土の記(下)

著者 :
  • 新潮社
3.77
  • (16)
  • (27)
  • (24)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 305
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103784104

作品紹介・あらすじ

ラスト数瞬に茫然、愕然、絶叫! 現代人は無事、土に還れたのだろうか――。青葉アルコールと青葉アルデヒド、テルペン系化合物の混じった稲の匂いで鼻腔が膨らむ。一流メーカー勤務に見切をつけ妻の里に身を落着けた男は、今年の光合成の成果を測っていた。妻の不貞と死の謎、村人への違和感を飼い馴らす日々。その果てに、土になろうとした男を大異変が襲う。それでもこれを天命と呼ぶべきなのか……。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • まさに人生。寂寞とした読後感。

  • 相変わらず伊佐夫はお天気を気にしながら農業にいそしんでいる。昔からのやり方にこだわらず、試行錯誤で新しいやり方も取り入れ、妻の妹に言わせるとさながら理科の実験のような農業。近隣の人たちも冷やかし半分で見守っている。

    その間にも、村では訳アリの出戻りが双子を生んだり、伊佐夫の実家の兄や、妻の妹の連れ合いが死んだり、にわか思い付きで自分と妻の墓石を作ったり、いつの間にかトイプードルとナマズの花子という新しい家族も増えている。
    伊佐夫には一人娘がいて(またしても女でしかも家を出て行き後継者にはならない)離婚の果て一人娘(またしても・・・)とともにニューヨークに暮らす。
    その孫娘と過ごす2週間や、娘が再婚相手を伴い帰郷した際の村をあげての歓迎会など、こうしてみると結構変化に富んだ日常を送っている。
    またその背景で東日本大震災がおこり、何百キロも離れた地
    に思いをはせ、心ざわつかせる。
    天気を気にかけ、茶畑を見回り、稲作に試行錯誤し、だんだん老いていきその生涯を終えるのかと思うと、最後は台風により未曽有の被害がでて、伊佐夫の村にも被害者が出た、と話が終わる。
    つまるところ、東日本大震災であれ(原発事故は別として)台風であれ、大自然の前では人間は何とも致し方がない、ということか。大自然と向き合うことの厳しさを思い知らされる。

  • 奈良の農村の老人の物語の下巻。

    妻の1周期も終えても主人公の人生にかかわる大きな事件はないものの、周辺では殺人事件などの事件は起こっているが、主人公の記憶が混濁したり喪失したりするボケに向かう表現が凄まじいです。
    一方、育苗から取り組む稲作の詳細な記述も鬼気迫るものがありました。東日本大震災が発生するので時期の特定ができたことで、8月の不穏な描写から、最後のページの台風12号で決着するのは茫然自失になりました。
    結局は時間と自然の中での人間の営みはミクロでは大変であるけれどもマクロでは有象無象の一つということなのでしょうか。

  • 今まで福澤彰之シリーズで、漁師の生活や仏教といった変わった題材を描いてきたが、本作では米つくりの農家という日本人にとってある意味普遍的な日常生活を描く。都会に住む自分のような者にとっては異質だが、日本の歴史を通覧すると普遍的であると言え、衆目の目を惹きやすい変わった題材から普通の題材を描く事にシフトしているような気さえする。普通の題材をいかに深く描くか、という事に挑戦しているのか?とも思う。土と共に生き、土に還る。タイトルにはそんな思いが込められているような気がする。ただ単に伊佐夫が土のサンプル収集に凝っていたから、というだけではないだろう。その伊佐夫も、16年前に交通事故に遭い植物状態になって、半年前に死んだ妻の昭代が生前他に男を作って不貞をはたらいていたのではないかという疑惑を払拭できず、うじうじと考え昭代という死者にとらわれている。昭代の妹久代と結婚していればまた違う道を歩んでいたのかもね、とも思う。下巻になって伊佐夫のボケが進み目が開いていても現実と夢の境がなくなる事、記憶の中の風景と現実が混在していく描写には恐怖を覚えた。詳細→
    https://takeshi3017.chu.jp/file10/naiyou6711.html

  • 土まみれ。主人公のぼけっぷりが面白い。田舎の濃厚な人間関係。著者の豊富な理系知識。主人公の頭の中を克明に描写。読み進めるのに苦労。

  • 娘夫婦が帰郷した時の宴会描写のグルーヴが半端なかった。

    現実と内省と物忘れを行きつ戻りつしながら辿り着く最後1ページ。

    最高。

  • 最後の最後に、ぎょっとする結末が待っている。

  • 上巻に続き、農家の日常が淡々と描かれる。

    奈良県宇陀盆地の漆河原集落で暮らす72歳の上谷伊佐夫。シャープ葛城工場を退職後、妻の実家にて農業をして暮らすようになる。妻の不貞と謎の死、村人への違和感を募らせる日々。伊佐夫の暮らしの果ては…。

    髙村薫の文章は、説明的ではない。読者に思弁を迫る。答えが示されるわけではないけれど、人生ってまさにそういうものですよね。滋味深い読書を堪能。

  • 棚田で農作業を営む老人の孤独で単調な肉体運動がゆえか、脈絡もなくあっちからこっちへと浮かんでは散逸する物思いと、彼をとりまく自然の圧。人が黙々と土に向かい、長雨に打たれるままにいると、やがて自然と同化していき、人間の意識はとりとめのない物思いに支配される。そんな状態の人の独白で物語をつむぐという試みは、その物思いと四季の村の自然のしつこいくらいの執着で描かれる描写だからこそ成立したのだろう。まさに高村薫の真骨頂。

  • 最後まで、ただひたすらに、土の記。少し呆けてきた老人の、農作業の日々。上巻同様に過去の思い出と現在の農作業で老人の意識はいったりきたりしているが、下巻はその現在部分が頼りなくなっている。昨日会った人のことを忘れ、娘の再婚を忘れ、…。小説の主人公ではない、普通の人の人生を辿った気分。読書経験値が上がった気がします。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

髙村薫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×