母の待つ里

著者 :
  • 新潮社
3.77
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本棚登録 : 1091
感想 : 125
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104394067

作品紹介・あらすじ

生まれ育った場所だけが「ふるさと」ですか? 現代人に本当の幸せを問う、著者最高傑作! 上京して四十年、一度も帰ろうとしなかった郷里で私を温かく迎えてくれたのは、名前も知らない〈母〉でした――。家庭も故郷も持たない人々の元にカード会社から舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待。半信半疑で向かった先には奇跡の出会いが待っていた。雪のように降り積もる感動、全く新しい家族小説にして永遠の名作誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 過去に母親を亡くした3人が故郷への原点回帰と母親への感慨を深くするストーリー。プレミアムクラブの会員という共通項を持つ都会暮らしの3人:松永徹(大企業の社長・独身)、室田精一(定年後妻に別れを切り出されてしまう1人身)、古賀夏生(大学准教授後に勤務医の独身女性)。会員特典として、架空の設定で1泊2日、50万円で優しい母親付きの田舎暮らしを体験した。架空の母親と過ごすことで本当の母親への想いが強くなり感謝や贖罪の念を示し、また3人は「母待つ里」への憧れを抱いた。母親へのカタルシスとともに切ない話しだった。⑤

  • 家庭もなく、故郷もない還暦世代の3人の男女が、向かった先。
    辺鄙な田舎だが、そこには迎えてくれる母がいた。

    初対面でありながらも温かくて、安らげる。
    無理しているところも感じず、気づかってくれながらも話しを聞いてくれ、意見も言う。
    そして、また来ようと思うのだ。

    途中、方言に悩まされたが、こういう「ふるさと」も良いではないかと思った。

    ふるさとが、あったとしても実際、頻繁に帰っているのだろうか…否である。
    血の繋がりがあるから故に拗れてしまうこともあり、
    何日もゆっくりとできないのは何故だろう…と改めて自分の故郷を思った。
    生まれ育った場所だけが、ふるさととは言えないかもしれない。


  • 超セレブ御用達、年会費35万円(!)のユナイテッドカード・プレミアムクラブ。そのクラブが新たに始めた「ユナイテッド・ホームタウン・サービス」は、一泊二日50万円(!)でふるさとを擬似体験させる、という現実離れしたもの。

    「東京に生まれ育って故郷を持たず、孤独に老いてゆく」3人、食品会社社長の松永徹、製薬会社の営業部長をリタイアした室田精一、そして現役医師の古賀夏生がこのサービスに嵌まった。なお、3人とも既に両親はなく、配偶者もいない(室田は熟年離婚)。

    コテコテの東北弁で偽の老母を演じるちよさん、なかなかいい味だしてるのだが…。確かに自分も東京(近辺)生まれの東京(近辺)育ち、両親の実家も東京(近辺)だったので、子供の頃は盆や正月の田舎への帰省に憧れていた。でも、今はもうそんな気持ちすっかり消えてしまった。結局、自分が育った土地や両親の存在自体(やその思い出)がふるさとなんだと思う。見ず知らずの土地で初対面の老婆に母親を演じてもらって癒されるなんて、ちょっとイメージできないな。本作の3人は、それだけ心が弱っていた、という設定なのかもしれないが、今の自分には共感出来る部分がなかった。

    著者は、何でこんなヘンテコな設定を思いついたんだろう?

