灰色の輝ける贈り物 (Shinchosha CREST BOOKS)
- 新潮社 (2002年11月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900328
感想・レビュー・書評
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舞台は、スコットランド高地の移民が多く住む、カナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトン。
寡作な作家アリステア・マクラウドの短編をまとめた「ISLAND」から、最初の8篇を収録したもの。
先に後半8篇を収録した「冬の犬」から読んだので、順番が逆になってしまった。
こちらは、1968年から1976年に書かれたもの。
まず、冒頭のマクラウドはじめての作品である「船」に心揺さぶられた。さらに「失われた血の塩の贈り物」にも胸が締めつけられるおもい。
どちらも父と息子の話だが、親子の断絶やきずな、葛藤というテーマは普遍的なものだからだろうか。自分自身の経験とは全く違う人生にこんなに感情を動かされるとは。
失われていくものへの哀惜、けれどもノスタルジーにひたるものではなく、誇りがあり、たくましく生きる人びとの確かな人生が途絶えることなく続いていく。
すばらしい作品に出会えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
朝の四時、ベッドで目を覚ました男は、寝過ごしたのかと不安になる。漁に出る時間だと、父が待っているだろうと。
だが、ベッドから半分身を乗りだしながら、海から遠く離れた都会でたった独りであり、桟橋の側に揺れる船は早朝の暗がりの影やこだまに過ぎないことに気づく。
家族への愛情と遠く離れた故郷への締め付けられるような郷愁が回想され、そして否応なく、すでに失われ戻ることはできないことへの喪失感が浮かび上がる。短編集の冒頭にある「船」という作品は息子の視点からも、父親の視点から読んでも素晴らしい名品だと思う。
はっとするレトリックや、鮮やかに切り取られたストーリーは、この短編集にはない。
どこまでも実直で己の仕事に誇りを持ち、一族の脈々と受け継がれた伝統を胸に抱いて生きる寡黙な人々の生活が、美しく細やかな自然描写の中で描かれる。
一方で、危険で過酷な炭鉱の仕事や時に荒々しい顔を見せる海が簡単に人の命を奪っていく様、伝統的な仕事が廃れていく現実のなかで親と子は同じ価値観では暮らせないことが語られ、読後感は決して牧歌的でもノスタルジックでもない。そこが魅力的であり、何度読んでもやっぱりいいなと思わせられる。
農家だった祖父は、僕が生まれたとき裏山にたくさんの杉を植えた。いつかは木を切り、生活に役立つだろうと。
もはや訪れることもない土地と手を入れることもなく生い茂り過ぎた木々に、娘二人と女の子ばかりの孫達の中で僕が生まれたときに祖父が感じたであろう思いに、少しだけ心彷徨わせた。 -
これからマクラウドの小説を読み始めようとする幸運なあなたにはこの短編集から時代を追って、唯一の長編小説へと進んでゆくのをおすすめしたい。
ゆっくりでもいい、1日1篇とは言わず数ページ、数行づつでもいい。少しづつ読み進めていってほしい。後悔はしないはずだ。
心配することない。物語のたおやかなリズムに身体を委ねればいいだけだ。豊かでかけがえのない読書体験のひと時が、あなたを待っているのだから。 -
彼の短編のうち、初期のもの
はじめてケープ・ブレトンにやってくる十歳の男の子の話がなんだかよかった
今回の装丁はガーンジー・セーターの編み目模様になっていて、漁師が多い話とリンクしているところににやりとした
クレストブックスはクオリティ高いよなあ。装丁も、つくりも、紙の手触りも、フォントも、好き。強いて言うなら、裏表紙の書評はあんまり好きじゃないけど -
しみじみと美しく、味わい深い短編集。
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初めて読んだカナダの作家の短編集です。
知る人ぞ知る珠玉の作品集だそうなので読んでみました。
マクラウドはプリンスエドワード島の隣の島で育ち、木こり・炭坑夫・漁師などで学資を稼いで大学へ行き、英文学の教鞭を執りつつ、31年間に16作発表したという寡作な作家。
つまり、これで半分ぐらい読んでしまったことになるらしい。
穿つようにゆっくり選ばれた言葉で何気ない日常の一こまが目の前に浮かぶように描かれています。
なるほど、上手い文章、巧みな小説とはこういう物なのだと唸らされます。
生き方の違う親子の別れやふとした心の触れあいなど、状況の切ない意味が次第に明らかになっていく…
静かな重みがあり、いくつかは忘れられない作品になりそうです。
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帯文は江國さん。すばらしい短編集です。