サンセット・パーク

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105217211

作品紹介・あらすじ

この廃屋で僕たちは生まれ変わる。不安の時代をシェアする男女4人の群像劇。大不況下のブルックリン。名門大を中退したマイルズは、霊園そばの廃屋に不法居住する個性豊かな仲間に加わる。デブで偏屈なドラマーのビング、性的妄想が止まらない画家志望のエレン、高学歴プアの大学院生アリス。それぞれ苦悩を抱えつつ、不確かな未来へと歩み出す若者たちのリアルを描く、愛と葛藤と再生の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 本書の原作が刊行されたのは2010年。一方、本書の日本での刊行は今年(2020年)の2月。決して狙ったわけではないとは思うが、なんというタイミングだ。それは間隔が空きすぎているという意味ではなくて、同じような時代の息苦しさがあるタイミングで刊行されたという意味で、だ。

    原作の舞台は2008年。まさに米国発の金融危機が世界を不安に陥れた時期。実際、この物語に登場する4人の若者は経済的不安を抱え、ブルックリンの空き家に不法居住して共同生活を始めるという設定。同じオースターの群像劇でも、『ブルックリン・フォーリーズ』が喜劇的な小説であったこととは対照的に、楽観できる要素はまったく見当たらず、物語の中心にあるのは若者たちが常に感じている不安だ。
    そして、今。世界はその金融危機以来の危機を迎え、不安に包まれている。2008年とは要因は異なるけれども、息苦しい時代であることには間違いない。本書の若者たちが抱えるそこはかとない不安に、ほとんど違和感を覚えずに読み切ることができたのは、まさにこのタイミングでしかあり得なかったことだと思う。

  • 深い自責の念を抱えて生きる青年マイルズ•ヘラーは家族との関係を断ち7年間の放浪生活を続けていたが、恋人との交際をきっかけに両親の元に戻る決意をする。
    一方、父モリスは、そんな息子を密かに見守りながら帰りを待つ。

    往年の野球選手のエピソードを挙げながら、己の父への回想と息子への愛情を語るモリス・ヘラーの章は、オースターらしさが全開。父親と息子のどっちが主人公か分からないくらい、たっぷりとモリス目線からのストーリーが展開する。
    社長を務める零細出版社の経営や夫婦関係にも悩みつつ、家族と友人、会社の従業員みんなを守り抜こうと奮闘するモリスは、正直に言って最も感情移入して応援したくなるキャラクターだ。
    そしてもう一人、マイルズの友人ビング・ネイサン。オースターの世界では、芸術を語り、皮肉混じりの気の利いた台詞が吐けない者は、扱いがちょっとひどく、よくて狂言回しといった感じなのだが、彼の暖かさや、掛け値なしの親切心を見逃してはいけない。
    ラストの破局はビングにも深い挫折と屈辱を与えたはずだが、ビングが何を思うかは全く描かれない。しかし彼ならマイルズを、未来の見えない絶望や刹那主義から、もう一度救ってくれると信じたい。
    タンジビリティ-手で触れる世界-を大事にする人はきっと挫けない。

  • いつもの変わらぬオースター節。
    揃いも揃って、インテリでモノに執着せず、ちょっとずつズレてて、漂うように仕方なく息苦しく生きている登場人物たち。それぞれのスタンスでニューヨークに絡んでくる…おっと、ここで終わるのか!?割と静かなエンディングの多いオースター。不法占拠の強制捜査なんて散文的(…と言って悪ければ具体的)なイベントでの幕引きは珍しい。
    個人的には、こういう登場人物たちに食傷気味で、年々魅力を感じなくなっているのを自覚している。それは寂しいが、小説としては益々洗練されてきているとは思う。

  • この物語が初まるちょうど1年前、短い間だがサンセットパークのシェアルームに滞在した事がある。歌手を目指して墓地で亡霊相手に歌声を披露する若者、勤めてきた出版業界に疲弊して退職しスピリチュアルな世界を探求する女性、仕事が上手くいかず国を出たが何の具体的プランも持ってないモラトリアム男性。みんな今は何してるのかなぁ。

  • 『このつかのまの瞬間のためにだけ生きるんだ!』

    サンセット・パークの廃屋に不法居住を始めた若者を巡る物語。ここでの生活を通じて自身の進むべき道を見出していく。 
    が!最後の最後に…

    先の見えない世の中に生きる若者たちの心情を緻密に描き出すところは、さすがオースター!

