ひとりでカラカサさしてゆく

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103808114

感想・レビュー・書評

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  • 大晦日、東京駅近くのホテルのバーラウンジに集合した、垢抜けて知的な三人のシニアたち。
    幼い頃には戦争を体験し、高度経済成長期も、バブル期もその崩壊もくぐり抜けてきた世代。
    一時期同じ出版社で編集者として働いた縁で、その後も「勉強会」を続け、生涯を通じて友であった。ちょっと男女の関係もあった、男二人、女一人。
    まあ、なんて素敵、シニアのトレンディドラマ?・・・なんて思っていたら・・・
    やらかした。
    結構な衝撃である。

    シニアたち三人の大晦日の一日と、家族たちの「その後」が交互に描かれる為に、時間軸が行ったり来たりするが、それでも自然で読みやすい。

    逝く人たちには「今まで」があり、それを大切に守るために、巾着の口を閉じるようだ。
    残された人たちには「これから」があり、まだまだ蜘蛛の糸のように紡がれていくから、結末は描かれない。

    老人たちが投じた一石により、澱んだ水面に波紋が広がっていくような感じがする。
    連絡を絶っていた家族がまた縁を取り戻しつつあったり、意外な顔合わせで新しい関係が生まれたり。

    「もう十分生きました」そう思っても、あっさりと死なせてくれないのが人の世の倫理観であり、現代の最先端の医療である。
    最高のタイミングで死ぬことはとても難しい。

    三人のシニアが選んだやり方が、正しいのかどうかは分からない。
    しかし三人は、生き方として、その死に方を選んだのだろう。

  • 完結した3人の人生と、
    生きている限り続く、未知で予想外な生きている人たちの人生。
    そういう対比なのかな。
    雑誌の連載だったみたいだから、
    コロナで激変した世界で、自ら命を絶った訃報が連なる中で書かれたのだろうか。
    自殺した人たちはこの世界から解放され、
    生きる人たちは翻弄され続ける。
    人生で起こる予想外の出来事すべてに
    納得できる原因や理由があるわけじゃないのは
    誰もがわかりきってる。
    そんな出来事を羅列してあるだけで、
    どこにも辿り着かない。
    なんであんな終わり方なんだ…

    以下、あまりにもイラつくので読みながら書いたメモ
    【読み終わってないけど気になること】
    変る、恥る、終る、メイル、年配の登場人物はともかく、27歳の女性が書いたという設定のメールでもこの表記をしている部分にはあきれた。
    特に後半はメールのやりとりで話が展開していくため、何度も何度もメイルという言葉が出てきてイラついた。
    この世代の人はこんな言い方しないってなんで出版されるまで誰も言ってあげないんだろう。
    年配の作家さんが書いた若者言葉ってありえなすぎて、いつも、誰かアドバイスしてあげればいいのにって思う。大御所には言えないのか…?
    といっても江國さんはそこまで年配ではないはずなのに…。
    あと、一行改行しただけで唐突に主人公が変わるからめちゃくちゃわかりにくい。
    続きのつもりで読んで毎回びっくりする。
    そしてかっこ(この丸いかっこ)による付け足し文が多すぎ。
    かっこは、一文として書くには冗長になりすぎる説明を補助文として書くために使うから、多用するのは文章を工夫する努力もしくは才能の無さの表れ。
    堂々と一文として書いてほしい。

  • 久しぶりの江國香織!大好きな作家。登場人物の間に流れる空気感、文体、物語の運びに江國顔の世界を堪能しました。

  • 出だしなかなか入ってこなかったけど、好きな登場人物を得て喜びを見出し、結局相関図を書くことで助けられ、没頭できました。

    「りゅうとしている、」

    読み終えた感想はまさにこれ。

    大晦日の夜、洒落たホテルのバーラウンジで最後の酒を交わし、共に猟銃自殺をはかった三人の80歳を過ぎた男女。完爾、勉、知佐子。
    知佐子が、昔なじみの男二人を見て思う、りゅうとしている、と。

    ここに登場する人たちと、江國さんの文章こそが りゅうとしていました。

    三人の事件を受けて集まった親族たち、彼らが特に深く関わる訳ではないのに、
    それぞれの生活と、故人への想いとが、几帳面だけどとても断片的に描かれていたように思います。一人称だったり、三人称だったりするのもおもしろく、私は一人称で語られる圭という人がとても気になっていました。
    妻と別れたのに、その元妻の母から喫茶店を譲り受け、その仕事が気に入っているという。。それも圭は、故人の親族じゃない。

