ひらがな日本美術史 1

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104061013

作品紹介・あらすじ

素朴な疑問から出発して古代の日本人を読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 噂には聞いていたがこれは良い。
    橋本治が書いた「漢字」ではない「ひらがな」の美術史。
    たぶん正統ではない独自の、あるいは権威にはよらない、といった意味合いがあるのだろう。

    そう、本書は橋本治の眼によって、主観によって貫かれた日本美術史。かといって、学術的な研究を無視しているわけでもないのだが。

    ではどう書いているかといえば、例によって氏の特殊能力を使っているのだ。
    それは小説を読めば一目(読)瞭然。氏の作品を読むといつも思わされるのだが、登場人物たちがやけにリアルなのだ。どうしてこうもいろんなタイプの違う、あるいは時代の違う人間の気持ちがこうもわかるのだろうかと感心してしまうのだが、このいわば憑依能力のようなものを、本書でもいかんなく発揮しているわけだ。

    そう、氏は、古代の埴輪や土偶や、壁画や絵巻物やを作った、描いた人たちにまで憑依する。その上で作品を語ってしまう。どんなに博識な美術史家にも本書のようなものはおそらく書けないだろう。

    だから読む側もまるでその時代にタイムスリップしたような錯覚におちいる。こちらも過去の人間たちに同化して他人事ではなくなってくる。

    そんな傑作なのになぜか絶版。巻によっては手に入りにくい。気長になるべく手に入れていくつもりだが、このシリーズを復刊しないなんて、知の遺産としてもったいなさすぎる。

  • 昨年亡くなられた橋本治さんの『ひらがな日本美術史』。全7巻の第1巻。

    私にとっての良い読書体験というのは、やっぱり「セックス、ドラッグ、ロックンロール」に匹敵するようなものなんだなあ……としみじみ感じました。セックスとかドラッグとか書くと引かれそうだからそこは置いといて、良い本や面白い本を読むとシビれる感覚がするということ。そして同時に背中を強く押してもらえた、励まされる本でもありました。

    この本は構成もよくて、埴輪や銅鐸から始まって、クライマックスのところ(アルバムで言うと最後から1〜2曲前)で鎌倉時代の、誰でも知っている運慶・快慶の話になる。ここがすごく盛り上がる。

    橋本治さん曰く、運慶&快慶とひとまとめにしちゃうけど、ふたりの作風は全く違うんだと。それをさらに私なりに再解釈すると、運慶=ジョンで快慶=ポールじゃん!ということになる。(実際にはたぶん逆なので、運慶=パンクロックで快慶=ポップスぐらいの意味)
    もちろん適当だけど、こういう事はみうらじゅんが言ってそう。みうらじゅんならこう言うね!だ。私は読んでないからわからないけど、『マイ仏教』や『見仏記』を読んだ方は、次に読んでみるのも良いかもしれません。



    さてここから蛇足的にこの本の紹介。『ひらがな日本美術史』のタイトルを分解すると、
    ・ひらがな=漢字に影響を受けてできた日本独自のものという意味。漢字だと中国文化、カタカナだと明治以降の西洋美術。もうひとつは、易しく解説するということ。
    ・日本美術史=日本の美術+歴史。どんな作品でも、その歴史や時代背景とは切っても切れない。だからこの本を読むと、美術のことを知りながら、同時に日本の歴史や、宗教についても学べる。

    帯文は「退屈な美術史よ、さようなら。」だ。だから寝っ転がりながら、フムフムと楽しく読むことができる。
    できるんだけど、写真を大きく載せるために、本のサイズも大きい。私は仰向け派なので腕が疲れる。寝転がる場合はうつ伏せ推奨(余計なお世話)。

    もうひとつ言っておきたいのは、この本は図録ではなくて、あくまで橋本治さんが「いい」「美しい」と感じるものをメインに紹介しているということ。司馬史観ではなく橋本史観的な感じか。だから、美術史の本ではあるけど、半分エッセイ。語尾は「私はそう思う。」が多い。
    もちろん適当に書いているわけではなく、きちんと歴史を踏まえた上でのもの。それと、この本は1995年……25年前に出版されているので、最近の学説とは違う点もあるかもしれません。

    そこについての「たねあかし」的なことが最後の章に書いてあって、この構成も素晴らしい。ゾクゾクしました。
    映画でも美術でもなんでも良いけど、まずはその人が「いい」「美しい」「面白い」と感じることが大事だと私は思っていて、その上でそこから「なぜだろう」「どうして私はそう感じたのだろう」と考えたり、解釈が始まっていく。だから、知識や考察は、感情を大切にするためのものである……と思う。

