「進化論」を書き換える

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104231072

作品紹介・あらすじ

自然選択は進化の原因ではなく結果である。ダーウィンからネオダーウィニズムに至る自然選択を主因とする進化論が大進化の理論を考えることができなかったのは、形態形成システム自体の変更こそが進化にとって最も大きな要因であることに思い至らなかったからだ-。遺伝子還元主義の誤謬を明らかにしながら、研究報告されている最新の事例に則して「進化」という「誰も見たことのない現象」の実相を鋭く論究する。

感想・レビュー・書評

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  • 「構造主義生物学者」池田清彦による近著(最近著であるかどうかは未確認)。本書の骨子は、現在の進化論の主流であるネオ・ダーウィニズム批判である。つまり、彼らの説明体系では、小さな変異は説明できても、大進化を体系的に理論化できないということなのだ。本書の構成は、進化についてこれまでどのように語られてきたのかもよくわかるし、最終章の「進化論の最前線」は説得的な示唆に富む。

  • 三葛館一般 467.5||IK

    「ホンマでっか!?TV」でお馴染みの生物学者、池田清彦先生の代表的著作で、「これまでの「進化論」では進化を完全には説明できない」として、ダーウィンの進化論に異を唱えています。
    池田先生らしく?、文章の運びが読みやすく感じます。特に、「あとがき」は、「ホンマでっか!?TV」での池田先生のにこやかな表情と口調を思い起こさせてくれ、前著の『38億年 生物進化の旅』(新潮社)も読みたくなってしまいます。

    和医大図書館ではココ → http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=61034

  •  ネオダーウィニズムを批判する本。ネオダーウィニストが学会を席捲していた80年代から,筆者はそのうさんくささを指摘し続けていたというが,最近の研究で破綻がはっきりしてきてるらしい。
     ただ多くの一般人は,素朴にネオダーウィニズムの考え方を信用してると思う。ネオダーウィニズムとは,ダーウィンの唱えた進化論と,メンデルの遺伝学が結びついてできたパラダイム。遺伝子のランダムな突然変異と,自然選択によって生物集団中で遺伝子が変化することが進化だとする。
     遺伝子は生命の設計図であり,親から子へと伝えられる。だから,ネオダーウィニズムの教義によれば,獲得形質は遺伝しない。すなわち,遺伝子以外の原因で現れた形質,例えば筋トレで鍛えた筋肉質な体なんかは子供に遺伝しない。
     ネオダーウィニズムでは,突然変異によってできた環境に有利な個体がより多く生き残り,繁殖することによって,その種の中で環境に有利な形質が広まって進化が起こると考える。しかし,これでは種内の進化は説明できても種を超えるような大進化は説明しにくいという。
     ネオダーウィニストは触れたがらないが,実は元祖ダーウィンは獲得形質の遺伝を肯定していたというのが意外だった。ダーウィンが生れた1809年にラマルクの『動物哲学』が出ているが,ラマルクが用不用と獲得形質の遺伝を主張したのは有名な話。
