思いきや、その味付けは薄かった。笑

    この作品で作者は、影という存在を実体として存在するものとしてみたのではないかと想像する。影を生かすために違う世界を作った。
    主人公がその世界を認知するために、恋愛ストーリーを組み立てた。
    こんな感じかと。
    ただ、やはりロマンチストな春樹さんは、コーヒーショップの素敵な女性とのロマンスを作ったり、楽しませてくれた。

    そして、本体と影。
    第一部でぼくは本体と影が一体の普通のひと。
    きみは影の存在。
    壁の街の描写から、街に子供の存在はない。ということは街の住民は現実世界からトリップした人たち。
    きみも多分トリップした。そして、限りなく難しいとされた元の世界に戻ってくることを果たした。ただし影だけが。第二部で私が壁の街のことをすべて覚えていることから、きみの影は壁の街のことを克明に覚えていた。だから知り合ったぼくにそれを語る。ぼくのことが好きになるきみ。でも自分は影の存在。ほんとうの自分を好きになって欲しい。だから壁の街に行って欲しいと。
    ただ、壁の街のきみはぼくに出会う前だからぼくのことを知らない。そして、ぼくが壁の街に行くのは45歳。歳が離れすぎて恋愛にならない悲しみ。それでも私はきみとささやかな交流を。切ない恋愛物語。
    もとの世界でのきみはどうして消えたのだろうか。影ゆえの悲しい結末しか思いつかない。
    そして、第二部。きみと同じく、影だけが元の世界に戻ってきた私。本体は壁の街に。離れ離れ。いずれは影ゆえの悲劇が襲うのだろうか。
    第三部のラスト。壁の街にいる私の本体のとった行動は・・・!もとの世界で影の私が生き残る唯一の解だと思うとめちゃくちゃ嬉しい。
    そして、壁の街のきみ(16歳)と年齢の釣り合ってるM**くんとのこれからは・・・♡。これも想像すると嬉しい。
    壁の街で、私の本体とM**くんが入れ替わるから、私の本体は・・・。いかんいかん想像上のネタバレ。
    以上が個人的な解釈!

    ということで無条件の★5つでした。

  • 「この世界に心に秘密を抱かないものはいない。それは、人がこの世界を生き延びていくためには必要なことなのだ。」(p36)
    「私」は第3部で壁の中の少女に対する大きな秘密を抱えてしまった。どんな秘密も全て打ち明けていた仲だったが、それが初めての秘密だった。やはり秘密を抱くのはこの世界を生き延びるのに必要なのか。この言葉は深く響いた。

    「本体と影とは、状況に応じて役割を入れ替えたりもします。そうすることによって人は苦境を乗り越え、生き延びていけるのです。」(p383)
    最後に「私」は壁の中の世界からこちら側の世界に戻ったのだろうが、きっと自分の影と一体となれるだろう。「本体と影とは本来表裏一体のもの」だから、私は私であり、また普通の生活を影と共に送れると思う。ただし、常につきまとう影の存在を意識することはなく。

    子易さんが「私」の前から消えるシーンが悲しかった。イエローサブマリンの少年が失踪した時に、子易さんが「私」に何かしらの助言を与えてくれていたらと何度も思った。
    イエローサブマリンの少年はこちらの世界からあちらの世界へ行って幸せになれたのだろうか?自分を求めている世界があるのは素晴らしい。そしてその世界へ行けて良かったと思う。

  • 感想を言うのは難しい。
    村上春樹小説はいつもそう。
    すべての作品を2度ずつ読んだけど、読み終わると静かに本を閉じるだけ。
    でも「風の歌を聴け」から40年ずっと中毒。

  • 久しぶりに、現実と非現実の間を生きているような感覚を手に入れることができた。神秘的な登場人物たちに惹き込まれる

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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