- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103552413
感想・レビュー・書評
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月刊文藝春秋で読んだ「『お別れの会挨拶』全文」の衝撃はいまも覚えている。吉村昭と津村節子については、そのきびしい印象を引きずって、書き手としても緊張感をもって対峙していた夫婦ととらえていたが、もちろんそればかりではなかった。有名なエピソードも多いのだと思うが、津村節子本人と長男のコメントも折々にはさみながら立体的に描かれていて、微笑ましいエピソードが多かった。
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「結婚したら小説が書けなくなる」。プロポーズをいなす津村を吉村は何度もかき口説いた。「書けなくなるかどうか、試しにしてみてはどうか」。そして始まった二人の人生は、予想外の行路を辿っていく。生活のための行商旅。茶碗が飛ぶ食卓。それでも妥協せず日々を積み重ねる二人に、やがて脚光が……。互いを信じ抜いた夫婦の物語。(アマゾン紹介文)
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主な取材対象は2人の長男・吉村司と、90代半ばで存命の津村節子当人。他に、膨大な文献を渉猟した丹念な調査がなされている。
若い頃の吉村昭は意外に暴君だったようだが、副題にある「波瀾万丈」というほどではない。
波瀾万丈というより、全体にほのぼのとして微笑ましい。出会うべくして出会った伴侶という感じで、こんなに幸せな夫婦は稀有だろうと思わせる。
ただ、第3章「同志にしてライバル」はやや異質。この章にだけは静かな火花が散っている。同じ文学の道を志すライバルとしての夫婦に焦点を当てているからだ。
吉村の名著『私の文学漂流』と響き合う内容である。そして、本書でこの章が突出して読み応えがある。
「文学のデーモン」に憑かれた者同士なのに、夫婦関係がうまくいっていたのは、2人とも文学以外の側面では普通の暮らしを重んじる常識人だったからだろう(もちろん、互いに愛し合い、作家としてリスペクトし合っていたからでもあるが)。
吉村昭の超ストイックな執筆生活にシビレた。
たとえば、長男・司のこんな発言がある。
「小説は頭で書くのではない、手で書くのだと、父はよく言っていました。何を書くかわからないけど、無理やり、とにかく手首を原稿用紙の上に置く。体を机にしばりつけるのだと。そこから作品が生まれていく。アイディアが浮かぶまで待つなんていうのは嘘だと」(100P)
なお、著者の名前に見覚えがあると思ったら、かつて『週刊朝日』で、「夫婦の階段」という長寿連載(著名人夫婦へのインタビュー)をやっていた人だ。
その連載でインタビューした一組が、吉村昭・津村節子夫妻だったという。