     生物がよく使う器官を発達させ,そうして獲得された形質が遺伝する。メカニズムは不明だがラマルクはそう考えた。そしてその結果,すべての生物は下等から高等へ一直線に進化していく。環境が同じなら,すべての生物に綺麗な序列が付けられただろうが,環境は様々なので形態は多様化した。
     ダーウィンも獲得形質の遺伝は当然として,それが自然淘汰にかかると考えていた。当時は遺伝子という概念がなかったのだから,無理もないことだろう。遺伝子の正体DNAを手に入れたネオダーウィニズムは,獲得形質の遺伝を異端として激しく批判することになる。
     だが,遺伝子のみが多細胞生物の形質を決定するわけでないことは,良く考えれば当然だ。遺伝子DNAはたんぱく質の合成をコードしており,それは直接個体の形態に結びつかない。この点は,高校以来生物を学んでいて気にかかっていたことだったりする。
     DNAの中でどの部位の遺伝子が働く(発現する)かは,細胞内の環境に依存する。脳細胞も皮膚の細胞も心筋細胞も同一のDNAをもっているが,形態や働きが異なるのは,発現している遺伝子が異なるからだ。
     このことを著者は「DNAと解釈系は二つで一つのフィードバックシステムなのだ」と言っている。解釈系とは細胞質。細胞の状態がDNAの発現様式を変えてしまえば,DNAに変化がなくても形態は変化する。
     遺伝子が作るたんぱく質は形ではない。形は,細胞の中で発現した様々なたんぱく質が,どの部分にどんな濃度で分布するかによって決まる。その時間的変化が発生だ。そうすると,DNAに変異が起きても,発生のプロセスに変更が生じなければ大進化は起きない。
     特に有性生殖をする生物では,突然変異が大きいと,それがいかに適応的でも他の個体と生殖不可能なほど形質がかけ離れていれば,子孫を残すことができずに消滅する。細菌などでは突然変異が大きくても,適応的なら残りうる。多剤耐性細菌の出現などは,単為生殖だからこそ可能。
     もちろん多細胞生物にもネオダーウィニズム的プロセスが働かないというわけでなく,漸進的な種内の小進化については関与していると言っていい。だが,高次分類群を構築するような大進化には,ネオダーウィニズムは無縁である。生物の進化はDNAの進化ではない。
     DNAの進化は生物の進化と無関係ではないがパラレルでもない。DNAと形が一致しない例がいろいろと挙げられている。ハクウンボクハナフシアブラムシでは,遺伝的に同一(クローン)でも発生パターンの相違によって,形質の異なる兵隊アブラムシと普通のアブラムシが生まれる。
     ミジンコは,捕食者の存在の有無で,だるま型とヘルメット型に分かれる。これは捕食者の出す匂い物質により誘導されることが分かっているらしい。こういった現象を表現型多型という。
     生物の歴史では,カンブリア紀の初めに「大爆発」が起こって,爆発的な多様化によって現存の動物門がすべて揃ったと考えられている。これ以降新しい門は出現していない。このころの原始的生物だからこそ,このような多様化が可能だったと考えられる。

