灰色の輝ける贈り物 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900328

感想・レビュー・書評

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  • 舞台は、スコットランド高地の移民が多く住む、カナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトン。
    寡作な作家アリステア・マクラウドの短編をまとめた「ISLAND」から、最初の8篇を収録したもの。


    先に後半8篇を収録した「冬の犬」から読んだので、順番が逆になってしまった。
    こちらは、1968年から1976年に書かれたもの。

    まず、冒頭のマクラウドはじめての作品である「船」に心揺さぶられた。さらに「失われた血の塩の贈り物」にも胸が締めつけられるおもい。
    どちらも父と息子の話だが、親子の断絶やきずな、葛藤というテーマは普遍的なものだからだろうか。自分自身の経験とは全く違う人生にこんなに感情を動かされるとは。

    失われていくものへの哀惜、けれどもノスタルジーにひたるものではなく、誇りがあり、たくましく生きる人びとの確かな人生が途絶えることなく続いていく。
    すばらしい作品に出会えた。

  • 朝の四時、ベッドで目を覚ました男は、寝過ごしたのかと不安になる。漁に出る時間だと、父が待っているだろうと。
    だが、ベッドから半分身を乗りだしながら、海から遠く離れた都会でたった独りであり、桟橋の側に揺れる船は早朝の暗がりの影やこだまに過ぎないことに気づく。
    家族への愛情と遠く離れた故郷への締め付けられるような郷愁が回想され、そして否応なく、すでに失われ戻ることはできないことへの喪失感が浮かび上がる。短編集の冒頭にある「船」という作品は息子の視点からも、父親の視点から読んでも素晴らしい名品だと思う。

    はっとするレトリックや、鮮やかに切り取られたストーリーは、この短編集にはない。
    どこまでも実直で己の仕事に誇りを持ち、一族の脈々と受け継がれた伝統を胸に抱いて生きる寡黙な人々の生活が、美しく細やかな自然描写の中で描かれる。
    一方で、危険で過酷な炭鉱の仕事や時に荒々しい顔を見せる海が簡単に人の命を奪っていく様、伝統的な仕事が廃れていく現実のなかで親と子は同じ価値観では暮らせないことが語られ、読後感は決して牧歌的でもノスタルジックでもない。そこが魅力的であり、何度読んでもやっぱりいいなと思わせられる。

    農家だった祖父は、僕が生まれたとき裏山にたくさんの杉を植えた。いつかは木を切り、生活に役立つだろうと。
    もはや訪れることもない土地と手を入れることもなく生い茂り過ぎた木々に、娘二人と女の子ばかりの孫達の中で僕が生まれたときに祖父が感じたであろう思いに、少しだけ心彷徨わせた。

  • これからマクラウドの小説を読み始めようとする幸運なあなたにはこの短編集から時代を追って、唯一の長編小説へと進んでゆくのをおすすめしたい。
    ゆっくりでもいい、1日1篇とは言わず数ページ、数行づつでもいい。少しづつ読み進めていってほしい。後悔はしないはずだ。
    心配することない。物語のたおやかなリズムに身体を委ねればいいだけだ。豊かでかけがえのない読書体験のひと時が、あなたを待っているのだから。

  • 彼の短編のうち、初期のもの
    はじめてケープ・ブレトンにやってくる十歳の男の子の話がなんだかよかった

    今回の装丁はガーンジー・セーターの編み目模様になっていて、漁師が多い話とリンクしているところににやりとした
    クレストブックスはクオリティ高いよなあ。装丁も、つくりも、紙の手触りも、フォントも、好き。強いて言うなら、裏表紙の書評はあんまり好きじゃないけど

  • 2016.1.31読了。カナダのケープ・ブレトン島を舞台に、漁師・炭鉱夫といった己の肉体を担保に日々の糧を稼ぐ人々の人生、あるいはその子供や孫たちの人生を描く短編集。彼らの暮らし向きは貧しく、これから先さらに苦しくなっていく。それでも親たちはそれ以外の生き方を知らず、子に同じようにしてほしいと思いもすれば、別の道を選んでほしいとも願う。それぞれの選択、あるいは選択する術さえなかった人生を、荒々しい海が、穴だらけの鉱山が取り囲んでいる。寂寥とした読み心地だが、不思議に胸がすっとする。お気に入りは『失われた血の塩の贈り物』。そこに描かれた港町の、貧しくも決して苦しいばかりでない生活の仕方が好き。