  • 表紙や『母の待つ里』というタイトルを見る限り、アラ還男の帰郷物語を想像するだろう。ところが、これはカード会社”ユナイテッド・ホームタウン・サービス”がふるさとを持たない人に提供しているプランなのだ。家庭や故郷を持たない人々の元に、カード会社から舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待は1泊2日で50万円。過疎の集落へ送り届けるバスの運転手やあぜ道で出会う幼馴染の友人、酒屋などのエキストラを配備し「〇〇ちゃん、久しぶりに戻ってきたのぉ~」と声かけられる。半信半疑で向かった山が迫る美しい自然に囲まれた見知らぬ郷里に降り立ち、出会ったこともない母に温かく迎え入れてもらえる。還暦世代の徹・精一・夏生の3人たちは上京して四十年。奇跡の出会いが待っている。
    徹・精一・夏生の3人たちは、おそらく実母とは親密ではなかっただろう。私も母とは18歳を機に実家を出て以来一緒に暮らさなかった。私が育った時代には共働きの両親は珍しく、働いていた母は時間に追われいつも忙しくしていた。出産時にも帰省していない。父は早く他界したが、母は定年退職後も自分の趣味や活動を楽しんでいた。お盆と正月には幼い息子たちを連れ帰省、子供が独り立ちしてからは、夫とふたりで季節ごとに帰省し母を連れ立ち旅行してきた。コロナ禍でできなくなり電話で話すことが多くなっていた頃、母は入院した。半年前に感染予防でお見舞いもままならないうちにあっけなく逝ってしまった。近くに住んでいた妹夫婦が居て寂しさはなかっただろうが、私の母への申し訳なさは今もくすぶり続けている。私は、母にとって手の掛からない娘だっただろうし、母も娘である私に甘えもしなかった。淡泊な母娘関係だった後悔がある。
    読了後浅田さんのインタビューで目を覚まされた。浅田さんのお母様はきっと典型的な母親だろうと想像していたのだが見事に裏切ってくれた。自分の母はこの小説に出てくる「ちよさん」のようなイメージとはかけ離れた母だったと語っている。子供より鏡を見ている時間が長い美人のお母様だったらしく「それはそれで面白いが、母親の人生を見ながら、なんとなく別の母親に憧れていたような気がするんです」と言っている。結局、小説やドラマで描かれる理想的な母親像とか親子関係はないのかもしれない。自身も母親になり、反面教師を見ながら子育てしてきた割にやはり淡泊な親子関係に落ち着いている。柄にもなく温かく密接な親子関係に憧れたりしたが、それってあり得ないのかもと思えてきて、気持ちが楽になった。
    でも、50万円は高額すぎるが作られた仮想故郷へのツァーがあったらそそられるだろう。そこで、気恥ずかしさを取り払い思い切り理想的な娘を演じたい。まさに大人のファンタジーかもしれない。
    ちよの「何があっても、母(かが)はお前(め)の味方だがら」に動揺し、涙がこぼれそうになった。母から「コロナだったんだもの、仕方がなかったんだよ」と許してもらえた気がする。
    仮想ふるさとで北国の曲がり家にひとり住む86歳の老女は、訪ねてきた者たちを素朴な岩手弁と手料理とあふれる母性で迎え入れる。最後に、彼女の人生に何があったのかが明かされ胸塞がれた。ちよも亡くした息子たちを想い迎えていたに違いない。仮想家族で繋がった幻の故郷に、新しい絆が生まれようとしている。
    あまり設定されない自分に近い年齢層の登場人物に共感できた。自分と似た年頃の主人公が現れる作品をもっと期待したい。

  • 都市部で暮らす三人の人物が、カード会社の提供する『故郷』を体験する話。始めの方で、「騙されているんじゃないか?」という話が出てきてから、素直に作品に入り込めなくなり、浅田作品としてはあまり良い印象を持てなかった。

    • 借買無 乱読さん
      moboyokohamaさん
      コメント、ありがとうございます。
      今回の浅田作品は、ミステリ系なのかハートフル系なのか迷いながら読んだため、印...
      moboyokohamaさん
      コメント、ありがとうございます。
      今回の浅田作品は、ミステリ系なのかハートフル系なのか迷いながら読んだため、印象が良くなかったような気がしました。
      2022/02/09
    • moboyokohamaさん
      借売無乱読さま
      そうですね、そういう中途半端さがあったのかも知れないです。
      私としては「心霊ハートフルミステリー系」を期待していたかも知れま...
      借売無乱読さま
      そうですね、そういう中途半端さがあったのかも知れないです。
      私としては「心霊ハートフルミステリー系」を期待していたかも知れません。
      2022/02/10
    • moboyokohamaさん
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      2022/02/10
  • 浅田次郎が「架空の母」崇める還暦男女を描いた訳 | 読書 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
    https://toyokeizai.net/articles/-/505432

    『母の待つ里』浅田次郎著 特設サイト | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/special/hahanomatsusato/

    浅田次郎 『母の待つ里』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/439406/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「泣かせ屋」の真骨頂 架空のふるさとにて 「母の待つ里」刊行 浅田次郎さん:東京新聞 TOKYO Web
      https://www.tokyo...
      「泣かせ屋」の真骨頂 架空のふるさとにて 「母の待つ里」刊行 浅田次郎さん:東京新聞 TOKYO Web
      https://www.tokyo-np.co.jp/article/158715?rct=book
      2022/02/07
  • <転>
    西暦2000年になった頃僕は40歳を過ぎたところだった。その頃から多く本を読むようになってそのまま読書は第一の趣味となった。その2000年頃最初に読んだのが浅田次郎の本だった。全部きちんと記憶に残っているわけではないが「プリズン ホテル」シリーズが無茶面白くて各シーズン4冊をあっという間に読み終わってしまった様に覚えている。

    その後二十年以上が経った今でも浅田の本は最優先で読む習性がついている。でも作品の面白さがどうなったかと言うと流石に20年前と同じとはゆかない。特に中華国の中原作品の途中からなんだか(僕にとっては)おかしな内容の作品が増えてきた。何ページにもわたって全部ひらがな/カタカナで書いてみたり とか。

    で今作である。のっけの一遍で ああ面白そうだな と思いその後の展開でちょっと非現実的な設定で物語が進んで行く事にも少しの驚きと 僕の趣向にもとづきああやはり面白そうな作品だワクワク と読み進める。