  • 3部構成。
    第1章は、序章で初期の進化論からネオダーウィニズムを中心とした分岐進化論について。
    第2章の部分が、DNAの細かい説明で・・・になってきます。
    第3章は、実例を交えながら筆者の構造進化論を。
    「38億年 生物進化の旅」を読んでみたくなりました。

  • (2011.05.06読了)(2011.04.29借入)
    ダーウィンの進化論には納得できない点があります。とはいえ、「種の起原」を読まずに言っているので、的外れなのかもしれません。ダーウィンの後継者を自任する人たちの説であって、ダーウィンは何も言っていないのかもしれません。
    突然変異と自然淘汰で、進化が可能などということで、納得できるわけがありません。ファーブルも、昆虫のきっちりした生きるための仕組みがダーウィンの唱える進化論で説明できやしないと言っていたような。
    池田さんが「進化論」の新しい枠組みを作ってくれたのかと読んでみたのですが、ダーウィンの説明ではまだ進化の原因は、説明できていないということと、その具体的な事例などを述べているのですが、「書き替え」の途上のようです。

    ●生物は進化する(9頁)
    生物は進化する、ということは今ではみんな知っている。もちろん知識として知っているだけで、生物が少なくとも種を超えて進化するところを見た人はいない。
    ●小動物や昆虫は自然発生する?(12頁)
    微生物をも含めたすべての生物の自然発生が否定されるのは、19世紀の中葉にパスツールが巧妙な実験をするまでまたなければならなかったのだ。
    ●進化の概念は化石によって(13頁)
    進化という概念が芽生えたのは、18世紀から19世紀初めにかけて、化石がたくさん発見されるようになってからである。
    (ダーウィンもビーグル号による調査旅行で、たくさんの絶滅動物化石を見ています。)
    ●ダーウィンの進化論(22頁)
    ダーウィンはイエバトの変異を丁寧に調べ、すべての品種がたった一つの野生種、カワラバトに由来すると推断している。ダーウィンは飼育栽培によって、すなわち人為的な選択によって、生物を変異させうることを確信し、これを生物一般の進化に敷衍したのである。
    ●ダーウィン進化論の核心(23頁)
    ①生物には変異があり、変異のいくつかは遺伝する。
    ②生物は生き残るよりずっと多くの子供を作る。
    ③環境に適した変異を持つ個体は、そうでない個体に比べ生き残る確率が高い。
    ④その結果、環境に適した変異は、世代を重ねる毎に集団内での比率を徐々に高めるに違いない。
    ●パンゲン説(獲得形質のメカニズム)(29頁)
    ダーウィンは体内にジェミュールという自己増殖性の粒子が含まれており、これが生殖細胞に集まってきて子に伝えられると考えた。子に伝えられたジェミュールは体内に散らばり、そこで親の特徴を発現させると同時に、環境による獲得形質の情報を持って再び生殖細胞に集まり、次の世代に伝えられるとした。
    ●ネオダーウィニズムの主張(32頁)
    メンデルの遺伝学の再発見(1900年)を経て、ダーウィンの進化論は再構築された。
    ① 生物には変異があり、遺伝する変異の原因は遺伝子である。遺伝子は時に突然変異を起こすが突然変異は無方向かつランダムである。
    ② 遺伝子以外の原因で出現する形質は遺伝しないので、適応的であろうが非適応的であろうが進化には関係がない。
    ③ 生物は生き残るよりずっと多くの子供を作る。
    ④ 環境に適した変異の原因となる遺伝子は、そうでない遺伝子に比べ、次世代に伝わる確率が高い。
    ⑤ る特定の遺伝子が自然選択によらず偶然集団中に広がることはあり得る。
    ⑥ その結果、生物は世代を重ねる毎に、集団中での遺伝子の変換や頻度変化が起こる。すなわちこれが進化である。
    ●仮定のウソ(37頁)
    遺伝子がどんどん変わることによって生物もまたどんどん進化するといった話や、一つの遺伝子に一つの形質が一対一で対応しているといった話や、遺伝子型だけが表現型の唯一の原因であるといった仮説はウソなのではないだろうか。
    ●ヒトが裸なのは自然選択の結果?(46頁)
    ダーウィン自身は、はだかは自然選択では説明できないことをよく分かっており、代わりに性選択という理屈を持ち出している。単純にいえば、昔の男は体毛の薄い女を好み、女はひげの濃い男を好んだので、人の身体は男のひげを残して徐々に裸になって行った、というわけだ。
    ●進化の原因(79頁)
    DNAに変異が起きても、発生のプロセスに変更が生じなければ進化は起きない。発生プロセスの変異は不可逆であり、元に戻ることはない。このメカニズムこそが大進化の真の原因なのである。
    ●新しい生物には新しい遺伝子?(83頁)
    新しい生物を作るためには、その生物に固有な形を作るための新しい遺伝子が必要だと考えられていた。しかし、カンブリア紀に現れた多種多様な動物たちは、それぞれに固有な新しい遺伝子を開発したわけではなかった。先カンブリア時代の共通祖先が持っていた遺伝子たちを適当に使い回していただけらしい。
    ●同所的種分岐(110頁)
    同所的種分岐の例として最も典型的なのは、アフリカの湖沼群に生息するシクリッドという魚のグループである。
    変異体がほんの少しでも異なるニッチ(生態的地位)を持てば、変異体のグループとオリジナルのグループは同所的に生息しているとはいえ、空間的、時間的なすみわけをしたり、食いわけをしたりするだろう。二つのグループはコンペティション(競争)を回避するのだ。
    ネオダーウィニズムの自然選択説とは、そもそも突然変異の結果出現した変異体が同じ環境条件の下でコンペティションするはずだという前提で成立している。