  • しみじみと美しく、味わい深い短編集。

  • 31年間にわずか16篇。短編一篇に二年がかりという寡作ぶりに、ため息が出る。次回作を待つファンにはさぞつらいことだろう。しかし、一度その世界を知ってしまうと、どれだけ待たされても次の作品を読んでみたいと思わせる作家の一人であることはまちがいない。

    『灰色の輝ける贈り物』は、2000年に出版された短篇集『Island』から発表年代順に前半8編を収める(後半8編は『冬の犬』という表題で同じ出版社から出ている)。主な作品の舞台となっているのは、作家が育ったカナダ東端のノヴァ・スコシア州ケープ・ブレトン島、もしくはその周辺で、スコットランド高地地方から追われるように新大陸に渡った移民が多く住むところである。

    「世界で最も美しい眺め」ともいわれる景観を持つが、真冬には睫毛も凍りつく厳寒の地。炭坑で石炭を掘るか、海に出てロブスターやサバを獲るか、いずれにしても厳しい肉体労働が主な仕事である。マクラウド自身、抗夫や漁師、木こりとして働いた経験を持つだけでなく、そうした仕事が好きだったと語っている。

    厳しい自然の中で苛酷な労働を強いられる暮らしの中では、家族の結束が必要となる。父と子、父と母、祖父母と孫、いっしょに住んでいるからこそ確執が生まれる。かといって離れて暮らせばそこには罪悪感が生じる。作品の核となるのは、血を分けた者同士の心の結びつきであり、その結びつきを壊そうとかかる外界からの働きかけである。かつては苦しくても島で生きるしかなかった。今は島を捨てるという選択肢がある。

    文学を愛しながらも生活のために漁師の道を選んだ父のため、生きている間は一緒に海に出ると約束した息子は、父の死後島とそこで暮らす母を捨て、都会で文学を講じる道を選ぶ。回想形式で物語られる巻頭の「船」には、「自分本位の夢や好きなことを一生追いつづける人生より、本当はしたくないことをして過ごす人生のほうがはるかに勇敢だ」という作家の信条告白が読みとれる。

    炭坑町で父や祖父のように朽ち果てていくことを厭って、町を出た青年が、ヒッチハイクの途中で立ち寄った故郷と同じような炭坑町で、自分が祖父母や父母の人生を理解していなかったことに気づく「広大な闇」。はじめてのビリヤードで得た掛け金を手に意気揚々と帰宅した息子が両親に相手に返してくるようにと叱られる表題作「灰色の輝ける贈り物」。

    炭坑夫らしい粗野な父親と都会暮らしに馴染んだ妻との間で板挟みになる父親の姿を子どもの目を通して描く「帰郷」。自分の命を救い、子どもが愛してやまない馬を、食い扶持がかさむから売り飛ばせと妻にいわれ、言い返せない男の姿を描いて哀切極まりない「秋に」と、「本当はしたくないことをしなければならない男」の姿を、子どもの目を通して描くことで、はた目には格好の悪い男の生き様が哀惜を帯びて浮かび上がってくる。

    家族の心配をしり目に独り岬の上に立つ家で暮らす年老いた祖母に、家族の中でいちばん愛されている孫が、老人ホームに入るよう説得に行かされる「ランキンズ岬への道」もまた、「本当はしたくないことをしなければならない男」というテーマを持っている。誕生日を祝う一族が集まる席上で、祖母は孫が一緒に暮らしてくれると家族に話すが、孫の帰郷には秘密があった。余韻の残る結末に短編作家としての成熟を見ることができる。

    他に三篇を含む。どれも美しくも厳しい自然の中、意のままにならぬ人生を黙々とたくましく生きる人々の姿を、感傷を排した筆致で描ききり、静謐な余韻を残す、傑作の名にふさわしい短編集である。

  • 初めて読んだカナダの作家の短編集です。
    知る人ぞ知る珠玉の作品集だそうなので読んでみました。
    マクラウドはプリンスエドワード島の隣の島で育ち、木こり・炭坑夫・漁師などで学資を稼いで大学へ行き、英文学の教鞭を執りつつ、31年間に16作発表したという寡作な作家。
    つまり、これで半分ぐらい読んでしまったことになるらしい。

    穿つようにゆっくり選ばれた言葉で何気ない日常の一こまが目の前に浮かぶように描かれています。
    なるほど、上手い文章、巧みな小説とはこういう物なのだと唸らされます。
    生き方の違う親子の別れやふとした心の触れあいなど、状況の切ない意味が次第に明らかになっていく…
    静かな重みがあり、いくつかは忘れられない作品になりそうです。

  • 帯文は江國さん。すばらしい短編集です。

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