  • 雨の日の連休は小説を読むに限る。
    オリンピックの閉会式前日と当日のほぼ24時間で読み終わったが、一気に読んだというよりは章ごとに間をとりながら、ゆっくり咀嚼しながら読めたと思う。
    久しぶりに小説らしい小説を読んだ感覚で、明確な感想はないけどいくつかのシーンや想いが残るような気がする。
    また、ポール・オースターを読んでみたい。

  • 『それは強い、断固としたひと押しだった。押されたボビーはバランスを失い、よろめいて路肩から道路に出て、転倒し、アスファルトで頭を打った。そしてほぼ瞬時に起き上がり、頭をさすりながら悪態をついたが、立ち上がるよりも前に車になぎ倒され、生命を粉々に砕かれ、彼ら二人の人生は永久に変わった』―『マイルズ・ヘラー』

    ポール・オースターを読むことは少し特別な行為だと思う。そのことを上手く伝える言葉を探し出すのに苦労するけれど、「物語」であることを意識しながら読む、とでも言えばよいのだろうか。すべからく小説を読むということは、そういうことなのではないかと言われればそうなのだけれど、この作家に関しては、物語が現実とすりかわりそうでありながら、過度な現実的描写によって却って虚構であるよう意識させられてしまう理由は何だろう、などと考えてしまうところがある。

    例えばジェットコースターに乗って、発生する負荷を感覚的に単純に楽しむというような面白がり方ではなくて、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されることを納得したり、この重力方向以外の負荷は加速度によるものなのだから混乱しないようにしようと考えたりする面白がり方があるとすれば、オースターの小説は断然後者だと思う。「トゥルー・ストーリーズ」を読んだオースター・ファンなら判ると思うけれど、初期の傑作の中に投げ込まれた幾つもの奇想天外なエピソードが事実に基づいているのを知って、この作家が物語の本質を埋もれがちな事実の中から鮮明に炙り出す手腕に改めて驚いた筈だと思う。それは逆に言えば「真実」なんてものは誰も持っていないという前提に立って物事は多様な面を持つものだということを受け入れるということでもある。

    ポール・オースターの作品を少なからず読んできたつもりだし、最近の作品に漂う厭世観のようなものも承知していた筈だったが、この小説はこれまでのどの作品とも似ているようで似ていない。もちろん、オースターらしい人生観(至極単純に言えばそれは塞翁が馬の故事に要約され得る事物の見方)も表現されているし、相変わらずの悪趣味とも言いたくなるような性的描写も散りばめられている。それでも、ここまで悲観的な物語は記憶にはない。多くの登場人物が描かれ、一人ひとりの繋がりも伸び縮みしながらお互いの関係性が網のように広がっていく展開は見慣れた感じがする。しかし、繋がりだけでは何も生み出さないのだということが突きつけられているようでもある。

    絶望的と呼んでよいような結末の話ならこれまでにも幾つもある。そこには、ニューヨーク三部作から続く孤独という主題の周りをぐるぐると巡る内省的な独白があり、その意味でこの小説も同じような文体が貫かれているとも言える。「物語」は独白でしか語れないが、それが全てではない。語り手が変われば事実の解釈もまた変わり現実の輪郭は不鮮明になる。その「現実」と「虚構」の奇妙なもつれ、というのがポール・オースターの作品を何とも捉えようのない不思議な手触りにしているのだ。対して「サンセット・パーク」では、そのもつれが、熟成され「ストーリー」となる手前の青臭い果実のように感じる。

    不思議な手触りとは、自分とは全く関係のない物語であると思っていたものが、小さな偶然から急に自分の過去に結びついてくる感覚、あるいは、如何にも想像の出来事を思っていたことが実際に起きたことだと知る時に感じる思い、そんなものを指しているのだけれど、この小説にはどこかしら「訴えたい」気持ちが強くあり、それを受け止めるのかどうなのかと問われているように読めてしまう。

    例えばドン・デリーロが「Falling Man」を書くようにはオースターは社会との繋がりを強調して小説にして来なかった印象がある。もちろん、随筆や自伝的文章からは市井の人としての作家の思考は滲み出てはいるものの、小説にそれが(少なくとも直喩として)投影されることはなかったように思う。それがこの小説では透けて見えるような現実(2010年出版)の米国社会、特に一人のニューヨーカーとしての目線から見える社会に対する思いのようなものが煮え切らないまま投じられているように感じる。

  • “想像力とは強力な武器”

    久しぶりに読んだP.オースター作品
    ブルックリン サンセット・パークの廃屋に不法滞在する4人の男女の一年を、それぞれの視点から語った物語

    なにかが起きそうだけどなにも起こらない、だけど4人の内面では確実な変化が起こり、ラストへと向かう

    主要人物マイルスの父、モリス・ヘラーのパートがいちばん興味深かった

  • 不況下のニューヨーク。
    霊園そばの廃屋に集まった若者たちの、単純なようで複雑な内面を丁寧に描出する。
    相変わらずのストーリーテラーぶり。

  • 四人がシェアハウスしているお話だけど、グループとしての人の関係とかより一人一人のストーリーを追うような本。
    みんな隠してる欲望やコンプレックス、密かな夢があって人間味のあるキャラクターみんなのどこかに共感できる。

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