    物語に共通するのはクライアントになる人は皆独り という事。自身の子供や兄弟はいるが同居する家族 はいない。実は僕も同じである。存外そういう人が今の時代は多いのではないか とハッキリ思う。皆孤独なのだ。でも代わりに 自由 を手に入れていると僕は思う。家族が居なければ生活に必要なのに成り立たなくて出来ない事など今はもう無い。そういう時代なのだ。(と書いたが,これは最終章で一気にひっくり返される。これはいわゆるネタバレの一種でもあるが書かずにはいられない。すまぬ)

    これまたネタばれになるかもしれないが どうしても気になるので以下本文から引いて書く。本文169ページ 。昔話であるが茅葺のお寺の屋根をふき替える為に村の衆が山に茅を刈りに行く際に馬を70匹ひいていった,という部分がある。何?馬の数え方は匹ではなくて頭ではないのか。しかも僕の拙い記憶によると浅田は馬のプロである。荷役馬ではなく競走馬だが。そんな浅田が馬を匹と数えるからには何か絶対に裏があると思って僕はそのあとを読み続けた。

    つい先日まで読んでいた別の作家のSF的ミステリー小説作品と比べたりする。そのSFミステリ作家はとにかく表現が細に妙に入ってこれでもかと美飾をまとった言葉で読者を魅了する。とても面白い作品でどんどんと時間を忘れて読むことになる。あっぱれである。 比べて浅田の文章は実にシンプルである。シンプルだけれど心をとらえて離さないところがある。

    今作はある意味短編集でもあり時間を忘れて読みふけるとはならないが,会社での昼休みと家に帰っての夜時間に交互に読んでいたのだけれど,後半から最後までは家で飲みながら一気に読んだ。そこを読んだのが会社でなくてよかった。終章のある意味アクシデントに際して僕は泣けて泣けてならなかった。もし会社の昼休みだったりしたらいったいどうすればよかったのだろう。つくづく読書とは危ない趣味だと思った。いや揶揄ではない。すまぬ。

    • moboyokohamaさん
      ryoukentさま
      ありがとうございます。
      おっしゃる通り人によって作品の感じ方は違いますから仕方がないかも知れないですね。
      ryoukentさま
      ありがとうございます。
      おっしゃる通り人によって作品の感じ方は違いますから仕方がないかも知れないですね。
      2022/02/10
    • ibookazuさん
      きんぴか、はお読みになりましたか? まだでしたらお勧めいたします!
      きんぴか、はお読みになりましたか? まだでしたらお勧めいたします!
      2022/02/20
    • ryoukentさん
      ibookazuさん こんにちは。おすすめありがとうございます。はい読みました。僕はおそらく浅田次郎著の 普通に手に入る本 ならその全部を読...
      ibookazuさん こんにちは。おすすめありがとうございます。はい読みました。僕はおそらく浅田次郎著の 普通に手に入る本 ならその全部を読んでいると思います。
      2022/02/20
  • 久しぶりの浅田次郎さんの作品に触れた。
    新潮社出版部部長、中瀬ゆかりさん絶賛で最後は滂沱の涙となる筈でしたが、期待し過ぎました。

    第一章「松永徹氏の場合」を読み始めてしばらくしてある事を感じる。
    母の待つ里へ40年ぶりに帰るのだが、そこでやり取りされる会話文章の雰囲気がなんだかおかしい。
    浅田次郎さん独特の霊的な物みたいな含みがあるのだろうか?
    この章を読み終えた時に
    「あー、やっぱりなあ。そう言うことね」
    となりました。
    これ以上はネタバレになる。

    この後その他2人の同様の話が続く。

    忙しなく余裕のない現実社会で失ってしまった理想の古里を手に入れ、穏やかなひと時をそこで過ごす。
    ありそうな発想ではなかろうか。
    私には本作の良さが読み取れなかった。

  • 浅田次郎さんの小説は初めてです。
    うーむ。さすがベテランだな。
    たくさんのヒット作をつくり、たくさんの賞をとって、
    こういう面白い小説を書き続けるということが。
    おかげで楽しい時間がすごせました、私。

    ちよさんの言葉が難しくて、彼女の語るお話
    よくわからないで読み進めてしまったのですが
    最後の話だけはよくわかりました(と思う)。
    これはちよさん自身のことですね、きっと。
    だから、彼女はこういう仕事を丁寧に温かくこなすのだと思いました。
    我が子にしてやるように。

    それだから、皆さんはちよさんのことが好きになってしまう。
    自分なら、どうかな。
    母がまだいるから、ぴんとこないけど
    正直ここのところはやはりフィクションだなと思わされました。

  • ユナイテッドカード•プレミアムクラブ ホームタウン・サービス。一泊50万円の架空の故郷への帰省サービス。このサービスを利用する熟年の男女のそれぞれの生き方が描かれていきます。同世代として身につまされて読み進めました。ふるさとの「母」が寝物語に語ってくれる「どんどはれ」の昔話しが興味深かったし面白く思いました。ラストのケンちゃんエミちゃんに語ってくれた物語がリアルのちよさんの過去なんだなぁと思うと、3・11の現実に引き戻された思いがします。テンポのいい文章で面白く読み終えました。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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