    それから、デンマークに住む完爾の孫娘と、知佐子の娘(まだ小さかった子どもを置いて家を出たたぶん50を過ぎた独身女性)この2人がメイルで、アンデルセンについて語るところもとても好き。
    そういえば、江國さんはアンデルセンを訳しましたよね。

    ストーリー展開は特になく、誰かがタペストリーのようだと言っていたけど、

    前作の、私が挫折した『去年の雪 こぞのゆき』のようだった。

    繋がりがあるようでない、自殺した三人の家族や知人たちの生活という小箱の蓋を開けては閉じて、また開けて…

    洒落ている。

    ところでこの素敵な可愛らしい装丁、表紙の絵は、
    デンマークの女性デザイナーによる布の作品で、
    タイトルは「友情」
    三人の老人への想いが込められています。

    実は刊行前に江國さんのレクチャーを拝聴しましたが、私のメモには、

    昭和へのオマージュ

    と書いてあるんだけど、私たちでも知っている、バブル期の昭和のしっぽなのかなー。

  • 久しぶりの江國香織さんは、
    良い意味で裏切ってくれた。

    大晦日、
    80代の男女3人が
    東京のホテルの一室で、猟銃自殺した。

    ミステリーでも
    壮大なドラマでもなく、
    淡々と、3人と、その親族達が心境や日常を吐露する。順不同に、何度も。

    私は江國香織さんを
    女版村上春樹と思っている。

    ジャズがよく出てくるところとか、
    知らない言葉が出てきて、
    スマホで調べながら読まなきゃいけないとことか、共通してる。

    今回は
    素懐、厨芥の読みと意味を調べた。
    アメリカシャクナゲの花、
    知らないジャズナンバー、なども。


    本当はもっと調べたいことあったけど、
    出てきた小説の内容とかは
    スルーして。

    やっぱり、江國香織さんの文章が好きだ。
    同じ心情や情景も
    江國さんの手にかかると、
    洗練されたものになる。

    この本はまず、装丁が気にいった。可愛いハギレのイメージなのかな?そして、タイトル。ひとりでカサカサしてゆく、だと読み終わるまで思い込んでた。かかとカサカサな私。

  • 江國香織の本はどこまで読んでもきりがない。
    いろいろな情景が浮かぶけれども、それはいい匂いみたいなもので読み終えるとふっと消えてしまう。
    この本もそんな本の一冊。
    なぜ3人が猟銃自殺したのかの理由は明らかにされないし、交互に断片的に書かれる3人の親類縁者たちも何かカタルシス的なものを得るわけでもない。
    読んでいる時に本の中に流れる雰囲気を味わう、という以外に読んだ意味があるのかどうかも怪しい。

  • 80代の男女3人が高級ホテルの一室で猟銃自殺する、という始まりから紡がれるその後の遺族達の物語。遺族に限らず、故人と関わった様々な人たちの思いが溢れている。
    月並みではない江國氏しか編み出せないであろう言葉のひとつひとつが美しいと思った。

  • 近くにいて、理解しているつもりになっているひとでも、ほんとうはなにも知らないのかもしれない。

    でも、それでもいっしょにいたいと思うひとと、来年もいっしょにいたいと思いました。

  • 小説というのは、主人公がいて、何かが始まり、理由があって何かが終わることを前提として読むことが多いと思うけれど、最近の江國香織さんの小説は、そういう小説とは違う。さまざまな人々の日常を丁寧に切り取って描かれるのは、社会という大きな流れの中に生きる、小さな人々の生の営みの美しさではないか。それぞれの生は、さらに曼荼羅のように無限の物語を紡いでいく。私たちはその物語の全てを知りたくなるが、全ての物語の最初から最後までを知ることは決してできない。それは現実の生と同じだ。
    なぜ、という問いにも明確な答えは用意されないし、理由を知ることに意味はない。全ての生を丸ごと飲み込めばよいのだと思う。
    読後、自分のさしてドラマチックではない日常も愛おしく、小説の一部のように感じた。

  • 雨降りお月さんの歌がエンドレスで流れてる♪
    とはいえ、途中までのフレーズしか知らなかったことを改めて知るし、歌の意味も。

    衝撃的な始まりから、あとは淡々と残された人たちが入れ替わりながらも、静かに続いていく。

    こんな終い方、ある意味羨ましい~
    自分もそんな歳になったとき、こんな境地になれるかな。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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