    最近の作品なら、作者が存命でインタビューできたり、時代背景もわかるけど、大昔に作られたものは証拠を集めて推察していくしかない。

    同時に、「面白い批評の条件」というのがあって、それは書き手自身のことが入っていることです。
    客観的事実だけなら学術論文や図録になる。例えば春日太一さんは研究者なのでそっち寄りで、雑誌などの連載を書くときに困ったそう。だから当時の自分がどう受け止めたかも書くように切り替えたとか……気づくの遅ぇわ!と笑ったけど。
    逆に主観のこと、自分のことしか書いてないのは日記で、面白いかどうかは別として、これは基本的には誰でも書ける。あと、ロキノンの投稿もそうか。
    どちらも必要だし、このバランスで成り立ってると思います。


    私が日本の仏像などに興味を持ったのは、2009年に興福寺の阿修羅像を実際に見てから。この本でも、中宮寺の半跏思惟像と興福寺の阿修羅像のふたつは「類を絶した仏像」と書かれてあって、すごく納得できる。
    その時は美術としての素晴らしさよりも、脱活乾漆造という造形法を知って、こんな作り方だったの!?とシビれてしまった。あるいは、のちの寄木造との違いや、その面白さ。
    橋本治さんも、元々はイラストやデザイン、それから編み物などを作っていたので、ものづくりの目線がちゃんとある人。手で考える人でもあったんだと思う。

    阿修羅像を見たあとに、私の地元は神仏習合のメッカみたいなところなので、諸星大二郎先生の『暗黒神話』を読み直し、先輩たちと一緒にワーキャー言いながら、県内の歴史博物館、重要な仏像のあるお寺、石仏などなどを巡った。おにぎりやお弁当持って……まるで大人の修学旅行、社会科見学。

    だから、僧形八幡神像と言われてパッとイメージできるけど、この本の内容でも「難しい」と思う人もいるかもしれません。その場合どうしたら良いんだろう。この内容以上に「やさしい」というのは、なかなかないかも。書いてあることががよくわからなくても、写真を眺めるだけで充分な気もしている。
    今は他にも色んな本があると思うし、インターネットもあるし、あとは高校の日本史の教科書や資料集を買って読むとかかなー。私は世界史選択で高校では日本史を学んでなかったので、大学生になってから教科書を買いました。

    神仏習合から、私は「日本的なものとはなんだろう?」と考えはじめた。だからこの本のタイトルでもある「ひらがな」という話で、私にはしっくりくる本だったというわけです。

    他に、収録されている作品でシビれたものは、「らくがき」でした。これは本当に、ものすごい。

  •  銅鐸を生んだ弥生時代。平和でなんにもなかった時代。そういう〃平和″があったからその後の古墳時代になって、埴輪という「愛らしいもの」を作り出せたのだろ。
     《伴大納言絵巻》は、日本人がマンガという文化を生んでしまったルーツとなるような作品であろうと、私は思う。
     運慶は、自分自身を信じていてた。自分自身を信じて、自分の内に″仏″を見て、それを見た自分の意志を、そのまま″仏″として刻むことが出来た。運慶は、そのようにして仏像を作っていたのだろうと思う。それは、同じ時代の快慶の作ったものと比べてみればよく分かる。
     快慶は、「自分の内に仏を見た人」ではないと思う。快慶は、「自分の外に仏を見た人」だ。だから快慶の仏は、こちらへと向かって来る。
     橋本さんの美術の説明は、独特な言葉で迫って来る。面白く楽しい。全7冊のひらがな日本美術史を読破して橋本さんの世界に浸かりたい。

  • 憧れの橋本麻里さんがお勧めされていた本ということで手に取ってみた。古代美術をとりあげ、ありきたりの解説ではなくて日本美術の専門ではない筆者独自の目線や感性でひとつひとつの美術作品が語られていて面白い。史実とは違うかもしれないが、そういう見方もあるのか、とたのしんで読めた。

  • 美術品を見ながら楽しい話を聞くエッセイという感じ。
    21の話があり、それぞれのタイトルも楽しく、ひとつひとつが短いので隙間の気分転換のお供にいい。
    大型本なので持ち歩くには不便(というか自分には無理)だが、しっかり写真を見るにはこのぐらいがいい。
    巻末に年表がある。

    ちなみに、これより少し大きくて重い学研プラス「人間の美術」シリーズも楽しかったが、学術的な記述がされており、新鮮な発見が多かった。

  • 発行当時に購入して、気になった時に読みたい項目を繰り返し見たり読んだりしている本。

  • 課題の参考のために読み始めたけど、対象範囲外も夢中になって読むほど面白かった。こんな文章が書けたらなぁ。

  • プレビューです。
    「Webでも考える人」に再掲された2007年の浅田彰さんとの対談を読み興味が湧きました。
    http://kangaeruhito.jp/articles/-/2847
    いくつかパラパラとめくり読みして「まったく『ひらがな』じゃない…」と思いながら、でもそういえば埴輪や法隆寺などを歴史ではなく「美術史」として見たことがなかったので、読み進めるのを楽しみにしています。

  • 埴輪と土偶でこんなに語れるのってすごいぞ。

  • 長くて、読み終わるまで時間がかかった。
    橋本治の視点は、一般にもわかりやすい。
    ただし、時々つまらない箇所があり、眠気を誘う。

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著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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