    地球上でのいろんな生物の生態が明らかになり、遺伝子のメカニズムも徐々に解明されてきている。そういった中で、ネオダーウィニズムでは、説明できない事例が集積されてきている、ということのようだ。新しい「進化論」の構築が待たれている。

    ☆関連図書(既読)
    「ダーウィン先生地球航海記(1)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1995.06.23
    「ダーウィン先生地球航海記(2)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1995.10.02
    「ダーウィン先生地球航海記(3)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1995.11.20
    「ダーウィン先生地球航海記(4)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1996.01.20
    「ダーウィン先生地球航海記(5)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1996.02.23
    「進化とはなにか」J.ハクスリー著・長野敬訳、ブルー・バックス、1968.05.25
    「進化と精神」J.ハックスリー著・若林千鶴子訳、思索社、1973.04.25
    「進化とはなにか」今西錦司著、講談社学術文庫、1976.06.30
    「ダーウィン論」今西錦司著、中公新書、1977.09.25
    「進化論 東と西」今西錦司・飯島衛著、第三文明社、1978.10.25
    「ダーウィンを超えて」今西錦司・吉本隆明著、朝日出版社、1978.12.10
    「主体性の進化論」今西錦司著、中公新書、1980.07.25
    「今西進化論批判試論」柴谷篤弘著、朝日出版社、1981.07.10
    「進化論も進化する」今西錦司・柴谷篤弘著、リブロポート、1984.07.15
    「今西進化論批判の旅」ホールステッド著、築地書館、1988.02.01
    「ダーウィンの憂鬱 ヒトはどこまで進化するのか」金子隆一著、祥伝社、1997.03.01
    「進化とはなんだろうか」長谷川眞理子著、岩波ジュニア新書、1999.06.21
    「ダーウィンの足跡を訪ねて」長谷川眞理子著、集英社新書、2006.08.17
    「ダーウィンの夢」渡辺政隆著、光文社新書、2010.03.20
    (2011年5月9日・記)

  • これもお送りいただく。感謝。

    池田先生は遺伝子が全てを決定するという唯「遺伝子」論とでも呼ぶようなものには以前から否定的であった。ドーキンスのセルフィッシュ・ジーンなどにも反対だった。遺伝子ですべて説明できる恋愛論みたいな本はもちろん、論外(もしそうなら、少なくとも男は一夫多妻にしたほうが「遺伝子を残す」という観点だけなら有利なはずだけど、そういうオプションを摂る射界のほうが少ないですよねえ)。

    ネオダーウィニズムは細菌のような単細胞生物には通用するが、多細胞生物の大進化には適応できない。遺伝子だけでは形質の多様性を説明できないということを、最新の分子生物学、発生学などのデータを駆使して説明されるが、僕は素人なのでこれ以上語るとボロが出る。池田先生の本なので奇想天外な「大きなピクチャー」が示される本かと思いきや、本書はがちがちのデータを駆使したオーソドックスな作りの本であった。

    僕はかつて発生学はわりとまじめに勉強していた時期があったので、ホックス遺伝子のところとかは楽しく読んだのだった。

  • DNAだけでは進化を説明しきれない。解釈系の存在が不可欠、という考え方を始めて知りました。DNAは生命の設計図といいますが、設計図というより、部品(タンパク質)を作るための金型なんですね。金型だけをいくら調べてもそれらの使われ方を理解しなければ生命という完成品を理解することはできないわけです。
    では、それらを司っている解釈系とはいったい何者?
    専門用語が当たり前のように使われているので、ちょっと読みづらいかも

  • 11/04/04。

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著者プロフィール

池田清彦(いけだ・きよひこ) 1947年生まれ。生物学者。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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